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『続いてのニュースです。先日未明。東京都杉並区の住宅街で火災が発生しました。火はおよそ四時間後に消し止められましたが、火元となった家は全焼。焼け跡からはこの家に住む親子三人の遺体が発見されました。消防によると、火災の原因は誕生日ケーキで使用した蝋燭の火ではないかとのことです。ただ、火災発生の前に、聞き慣れない女性の声が聴こえたとの情報もあり、放火の可能性も視野に入れての調査中とのことです』
以前マイマイを取材した、辻本アナウンサーが出演するネットニュース番組を観ながら──その事件の現場となった家の前に立ち尽くしていた。
ここは、探求省越しに頼んで判明した、オーデュイの家族が今住む家……だった。
だが、こんなのって……
「こんなの、あんまりだよっ……!」
オーデュイは慟哭の声を上げた。
周囲が向ける憐れみの目など気にもせず、ただただ嗚咽混じりに泣いた。
「オーデュイ……その、元気出し……うぅ……」
さすがの吾妻も何て声をかけるべきか悩んでいた。
人間の姿になれるようになったことで、10年越しに実母に逢えると思った矢先、新しい家族ごと火事でいなくなってしまった。
オーデュイに真実を伝える間もなく起きた火災。
……いや、もし伝えるなら今しかない。
「オーデュイ、君にとって酷なことだけれど、その中に一つだけ希望があるんだ」
「うっ、うぅ……きぼう……?」
「正直、慰めにもならない。今から俺は君を追い詰めるだろう。それでも話していいか?」
「……うん、いいよ」
涙を拭った彼女に、俺は自分の知りうることを全て伝えた。
オーデュイ──大出結衣は10年前に亡くなっていること。
死亡したのちにシブヤダンジョンでスライムとして生まれ変わったこと。
「じゅう、ねん……ワタシは死んだだけじゃなくて、そんなにも経ってたんだ……。ぁ……そう、なんだ……」
到底受け入れることができない事実に、オーデュイの顔色はみるみる青ざめていく。汗のように粘液が地面に落ちる。
そして……これは吾妻も初めて知ることになるが、模倣者は、一度死亡した元人間だということも伝えた。
「えーっと、つまり東くんや、あとお母さんも。一度は死んじゃった人ってこと……?」
「あぁ、俺は前世のことについては、何も思い出せてないけど。けれど、模倣者としているってことは、現世にもう一度転生したってことだ」
「天才?」
「生まれ変わったってこと」
「お、おぉ……す、すごい! じゃあ、もしかしたら東くんとわたしは本当は会えなかったかもだけど、ダンジョンがあったから会えたってことだ! お母さんもダンジョンがいたから今ここにいて、わたしがいるってことだね!」
彼女にしては理解が早い。
お陰で受け入れるスピードも、納得の仕方もスムーズだった。
だが……魔物も同じ流れで生まれていることは伏せた。
トウキョウダンジョン以来、訪れたダンジョンは魔物がまだいないセブダンジョンのみ。最近はダンジョン配信ではない撮影や案件が多かった。
だが、この先も魔物と相対することはたくさんある。
魔物だからといって、生まれ変わった人間をもう一度殺している事実を、彼女たちに伝えることなんて俺にはできなかった。
だからオーデュイはスライムになれる能力を持った模倣者だと嘘をつく。
「そっかー。じゃあオーデュイのお母さんたちもきっと模倣者になるかもしれないってことだよね……!?」
「……可能性はある。ただ模倣者は必ずしも、死亡した当日に生まれるわけじゃない。何週間、何年後かも分からないし、そもそも死んだ人間が全員模倣者になるわけじゃないんだ」
「そっか……」と吾妻は俯く。
可能ならば何も話したくなかった。
だが、加賀遺がセブで放った「マイマイは殺すなと方々から言われている」ことから、今の彼女を利用しようと奴らは考えているはず。
イズモで力を入れ込んだ天原や、アキハバラで取り逃した藤岡など、奴らが再び立ちはだかることは間違いない。
だからこそ、模倣者に関することだけは、彼女にも共有しておくべき方が良いと判断した。
「うーん、ムズカシイこといっぱいでよく分かんないけど、まぁそれでもわたしのやることは変わんないからね! わたしは冒険するの大好きだし、何より今見てくれてる人をワクワクさせたいからさ!」
「……これからも魔物は討伐するのか?」
「うん! だってみんなを守りたいし!」
「そうか……そうだな」
きっと本心からの吾妻の言葉だ。
それに真相を全て知った彼女ならば、「じゃあ魔物みんなと仲良くなる!」と言い放つだろうし、実際にそれをやり遂げてしまうだろうな。
「……オーデュイはどうする」
「ワタシは……マイマイと同じ。ワタシも一緒にダンジョンに行くよ。だって、お母さんとまた会えるかもしれないよね。それがまだある希望……希望って……」
この希望は正しいものだろうか。
死を覆すことはできない。だからって、生まれ変わったお母さんに会いに行こう──なんて、割り切れるわけがない。
「けれど……励ましになるか分からないけれど、君のことをお母さんは気付いていたんだ」
「……え?」
シブヤダンジョンを脱したあの日。
オーデュイはすぐに立ち去ってしまったけど、彼女の声に母は気付いていた。
「10年経ったって、君のことを気にかけていた。それはもちろん、オーデュイのお母さんは一人しかいないから」
「そっか……お母さんはワタシのこと忘れてなんかなかったんだね」
「もちろんだよ! お母さんは子供のこと大好きだもん!!」と吾妻もまたオーデュイを励ました。
「──そうだよね。だって、先にいなくなったのはワタシなんだ。今度はワタシが待ってあげないと」
彼女は前に向き直る。
「ワタシもダンジョンに行くよ。いつかお母さんに会えるよね、捜せるよね」
「うん! ぜったい会える!」
「わかった……でも、でも今は……もう少しだけ、ワタシが笑顔になれるまで待っててくれるかな……うぅっ……」
大粒の涙を流すオーデュイのことを、吾妻はそっと後ろから抱き寄せた。決して癒えることない傷ごと。
──それでも、また笑えるように。
二人で彼女の側にいてあげよう。
今できることは、ただそれだけだった。




