101本目 わたしをスケートに連れてって♡あそびたーい!
隼は〝世界一速い鳥〟と称されている。
両翼を折りたたみ、尾の羽も閉じた状態に、正にロケットような姿勢となって地上の獲物を狙う。
その急降下時の最高速度は、時速300kmを超える。
「くそっ……!」
宝具のない無防備な生野と回復手段しかない庭白には、ファルコと戦う術がなかった。
崩壊した天井の瓦礫や柱を物陰にして、床や壁に突撃させて自滅を図ったが、彼はそれすら打ち砕く。
もう、隠れ場所はない。
「……っ、生野さん、あそこ!」
庭白が指差したところには、下へと続く階段が。
さっきファルコが突進して破壊した瓦礫の下に、実は埋もれていたのだろう。今なら通れそうだ。
だが、それは容易なことではない。
上空から見ている彼も階段には気付いている。
入口は狭いが、内部は広そうだ。室内であったとしても隼になったファルコからは逃げられそうにない。
「私が、囮になる。その間に、できるだけ逃げな」
「それならわたしが務めます。わたしは、模倣者ですし、人より丈夫ですから」
「けど……っ!?」
突如、吹雪に見舞われた。
青かった空は灰白いものへと変わり、大粒の雪が建物内へと舞い込んでくる。
「雪!? 寒い……生野さ……えっ!?」
「ガチガチガチガチ……!! さ、寒いの、無理……」
「寒さにも弱いんだ……でも、これなら相手も……きゃっ!?」
いつの間にかファルコは、いつでも爪が届くすぐ側で羽ばたいていた。凍てつく風が彼女たちを襲う。
隼は寒さに強い。
「お、お願い……助けて……」
寒さと恐怖から、思わず庭白は生野を抱き締める。
鋭い眼光で、ゴーグル型の宝具越しに彼女たちを見定めていた。
「……そうだな。お前たちと約束したもんな。弱いものイジメはしないって」
「……え?」
何かと重ねたのだろうか。
目の前にいない誰かと会話した彼は、しばらく見つめたのちに、どこかへと飛び去ってしまった。
「た、助かった……? あ、早く生野さんを中に連れて行かないと……!」
「うぅ、寒い……まつみぃ……」
庭白は生野をおんぶして、吹雪避けと野田を探すべく下に降りていく。
しかし、下に行けば行くほどに温度も下がっていく。
その先に待ち受けるのは、時が止まった世界だ。
◇ ◇ ◇
──六面銀世界。
室内だというのに吹雪く極寒の中を、加賀遺は呑気にスケートをしていた。
「寒いっすね」
「お前の宝具のせいだろっ……!」
迫る加賀遺の頭に蹴りを入れようとするも、上体を逸らされて避けられる。それに足元が滑るので踏ん張りもきかないから力が入らない。
そもそも彼に当てたところで、その場から体が凍っていくかもしれない。
「宝具じゃないよ。これは自分本来の能力。えっと、死来能力? 〝凍結〟だっけ。あまり気に入ってないんだよね。寒いし」
彼は説明しながら、右腕に氷の剣を生み出した。
正直なす術がない……素手で迂闊に触らない方がいいのなら、何か武具や宝具がないと……!
加賀遺は俺の心臓の高さに氷剣を構えた。
俺がスケートの要領で逃げるも、幼稚園児を大学生が追いかけるように手加減しては華麗に滑っている。
完全に弄ばれている。
「さて、いつまで逃げれるかな」
「──どりゃー!」
「え?」
俺と彼の間に滑り込んで来たのは、オーデュイだった。
突然進行方向に現れた彼女に躓いた加賀遺はこけそうになってジタバタとステップを踏む。
「大丈夫かオーデュイ!?」
「うん! なんか体が硬くなっちゃったんだ!」
「まぁスライムは液体だからな、凍ったんだよ」
カーリングストーンのようにガチガチとなったオーデュイ。床を滑って加賀遺に突撃したのか。
凍っても変わらず元気そうだった。
「でも、凍っただけじゃないみたい……ふぎぎぎ〜!!」
オーデュイは力を入れると、体を変形させていき剣のような形となった。
「亮くん! ワタシを使って! スライムのワタシだって役に立ちたいんだ!!」
「……あぁ、分かった」
彼女の強い意志を聞いて、迷うことなく俺は彼女を手に取った。
「危ない、こけるところだった……。へぇ、スライムって剣になるんだ。じゃあ殺しの続きを……ん?」
今度は地面の氷はヒビが入り、次の瞬間、大きな穴が開いた。
「──どりゃぁぁ!! マイマイさんじょー!!」
下から飛び出して来たのは吾妻舞梨。
こんな登場の仕方できるのはもはや彼女だけだ。
「吾妻さん!?」
「マイマイ!?」
「ん? あ! いた!! 肌痛いっ! 寒っ!?」
やっぱり上着を持ってきてあげたら良かった。
氷の世界には到底あり得ない水着姿の彼女を見て、そう思った。




