113本目 ステージ裏話!出演者たちはこんなことをしてるのです!
12月中旬の平日。
千葉県千葉市にある幕張イベントホール──から入れる危険等級D級チバダンジョンには、約50万人を収容可能な会場が存在する。
この会場の凄いところは、どの席であろうともメインステージが全て目の前で行われているように感じ取れることだ。ダンジョンならではの演出効果だ。
そもそもここはダンジョンなのか? ただのイベント会場でしかないが……。
……まぁ、今はそんなことはどうでもよくて。
「ふぐぐぅ……ごめんなさぁい……」
別室で吾妻がメイクと衣装合わせをフェストのスタッフとしている最中、俺は片手でオーデュイの両頬を掴んで握り潰していた。
スライムだから弾力性がある。ベコリと凹んでいるが、怪我をすることはない。だから容赦しない。
「オ、オーデュイはにゃにも悪くにゃいのよ? アタシたちがけしかけて……」
「分かっている。お前らもちゃんと反省してもらうからな」
「「はい……」」
楽屋隅へと追い込むように、来海と野田を土下座させていた。
この三人に怒っている理由は、無理やりに吾妻と俺を付き合わせようと画策していたことだ。
「やることが子供過ぎる。女子中学生か。今お前ら何歳だよ」
「「21才です」」
「ワ、ワタヒは16だよ……」
言いはしないが、本来オーデュイは26才だ。
俺が彼女たちの愚行に気付いたのは、このスライムのお陰だ。
オーデュイが「マイマイと亮くんを〜♪ くっつけちゃう〜♪」と歌いながら編集していたのを目撃したので、問い詰めたら全部吐いた。
こいつどこぞのモチモチ好きと同じアホだろ。
「東様。葵お嬢様がご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした。こう見えてお嬢様はお転婆な上、稀に予想も付かない言動をすることがございます。こちらで厳重に注意致します」
来海の付き人たちは揃って深く頭を下げた。多分この人たちも知ってただろうが……。
吾妻には何も気付かれていないので、迷惑がかかったわけではないが、そのお遊びがどこから漏れて、どんな拡大解釈するか分からない。
影響力の大きいインフルエンサーとして、そういった事態をもう少し理解して欲しいものだ。
「東さん、エリナが迷惑かけてごめんなさい……」
次に野田のバディである庭白も謝罪を──
「でも、土下座させるのはやりすぎだと思います。今の世の中、この動画が拡散すれば」
「二人共もう立ち上がっていいから」
他の誰にも聞こえないよう、庭白が小言で脅してきた。
耳の良い鈴鹿だけは聴こえていたのか、プルプル震えている。
相変わらず野田のことになると、庭白は怖くなる。彼女はバディに対する愛が重い。
……まさか俺も同じようなものだと思ってるのか?
そうではない。ただ俺は……
「悪かったとは思ってるわよ。でも、アンタは自分の気持ち、にゃにも分かってにゃいのね。もっと素直ににゃったらどうにゃのよ」
「何で逆ギレ──」
鋭い視線を背に感じた。
「……自分のことは自分が一番分かっている。お前たちの思い過ごしだ。……それに俺のことはどうでもいい。大切なのは吾妻さんがどうかだ」
すると、解放してあげたオーデュイと、野田、来海は三人で顔を見合わせて溜息を吐いた。
「東さん。確かに最後はマイマイさん本人から聞くべきではありますが……少なくとも、東さんとそれ以外とは見えてる世界が大きく違いますよ」
すると、吾妻に引き続き、野田と来海も衣装合わせするためスタッフによって別室に呼ばれた。
人間と模倣者は見た目が同じなだけで、あとは何もかもが違う──と、今までに何度も説明してきた。
人間に限りなく近い俺たちは、再び人間になろうと偽る化け物でしかない。
感情や価値観などはどうしても齟齬がある。元々同じ存在だったはずなのに。
「うぅ、亮くんごめんね……」
「別にもう怒ってない。とりあえずリハーサルがある。そっちに集中しよう」
「うん。そういえばずっと思ってたんだけど、今日リハーサルなのに人少ないね。他の出演者の人にも会えてないし……」
「ああ。吾妻さんたちはサプライズゲストだからな。情報が漏れないように、限られた演者やスタッフしか知らない。もし、みんなにバレたら楽しみ減るだろ?」
「あっ、そっか!」
それだけじゃない。
今や世界中から注目されるマイマイ。
アンチやストーカー。影響力あるからこそディーパーや海外の裏組織。
そして、今は吾妻を殺すなと指示されていたり、先導者として勝手に崇め奉るSS級の模倣者など。
彼女を何かに利用するために、遠くない未来で必ず襲撃してくる。
それが今日でもおかしくない。
人気のNewTuberや多くの一般人も来ている以上、会場は厳重警戒態勢ではあるが、安易に情報は出すべきではない。
……正直、今回の期末テストはパスしているが、今後転校や通信制高校に変える必要があるとも考えている。
そう、これは全て吾妻の身を守るため。
父、大悟との約束を果たすため。母、那緒子さんを安心させるため。
俺がやってきたことは使命とも言える。決して、彼女に好意を寄せているからと私情でやってきたわけじゃ──
「東様! お嬢様たちが……!」
息を切らして走り込んできたメイドの鈴鹿。
もう何か事件が起きてしまったのかと、焦る鼓動を抑えて俺はオーデュイを連れて急ぎ彼女の案内に従いついて行く。




