最終章 夜明け ~伽耶の記憶~
ー3003年ー 深淵の屋敷 書庫
「これ⋯⋯まんま邪神の居場所
書いてあるじゃん⋯⋯
この黒い球体って恐らく邪神だよね?」
「ああ、伽耶ちゃん
こりゃとんでもない内容だぞ」
「しかし、方法が⋯⋯危ないなぁ
下手したら死ぬぞ
これを僕の娘の孫の孫の孫の遥か孫の
伽耶ちゃんにやらせたくないなぁ
やらせたくないなぁ~~」
「私の首、平気で絞めた先祖が
いまさら何を言う!」
「あれー?そんな事あったっけー?」
「あんたら何やってるんだよ⋯⋯
本当に親族なのか?」
「ちなみに鵺さん、6親等内の血族で
ないと親族認定されないらしいですよ?」
「6親等内ってどれくらいだ!
おじさん分からないけど⋯⋯」
「はとこ辺りまでらしいですよ
つまり~鵺さんは伽耶ちゃんと
親族認定されないかもです!」
「なにー!じゃあ、なに?
僕って、伽耶ちゃんの首絞めた
危ないおじさん?」
「ですねぇ、あとお互いに握手しただけで
2人とも首が吹き飛ぶやばい集団です」
「あ、伽耶ちゃんもやばい系統に
自ら来ちゃう感じね?」
「話だけ聞いていたら
幻覚症状バチバチの人の会話にしか
聞こえないんで、2人とも
俺の事、巻き込まないでくださいね?」
「おじさん、巻き込むぞ~~~」
「エヴァンさん道連れだぞ~~~」
「指で突っつくな!くすぐったいから!
こらっ!そこ弱いって!
おい、あんたら⋯⋯
俺は今、沙羅を亡くして傷心中なんですよ
分かります?」
「⋯⋯はい、すみませんでした」
「ごもっともです、すみませんでした」
「なぁ、そんちょー
鵺のおっちゃんと伽耶姉ちゃん
怒られてんの!」
「これっ!お前も他人の事言えんじゃろ!
勉強したんか!?
場所はどこであっても勉強はすんだぞ!」
「やべっ!逃げろ!」
「こらっ!金太ー!」
◇◇◇
「さて、この手紙通りにやるにしても
伽耶ちゃんが行くのは危険だし
俺が行ってくるよ」
「え、いやいやいや!私行きますよ!」
「なんで?」
「え、なんで?
こんな世界にしたあの邪神が許せないし
世界中の人が異形化されて、
とにかく色んな人の想いがあるから
邪神を倒さないと、って思ってます
別に私が代表みたいに思ってないです
でもこれでも色々と
関わってきたつもりだから
ここで私がやらないと、って」
「うん、でもそれなら僕でもいいよね」
「あ、それは⋯⋯」
「僕は愛しの妻が殺されているんだ
世界の為で立ち向かうのは立派だと思う
だけど俺はたった1人のハニーを
殺された上に侮辱された
こんな事が許される訳ない
だから俺は復讐がしたい」
「正当な主張だと思う
私も沙羅さんの仇って意味合いでも
行きたかったんだけど、
そういう意味合いなら
エヴァンさんには敵わないや」
「ん、あのさ?
伽耶ちゃんもエヴァンさんも
2人で行ったら?
2人で行くべきでしょ?」
「2人⋯⋯」
「まあ、それが落とし所だよな」
会話中、突然アガルタさんの鈴が鳴る。
カラ~ン カラ~ン カラ~ン
「これは!緊急事態の合図!」
すると経験した事の無いような大きな地震が徐々に発生し、聞きたくも無い声が書庫に響き渡った。
『吾輩からぁ!
逃れられるとでも!
思っているのかぁぁああ!
人間どもぉぉぉおお!
お前らは吾輩のおもちゃなのだ!
吾輩が来いと言ったら来い!
吾輩が踊れと言ったら踊れ!
吾輩が死ねと言ったら死ね!
それがお前ら人間の人生であり
全てなのだから抗うでない!
分かったか!人間!』
次の瞬間、壁側の本棚が激しく爆発して壁の隙間から巨大な目玉が覗いている。
『やはりいたなぁぁぁぁあああ!
吾輩は逃さぬぞ!
これで逃げ場は無かろう!
イナンナの保護下であっても吾輩は侵入した!
外に逃げても追いかけてやるぞ!
吾輩の勝利は目前なりぃぃぃいいいい!』
壁や本棚を破壊しながら次々と大量の触手が侵入してくる。
「きゃあ!ここは安全じゃなかったの?」
「おい!なんだよこれ!」
「くそっ!やっぱりどこにいても
あいつは追ってくるんだ!」
地下施設にいた住人が皆怯えている。
アガルタさんの屋敷中が触手に侵食されてしまい、書庫は触手で蜘蛛の巣が張られたようになっている。
「んもー!これまずいかも!
鵺さんは後ろに下がっていて!」
「あ、ああ、ただ
どこにも安全な場所は無さそうだよ」
「こりゃまずいな、書庫は広い方だが
戦う場所としては狭い
完全に囲まれたぞ!」
邪神テスカトリポカが呪言を奏でる。
『斑鳩伽耶を除く、人間に告ぐ
汝らが歩みし人生において、
起こり得たる限り最も惨たらしき死を――
今ここに!その身をもって味わうがよい!
これぞ、吾輩が下す神罰なり!!
じゃははははははぁぁあ!』
邪神が唱えると屋敷の中全体が青白く光る。
『ぬあぁぁぁぁああ!』
邪神が苛立っている。
『ぬがっ!
このアガルタの屋敷内でも
呪いや洗脳はできないのか!
小賢しい小賢しい小賢しいぃぃい!』
邪神の触手が唸り落ちてくる。
屋敷の中がより多くの触手で満たされていて、このままだと触手に埋まってしまう。
絶体絶命とはこの事だろうか?
でも私は少し期待している事がある。
今の私には、仲間がいるという事実。
ソナリスばかりの3001年、
その時代に埋もれていたら私の味方なんて1人もいなかった。
でも今は違う。
私にはたくさんの仲間がいる!
私が槍を構え、邪神目掛けて投擲しようとした時、みんなが私よりも素早く攻撃を徹底した。
全知の乙女ヘルルと、助言する破壊者ラズが神言を発すると、周辺の触手は滅び去った。
侵入してくる触手を上回る速度で、触手の群れは次々と滅びへと飲み込まれていく。
槍の嵐イルルと、勝利を授ける者シグが、天覇無双たる至高の槍――必絶をもって、触手や目玉を執拗に破壊する。
放たれし槍は決して折れず、決して止まらず、決して阻まれぬ。
その槍に狙われし者は、ただ命尽きる運命を受け入れるほかない。
これぞ、必絶の槍なり。
戦争の戦乙女ヒルディーと、戦術の嵐カーラが、輪廻を破壊する光線と超絶怒涛の鬼弾幕をもって、触手を内より崩壊させ、邪神の加護を弱化する。
たとえ2人に襲いかかる触手があろうとも、2人の背より出でたる真紅の砲台、その圧倒的な基数を前にして、形を保つ者は1つとして存在しない。
運命の乙女メイと、神の意志レレが7つの笛を取り出し、同時に吹き鳴らしたる刻、神風は咲き乱れ、天と地の境界は激震した。
そして光の渦が生まれ、触手はその内へと吸い込まれていった。
地球は創造され、宇宙は再構築される。
根源の理に比べれば、邪神など、些細な小石にすぎない。
霧の戦乙女ミスティーと、沈黙の戦乙女ミューが、無言撃を放つと、邪神の精神は天と地と海へと分かたれ、新天地の肥やしとなる。
そして、母なる星の選別から零れ落ちたる、裏真理の88の1として、宇宙の塵となる。
揺るがす者フーリンと、眠りと予兆の戦乙女スヴァが奏でる、相反する「虚」と「烈」。
その核心より現れし力は、空間・時間・混沌の三角陣を抜け、召喚されし狂気の権化たる邪神を、正より逆転へと誘う。
すなわち、是――死への渇望なり。
轟音の戦乙女リマと、癒しの戦乙女エイラの轟天滅界音覇と慈悲反転回復陣が交差し、邪神を生命の逆説と断ずる。
天命地理人和に共鳴する絶響の虚空意は、虚命の炎に揺らぎを刻む。
天の闇が地に落ちるは、定めなり。
戦乙女の能力を継承した女の子たちがそれぞれ攻撃をして、圧倒的戦闘力でアガルタさんの屋敷にあるほとんどの触手を殲滅した。
『ぬがぁぁぁぁああ!なんだおまえらは!
小賢しい! やはり羽虫か!虫けらめ!
伽耶だけでは無くどこにでも湧きおって!
見ろっ!吾輩のこの惨めったらしい姿を!
吾輩を!侮るなー!』
邪神はひどく傷ついていたけど、あっという間に傷や触手が再生していくのが見えた。
「きゃぁああ!私の妹たちすごーい!
みんなが何かやってるけど
凄すぎてよく分からないよ!
でもさすが戦乙女!
みんなかっこいいぞー!」
「あの子たち、こんな強いのか!
戦乙女?なんだそりゃ!
伽耶ちゃん、あの子たち一体何者なんだ!」
「凄い子たちなんです!
しかもあんな小さい体でちょこまかして
強いのにかわいいでしょー!?」
「そ⋯⋯そうだ⋯⋯ね」
「とりあえず今はみんなが
頑張ってるから
今のうちに狭間に行ってきます!」
「しかし⋯⋯くそ、過保護過ぎかな
分かった!頼んだぞ!」
「すみません!
でもエヴァンさんはこっちで何かあった時に
みんなを守ってあげてください!
私と手を繋いでいれば
光線出し放題だと思うので!」
「分かったよ⋯⋯頼んだぞ!
あんまり無理すんなよ!」
「はい!ただ、どうしよ⋯⋯
狭間に行く為に胸を押してもらいたいけど
みんな忙しいよね⋯⋯
そもそも胸を押されて本当に
狭間にいけるのかも不安だし⋯⋯」
「伽耶ちゃんごめん!僕だけじゃ
力になれそうにないから
地下施設の人たちに頼んでみるよ!」
「いえ!それだと今からまた
説明しないとだし時間かかっちゃうから
アガルタさん!私の胸押せない?」
カラ~ンカラ~ン
「2回!鈴が2回!NOのサインか!」
「アガルタさん!どうして!」
「伽耶ちゃん!周り見て!」
私は辺りを見て理解した。
邪神が破壊した箇所をアガルタさんが端から修復している。
修復する中でも邪神の触手と攻防を繰り返している。
「忙しかったかー!アガルタさん!
無理言ってごめん!」
私は改めて追い詰められた状況だと実感した。
事情を把握していて、すぐにでも胸を押してくれる人はみな戦っている。
エヴァンさんもいつの間にか戦いに巻き込まれてしまっている。
胸を押す人はおそらく1人では駄目だ。
恐らく大人が3~4人必要なはずだ。
どうする、誰か、いないか!
「伽耶ちゃん、とりあえず僕が押す!」
「でも、鵺さん、力全然無い!」
「無いよりマシだ!」
すると私の周りから大量の手が生えてきた。
「アガルタさん!
嬉しいけど無理しないで!」
アガルタさんが10本ほどの手を私の胸の中心に置く。
「今から息止めます!
息止めたら親指上げますね!」
私は大きく息を吸い、肺が空気で満たされると邪神の触手はすぐそばまで迫っていた。
待機していたアガルタさんの手がドリルのような触手に攻撃されて霧散してしまった。
「アガルタさあぁぁぁぁぁん!」
私は必死の形相でアガルタさんの名を叫ぶ。
しかし、私の心配は杞憂に終わり、アガルタさんは無事だった。
無事だったどころでは無い。
アガルタさんはピンピンしている。
書庫左の端の方でサムズアップをしていた。
ただ、切羽詰まった状況であることに変わりはない。
とても困っていた。
タイミングが遅いとしても今から地下施設の住民に事情を説明して胸を押してもらうべきだとは思う。
しかし邪神が攻め込んできたこの状況にみな恐れおののいていてパニックになっていた。
困り果てていると私の左手に隠れるように子供たちがいた。
「おねえちゃんおねえちゃん」
地上で出会った地下施設の子供たちだ。
「きんたくん!どうしたの!」
「お姉ちゃんさ、狭間に行こうとしてる?」
「あ、うん!」
私は困惑した。
「じゃあ、僕たちが胸のとこ押すよ」
「助かるけど、ねえ、なんで狭間の事
知ってるの?」
「まあまあ、時間無いから、ほら
お姉ちゃん、横になったら押すよ」
私は仰向けになり、息を思い切り吸い、肺を空気で満たした。
準備ができたので親指を上げて合図を送る。
きんたくん、あかりちゃん、みなとくん、つきのちゃん、いつきくんの5人が私の胸をゆっくりと押し始めて徐々に圧をかけてきた。
私は体中に力を入れて踏ん張ると顔中に血液が集中しているのが分かり、顔全体が熱くなり始めた。
次第に胸を押す力が強くなり、子供とは思えないような力が私の心臓を刺激した。
◇◇◇
私は気がつくとバスの中にいた。
話に聞いていた通り、本当にバスが存在していた事に心が揺さぶられた。
「よし!バスの中だ!」
空は青く晴れ渡り、景色は白くかすんでいて木や人や建物が点々とありどこか物寂しい趣を漂わせている。
そのバスの車内や車窓から見える景色はどこか淡い色合いをしていて不思議な懐かしさに包まれていた。
「凄い凄い!この世界が狭間の世界だなんて⋯⋯
でもこの先に邪神の本体がいる⋯⋯
邪神を見つけたら目の前で名前を言う!
そして何かあれば
このネックレスにした血!
これで呪う!終わり!よし!」
私はバスの中で心を落ち着かせて、迫る決着の時を静かに待った。
◇◇◇
暫くするとバスのアナウンスが聞こえる。
「次は、蘇生前、次は、蘇生前です
お降りの方は、降車ボタンを
押してください」
ここがあのおじいさんの手紙に書かれていた蘇生前の停留所。
確かに、下車してすぐの場所に大量のアマリリスが咲いている。
しかし降りるお客さんはいないみたいだ。
また暫く乗っていると次の停留所に着いた。
「次は、死亡前、次は、死亡前です
お降りの方は、降車ボタンを
押してください」
この停留所も手紙に書いてあったな。
下車したところにあるあの植物はなに?
ドクロの形をした花?種?
不気味な植物だ。
各停留所には下車したすぐの場所に
花が咲いているのが特徴なのかもしれない。
その後も暫くバスに揺られてじっと待っていると、ついに目的地に着く。
「次は、スモーキングミラー前、
次は、スモーキングミラー前です
お降りの方は、本当にお間違いないか
再度ご確認の上、お降りくださいませ」
この停留所だ、ついに到着した。
ピンポーン
私は降車ボタンを押し、緊張で高鳴る鼓動を押し殺しながらその時を待つ。
バスが停留所に着いた。
バスの前扉が開き、私は降車口の階段をゆっくりと降りる。
降りるとこれだ、これがそうなんだ。
不気味な猿の花が私を出迎えてくれた。
この猿の花こそがナシアの本にも書かれていたモンキーオーキッドという花だ。
書庫にあった植物図鑑にも書いてあった。
ナシアはこのモンキーオーキッドを追っていけば、邪神の核に辿り着くと記していた。
それにしても恐ろしい花だ。
花である事を理解していても錯覚で猿に見えてしまう。
この花はラン科ドラクラ属の常緑多年草の着生蘭らしい
見ようと思えばいつでも見れるそうだ。
しかし奥へ進むほど、猿の花は次第に増え、広場に出るとそこは一面、モンキーオーキッドに覆われていた。
「ぱっと見は綺麗⋯⋯
でも近くでじっくり見ると不気味⋯⋯おそろしや~~~」
『本当に恐ろしいのは吾輩だろう?』
どこからか邪神の声が聞こえてくる。
「邪神⋯⋯私来ちゃったよ?
恐ろしいのは邪神の方じゃないの?」
『吾輩が?何故に吾輩が
たかが人間のお前を怖がる?』
「怖がってるじゃん」
『だから!何を根拠に!吾輩が!
お前如きを!怖がっているって!
言っているんだ!』
「姿見せないじゃん!」
『!』
「隠れちゃってさ⋯⋯私が怖いんでしょ?」
『吾輩が怖がっている⋯⋯
姿を見せないだけで怖がっているか
陳腐な挑発だな』
「だってあなた⋯⋯
名前を言われただけで
かなり危うい状況になるんでしょ?」
『⋯⋯⋯⋯⋯⋯』
「なに?今度は無言?」
『伽耶、吾輩がどこから話しかけているか
分かっているのか?』
「分かるわけないじゃん!
だから出てきなよ!」
突然、私の口が強制的に開放され、今まで開けたことのない角度で開いた為、口角から血がにじみでてきた。
『じゃっはっ!じゃっはぁぁ!
じゃっはっはっはっはっはぁぁああああ!
吾輩!参上なり!
ほれ!出てきてやったぞ!
お前の体の中は居心地がいいな!』
「どうやって⋯⋯いつの間に⋯⋯」
『じゃっはぁぁああ!
おっと、口から失礼!
これから一緒の生活になるんだ
もっとゆっくりお互いの事を
知っていこうじゃないか!
なぁ?伽耶よ、じゃっはぁぁぁああ!』
「せ⋯⋯い⋯⋯」
『ん?何か言ったか?』
「世界をこんな状態にしたお前と
誰が同棲したがると思っているんだ!
お前の場合は寄生だろう!
そもそもお前と生活する位なら⋯⋯!」
『死んだほうがマシか?』
「!」
『まあまあ、その前に待て
吾輩はな、これでも様々な世界で
お前を殺してきたんだよ、何故か分かるか?
何故お前にそこまで執着するか分かるか?
お前が唯一、吾輩に永遠の眠りを与えるからよ』
「私が?唯一?そんな訳ないでしょ」
『ふん、忌々しいがお前だけだ
全ては因縁の影響だ
人種、性別、年齢、貧富、身長、外見、腕力
そぉぉんなもの、関係ない
お前はたまたま運悪く、吾輩に届く距離で
いつも嗅ぎ回り、吾輩を殺しにくる!』
「因縁⋯⋯?」
『人間が良く言うだろう?
もしもあの時あの場所にいなければ⋯⋯
あの時あの場所にいたから⋯⋯
このタイミングのせいで我輩とお前は
必ずどこかで出会う運命になっていてな
全く面倒な事だ!』
「それで、私を殺し回っていたんですね」
『そうだ、強敵では無いが脅威ではあった
それに言う事を聞かないおもちゃは
廃棄しなければならんだろう?
電池を入れたのに動かないおもちゃを
取っておくか?捨てるだろー?』
「私は取っておく」
『お気に入りの人形
でもお腹がやぶれて穴あいちゃった
取っておくか?捨てるだろー?』
「私は修復して改めて大事にする」
『あぁぁあああ!話が合わん!
もうやめだやめだ!吾輩疲れた!
これでどうだ!少し黙れ!』
ぶしゃぁぁあっ!びちゃびちゃ!
突然私の体中、穴という穴から黒い液体が大量に噴射する。
口、鼻、目、皮膚、尻、尿道、全ての穴からだ。
「げほっ!げぇえぇええ!ぐえっほ!おぇぇえええ!」
『あーはっはっはっ!愉快愉快!
ほれ!もう一度!』
「テスカトリポカァァァァアアア!」
『あん?』
「テスカトリポカ!テスカトリポカ!
お前の名前はテスカトリポカだ!」
『ぎゃぁぁぁあああ!まいったー!
やられたぁぁああ!ひぃぃぃいい!
勘弁してくれぇぇぇぇえ!』
「な⋯⋯なんで効かない⋯⋯弱点のはずじゃ⋯⋯」
『弱点さ!
吾輩はこの核の前で真名⋯⋯
つまり本当の名を呼ばれると
全ての能力が0.1%未満に低下するのさ
真名を言われたからなぁ
だーがー!
不老不死の力は失わないぞぉぉお!
不老不死を失わないから
自身の基礎能力がいくら下がろうが
結局は死なないんだよ!
じゃっは!じゃっは!じゃっはははははぁ!
さらに人間の世界にいる吾輩は
吾輩の複製だから
能力が下がる事は無い⋯⋯じゃっはっはー!』
「でも名前言っても⋯⋯
何も起きないじゃん⋯⋯こんなのずるいよ」
これでは血の呪具から発するイピゲネイアも効果が無い可能性がある。
『吾輩が対策をしていない訳がなかろう
あー、しかしもうちょい楽しめると
思ったんだがなー、
ほい、もう一回
体内で爆発するぞー』
ぶしゃっぁあぁああ!びちゃびちゃびちゃ!
「おえぇぇええええ!うぇぇぇぇぇええ!」
体中から黒い液体が出る度に息ができなくなり、体力を奪われていく。
あと一回耐えられそうにない⋯⋯。
『斑鳩伽耶!お前との腐れ縁もここまでだ
これで吾輩はお前という全存在から
開放される
完全なるさようならだ!』
ぶっしゃぁぁあああああ!
体中から黒い液体が吹き出る。
その中には私の片目や肉片が混じっていた。
私は虫の息で立てないでいる。
『まだ息があるのか⋯⋯
安心しろ、斑鳩伽耶
お前が生命活動を終えた暁には
吾輩の最強傀儡軍団のリーダーにしてやる』
邪神が私の口から体の一部を出して勝ち誇ったかのようなセリフを吐き始めた。
邪神は油断して体の一部を私の口から出して私の前面に現れた。
そう、その位置がいい。
私は目を見開いて邪神を凝視しながら囁くように唱えた。
「アガメムノン⋯⋯」
すると首にかけていた血の呪具から瞬時に一振りの剣が召喚され、邪神の体に突き刺さる。
『にぎゃぁぁぁああああ!
なんだっ!なんで!
なんで吾輩の能力は下がっていないのに
そんな赤いだけの剣が深々と刺さるのだ!』
私は瀕死の体で邪神の体を抱きしめた。
「アガメムノン⋯⋯
アガメムノン⋯⋯
アガメムノン⋯⋯」
私の口から発する囁き声と共に、幾度となく赤い剣が召喚され、邪神の体を串刺しにした。
『ぬがぁぁあああ!
まさか⋯⋯これは!
アガメムノンの血か!何故持っているぅぅぅう!』
私は邪神が逃げないように、邪神を抱きしめた状態で自分の体ごとアガメムノンの剣を突き刺して身動きできないようにした。
あと、問題はこの邪神に呪具のもう一つの能力 ”イピゲネイア” が通用するかどうかだ。
イピゲネイアという呪文は元々、鍛冶師のヘファイストスが、アガルタさん(イナンナさん)一家を
騙して破滅の箱の素材へと変異させたアガメムノンの血の呪法の一つだ。
このイピゲネイアという力は所持している人物の特性に応じて相手を呪える呪物の為、心底邪神を憎む私が使用すれば、おそらく邪神は消滅するはずだ。
しかしイピゲネイアが効くかも分からないのに博打で撃つ訳には行かない。
私はだいぶ深手を負った。
全身に余り力が入らないし、自分の命が長くないのも感じ取れる。
体から体温が奪われる感じだ。
今の私は魂みたいな状態なのに体温が奪われる感じというのもおかしなものだ。
私の腕の中でテスカトリポカが暴れ回っている。
『おい!伽耶!この剣を抜け!
吾輩を解放した暁には
特別に吾輩と対等な契約をさせてやる!』
その言葉を聞いて私はより一層、力強く邪神を抱きしめた。
こいつは危ない。発言も行動も、何ひとつ信用ならない。
邪神を抱き、少し疲れて目を閉じていると、視界の端に女性が立っているのが見える。
びっくりして目を開けてしまったが、目の前には誰もいない。
私の抱えている邪神のみだ。
もう1度、目を閉じるとやはり女性が立っている。
口が縫われ、両手が干からび⋯⋯
明らかにアガルタさんだ!
アガルタさんが目の前に立っている。
私は今にも尽きそうな体にほんの少しの活力が戻るのを感じた。
目を閉じた時にだけ見えるアガルタさんは、沙羅さんの裏世界を見る力のおかげで見えている可能性があった。
アガルタさんは距離を詰め、耳朶をかすめるほどの声で囁く。
〘この世界の物は 現実世界に 持ち込めるよ〙
そう、この世界のアマリリスを現実世界に持ち込んだ子供たちがいた。
そうだ、持ち込める!
でも⋯⋯だからなんだ?
アガルタさん、この邪神を現実世界に連れていけと?
連れていって何があるの?
〘それ 本体だから
現実に 持ち込めば
起死回生の一手があるかもしれないよ〙
私はその言葉の意図を理解した。
確かに、こんな夢の中に本体はずっと隠れていたんだ。
現実世界には複製体ばかり。
それなら隠れている本体を現実世界に引きずり出してやろう。
それだけでも糸口が見つかるかもしれない。
「誰か⋯⋯誰か起こして!誰か!起こして!
私を蘇生して!生き返らせて!」
私は今にも尽きそうな体で一生懸命に叫んだ。
現実世界に戻りたくても自力で ”蘇生前” の停留所に行ける状態では無い。
体はボロボロ、とても動けそうにはない。
『お⋯⋯おぬし!なにをやっている!
この剣を離せ!ぬあぁああぁ!なんだこの剣!
抜けぬぅぅぅううう!』
すると現実世界の私にささやかな奇跡が起きた。
「おい!エヴァンさん!伽耶ちゃんが何か言っている!」
「は?寝言か?状況が状況だから
聞いておきたいだけど鵺さん聞ける!?」
「任せてくれ!」
「わ⋯⋯し⋯⋯を起⋯⋯て⋯⋯
わ⋯⋯た⋯⋯を⋯⋯生⋯⋯て⋯⋯」
「なんて言ってる!
駄目だ!途切れ途切れで聞こえない!」
するとどこからかエヴァンさんの耳にそよ風のような声が届く。
〘そのまま伽耶ちゃんの手
離さないで聞いて
伽耶ちゃんを起こしてあげて〙
「うぉぉお!なんだ!誰の声だ!」
エヴァンさんが左右を確認するも、目の前に鵺さんがいるだけだ。
〘お願い 伽耶ちゃんを 起こして〙
「綺麗な声だな!
誰かは分からないけど
伽耶ちゃん起こせばいいんだな!
伽耶ちゃん!起きてくれ!
おい!起きろ!」
エヴァンさんが必死に起こすも私は起きるわけも無く。
するとそよ風のような声がエヴァンさんの鼓膜をくすぐった。
〘あなたの力を使って伽耶ちゃんを起こすの
その力は正しい形に戻す力
すなわち仮死状態の生物を
生きている形に戻す事もできる
でもあなたが "死ぬのが正しい" と願うと
伽耶ちゃんは死んでしまうから
そこだけ気をつけて〙
「あ、ああ⋯⋯分かった
つまり俺の力って何が正しいかの基準を
俺が決められるって事かよ⋯⋯」
〘でも確定した未来は変えられないからね〙
「確定した未来ねぇ⋯⋯
死ぬって決まっていたら死ぬしか無いのか
綺麗な声して酷な事言うねぇ
分かった!
ようはいくつかの "死ぬ以外" の未来がある場合、
それを選ぶ事ができるって事だな
OK!No problem!」
エヴァンさんは私を見つめながら光線を放った。
「アナムネーシス!起きるんだ!伽耶ちゃん!戻ってこい!」
アナムネーシスの光線を全身に受け、私の体は覚醒の兆しを見せ始めた。
本来なら、困難を極めたであろう狭間からの帰還。
アガルタさんやエヴァンさんの力を借りて、私は目覚め始める。
◇◇◇
私は狭間から帰還して、屋敷の中で目覚める。
狭間から戻った途端、私の体は黒い液体にまみれて片目は無くなり、肉片が飛び散った状態へと変貌した。
「か⋯⋯伽耶ちゃん!これは!一体どうして!
伽耶ちゃん!生きてるのか!」
鵺さんが涙を浮かべている。
「伽耶ちゃん!何があった!
おい!誰か!お湯と針と糸!
包帯と傷薬、代用品でもいいから
探して持ってきてほしい!」
エヴァンさんが慌てていながらも助けてくれようと行動してくれている。
しかし、少しだけ遅れてあいつが私に抱えられて現れた。
「こ⋯⋯この姿!まさか神さまか!」
そうです、鵺さん。
「伽耶ちゃん!そいつなんだな!
そいつが邪神の本体なんだな!」
そうです、エヴァンさん。
『な、なんだ!ここは!
突然場所が変わったが⋯⋯
まさか⋯⋯この場所は⋯⋯
イナンナの作った書庫か!
吾輩を狭間に戻せぇぇぇええええ!』
「ねぇ、邪神さま⋯⋯
あなた、随分と狭間にこだわりますよね」
『ああ!居心地がいいだけだ!』
「違いますよ
あなたは、恐らく、狭間にいれば
名前を言われても大丈夫なんだよ」
『違うぞ!そんなくだらん理由で狭間にいる訳がなかろう!』
「そう?
じゃあ、今さ、あなたの名前、言ってもいいよね?」
『やめろっ!言うな!
吾輩の本当の名は別にある!』
「そうだとしても
試して言ってみても問題ないよね」
『吾輩の!名前を!言うなぁぁぁああああ!』
邪神の小さな本体が賢明に放つ触手は、長いトゲのような形状になり、私の体全体を串刺しにする。
「伽耶ちゃん!」
「お姉ちゃぁああん!」
どんなに傷つけられても、この手を話すわけが無いでしょう。
もう、あなたは詰んでるの、邪神さま。
「やめろ!やめろぉぉおお!」
更に激しくトゲを私に向けて刺してくるけど、そんな事はもう気にしない。
私は邪神に頬を付けて囁いた。
「⋯⋯テスカトリポカ」
『ぎぃぃぃぃぃいいにゃぁぁぁああああ!』
テスカトリポカが突然捻れたかと思うとウニのような形からミニトマトほどの塊になり、真ん中にはつぶらな目がある。
さっきまでの禍々しいオーラはどこへやら。
すっかりと脅威的な存在感は無くなり道端のU字溝にいたら気が付かないほどちっぽけな存在になった。
「ほら、ね?効いた」
『よくも吾輩の名を呼びおったなぁぁ!』
ちっぽけなテスカトリポカが激昂している。
『ぐちゃぐちゃにしてやる!
人間ども!死ねぇぇ!』
今まで書庫の壁から飛び出ていた触手が全て奥へ消えていったかと思うと、私を囲むように大量の触手が突き出てきた。
書庫の天井に届くくらいまで伸びた触手は一気に私目掛けて落ちてくる。
その時、私の横から落ち着いた物腰でアガルタさんの手が生えてきたと思うと、アガルタさんは私の首にかけてあるアガメムノンの血に手をかけた。
アガメムノンの血を私の残っている目にあてて血をレンズのようにして、テスカトリポカが見える状態となる。
テスカトリポカが赤く見える。
『これでおしまいだぁぁぁああ!』
数多の触手が迫る中、私は一言だけ紡いだ。
「イピゲネイア⋯⋯」
パリィィィイイイン!
ガラスの割れるような音と何かを弾いたような音が聞こえたところ、テスカトリポカの動きが停止した。
テスカトリポカの本体も、テスカトリポカの複製体だった巨大な触手も全てが停止している。
書庫に突然の静寂が訪れるとテスカトリポカの本体や触手が静かに飛散し始めると、テスカトリポカは目を痙攣させながら鵺さんを見つける。
『お 前は⋯⋯ヌ エ⋯⋯
まさ⋯⋯か⋯⋯生き て⋯⋯』
その発言を最後にテスカトリポカは消滅した。
「やったか!?やったな!」
鵺さんが座して状況を確認する。
30秒ほど経過した時、この静かで荒れた書庫に歓声が響き渡る。
「やったぞ!邪神が死んだぁぁああ!」
「やったぁぁぁああああ!」
「ついに死んだぞぉぉおお!」
「みんな!外!外を見て!」
屋敷の正面玄関横にある窓から、世界の変貌が見え始める。
その時、アガルタさんが正面の扉を開ける。
3003年行きの扉だ。
扉から見える世界は、私の望んだ世界そのものだった。
黒と橙に染まっていた空は徐々に青空を取り戻し、辺りを歩いていたソナリスは悲鳴を上げながらも徐々に人へと変異⋯⋯いや、人へと戻っていく。
空を覆っていたテスカトリポカの目玉や多くの触手は少しずつ散り消えていく。
そして、地面に生えていた極彩色の花”禍津花”は消えていき、普通の当たり前の地面へ戻った。
しかし禍津花は人の遺体と入れ替わっていた奇妙な植物。
その為、最近の遺体や火葬をしていない遺体は、禍津花と入れ替わりでこの世に戻ってくる事となる。
その様子を見ながらエヴァンさんが目に涙を浮かべ発言する。
「鵺さん、少しだけ伽耶ちゃんを
お願いできますか?」
「ああ、伽耶ちゃんは任せて」
「すみません、沙羅が、妻が⋯⋯
もしかしたら還ってきているかもしれないので
行ってきます
伽耶ちゃん、大変な時にごめん!」
エヴァンさんは走って地下施設へ向かった。
「伽耶ちゃん、やったな、さすがだよ
頑張ったね、良くやった!」
「ううん、みんなのおかげ⋯⋯」
私は体に感覚が無く、これ以上生きながらえる事は難しいだろうと、半ば諦めていた。
すると書庫を修復しているアガルタさんが私の前に手を掲げると淡く青白い光を放つ。
「ああぁぁあぁあああ!」
私は今まで片目や肉片が飛び散り、瀕死の状態にあったというのにアガルタさんの治療で急激に元気になると一気に立ち上がる。
「アガルタさぁぁぁあん!
いつもごめんなさい!いつもありがとう!
助けてもらってばかりで感謝しかないです!」
アガルタさんの手に抱きつくとアガルタさんが照れているようなジェスチャーをしながら、まるでお疲れ様とでも伝えているかのように頭を撫で始めた。
「伽耶ちゃん、良かった、元気になったね」
「はい!回復してもらったら元気になりました!
目も無かったのに再生してる!凄い!」
「良かった良かった!
いつもの調子取り戻したね!」
「うん!」
私は元気な体で屈伸をすると外の様子を見る為に正面玄関に向かう。
「鵺さん、私ちょっとだけ外見てきます!
あ、3003年の外だから
鵺さんは来たら駄目ですよ!」
「あははは、分かったよ、
僕はここから見ているよ
それだけで十分さ
ほら、女の子たちも
みんなでここから外を見よう」
14人の女の子たち⋯⋯いや、14人のヴァルキュリアたちが正面玄関前で青空のカラフルな世界を眺めていた。
私は正面玄関に向かい、扉から出ようとするとアガルタさんの手が私を引き止める。
「え?アガルタさん、どうしたの?」
アガルタさんが手をパタパタ横に振るジェスチャーをする。
「んん?何かお願いでも有りました?」
14人のヴァルキュリアの中のラズちゃんがアガルタさんの通訳をしてくれた。
「おねえちゃんは外に出れないって」
「え!なんで!私出れないの?
鵺さんなら分かるけど、
私、この年代の人間だから大丈夫だよ!」
「んとね、アガルタさんがね
この屋敷に入れるのは
魂だけなんだって説明してる」
「魂⋯⋯あ、なーんとなく
そうじゃないかな?っては思ったよ
私、寿命見れるようになったじゃん?
私の頭の上の数字0:00:00だったし⋯⋯
でも体はあるから戻れるんじゃないの?」
「この屋敷にいる時、現実世界での
時間経過は無いのね
だからこの屋敷に入って
10年過ごしても100年過ごしても
屋敷から出た時には
屋敷に入った時の時間帯の肉体に
戻れるらしいの」
「うんうん、つまり屋敷に入っている間
体は置いてきているけど時間経過が無いから
特に問題ないんだね」
「うん、だから鵺のおっちゃんも
足が無くなったはずなのに
足があるでしょ?
それは魂だから本来の正しい姿で
いられるんだって」
「確かに!最初思ったもん!
鵺さんなんで足あるのー!って⋯⋯
え、でもそれならなんで私は外に出られないの?
別に私の体、何も問題ないよね?」
「うん、伽耶ちゃんの体は問題ないよ
でもね、さっき伽耶ちゃん
頑張って戦ってたでしょ
タコまじんと」
「うん」
「凄い傷ついていたじゃん?
この屋敷や狭間で傷つくのは
魂がすり減っているって事なのね
だからさっき凄い傷をうけた
伽耶ちゃんの魂は肉体とのリンク
切れちゃったんだって」
「えええええぇぇぇええ!
なに?じゃあ、私、この扉から出たら⋯⋯」
「元気な魂なら問題ないけど
今みたいによわよわ魂だと多分消えちゃう
それか幽霊?」
「ちょ⋯⋯
ショックなんだけどぉぉぉぉおおおお!」
「アガルタさんがね、どんまいって言ってる」
「軽いよ!アガルタさん!」
「魂だとその見た目のまんまだから
いい年齢で死んだねって言ってる」
「喜べないよ!アガルタさん!」
「見てよ、伽耶ちゃん、おっさんなんか
一生おっさんなんだぜ?」
「あ、うん、え?
鵺さんはまだ生きてるじゃん!
自分の時代に帰れるんだから!」
「いや、おっさんも、もう帰れないってさ
笑っちゃうよね」
「なんでぇぇぇええ!」
「いやぁ、この屋敷に居すぎちゃってさ
肉体とのリンク切れちゃった、てへっ!」
「軽い⋯⋯軽いよ⋯⋯みんな⋯⋯
命ってさ⋯⋯もっと重いんだよ
そもそも時間の経過無いのになんでリンク切れるのよ
とほほ」
「まあまあ、同じ魂同士
楽しもうじゃないか!」
「はぁ、すぐに気持ちを切り替えて⋯⋯
とはいかないけど
幽霊として覚悟きめて楽しんでいきますか
はぁぁぁああ、正常になった世界を
旅したりしてみたかったなぁぁぁああ」
「僕達の肉体はアガルタさんが
虚無の空間に保存してくれているんだ
もしかしたらいつか肉体に戻る方法が
見つかるかもしれないから
そういう部分も含めて頑張ろう」
「え!ほんとに!
ねえ、もうさ、アガルタさんって
命の恩人だし、先生だし、
もうなんて呼べばいいのか」
「アガルタ神でいいんじゃないか?」
「いや、アガルタさん、女神だから
そのまんまじゃん」
「ええぇぇぇえええ!
アガルタさん女神さまなのぉぉおお!
おじさん初耳だけど!」
「そうだよ、フレイヤ様も神さまだけど
アガルタさんはイナンナっていう神さま」
「し⋯⋯知らなかった⋯⋯
おじさん、びっくし」
するとラズちゃんが代弁してくれた。
「いつも通り
アガルタさんとかアガルタでいいって」
「そっか⋯⋯これからも宜しくです!
アガルタさん!いつもお世話になります!
もちろん女の子たちもみんな宜しく!
私のかわいい妹たち!んー!かわいい!」
長い道のりだったけど、きっと世界は正常になった。
今までが異常な世界だったのだから、やっと第一歩を踏み出したようなものだ。
私はもう人間では無いから世界の為に何かをする⋯⋯ような事は中々難しいんだと思う。
それでもこれからの世界を見守って、困っている人がいればアガルタさんやみんなで助けられればなと思っている。
特に料理!
これからは料理に拘る!
もっとたくさんの料理を作って私のかわいい妹たちにたくさん食べてもらうんだから!
ついでに鵺さんにもね!
私は、生まれた時の灰色の世界が自分の世界だった。
それが全てでそれ以上もそれ以下も無い。
そんな時代を知っているからこそ、今のカラフルな世界が本当に大好き。
私、斑鳩伽耶の世界はちっぽけだったけど、今の私の世界はとっても色鮮やかだ!
ここまで読んで頂きありがとうございました。
今回で本編自体は終了となります。
次のお話で本当の最終話となります。
※本編では語られることのなかった出来事を綴っております。




