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第3章 伽耶の魂の行く末 ~伽耶の記憶~

ー2003年ー 某国 とある街


 私、さっきまで本に囲まれていたはず⋯⋯。

歴史書を見ていたら突然目が熱くなって、それからどうしたんだっけ⋯⋯。

視界がぐるぐるしていたような⋯⋯。


でも今いるここはどこ?

ビルがたくさん⋯⋯。

人間もたくさん⋯⋯にん⋯⋯げん⋯⋯。

人間!

私と同じ容姿の人間!

みんな私と同じ姿!

口呵(くか)も無いし聴膜肢(ちょうまくし)も無い!

みんな私と一緒!


あ、私浮いてる!

凄い凄い!

私浮いてる!

好きな場所に飛んでいける!

この町凄い!

町が生き生きとしていて活気がある!

こんな高い場所に部屋があって人がたくさん暮らしてる!

みんな仕事してるのかな⋯⋯このまま少し探検しよう!

エダノカリバーが無くて少し心細いけど、また小さな冒険の始まりだ!


凄い!かわいい服!

凄い!キラキラピカピカ光ってる板!

凄い!青い空!

凄い!空に何か飛んでる!あれが噂の飛行機!?

凄い!辺り一面に花が咲いていない!整備されて硬そうな地面!

凄い凄い凄い!みんな全部カラフル!

赤!青!黄!緑!橙!桃!紫!白!黒!

この世界は温度がある!凄い!


こんなに気分が高揚したのは人生で初めてかもしれない。

生まれた時から私の心はただただ不気味という感情に捕らわれて灰色だった。

それだけにこの世界は驚きの連続で自分の感情を抑えきれなかった。

この世界が何なのか、夢なのかさえ分からないけれど、こんな世界に生まれていたら、私の人生はもっと価値あるものだったかもしれない。

そのような事を思いつつ、暫くの間、探索を続けた。


辺りを見渡していると、下の道路沿いに文房具屋さんを見つけた。

この体で扉を開けられるのか試してみるとそもそも扉に触れる事もできず、扉をすり抜けてお店の中に入れてしまった。


「こういう文房具屋さんにカレンダーとか置いてあるよね⋯⋯

 それにしても私のいたところとは売っている商品が全く違う

 見ているだけで楽しい

 こんなに華やかな文房具屋さんがあるんだ」


暫く店内を見て回るとカレンダーがあった。


「あった、えっと⋯⋯2003年!

 ⋯⋯ええぇぇえええ!2003年!

 私の時代の998年前じゃん!

 え、これ、約千年前のどこかの街って事?

 すっごい いい世界じゃん⋯⋯

 何がどうなったら私の時代みたいなやばい世界に仕上がるのよ」


私は文房具屋さんから出て今度は一つ奥の道を見に行くと

一人の女性が立っていた。


「わぁ、あの女の人、綺麗⋯⋯

 月の形のアクセサリーもかわいい

 あ、私って他人を綺麗とか思える感情があるんだ

 やっぱり綺麗とかかっこいいとか素直に思えるのいいな⋯⋯

 私、この2003年の世界が凄く好き」


1人の女性を見て心躍っていた私はそのまま他の場所を見て回ろうとした。

しかしさっきまで綺麗だと思っていた女性の様子があからさまにおかしい。

女性の近くを歩いていた人たちが突然倒れ始める。

倒れる者、燃え盛る者、出血する者、水を吐き続ける者、潰れる者、私はその状況を見て呆然とし、ただ見ていることしかできなかった。


また大惨事となった周辺で唯一一人の女性が平然と立ち尽くしていた。

あの月のブローチを付けた綺麗な女性だ。

私は恐る恐る女性に近づく。

女性の顔を近くで確認すると目が泳いでいて時折聞こえてくる

「我が主」や「神さま」という発言。

女性の様子がどことなくおかしい。

錯乱?興奮?


暫くするとまた周りに集まり始めた人々が次々に倒れた。

その後は月のブローチの女性も突然血を流して倒れた。

月のブローチの女性が倒れている間、人が集まる度にみんな倒れていく。

おそらくみんな死んじゃっているのだろう。死体が積み上がっていく。

私は頭がおかしくなりそうだった。


「なに⋯⋯なんなのよこれ⋯⋯

 やめて⋯⋯もうやめてぇぇぇぇええええ!」


叫ばずにはいられなかった。

すると禍々しい声が私に語りかけてくる。


『お主⋯⋯まさかこの世界にも来たのか!

 不快だ!吾輩の邪魔をするな!』


私の目の前一杯に黒い触手のようなものが現れて、私を幾度も貫き、否応なく全ての感覚が痛みに塗りつぶされ意識が遠のいていく⋯⋯⋯⋯。


体中が穴だらけになり散り散りになるのを感じながら、私は意識を失った。


◇◇◇


 濃い鉄の香りが鼻をつく。

口の中がぬとっとしている。

口をすすぎたい。

気がつけば私はまた屋敷の本の部屋で目覚めた。

喉が痒い、体中がべとべとだ。

地下室にいってうがいをして体を拭きたい。

地下室の水道に到着すると鏡を見て驚愕した。

私、顔どころか胸まで真っ赤だ。

これは血?あれ?

そういえば私、首が千切れて⋯⋯。

そう思い出した瞬間、横隔膜に力が入り嘔吐してしまった。


うがいを済ませて少し体を休ませた後、濡れたタオルで体を拭こうとしたけど、気がついたらさっきまで血だらけだったのに一滴の血も無く、綺麗な体になっていた。

え、見間違い?そんなバカな、私絶対血だらけだった。

でも鏡で自分を良く見ると、首には首輪のように首を一周する痛々しい傷が残っていた。

私、きっと首が千切れたんだ。

でも首が千切れても生きてるなんて私おかしいよね。

夢なら夢でいいんだけど、これは現実。

現実逃避していい状況じゃない。

この首、どうやって繋がったんだろう⋯⋯。

そう考えながらもさっきの街であった事についても思い出す。


あれは今から約千年前の町での出来事。

多分、私が過去に行った?行けたきっかけは⋯⋯そう、あの歴史書。

あの歴史書の年号の部分を見ていたら過去の時代に飛べた。

肉体は無かったから私の魂とか意識だけ過去にいけたってことなのかな。

でもあれだけ探索しても町にいる人には誰にも気づかれなかった。

最後に私を追い出したあのおぞましい声の存在には気付かれたけど。

まるで私の事を知っているかのような口ぶりだったけどなんだったんだろう。

分からない事だらけだけど、自分には何ができるのか少しずつ分かってきた気がする。

ちょっと体力がきついからまた明日⋯⋯頑張ろう⋯⋯。

私はそのまま深い眠りに入⋯⋯らない!


「だめだめだめ!どんなに辛くても運動!食事!水分補給!

 強い体を作るぞ!おー!

 でも食べてすぐ寝るのは胃もたれするから

 食べたら少し時間あけないとね!」


私は適度な運動を終えて、颯爽と調理台の前に立ち何を食べるか考える。

今から食事して、もし万が一すぐ寝てしまっても胃もたれしにくそうな食事を作るべきだと思った。

かつ栄養の摂れるおいしい料理を目指そう。


つまり、今日の料理はこれだ。


「菜の花と大根と胸肉のあっさり煮!」


最初にお米を炊いておく!

お米を一合洗ったら

丁度お米の横に置いてあった麦⋯⋯もち麦?

っていう麦も大さじ2入れて炊く!

この炊飯器とかいうの、すっごい便利で感動。

初めて使ったけど操作簡単だし、炊き始めの時に鳴る曲がなんか好き。

それと私の知っているお米はもっと細くて粒が小さい。

でもここにあるお米は一粒一粒が大きくて艶がある。

今から炊けるのが楽しみだ!


そして、お米を炊いている間に、おかずを作ろう!

大根を半分くらいカットしていちょう切りにしておく。

胸肉は半分を用意して今日は食べやすいのがいいから、薄切りにして調理酒と片栗粉に漬けておく。

鍋にオリーブオイルを少量入れて火は中火。

そこに大根を入れて焼き目が付くまで炒める。

大根に程よく焼き目が付いたら胸肉も投入して炒める。

炒めすぎると胸肉が硬くなってボソボソするから両面がほど良く焼けたらすぐに水を2カップ入れて醤油と調理酒とみりんをそれぞれ大さじ2、あと和出汁を小さじ1としめじを少々入れて5分くらい煮る。

仕上げに菜の花を入れて1分くらい煮込めば⋯⋯


「菜の花と大根と胸肉のあっさり煮!完成!

 やった!食べよ食べよ!」


醤油とみりんの甘い香りに食材の旨味が合わさったコクのある風味が鼻腔を満たす。

ほふぅーほふぅーと少しだけ息を吹きかけて口いっぱいに煮物を入れて頬張る。


「本当はこんぶとか かつお節で出汁とりたいけど、

 粉末出汁もいいよね!十分おいしい!最高!

 大根からはじゅわっと出汁が溢れて

 菜の花はほろ苦い爽やかな風味!

 出汁とマッチして美味~~!

 胸肉はとぅるっとぅる!

 このさりげなく香るしめじもいいよね!

 食材の風味が和出汁に染み出して

 相乗効果で最高の旨味になって堪らない!

 美味しすぎて最高の癒やし!

 私にこにこ!お口ほくほく!お腹ぽんぽこりん!」


私は食事を満喫したが1時間後、深い眠りに入ってしまった。

翌日、もちろん胃もたれをした。

不覚なり。

そして少し太った。

無念なり。

次は起きてからご飯を作ろう⋯⋯かな。

読んで頂きありがとうございました。

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