第5章 ナシアの不死の意味 ~ナシアの記憶~
ー2005年ー 埼玉県 さいたま市
神さまの計画を開始して2年が経過した。
あれから大きな進展は無い。
ここ最近はシェルフドッグの団員が増えすぎて運用に苦戦している。
この2年は管理の他に計画の準備や試験的な活動などに追われた。
またダークマターを集める為に日食、月食、新月の光が欠ける瞬間を狙い、影歴の長い影を鏡に映して
「ニカン ノカーン(ここが故郷だ)」
と、唱えると鏡に影を集める事ができる。
実際にこの影集めを築年数の長い建物の影で試したところうまく集める事ができた。
しかし問題がある。
日食、月食、新月のタイミングだ。
日食と月食は年に平均2回、新月は年に平均12回発生する。
1回1回が重要で影を捕らえる為の鏡は神さまから多めに授かったけど動ける団員の数も多くは無いので一度タイミングを逃すと痛手だ。
また、神さまの御力を射出する為の装置はダークマターの現物が手元に無いので先行して作るにしても限界がある。
しかしながら、シェルフドッグのマミーランクを取得した斑鳩鵺という名の男性がとても理知的で常に革新的な思考を持っている。
ダークマターが無くてもここまで射出装置を形にできているのはこの斑鳩のおかげでもある。
あとはダークマターを入手した時に本格的な開発を進めたい。
さて、一度計画を再確認しよう。
まず神さまを顕現する為に全世界の生きとし生けるものが同時に10秒間、目を閉じなければならない。
それを実現する為に必要な流れは7項目だ。
1、「ダークマター」の作成に必要な影暦100年の影を100人分✕10セット用意
2、「ダークマター」が準備できたら神さまに御力を付与頂く
3、御力を射出できる装置を完成させる
4、御力を使って世界中の生物を殲滅する
5、殲滅が終わり次第、団員は全世界の政府に潜入
6、時間をかけてでも「世界共通の目を閉じる祝日」を必ず制定する
7、全ての人間が目を瞑り、神さまが顕現なされる
そして神さまの祝福に満ちた世界が始まる
神さまを顕現するまでに必要な年数は動物の殲滅に185年、神さまを顕現する為に全世界の政府に潜入して世界共通の ”目を閉じる祝日” の制定に約80年、合計で265年かかる計算だ。
バッファをとって300年としている。
この計画の元、影を集めながら資金の調達なども行う。
何事にも維持費がかかる為、資金調達は重要な活動だ。
資金の確保という現実的な問題においても、斑鳩鵺は淡々と役割を果たしていた。
特に鵺は、複数のパッシブインカムを巧みに構築しており、その収入規模も決して小さくはなかった。
この団体において鵺の存在はとても大きなものであり、彼がいなかったら組織としてまともに運用できていなかったかもしれない。
◇◇◇
時は流れ、18年が経過した。
やっとダークマターが9個揃い、あと一つで全て揃う事となる。
ダークマターを集める工程で既に10年の遅れが出ている。
急がなくてはならない。
あたしはまだいいのだが、シェルフドッグの団員が心配だ。
会員ランクの低い者の中でも才能に富んだ者は辞めていくが多い。
間に合えば引き止めてはいるものの才能と性格は比例しない為、才能があったとしても性格に難があれば引き止めるに値しない。
そこの見極めが難しい、永遠の課題でもある。
更に辞めていった者が軒並み行方が分からなくなっているのも気になる。
そして、一つ気付いた事がある。
あたし、歳を取ってる。
41歳になった。
歳相応の顔になって最近は節々も痛い。
確かに神さまは“不老不死”ではなく“不死”と言っていた。
では、あたしはこのまま年老いていき老婆として不死なのだろうか⋯⋯。
不老でなければ体が動けなくなるのでとても困る⋯⋯。
手遅れになる前に一度神さまに相談しなくてはならない。
「神さま、いらっしゃいますか?」
『よ!ナシア!いるぜ!』
「1つご相談がございます」
『お?どうした?』
「あたし、歳をとっています」
『ああ、そうだな』
「その⋯⋯不死の力を頂いたのに歳をとっておりますので
いずれミイラのような容姿になってしまい
動けなくなるかもしれません
あたしは不死になったのですよね?」
『んー?いや、儀式したら?』
「え?」
『あん?あれ?言ってなかったっけ?』
「何をでしょうか?」
『げっ!言うの忘れてたか!悪いな!
吾輩の言った不死はちょっと違うぞ!』
「え、それはどういう事でしょうか」
『不死っていう意味合いは”死なない”事を指すよな
つまり生き続ける事を不死という
殺されても死なない事を不死とも言うが
不死の形も様々って事だ』
「あ、すみません神さま
あたし如きの知恵ではどうにも⋯⋯神さまのお話が理解できず
もし宜しければあたしでも
分かるように教えて頂けないでしょうか」
『つまるところ、お主の不死は生き続ける不死だ』
「それは⋯⋯」
『わかりやすく説明するぞ
お主には寿命もあるしちょっとした事でぽっくり死にもする』
「⋯⋯てっきり外傷や病、
寿命では死なない体になったのかと思っていました」
『残念ながら吾輩は不老や不死を司る神では無いからな
だからお主にはな、他人に乗り移る能力を与えたんだよ』
「他人に⋯⋯つまり自身が瀕死の状態になった時などに
自分の体を捨てて、他人乗り移る⋯⋯?」
『瀕死でなくとも大丈夫だぞ』
「では、今すぐにでも若い肉体に乗り移る事が?」
『可能だ』
「神さま、ありがとうございます!
では今すぐに良き肉体を見つけ⋯⋯」
『まあちょっと待て待て⋯⋯
この際だからしっかり説明するから良く聞いてくれ』
「失礼致しました」
『まず死体にも乗り移れるがやめたほうがいい』
「死体で試すつもりはありませんでしたが、どうなるのですか?」
『瞬間的に生き返ってすぐに死ぬ』
「あぁ、なるほど⋯⋯」
『次に、連続で乗り移りはしない方がいい
乗り移った先から更に乗り移る時は、1年は期間を空けるんだ』
「1年待たずに乗り移った場合⋯⋯」
『乗り移っている最中に魂が飛散して、さようならだ
ようは魂が新しい肉体に定着しきっていない状態で
すぐに乗り移りを行うと
栄養が足りなくて空中分解するイメージだ
どこか別の神から魂にまじないをかけてもらうなら
飛散しないで魂としてずっと滞在できるだろうけどな』
「なんとなく⋯⋯理解しました
ちなみに神さまは魂が飛散しないように
おまじないをかけていただく事は⋯⋯」
『すまんな!吾輩は魂を強固にするまじないができないんだ
だから間違えても余命1ヶ月など短命な相手に乗り移るなよ』
「確かに⋯⋯気をつけます」
『それと、誰に乗り移ってもいいが
できるだけ生後3ヶ月以内の赤子に
乗り移る事をおすすめするよ』
「それは何故でしょうか?」
『成人を迎えた人間は器が汚れている
乗り移ってみると分かるさ
まずとんでもなく不快感がある
そして頭の中に膨大な記憶が残っていて
その記憶が自我を混乱させる事もある
自身の意識が失われかねない
だから意思の強さに自信が無ければ
記憶を余り持たない赤子に乗り移るのがベストだ』
「分かりました神さま、ですがそこはご安心ください」
『お?』
「あたし、先程は気持ちが焦っており、
その辺りの人間に乗り移る気満々でしたが
今後は自分の子供にしか乗り移りません」
『じゃーはははは!自分で言っちゃうのか!さすがナシアだ!』
「神さま、あたしがこの世で大事にしているのは
1番に神さま、2番にあたし自身ですのよ?」
『じゃーはははは!そうだよな!
お主はそういう人間だったな!
さすが吾輩が見込んだだけの事はある!
それが本心だというのも魅力的だ!』
「えぇ、冗談でこんな事言いませんわ
それに自分の子の方が乗り移った時に
魂も居心地が良いと思うのですよね」
『だが、どうする?
赤子に乗り移った後、完全に無防備だろう
お主を守る者が必要ではないか?』
「はい、ご明察でございます
マミーランクの者は全員が信頼できる者で、
特に斑鳩鵺はこの組織の大黒柱です
彼を筆頭に信頼できる者を計3名、
あたしの警護や養育係に任命します」
『3名とは随分少ないな』
「はい、この3名にはあたしの乗り移りの事は全て伝えますので
重要な情報ほど少人数にのみ共有をしようと思います
信頼していてもどこで情報が漏れるか分かりませんので」
『用心深いな!だがナシアらしいな!』
「お褒めの言葉をありがとうございます
ところで神さま」
『んあ?』
「その乗り移りはどのようにして行うのでしょうか?」
『あっ!また伝え忘れてたな!
じゃーはっはっはー!
教えるけども⋯⋯今はまだ教える時では無いな
飛び回って覗いているコバエがいるかもしれんからな』
「え、コバエですか?」
『いや、こっちの話だ
とりあえずナシア、赤子を作れ』
「あ、なるほど
子供はたくさん作りましたけど
自分が乗り移る赤子がいませんね」
『ああ、10ヶ月だ、また10ヶ月後、
乗り移る時にぶっつけ本番で説明する』
「はい⋯⋯ではあたしは種を探してきますわ」
『じゃーはははは!頑張れよー!』
「ええ、頑張ってまいりますわ」
◇◇◇
それからあたしは予定よりも1ヶ月早い、9ヶ月後には出産した。
あたしの乗り移りの準備が全て整った。
ついにこの時がきた。
新しい自分になれるその時が待ち遠しい。
読んで頂きありがとうございました。




