109本目 みぎひだりどーっち!最高のミックスジュースを作ってみた!
「ぶっ!!」
正面から顔面を蹴られた曰西は、燃える車の中へと吹っ飛んだ。
「繁長君! 無事だったか!!」
しかし、彼女は慕う武崎の心配に返答しない。
「いったぁ〜。ふっしぎ〜、確実に殺したのになんでかな?」
「……宝具:あべこべ。三つの事象を真逆にする私の宝具です。どうやら爆発によって偶然にも起動したようですね」
砂時計型の宝具:あべこべ。
ひっくり返すことで砂が落ち切る3分間のみ効果を発動する。爆発によって車内から飛び出した宝具がひっくり返って落ちてくれたのだ。
「逆転するのは三つ。一つ目は所有者が一番望むこと。死ぬ間際に願ったことで、私は死をひっくり返しました。二つ目は完全ランダム。今回は身体能力が反転致しました。最期の最期に私は運が良い」
実は普段、スキップもできないほど運動音痴な繁長。
だが、宝具の効果で模倣者とも張れる戦闘能力を手に入れた。
「すごいすごーい。じゃあもう一回遊べるドーンだねー」
曰西は時間制限があることや、宝具がどこに落ちたかは知り得ない。
タイムリミットを迎える前に、彼女を倒すか、この場から追いつかれないところまで逃げるかしなければ武崎は助からない。
間髪入れず繁長は曰西に迫ると、次々と攻撃の手を加える。
彼女は全てを捌き切るが、反撃を足す余裕まではない。
「──私を忘れるなよ、アカシダンジョンの模倣者よ」
回り込んだ武崎は強烈な一撃を後頭部に食らわせる。
さらに、怯んだ彼女を繁長は回し蹴りで顔に入れた。
「……っ!? ……あーあ、さっきから顔ばっか。ダメでしょ、メイク崩れるんだけどぉ!? ぐっ!?」
「言っただろ。容赦は与えんぞ」
彼に逃げの一手などない。
武崎と繁長はお互い声をかけずとも、完璧な連携で曰西を圧倒する。
「いったた……よーし! こうなったら最後の手遊びを披露しましょー」
させまいと二人は動くも、繁長は膝から崩れ落ちてしまい、武崎は気を取られてしまった。
身体能力が上がったとはいえ、体は普通の人間のまま。反動による蓄積ダメージが彼女に課された。
その間に曰西の手遊びが始まれば、もう誰も止められなくなる。
「にんげん♪ にんげん♪ にんげんのほっぺ♫ ライト♪ ライト♪ ライトのおめめ♫ ほのお♪ ほのお♪ ほのおのお鼻♫ おくちはビ〜ル♪ チュッ!」
曰西がまた手遊びをすると……真上に建つビルをストローとして地下駐車場がかき混ぜられていく。
「繁長君こっちだ!」
武崎はすぐさま繁長の手を引く。
「ぐるぐるぐるぐるぐるぐるまぜて♪ ぐるぐるぐるぐるぐるぐるまぜて♫ ぐるぐるぐるぐるぐるぐるまぜて♬ ミックスジュース⭐︎ どうぞ!」
全てを巻き込み、崩壊のミックスジュースが完成した頃には、辺り一帯は瓦礫の山と化した。
曰西と戦闘し始めた時に武崎は、このビルにいる者全員に即座に避難するよう通知したが、逃げ遅れた者も多く、多数の犠牲者を出してしまった。
「ふ〜楽しかった〜。じゃ、生きてたらまた会いましょ! みなさんさよーなら♪ せんせーもさよーなら♪ ふっふふーん♫」
瓦礫に向かって別れを告げて、傷も汚れもなかった曰西はスキップでこの場を立ち去った。
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「……くっ、繁長くん! 無事か!?」
暫くして、最後の力を振り絞り瓦礫の山から抜け出した武崎。彼は繁長を守り抜いた。
だが、この行為は意味を為さない。
「もう、私は……ボスも、宝具の効果知っているでしょう」
「……ああ」
宝具の砂時計は、先の崩壊で粉々に割れていた。
時間は、もう残されていない。
みるみる本来の死の姿に戻ろうと、血は流れていき、爆発にもその後巻き込まれていたためか、身体は徐々に黒焦げていく。
「……最期に、一つだけ……」
「ああ、なんだ」
「……私は、ボスが……嫌いです。大嫌いです。だから、そんな私は……忘れてください」
「あぁ。……却下する。君のことをいつまでも覚えていよう」
宝具:あべこべの三つ目の反転対象は、所有者が一番望まないことを反転する。
だから繁長玲はこの宝具を使用することが嫌いだった。
彼女の場合、伝えたいある人への言葉が──
「……最悪ですね」
彼に抱きかかえられたまま、笑顔で涙を流した彼女の腕は、そっと落ちた。




