108本目 みんなでできる♪手遊びメドレー♫
「ふんふふーん♪」
「……誰だ貴様」
「お、来た〜。遅かったね♪」
武崎が忘れ物を回収して戻ってくると……両手が赤く染まったエプロンを付けた女が、車のボンネットに座っては足をプラプラして待ち伏せていた。
彩り鮮やかなパステルカラーのタータンチェックのエプロンには、二頭身の子グマのワッペンとリンゴの形をしたフェルト名札に〝リオ〟と書かれたものが装飾されている。
幼稚園や保育園にいるような先生が、場違いな地下駐車場にいる。
だが、後ろに目をやると、赤い液体が窓ガラスに飛び散っている。
「貴様、繁長君に何をした……」
「前哨戦かな? 私が勝ちました♪ 次はあんただね。はい、じゃーんけーん──」
間髪入れず、武崎は女に殴りかかる。
「パー。私の勝ちだ」
大柄な男のパンチを、女は片手一つで止める。慕ってくれていた彼女の血液が拳に付着する。
すると、彼女の背後から現れるように巨大な紙が現れて、あっという間に武崎を包んでしまった。
「パーはグーに勝てるんだよ。紙が石を包んじゃうからね」
だが、一点集中した部分が外に向けて何度も膨れ上がり、いずれは武崎が拳で貫いて、彼は紙の中から脱出した。
「あ、力ずくでルールを破っちゃうタイプ?」
「模倣者だな。それもSS級か」
「はなまる正解! 私はアカシダンジョンの模倣者、曰西リオ。今の名前いいでしょ、気に入ってるんだ」
「貴様の目的は何だ」
「目的かー。あんたの暗殺? でも、それは無理そ〜、バレちゃったもんね。明るく殺すしかなくなっちゃった」
曰西はエプロンのしわを両手で払うように広げると、目元でダブルピースした。彼女のハイライトのない目はずっと笑っていない。
「宝具:エプロンプレイ。せんせーと一緒に手遊びしましょっか♪ グーチョキパーでグーチョキパーで、なにつくろー? なにつくろー?」
SS級等級の模倣者の行動をそのまま放置するわけがなく、武崎は猛攻を加える。
だが、避け続ける彼女の手遊びは止まらない。
「右手がパーで、左手がグーで。ターコさーん♪ ターコさーん♪」
右手を足に、左手を頭に仕立てて、タコを手だけで表現した。
すると、園児がクレヨンの赤で雑に塗り潰した色をした巨大なタコが武崎の背後に現れては、彼の四肢と首を絡みとってしまった。
「つーかまえた。足が5本しかないのは、ここだけの話だよー」
だが、曰西が次を仕掛ける前に武崎は力ずくで触手をこじ開け破壊。
さらには一撃で巨大タコを拳で粉砕した。
「え、マジ?」
「大マジだ。容赦をくれてやる暇はないぞ」
再び殴りかかる武崎をまた片手で封じる。
「だから私にはあんたの効かなっぐっ!?」
しかし、自分が捕まって接近できたことをいいことに、武崎は曰西の背後に回り込み、太い腕で彼女の首を絞める。
「ぐっ、がっ……」
「そして、楽に死なせる手段も選ばん」
「ご、ごいづ……──大したことないなー、元S級探索者ってのも」
「ぐっっ!?」
──いつの間にか立場が逆転していた。
曰西の細い腕が、武崎の首を絞めていたのだ。
彼女は童話を読み聞かせてあげるように、耳元で優しく声をかけてあげる。
「みーんな夢見る希望っていいよね。あなたは私を殺せる夢を見たのかな? でも、夢は悪夢に成り代われるように、私は精神に干渉してトラウマを見せたり、再現したり、こうして妄想を夢見せてあげたの。ふふ〜素晴らしいで……は? ぎゅっ!?」
──だが、今また絞められているのは曰西だった。
(あれぇ、なんで私が首を絞められて……!? 意識を落としかけた私が見た夢だったのかな!? 効いていないっ……いや、かかってはいる!?)
あまりの素早さで、曰西が気付く前に武崎は、泡を吐きながらも無意識に裸絞めを成功していたのだ。
このままでは先に息絶えるのは自分だと感じた曰西は一度精神干渉を解き、一瞬生まれた隙間をついて、脱出する。
「ケホッ……大した人間だなー。すごいすごい♪」
「ガハッ……姑息な能力だ。だが俺には効かんぞ」
武崎の凄いところは、武具も宝具も何一つ用いていないということだ。
会談にそのような物を持ち込んでは相手の信頼を得られないからと、普段から持ち歩いていない。
なくとも彼は、十二分に強すぎる。
「じゃあ、これはどう? バンッバンッ」
曰西が片手ずつ銃を撃つ手振りをすると、実際に発射されたように背後のコンクリートの壁に穴を開ける。
ただそれを避けて何度も何度も武崎は突攻してくる。
「しつこっ……よーし、じゃあすっごいの作ろ〜! グーチョキパーでグーチョキパーで、なにつくろー♪ なにつくろー♪ 右手がパーで、左手もパーで、はーなーびー、はーなーびー」
地下駐車場に置かれている車は全て爆発した。
車の部品が四散し、破片や火炎が武崎に襲いかかる。
ついでにこのビルにある電子機器も破壊された。
「あ、私がすごすぎた。あちゃー」
電灯は火花を散らし、燃え上がる車が篝火へと代わった。
非常電源により、スプリンクラーは作動するものの、黒煙が天井に広がり、数分も持たずして窒息死することだろう。
ただ、身体中から出血をしようとも、火傷を負ようとも武崎はなお立ち上がる。
「はぁはぁ……ゲホッ、はぁ……」
「模倣者並みのタフさ……でも、我慢はよくないよ〜。次に見せるのは──」
「──宝具:あべこべ」
女性の声が聞こえた気がした曰西が振り返ると……殺したはずの女が顔面に蹴りを入れてきた。




