第8章 戦死者の帰還 ~伽耶の記憶~
ー3001年ー 深淵の屋敷 地下室
鵺さんは少し悲しげな瞳で語り始めた。
「否定するようで悪いけどこの子たちは生きているわけではないよ」
私は一気に崖から蹴落とされた気分に陥る。
今、目の前で元気にしているこの子たちは
既に亡くなっている存在なのだ。
そう意識するとなんとも言えないやるせない気持ちになった。
「そんな顔をしないでくれ
ナシアの犠牲になった赤子たちは全部で14人⋯⋯
破滅の箱でこの子たちは確かに体を奪われてしまった
実質⋯⋯間接的に殺されたようなものだ
でもね、体を奪われた後
アガルタさんはこの深淵の底の屋敷に
この子たちの魂を保護してくれたんだよ」
「ア⋯⋯アガルタさぁぁぁああん!うわぁぁあああん!
みんなを守っでぐれであ”り”がどぉぉおおお!」
私はこの場所に来てからいつもアガルタさんの優しさに包まれている。
アガルタさんの優しさで世界が包まれればいいのに。
「更にアガルタさんはこの子たちが動きやすいように
魂を少し成長した姿に調整してくれているんだよ」
「それでみんな子供の姿なんだ!
少し成長した姿に調整⋯⋯
アガルタさん⋯⋯ぱねーっす!」
アガルタさんが腕を左右に揺らしながら
照れているように見えた。
腕の揺らし方がめっちゃ乙女なのは、私の気のせいではない。
◇◇◇
「それにしてもアガルタさん⋯⋯!
あなたはいつもみんなの命の恩人です
なんてお礼を言えばいいのか!」
「確かにこの子たちの恩人ではある⋯⋯
だが!きみの恩人ではないぞ!
そう!別にきみの恩人ではない!伽耶ちゃん!
アガルタさんが好きなのは分かるけど
独り占めは良くないぞ!」
「いやいや!
私だって色々助けてもらって今の私があるんですもん!
私もお礼を言わせてもらう権利くらいあります!
あーりーまーすぅぅぅううう!
独り占めしてるつもりはありません!」
鵺さんと少しだけじゃれ合った。
「アガルタさんのおかげでこの子たちは
人間としての機能が備わった状態なんだよ
どうやっているのかは
アガルタさんも余り把握はしていないみたいなんだけど
頑張ったらできたらしい」
「人間としての機能って、つまりどういう事ですか?」
「魂でありながら食事をしたり、呼吸をしたり、寝たり⋯⋯
人としては当たり前だった事全般の事だね」
「す⋯⋯凄い!アガルタさん!
もうなんでもアリなのでは?」
「ああ、できない事を数えた方が早いかもね」
「それにしてもアガルタさんって
色々と謎多き⋯⋯お⋯⋯とめ?乙女だよね?
さっきの腕の動かし方とか⋯⋯
いや、乙女っぽい男性とかいるか⋯⋯
私的にはアガルタさんは女の子でいてほしいけども!」
「一応女性らしいぞ」
「ほらっ!
アガルタさんやっぱり女の子なのね!
こりゃたまらん!
アガルタさんの香り!
たくさん吸い込めっ!」
私は胸いっぱいに屋敷の香りを吸い込んだ。
「ああ、アガルタさんの香り⋯⋯!!
えきぞちっく!!」
「伽耶ちゃんはさ、発想がおっさんなんだよな⋯⋯
本当に俺の子孫なのかね?」
「いやー⋯⋯お恥ずかしながら
今までの人生で⋯⋯はしゃいでこなかった分、反動が⋯⋯」
「あぁぁ⋯⋯まあ大変だったよね
ソナリスの世界に人間1人は生きづらかっただろう
むしろ良くその歳まで耐え抜いたと思うよ
頑張ったね」
「え?私の事情、知っているんですか?」
「ああ、さっき少し話したけど
僕がここにいるのはもう1人の伽耶ちゃんのおかげなんだよ」
「別次元の私?別次元⋯⋯ってなんですか?」
「分からないよね
書庫の本の中にもいくつか記述があるかと思うけど
別次元⋯⋯そうだね
今いるこの世界とは別の似た世界ってところかな
別次元、世界線、並行世界、パラレルワールドとか
似たような意味合いの言葉がいくつかあってね
少しずつ使い方も変わってくるけど
ようは別の世界って事かな」
別の世界⋯⋯。
私には余り想像できないおとぎ話のような内容だ。
「別次元の私⋯⋯なんか実感わかないですね」
「急に言われても困るよね
量子力学の解釈の1つに他世界解釈っていうのがあるんだ
ーー量子の状態が分岐するたびに宇宙も分岐する
あくまで量子力学を説明する為の解釈なんだけど
2000年初頭はそれこそ眉唾ものの理論だった⋯⋯
けど神の登場によって別次元、別世界、別の時代の存在が
ある一定の狭いコミュニティー内で
ごく少数の人間に広まってね」
「狭いコミュニティー内?
まさかナシアのいたシェルフドッグですか?
そんなわけないか⋯⋯」
「いや、正解だよ
シェルフドッグ内の関係者の中で
別世界の存在が認知されるようになった
認知の理由は人それぞれだけど
僕が別世界を認知したのは破滅の箱⋯⋯
つまり僕が足を失って箱に吸い込まれた時
あの時に伽耶ちゃんがアガルタさんと協力して
僕をこの屋敷に匿ってくれたんだよ」
「その時の私が、別世界の私って事ですか?」
「そうだね」
「あの、ところでなんで足あるんですか?
足失いましたよね?」
「おっおーぅ、それは今は内緒
話ずれるからね、また後でね」
「むぅ⋯⋯仕方ない⋯⋯
じゃあ、その別世界の私はどこにいるんですか?」
「自分の世界に帰っていったよ
この世界は自分の居場所では無いらしくてね
少し未来から来たとも言っていたね」
「へぇ⋯⋯んーーー⋯⋯
わざわざこの世界に用事でも?
なにか理由があって来たんですかね?」
「この行動が勝利への道の第一歩だそうだ」
「第一歩⋯⋯鵺さんを助ける必要があった⋯⋯」
「そして伽耶ちゃん、きみからきみへ伝言があってね
”私と同じように別次元の鵺さんを屋敷に匿ってあげて”
との事だ」
「ん⋯⋯ちょっとまだ理解が追いついていないけど
なんとなく分かった⋯⋯かな
鵺さん、ありがとうございます」
「いーえいーえ!
ここに時間の概念は無いんだ
タイミングを見て別次元の僕を救ってあげてくれ」
「はい!頑張りますよー!」
「そんなわけで今までの環境が環境だったんだ
これからはアガルタさんもこの子たちも僕もいる
いくらでも羽目を外しなよ
おっさんっぽい考えも大歓迎だ!
ここでは遠慮なんていらないんだからさ」
「はい!んふふふー」
「ただ、女の子なんだから猥談はほどほどにね?」
「べ⋯⋯別に猥談に花を咲かせてはいないですよ!
誤解される言い方やめてくださいよ!」
「わっはっはっはっ!」
私は満面の笑みをこぼした。
笑っている私を鵺さんは優しい笑顔をこぼしながら見守ってくれている。
私は女の子たちの事が気になったので鵺さんに質問をした。
「ところでこの子たち、名前とか⋯⋯」
「ないんだよな」
「ない!」
「ないの!」
女の子たちも復唱する。たまらず微笑む私。
「ですよね⋯⋯この子たちは産まれてすぐに
破滅の箱に入れられてましたもんね」
「そうだな」
名前すら付けてもらえずに体を奪われた少女たち。
この子たちの命が最後を迎えた時の事を考えると、ナシアへの軽蔑は募るばかりだった。
私が鵺さんと会話をしていると 突然、珍しい声が脳内を駆け巡り衝撃が走る。
《伽耶⋯⋯書庫にあった⋯⋯
ー戦場に咲く名の花ーという本に
記載のあった名を付けてあげなさい》
「あ!謎の声!」
鵺さんと声がハモりながらもお互いに驚愕した。
「急に聞こえてくるし!ねぇ!
あなたは誰なの?前からアドバイスくれますよね?」
しかしすぐに静寂が訪れ、声は聞こえなくなってしまった。
「声が途切れた⋯⋯まさか⋯⋯うんち?
もしかして話し途中にうんちしたくなった?」
「そうはならんだろ!
もしお手洗い行ってるんだったら
もう少しタイミング見て行ってほしいわ!」
「そ⋯⋯そっか⋯⋯うんちじゃないか⋯⋯そうよね」
「そうだよ!
あと女の子がうんちうんち言わない!」
「え⋯⋯うんちって言葉は
全人類が大好きな魔法の言葉って
書庫にある一冊に書かれてましたよ⋯⋯?
”うんち、その一言は戦さえも終結させる”」
「ろくでもない本があったもんだな!あの書庫!」
私は謎の声のアドバイスに従って脳内の記憶を探り、自身の読んだ本を探す。
私に備わった力の影響で一度見たものは忘れなくなったのだが、この力はとても便利で頭の中で情報が区分けされて整理されている。
その整理された情報を、いつでも好きな時に瞬時に思い出す⋯⋯というよりも取り出すような感じだ。
今の状況や会話で必要な情報があるといつでもカテゴライズされたファイルの中から情報を出し文章や絵を脳内で見る事ができる。
頭の中にメモ帳や本、アルバムが整理されて本棚に保管されているような感じだ。
その記憶の本の中から以前書庫で読んだ例の本 ー戦場に咲く名の花ー を呼び出し改めて思い出す。
「おおおお、か⋯⋯伽耶ちゃん⋯⋯?
目が真っ赤に光ってるけど大丈夫?」
心配する鵺さんに頷き返す。
「今、以前書庫で読んだ本の内容を呼び出してるんですけど⋯⋯
この本、興味が出て熟読したんですよ」
「どんな本だい?」
「これ⋯⋯女性の戦死者?の名簿?
戦場や戦いで亡くなった女性が天界に迎え入れられて、
天界の戦士として名を刻んだ者の名簿⋯⋯
戦乙女⋯⋯ヴァルキュリアって呼ばれていたのよね
元ヴァルキュリアで地上に落とされて
人間になった人もいるみたい」
「あー、北欧神話ってやつだな」
「え?有名なんですか?」
「有名も有名、王道すぎる王道⋯⋯
僕の時代では良く設定で使われた題材だよ
って、もしかしてそこに書かれてる名前を
この子たちに付けてあげろって事か!」
「そういう⋯⋯事⋯⋯かも?」
「いやいやいや!
あの子たちにヴァルキュリアの名を付けるなんて
仰々しすぎるだろ!」
「え?そうなの?なんかかっこよくない?
死して尚、天界で戦い続けた戦乙女たち!
その名は深淵の底であっても轟き続けた!」
「んーーーぬぬぬ」
「みたいな?」
私はおどけてみせた。
「まあ⋯⋯無しではないが⋯⋯こんな無垢な子たちに⋯⋯
歴戦の戦士たちの名を付けて良いものか」
するとどこからともなくあの声が脳の奥深くに戻ってくる。
《良い⋯⋯戦乙女たちの名、その継承を認めよう
我が名はフレイヤ
我が権威の下、戦乙女の名を授けよう
どの娘にどの名が授けられるかは
運否天賦であると共に運命でもある
深く考えず名を授けてあげてくれまいか》
「おいおいおいおい!本当か!フレイヤ?
今のが本当ならとんでもないお方の声だぞ!」
「フレイヤ⋯⋯
ヴァルキュリアを統率している方ですよね」
「そうだよ!フレイヤ様自体は凄いが
なによりも天界など神話とされる存在が
証明された証拠の一つだよ!
これが幻聴でなければ!!」
私は呆れ顔で言う。
「あのさ、鵺さん、もうこれだけ色々ととんでもない状況を
垣間見てきたのに、まだ超常的な事に懐疑的なの?」
「そうだよ、物事はね、ある一辺の情報だけでは
全てが正しいとは判断できないんだよ
でもね神さまの存在、ナシアの誕生、
破滅の箱やアガルタさんの存在
これだけでも十分に超常の証にはなる
実際、儀式の最中に死んだと思った僕は
このアガルタさんの屋敷にいる
でもね、超常的な存在を信じたくないんだよ
伽耶ちゃんのいた3001年の世界を
きみは良く知っているよね?
あの不気味な世界を⋯⋯」
「はい⋯⋯」
「屋敷の1階の窓から3001年の風景を見てよ!
見渡す限り薄暗い世界!
黒と橙の空、人間はみんな化物になって
一面花だらけの世界になってしまった⋯⋯
しかもあの化物たちは花が好物で
いつも花を食べているのは
伽耶ちゃんも知っているだろ?
その花がさ、気になってね⋯⋯
ある時アガルタさんに取ってきてもらったんだ」
アガルタさん、花取ってこれるんだ。
アガルタさんが花を取ってくる姿を想像してしまった。
屋敷中から扉の外に手が伸びてるんだろうな⋯⋯。
いや、屋敷の外壁から手を出せるのだろうか?
興味は尽きない。
「その花を試しに食べてみたが噛んだ瞬間、
舌に鉄の味が広がり、次いで油のようなぬめりと、
喉を焼くような苦味が押し寄せ
胃が反射的に拒絶したよ、ひどい味だった」
「あ、私も実家にいた時
試しに食べたけどとても食べられたものじゃなかった⋯⋯」
「そうだよね、それが普通の "人間の" 味覚だと思うよ
しかも死んだ人間はどこに行く?
気がつくと遺体が消えるんだ!
これは世界が変貌する前から稀に起きていた事だが
消失した遺体はどこに行った?」
「私は授業で天に導かれたって習いました」
「ないない!伽耶ちゃん!それは無いよ!
地球における生き物というのは
死ぬと遺体が残り、生命活動を終えた遺体は
そのままにしておくと
腐敗して疫病にも繋がってしまう
だから火葬や土葬のように故人を弔うのが普通なんだよ」
「それが普通なんですね」
「本当はそれが普通なんだ⋯⋯
でも3001年の世界では、
遺体は消える事が普通とされている」
鵺さんは忸怩たる思いで嘆いていた。
「つまりこれだけの異常事態を目の当たりした上に
フレイヤ様という神の声まで聞いてしまったら
僕はここが夢では無く
本当に実在する世界なんだって
認めなくてはならないじゃないか!
僕はナシアの凶行に手を貸してしまい
無実の子たちを死なせる行いもして
世界が変貌するきっかけ⋯⋯
最初の手助けをしたようなものだ
こんな滅茶苦茶な尋常で無い世界を
神さまとナシアが作り上げてしまった事を
認めなくてはならないのが恐ろしくて⋯⋯」
鵺さんのこの無念は生涯、彼を苦しめるのだろう。
でもこの屋敷で生まれ変わった私は
ーーポジティブシンキング!
「鵺さん、きっと大丈夫!」
鵺さんが私の顔を見上げる。
「3001年はとんでも無い世界だけど
きっと希望はあるんだと思う
フレイヤ様が話しかけてくれたのが
希望の証だと思わない?
きっと私たちでなんとかできるから
フレイヤ様もアガルタさんも
みんな協力してくれているのかな⋯⋯
って勝手に思い込んでる!私!」
「⋯⋯そうか⋯⋯そうかもしれないよね
でも、僕の授かった力、ワールドヴィジョンだと
どの角度でどの層を見ても
悪い未来しか見えないんだよ、僕は⋯⋯前向きになれない」
「ん?鵺さんの力ってワールドヴィジョンって言うの?」
「あ、ああ⋯⋯」
「私と同じ能力って言ってましたよね?」
「ああ、そうだ⋯⋯ん?」
「私の力、アーカーシャヴィジョン!」
鵺さんは呆けた顔をしている。
「そんなバカな!僕が知っている伽耶ちゃんの持つ力は
僕と同じワールドヴィジョンのはずだ!
何故違う能力を持っている!」
「さ⋯⋯さぁ⋯⋯私さ、まだこの力使いこなせてないからさ
過去を少しだけ見ただけなんだよね
別次元の私はワールドヴィジョンって力だったんだ⋯⋯」
鵺さんは生唾を飲む。
「何かがおかしい⋯⋯僕の見た未来と違う⋯⋯」
「おーい!勝手に一人で考え込まないでくれませんかー!
っていうかつまりさ、こういう事でしょ?
ーー未来が変わった」
「そうだ⋯⋯そうなんだよ伽耶ちゃん
未来が変わった⋯⋯でも油断はできない
変わった未来は本来の姿に近づこうとする性質がある⋯⋯
でも今の状態を保つ事ができればあるいは⋯⋯」
「うんうん!
鵺さん、とりあえずは未来が変わった事を喜ぼう!」
「ただ、この先、何が起きるか分からない
伽耶ちゃんのその力はどういう力なんだ?」
私はフレイヤ様が前に言っていた事を思い出し鵺さんに伝えた。
「つまり、記憶の喪失が無くなり
精神体で時間移動もできて、
場合によっては歴史に干渉もでき
物事の弱点や有用性も見いだせる⋯⋯と」
「⋯⋯」
唐突に鵺さんが無言になった。
「鵺さん?どうしました?
急に無言になられると怖いんですけど」
鵺さんはハッとした拍子に我に返る。
「ちなみに過去を見た時、世界の分岐は見えたかい?」
「世界の分岐ってなんですか?」
「あー、過去を見ようとした時に同じ時間帯でも
いくつか未来や過去のパターンがあるんだよ
Aだった過去、Bだった過去⋯⋯
Cになる未来、Dになる未来⋯⋯なんて言えばいいのかな
イフの世界、って言っても分からないかな」
⋯⋯ifの世界、なんとなく分かる気がした。
「なんとなく分かります
人の行動によって過去や未来に生じる出来事が変わって
それが分岐した時間軸の事⋯⋯
つまり、 ”もし◯◯だったら” を含めた
別々に存在する世界の道筋の事⋯⋯ですか?」
「そうそう、僕の時代にはそういう概念が
存在していたから分かる人も多いけど
伽耶ちゃんの時代には
そういう概念って消滅してるよね⋯⋯
理解が早くて凄いよ」
「ん~~この力を持っているから
感覚的に理解できたのかもしれないです
なんとなくですけど」
「それでも凄いよ
ちなみにそのいくつものイフの世界を世界線と言うんだ
さっき軽く話したけどその各世界線には
自分と同じ人間がいるけど、
場合によってはいない事もある
またどこの世界線とも干渉しない
完全に独立した世界線もあるから覚えておいてくれ」
私は直感的に理解した。
「もしかしたら鵺さんの力は過去や未来を視る力だけだけど
いくつもの世界線に干渉できる?」
「うん」
鵺さんは頷く。
「そして、私の力は
過去や未来を視る以外にも色々できるけど
世界線に干渉する事ができない」
「そうかもね、僕もそう認識しているよ
伽耶ちゃんが過去を見た時にもし僕と同じ力を持っていたら
いくつもの過去が視えていたはずだ」
「へ~、そうなんですね、
いくつもの過去が視えるってどういう感じなんですか?」
「どういう感じ?」
「あの、なんていうかな過去が視えるぞー!ドシューン!
目の前に過去A、過去B、過去Cがある!ババー!
どの過去を視にいくか!ギュイーン!
よし!この過去を視にいくぜー!シュワワワー!
みたいな感じなんですか?」
鵺さんは鼻の穴を広げて笑った。
私は釣られて笑ってしまった。
「伽耶ちゃん、その説明
もうちょっと言い方あっただろう
擬音多いなー」
「ほんとなんなんですかね、今の説明、
もうちょっと説明の仕方ありましたよね
でもそうなるとさっき
別次元の私が伝言残していった
”私と同じように別次元の鵺さんを屋敷に匿ってあげて”
っていう内容⋯⋯
⋯⋯私!別次元?別の世界線?視れないんですけど!
どうしよう!鵺さん!別次元の鵺さん匿えない!」
「それは僕も思った
少し焦ったけど、もしかしたら伽耶ちゃんの力に
僕の力を合わせればなんとかなるかもしれない」
「合わせる?どどど⋯⋯どうやって?」
「あとでやってみるしかない
でもなんとかなる気がするんだ」
「なんとかなればいいですけど⋯⋯」
鵺さんとあとで能力の波長?を合わせる練習をする事になった。
2人とも初めての事なので、試し試し練習して正解を導き出せればと思う。
「さてと、過去や未来を視に行った時に複数の世界線が
どのように視えているのか気になるんだよね」
「はい!私、過去に行った時⋯⋯世界線?
そういうの視えなかったので、気になります」
「えっとねー、10パターンの過去があるとしたら
その10パターンの過去を全て同時に見て
同時刻に何があったのかの違いを瞬時に理解できる⋯⋯
みたいな感じかな
目で視ると言うより感覚的に視ているね」
「凄い便利ですね!」
「伽耶ちゃんの力に比べたら
僕の力なんてそんな凄いものでもないさ
それに僕の力は一度に複数の世界線を視すぎてしまうと
脳の処理が追いつかずに爆発しそうになるから
結構不便な部分もあるんだ」
「うわっ⋯⋯それ勢いにまかせて
一度にいくつもの世界線を視ちゃうと
まずいやつですよね」
「あっあー、大丈夫大丈夫
もし脳の許容量を超えた場合には
そこも感覚で分かるから
自分で視る範囲を制限できるよ
一気に視てしまって廃人になったりはしないさ、多分」
「多分!」
鵺さんが仕切り直して話題を変える。
「さて、フレイヤ様が話しかけてくださって
びっくりして話が逸れてしまったけど
この子たちに名前をつけようか!
フレイヤ様から許可も貰えたし!」
「そうそう!その話!後回しになってた!
ごめん!女の子たち!」
女の子たちはまだ食事をしている。
「さて、みんなご飯食べながらでいいから
これから名前つけるからね!準備はいいー?」
「あい!」
「なまえー!なまえ!」
「かっちょいいなまえがいいー!」
女の子たちは嬉々(きき)として反応をする。
「あっ!ちょっと待って!
ヴァルキュリアの名前は覚えてるんだけど
もしかしたら名前の書かれた本が
手元にあったほうがいいかもしれないから
ちょっと持ってくる!みんな少し待ってて!」
私は戦乙女の名前が記載された本 ~戦場に咲く名の花~ を取りに小走りで書庫へ向かう。
「あっれ⋯⋯ここの本棚にしまったはずだけど⋯⋯」
ガサゴソと探しているとアガルタさんの手が出てきて本棚の少し上のほうから探していた本を持ってきてくれた。
「アガルタさんありがとう!これこれ!とても助かりました!」
アガルタさんが手をぶんぶんと振っている。
「こほっ」
私は本を脇に抱え地下室に戻ろうとすると書庫の上の方から誰かの咳のような音が聞こえた気がした。
私は上を見ながら一言声をかける。
「え?⋯⋯あ~⋯⋯あの⋯⋯誰かいますか?」
⋯⋯反応は無い。
人の咳のように聞こえたけど
きっと家鳴りのような音が響いただけだろう。
私は書庫を背にして、小走りで地下室に戻った。
「よし、みんなおまたせっ!
それじゃそれぞれに似合いそうな名前つけるからね!
まず左列の手前の子から順に名前つけるよー!
名前呼ばれたら返事してね!」
「はーい!」
ああ!可愛い!感情が爆発する!
目の前のテーブルには左手に7人
右手に7人の女の子たちが座っている。
私は左手の手前の女の子から順に命名する事にした。
「きみはさっきからなんでもできそうだから
全知の乙女!ヘルヴォル!愛称はヘルル!」
「はい!ヘルル!ちゃくにんしまっち!」
「次の子は串を使って巧みに食事するよね
そうだな⋯⋯槍の嵐!ゲイルスコグル!愛称はイルル!」
「あい!イルルルルー!」
「左の3番目の子!目の前の子と争って食べてる⋯⋯争い⋯⋯
戦争の戦乙女!ヒルド!愛称はヒルディー!」
「はーい!ヒルディー!まかせろー!」
「左4番目!
さっきから落ちそうになる物を空中で受け止めたり
横のヒルディーの動きが分かっているかのように
ヒルディーから飛んでくる
パスタのソース避けたり⋯⋯何か視えてない?
つまり運命の乙女!スクルドメイ!愛称は⋯⋯メ⋯⋯」
「愛称はメイ、かしこまり」
愛称を先読みされてしまった、さすがだ。
「次は⋯⋯髪、すごい綺麗だよね、神秘的で今にも消えそう
うん⋯⋯きみは霧の戦乙女、ミスト!
愛称はミスティー!」
「ありがと、ミスティーかわいっ」
「左6番目!ちょっと⋯⋯めっちゃ机とか体揺らすね⋯⋯
もう、この名前でしょ
揺るがす者、フリスト!愛称はフーリン!」
「ちりんちりん鳴りそう!フーリンだよ!おー!」
「左列の最後!フーリンに呼応して暴れてる台風みたいな子ね!
この子も付けやすいわ⋯⋯
轟音の戦乙女、スリマ!愛称はリマ!」
「やったー!名前きまったー!
リマだよー!スリマのリマ!
伽耶ちゃん名前つけてくれてありがとっ!」
「はーい!気に入ってくれて良かったよ!」
「次は右列手間から!
向かい側のヘルルと語りの応酬をしてるから⋯⋯
助言する破壊者!
ラズグリーズ!愛称はラズ!」
「いえーい、ラズベリーみたいで良き」
「次は右列2番目!
向かい側のイルルにご飯譲ったり遠慮がちだけど、
自分に必要な分はちゃんと確保してるわね⋯⋯
誰に対しても平等に恩恵を与えている⋯⋯
あなたは勝利を授ける者!
シグルドリーヴァ!愛称はシグ!」
「シグちゃんです、よろしくね」
「右列3番目!
向かい側のヒルディーと争うように食事している子ね⋯⋯
でもヒルディーよりも多く食べてる気が⋯⋯
決めた!戦術の嵐!カーラ!愛称は⋯⋯」
「愛称はカーラで結構だ
今は戦(食事)の真っ只中ゆえ失礼!」
とても忙しそうだ。
「次は⋯⋯向かい側のメイちゃんと愛称よさそうね⋯⋯
神の意思、レギンレイヴの名はどう?愛称はレレ!」
「異論はないよ、レレちゃんって呼んでね」
「次は右の5番目!
なんかミスティーと似ておとなしそうね
静かだから⋯⋯沈黙の戦乙女ソグン!
なーんか⋯⋯名前が勇ましいわね⋯⋯
かわいい愛称に結びつかない⋯⋯」
「ねぇねぇ、お姉ちゃん」
助言する破壊者のラズが語りかける。
「ん?どうしたのラズちゃん」
「あのね、沈黙の戦乙女だから⋯⋯
ミュートでみゅーちゃんとかどうかな?」
「おーーーー!」
私と鵺さんはついハモってしまった。
「じゃあ、沈黙の戦乙女ソグンは愛称、ミューちゃんね!」
「みゅーちゃん⋯⋯かわゆ、ありがと」
ミューちゃんが照れて、ほのかに頬を赤らめる。
「さてと、次は右側の列6番目!
目の前で揺れ動いてるフーリンがいるのに
普通に寝てる⋯⋯中々の猛者ですな⋯⋯
そんなきみは眠りと予兆の戦乙女!
スヴァーヴァ!愛称はスヴァ!」
スヴァは深い夢の世界を旅しているようで返事が無い。
「あとでスヴァが起きたの気づいたら
誰か名前を教えてあげてねー」
「あい!」
「はーい!」
「お姉ちゃん、多分だけどスヴァちゃんね
寝てるけど聞こえてると思うよ」
「え!そうなの!?」
「うん、多分大丈夫だよ」
「そっか!ありがとう!
万が一聞こえてなかったら教えてあげてね!」
「はーい!」
「次は最後です!右列7番目!」
右列7番目の子が無表情な顔から一転、ふんす顔でダブルピースをしている。
顔はほぼ無表情で体はハッピーさを再現。
「な⋯⋯なんか癒やされる~⋯⋯
きみは癒やしの戦乙女!エイル!
愛称はエイラ!」
ピースサインがカニさんになった。
「案外すんなり名前を付けてくれたね」
鵺さんが笑みをこぼしている。
「うん、みんなの行動とか
特徴に合うような名前をつけさせてもらったんだけど
難しくはなかったよ」
「うんうん
みんなも素敵な名前をつけてもらえて良かったね」
すると、唐突に私が持っていた本、 ~戦場に咲く名の花~ が光を零し始めた。
「わっわっ、なに急に!」
「こ⋯⋯これは⋯⋯これほどの光が⋯⋯」
鵺さんと私は過度な光に焦っていたが、零れていた光がふわりと浮かび14の光へと分散した。
その光はそれぞれの少女たちの前で浮いたまま暫し滞在し、途端に電光石火の如く少女たちの胸を貫いて少女たちは光を吸収してしまった。
少女たちは白目を剥いて突伏する。
「ちょちょちょちょ!ちょーっと!みんな大丈夫!」
私は焦って少女たちの元へ駆け寄り生存確認をするが呼吸をしていない。
ヘルルもイルルも順番に確認したがみんな脈も無く、呼吸も止まっている。
「なんで⋯⋯なんで死んでるの!
死ぬなんて聞いてない!
そんな⋯⋯みんな起きて!ねぇ!」
私は心臓マッサージなど蘇生を試みる。
鵺さんも一人一人見て回るが予想外にも冷静な表情を浮かべている。
「伽耶ちゃん、大丈夫だよ」
「え!何がですか!みんな息も呼吸もしてない!」
「伽耶ちゃん落ち着いて!息も呼吸も同じ意味だよ」
「あ、いや、落ち着いていられない!早く助けないと!」
鵺さんが静かに語る。
「大丈夫、もうそろそろ、もう少ししたらみんな目覚めるから」
私は瞬時に悟った。
鵺さんはきっとこの状況も未来視で見た事がある光景なのだと。
この冷静さはそうとしか思えない。
「鵺さん、みんなが目覚めるの、知っているんですね⋯⋯」
「うん、だから落ち着いて、大丈夫、みんな大丈夫だから」
私は鵺さんの言葉を信じ、女の子たちを一旦抱えて床に敷いた布団に全員を寝かせた。
女の子たちの口や服にはトマトソースが付いているので、綺麗に拭き取った。
服についたトマトソースのシミが落ちない。
後で洗わないとと考えているとシミがスッと消えてしまった。
女の子たちを見守りながら鵺さんとアガルタさんと私で食器を片付けて、周りの整理をした後、ある程度落ち着いたら鵺さんに話を聞く。
「これは何が起きているんですか」
《我が説明しよう》
「きゃっ!フレイヤ様!」
フレイヤ様の発言は唐突なのでびっくりする。未だに慣れない。
《この少女たちは、伝説の戦士たちの魂⋯⋯
魂の欠片とでも言うべきか、
その欠片を継承した
ただし戦乙女は一度死する必要がある
しかし、この少女たちは
正式に戦乙女として選定される訳では無い為
あくまで儀式の一貫として
一時的に生命活動を停止している
この間に肉体の変化があり目覚めた時には⋯⋯》
フレイヤ様の声が途切れてしまった。
「あの、フレイヤ様、ありがとうございます!」
すかさず鵺さんに問いかける。
「鵺さん、もしかしてフレイヤ様って私たちに語りかけるのにも
結構大変な状態だったりします?」
「ああ、きっとそうなんだと思う
常に話せる状況なら
こんな不定期に助言をくれないだろうし」
私はフレイヤ様の状態をいつか確認し、何か手助けできないものかと考えていた。
その後、女の子たちが目覚めるのを待ちながら鵺さんに過去の話を確認する。
「鵺さん、なんで世界ってこんな事になったんですか⋯⋯
私、まだこうなったきっかけとか
しっかり見てないんですけど
本当に神さまの顕現ってやつが成功してしまったんですか?」
「ああ、不本意ながら奴の顕現は成されてしまった
だからある年代からは
こんな混沌とした世界になってるんだよ」
少しの間、沈黙が続く。
「私、この世界で、何かできる事あるんですかね?」
「あるさ、陳腐な事を言うけど、
きみのような人がこの世界を救える
きみが救わないと駄目なんだよ!」
「んん⋯⋯?なんで私なんですか?
私、たまたま本を読んで力を授かりましたけど
別に武器を扱えたり武術を習得してたり
戦う術なんて持ってないんですよ
喧嘩なんてした事もないですし⋯⋯
そこだけは現実を見てしまって
ポジティブにはなれないですよ」
「いや、きみじゃないと駄目な理由があるんだ!」
「ど⋯⋯どんな理由ですか!
私の何が鵺さんに期待させているんですか!」
「きみが!正常な人間だからだ!」
正常な人間⋯⋯今まで異端扱いされてきたのに、ここにきて正常な人間として扱われるのはとても違和感があった。
でも、正常な人間と言われて嬉しくもあった。
「でも私が正常な人間だったとして
何をすべきなんですか!
私の時代、3001年の世界は
異形化した人間が当たり前の世界なんです
それをどうしたら、この身ひとつで⋯⋯
何をすればいいんですか⋯⋯
余りにも話が大きすぎるんです
こんなちっぽけな私が
世界と神を相手に何ができるんですか⋯⋯」
「まずは、きみと同じ人たちを救うんだよ!
この時代にはきみだけじゃないんだよ!
正常な人間は他にもいるんだ!
数は少ないがまばらにいるんだよ!
異形化していない人間が!」
私は呆然とした。
無意識のうちに涙が溢れ出てくる。
私は声を押し殺しながら胸中の想いを吐き出す。
ーー私以外に人間がいる。
「私だけだと⋯⋯私だけだと思ってた⋯⋯
私のいるこの世界は⋯⋯
私だけが孤独で、私だけが異端で、
味方なんて誰一人存在しないって⋯⋯
世の中は異形化した人間が普通で、
私だけが世界の悪だと思っていた
でもたまたま入り込んだ屋敷には
先祖の鵺さんがいて
かわいい女の子たちもいて
色々お世話になってるアガルタさんもいて
それだけでも私は救われていた
私と心を共有できる人たちがいるって
でも私のいる時代には
私以外にも同じ境遇の人がいるって知って
嬉しいし悲しい、感情がぐちゃぐちゃ⋯⋯
そんな世界の状況を少しでも知った私が
同じ境遇の人たちを救わないと⋯⋯ですよね」
「強要はしないよ、
だけどきみだからこそできる事があると信じている
それは別次元のきみ自身が証明しているんだから
もちろん僕も協力するよ、
ちなみに伽耶ちゃん、一つだけいいかい?」
「あ、はい」
私は涙を拭いながら鵺さんの話に耳を傾ける。
「話の腰を折るようで申し訳ないけど
判断し易いように正常な人を人間、
異形化した人間はソナリス、って呼んでもいいかい?」
「はい、もちろんです」
「うん、ソナリス呼びのほうが
人間との差別化をしやすいからね
異形化した人間は視覚が無く代わりに
音の反響で見ているのは周知の事実だと思うけど⋯⋯」
「はい」
「つまり音波探知を意味するSONARと
ラテン語で”~に関する”という意味合いの
~ALISをくっつけた造語でソナリスなんだよ
スペルは、SONALISだね」
ソナリスの話を詳しく聞いたのは人生で初めてだった。
「このソナリスたちが徘徊する過酷な世界で
生存している人間たち全員の
詳しい場所までは把握しきれていないけど、
アガルタさんに協力してもらって
人間だけが住む集落を1箇所だけ発見したんだよ」
「それは本当ですか!どこにですか!」
「ここからそう遠くは無い場所さ
一応確認だけど
伽耶ちゃんが屋敷に入ってきた場所は新宿だよね?」
「はい、新宿です」
「この屋敷はね、様々な時代、
場所に繋がっているんだよ
ただし、発見できるのも
入れるのも人間だけなんだけどね」
「という事はこの屋敷の中から
色々な場所や時代に向かう事ができるんですか?」
私は都合の良い事を考えてしまった。
このアガルタさんの屋敷なら様々な時代、色々な場所で迫害を受けている人たちを助けられるのでは無いかと⋯⋯。
だけどそんな都合の良い話は存在しなかった。
「それがそういう訳にもいかないんだよ
そこの正面の扉があるだろう
僕も伽耶ちゃんも既にアガルタさんから
認識された存在になっているから
屋敷の中からあの扉を開けて外に出る事はできるんだ
でも、伽耶ちゃんが開けると3001年に繋がって
僕が開けると2024年に繋がるんだよ
つまりそれぞれが
この屋敷に入った時間帯に帰るだけなんだ、基本はね」
「基本は?基本以外の事もあるって事ですか?」
「そうだね、それこそアガルタさんにお願いして、
時代を指定して好きな時代に行く事もできる」
「できるじゃないですか!凄いですよ!
アガルタさん凄い!素敵!」
「だけどそれができない理由があるんだ
アガルタさんと色々試す中で
僕は自分の現在である2024年よりも
10年早い2014年に設定してもらって
試しに扉を出てみたんだが⋯⋯何が起きたと思う?」
「え?何か起きたんですか?
別に向かった時代が違うからって
何か起きるものなんですか?」
「ああ、起きたんだよ
僕の年齢が5分位で10歳ほど若返った
そう、自分がこの屋敷に
初めて入った日とは違う時代に行くと
屋敷に初めて入った日を起点にして
年数の差分、年齢が変動する」
「という事は3001年に屋敷に入った私が
2024年に向かってしまうと⋯⋯」
「おそらくだけど、若返り過ぎて消滅⋯⋯だろうね」
「い⋯⋯いやいや、消滅以外の可能性も⋯⋯」
「んーー、順当に考えたら消滅だろうね
さすがに消滅したらどうしようも無いから
せめて自分が生きている確証のある年数の
範囲内の時代に行くべきだろうね」
「うぬぬ⋯⋯わかりました⋯⋯
というか⋯⋯だから鵺さん少し若いんですね」
「ん?⋯⋯ああああ!そうか!
伽耶ちゃんは僕が箱の儀式に
参加している姿を見ていたんだもんね」
「はい、初めてこの屋敷で会った時に
過去に見た姿よりも若くなってる気がしたんです
気のせいじゃなかったんですね」
「その通りだね、
僕は当時の年齢よりも10歳若くなっているんだ」
「鵺さん、つまりそれって⋯⋯
ある意味、不老不死じゃないですか?」
「不老不死のようなそうでないような⋯⋯
この屋敷では歳をとらないけど
過去にいけば若返るからある意味不老不死だ、
かなり限定的だが⋯⋯
それを考えると
命がけで我が子に乗り移っていたナシアの行いは
一体なんだったんだろうね」
「本当ですよ!
罪の無いこんなかわいい少女たちを生贄にするなんて⋯⋯
信じられない!」
その後も鵺さんと暫く屋敷や不老不死の話をしながら、次にやるべき事を話しあった。
「鵺さん、私は私と同じ境遇の人たちをみんな助けたい
きっと人助けをし続けていれば
何かしら世界を正常化する為に
必要な知識とか経験を得る事ができると思うんです」
「おっ!いい心がけだね~
伽耶ちゃんが向かう事のできる時代の範囲で救出しようか」
「ですね!」
「改めてこれからもよろしく!」
「はい!どうかご助力のほどお願いします!」
鵺さんと私は固い握手を交わした。
握手をしただけだったんだ。
ただ、意思表示として自分の先祖と握手をしただけ。
それなのになんでこうなってしまうのか。
鵺さんと握手をした途端、何故か眼球が異様な熱さに包まれた。
「こ⋯⋯これは⋯⋯熱い!
目が熱い!これは歴史書から過去に行った時の⋯⋯!」
「ぐあぁぁぁぁ!
これは⋯⋯この熱さは目が燃えるようだ⋯⋯
ぐぁあああああぁ!」
鵺さんと私は眼球に燃えるような熱さを感じ、二人で悶え苦しんだ。
「これは⋯⋯何⋯⋯鵺さんの目から目が離せない!」
「僕もだっ!
伽耶ちゃんの目から⋯⋯どうやっても視線を逸らせない!
これはまるで刻渡りの時と一緒⋯⋯!」
「いやぁぁ!この熱さ、耐えられない!」
その時、私は鵺さんの記憶の中にダイブし、鵺さんが経験し、見てきた出来事を私自身も瞬時に擬似体験した。
それは ”鵺さんの記憶を視る” だけでは無く、 ”鵺さんの人生が自分の人生の一部として植え付けられる” かのような体験だった。
読んで頂きありがとうございました。




