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第18章 避難作戦 ~伽耶の記憶~

ー3003年ー 深淵の屋敷 書庫上空


 真っ逆さまに落ちるエヴァンさんと私。

永遠かと思うほどの高さから落下する。

大体20~30メートルはある高さだ。

初めて屋敷に入った時と同じような位置から落下する。

以前は本が山のように積まれており、本の上にバサン!と落下して助かったが、みんなで少しずつ本を片付けていた事もあり、今は書庫中央に本の山が無い。

つまり落ちる時はバサン!では無く、 "ドン!" か "グチャ!" だろう。

笑えない。

目玉タコと戦う前に落下死なんて死んでも死にきれない。

落下する私とエヴァンさんは床に叩きつけられる衝撃を避ける為、咄嗟に目から光線を出す構えを取る。


しかし、床に叩きつけられる前にアガルタさんの手が伸びてきて、私とエヴァンさんを受け止めてくれた。

アガルタさんの手は空中からゆっくりと床へ近づき私たちを安全に降ろしてくれた。


「アガルタさん!ありがとうございます!」


アガルタさんが定番のサムズアップをする。

アガルタさんのサムズアップを見ると家に帰ってきた実感が湧いて心と胸がほっこりする。


すると14人の女の子たちが駆け寄ってくる。

鵺さんは後ろから飲み物を片手にゆっくりと近づいてきた。


「お姉ちゃんおかえりー!」

「お姉ちゃんお外大丈夫だった?」

「わぁ!かっこいい外国人さんだ!」

「お姉ちゃん、ちゃんと戦えたー?」


こういう時、全員の声を逃さず全て聞き取る能力がほしいと思ってしまう。

鵺さんは女の子たちの後ろで静かにこちらを見つめている。


「伽耶ちゃん、おかえりなさい」

「ただいまです!

 みんなぁ!良かったよぉぉぉお!

 無事みたいで安心したよぉぉぉお!

 私が外に出た時、

 屋敷が崩れていくような感じで消えたから

 みんな無事なのかどうか不安だったのぉ!」

「大丈夫だよー!」

「みんなげんきー!」


「ああ、大丈夫だよ

 あの時はアガルタさんも焦っていてね

 あの邪神が罠張っていて

 異世界から来た人間は強制的に

 3003年に送られるように

 なっていたみたいでさ

 ラズちゃんが急に大声だすんだよ

 鵺っち!やられた!

 って、アガルタさんが言ってる!ってね」

「相変わらずの素敵な通訳、痛み入ります」

「それで、3003年に捕らわれて

 他の年代と繋げなくなりそうだったから

 アガルタさんが緊急脱出をしたらしい」

「あ、それであの消え方?なるほど

 本当に焦りました⋯⋯」


「伽耶っち、アガルタさんが

 驚かせて悪かったって言ってる

 あと、何度か声を出せないか

 試したらしいけど駄目だったって

 理由はなんとなく分かるでしょ?

 って言ってるよ」


理由はなんとなく分かる。

アガルタさんの過去の記憶にあったヘファイストスとの一件で、口を縫われていた。

さっき見た結晶化のアガルタさんも口は縫われたままだったから、恐らくその状態が原因なんだと思った。


「ラズちゃん、通訳ありがとね!」

「えっへん!」


ラズちゃんが腰に手をあてて胸を張り、誇らしげにしている。


「それとみんな!紹介が遅れたけど

 こちらエヴァンさんです!

 私と同じようにアガルタさんの書庫で

 本を読んで力を得たアメリカ出身の

 お兄さんです!」

「お兄ちゃんも力もってるのー?」

「伽耶ちゃんと同じ力ー?

 過去に行ったりできるのー?」

「こんなに賑やかだと思わなかったな!

 初めまして!

 エヴァン・ヘロンって言います!

 怪物になった人を

 人間に戻す力を持っています!」

「⋯⋯な、なんだってー!」


鵺さんが人一倍大きな声で驚愕している。


「凄くないか?治しまくりじゃないか!」

「私と同じような反応してる」

「でも力に制約があって

 一度使うと半日は寝ますね

 でも!伽耶ちゃんと手を繋いでいると

 何度でも使えるんです!」

「え、なんで伽耶ちゃんと手繋いでいると

 何度でも使えるの?恋?恋なの?

 おじさん妬いちゃうんだけど?」

「鵺さん!

 おそらく私の力の影響だから!

 変な想像やめてください!」

「そうなのか⋯⋯」


「あ、エヴァンさん、

 こちらの方が鵺さん

 私の結構前の先祖にあたる方です」

「ええええ!伽耶ちゃんの先祖!」

「あとこちらの女の子たちが

 私の天使さんたちです!

 天使さん!しゃらららら~!」


女の子たちはくるっと回転したあと、スカートの裾をつまみカーテシーを披露した。


「これはご丁寧にありがとう!

 素敵なお嬢さん方だね」

「まあ、ちょっと色々と

 事情がある人たちなんだけど

 その辺りの事情はどこかで説明します

 先に大事な話があるので」

「そうだね、そっちの話を先にしよう」


私とエヴァンさんは今起きている事、今後の計画をみんなに伝えた。


「つまり、神さまを倒す手段が見つかったのかい!?

 それが分かっただけでも凄いよ!

 大きな進展だ!

 これは大きな一歩だぞ」

「色んな人の協力と犠牲があって

 得られたんだけどね⋯⋯」

「犠牲?」


エヴァンさんと共に、一瞬の無言が訪れるも、すぐに私が口を開く。


「えっと、本題だけ話しますね

 あの目玉のタコ、邪神を倒す手段は見つかりました

 アガルタさんのおかげです

 でも目玉タコがいる狭間に行く手段が

 見つかっていません

 ただ、行く手段を知っている人が

 いるかもしれないと

 ナシアから私に向けてのメッセージを

 見つけました」

「え?ナシアから?伽耶ちゃんに?

 え?なんでナシアが

 伽耶ちゃんの事を知っているの?」

「ナシアの前で目玉タコが何度か

 私の名前を出したらしいんです」

「それで伽耶ちゃん宛の手紙⋯⋯

 ふむ⋯⋯あのナシアが⋯⋯

 変わったんだね⋯⋯あのナシアが⋯⋯」


「まあ、変わったというか

 負けず嫌いというか⋯⋯ははは⋯⋯

 それで、人間の集落に

 狭間への行き方を知っている

 おじいさんがいたらしいけど⋯⋯

 何しろ随分と前の事なので、

 おじいさんは既に亡くなられていると

 思われますので、子孫とかに

 期待するしかないんです

 だから集落の人の話を聞いてみたいから

 みんなをこの屋敷に避難させてもいいですか?」


カラ~ン


「なんだ!この鈴の音は!」


エヴァンさんが過剰に反応するので冷静に説明をする。


「これはアガルタさんの返答です

 YESは鈴の音を1回、NOは2回

 緊急事態は3回です」

「Ohー!分かりやすいな!

 おばけかと思ったよ!HAHAHA!」


エヴァンさん⋯⋯おばけに弱いな。


「ん?というかどうやってここまで

 みんなを案内すればいいだろ?

 アガルタさん、3003年って

 余り滞在したくないんだよね?」


少し間を置いてラズちゃんが通訳する。


「短い時間なら大丈夫だって」

「そっか⋯⋯ねえ、アガルタさんさ

 私たちが崖から落ちている時に

 空中に扉出して私たちの事を

 回収してくれましたよね?

 という事は人間たちの集落のほうにも

 扉とか出せるの?」


ラズちゃんが書庫の天井の方を無言で見てすぐに私を見る。


「出せるって言ってる

 なんか前は駄目だったんだって

 人間の集落の明確な座標が

 把握できなかったらしいよ

 だけど何故か今は大丈夫って言ってる」


それ⋯⋯多分ナシアの認識阻害の影響です⋯⋯はい⋯⋯。


「それじゃ、アガルタさん

 人間の集落に扉を繋げてください!

 お願いします!」


カラ~ン

窓から見える景色が変わる。

まさに私がいた破壊された地下施設(セクターアーク)だ。

しかし、地下施設には多くのソナリスが徘徊していて、ところどころに禍津花が増えている。

犠牲者が出てしまったのか。

私が来なければこうはならなかった。

この事態は私の罪だ。

今後償っていかなければならない。

だけど今はみんなを避難させる事に集中しなければいけない。


この地下施設は邪神によって破壊され認識阻害もまったく効果が無くなってしまった。

人間たちの隠れ家を発見した邪神は私とエヴァンさんがいなくなった後、暴走したソナリスに地下施設を襲わせたのだろう。


「ちょっと行ってきます!」

「伽耶ちゃん!俺も行くよ!」


私はエヴァンさんと手を繋ぎながら、扉を静かに開けるとエヴァンさんの目から光線が放たれ、多くのソナリスを撃ち抜いた。


「アナムネーシス!アナムネーシス!」


エヴァンさんは光線を撃ち続けと、光線に貫かれたソナリスはまたたく間に人間の姿へと戻り凶暴性を失い大人しくなった。

人間に戻った人達は体の急激な変異で痛みに悶え苦しみ、人間になった後も状況が良く分からず困惑しているようだ。

特に、ソナリスは今までは音で視覚を得ていたのだ。

それが突然、目で見る事ができるようになる。

この急な変化に体よりも心に強いインパクトを与えるはずだ。

ソナリスから人間に戻った人は、皆 無言で風景を見ている事が多い。

目から脳に繊細な情報を送るのだ、身動きひとつ取れずに景色を眺めてしまうのも無理は無いと思う。


暫くして周辺からソナリスがいなくなった。

特に目に見える脅威が無い事を確認すると、素早く地下施設(セクターアーク)の無事な扉をノックして安否を確認して回る。


「村長いませんか!伽耶です!」

「あ、ここにはいません!

 それよりも一体どうなってるんですか!

 わたしたち大丈夫なんですか?」


住民からは不安や恐れを感じ取れる。


「大丈夫です!今から避難したいので

 許可をもらう為に村長を探しています!

 少し待っていてください!」


次の扉をノックすると、待望の村長が顔を出す。


「おおお!斑鳩さん!無事でしたか!

 良かった!安心しました!」

「村長さん!すぐ見つかって良かった!

 あの、私たちがきたから

 セクターアークがこんな事になってしまいました

 本当にすみませんでした!」

「おっふぉふぉふぉ、

 斑鳩さんは律儀じゃのぉ

 いいんじゃよ

 遅かれ早かれこうなっておった」

「それは⋯⋯分からないじゃないですか」

「いや、どちらにしても

 認識阻害に寿命が来ておったからな

 ここが襲われたのも、少し早まっただけじゃ

 斑鳩さんが気にする事なんて

 何一つありゃせんわい

 おっふぉふぉ」

「⋯⋯本当にすみません⋯⋯」

「もう謝らなくて平気じゃからの」


「はい⋯⋯

 あ、村長さん!

 この世界は以前より危ない状態です!

 一旦避難したいんですけど

 みんな連れてこの地下施設を

 出る事はできませんか?」

「出る事はできるのじゃが

 一体ここからどこに避難するんじゃ?

 住民の中には老人もおるから

 遠い場所だと中々厳しくてのぉ」

「そこは大丈夫です!

 あそこに扉開いているの見えますか?

 その扉が避難場所です!」

「なんじゃ、あの扉⋯⋯

 あそこにあんな扉無かったぞ⋯⋯!」

「説明はあとでしますから

 一旦急いでみんなを避難させたいです!」


「むむむ⋯⋯まあ、斑鳩さんからの

 申し出じゃから迷う必要など無いな⋯⋯

 分かった、みんなであの扉に

 避難させてもらいますじゃ!

 おーい!金太!(あかり)(みなと)(いつき)月乃(つきの)

 ちと手を貸してくれ」

「どうした!じいちゃん!」

「おまえたち、これから斑鳩さんの提案で

 避難する事になった」

「いかるがさん?あっ!お姉ちゃん!」

「聞くんじゃ!時間が無い!

 これからあの扉に移動する

 皆が避難している部屋に呼びにいって

 みんなをあの扉に誘導するんじゃ

 わしも行くから手分けしていくぞい!」

「分かったじいちゃん!」


崖で案内してくれた子供たちが大急ぎで駆け回りそれぞれの部屋に避難を促している。

続々と人が集まり、住民はアガルタさんの扉の中へと入っていく。

しかし、しつこい目玉がまた私たちの存在を察知して襲いかかってきた。


『おまえらぁぁああ!

 どこに行ったかと思えばそこにいたのか!』


まだ住民たちが逃げ切れていない。

邪神は容赦無く触手を伸ばし、施設内の人間を潰すかの如き速度で触手を叩きつけてきた。

このままではみんなが潰れてしまう。


私は急いで裏世界に移動して、邪神の触手が落ちてきたところを見計らい、裏世界に引きずり込む。

邪神の触手はまるでプリンをスプーンですくうかのように削り取られた。


『にぎゃぁぁぁああああ!

 また裏世界か!』


そう、私は沙羅さんの力、裏世界を見て、裏世界に渡れる力を沙羅さんから受け継いだ。

そして沙羅さんはこの場所で亡くなった。

沙羅さんがいた場所には一輪の禍津花が咲いている。

だから、裏世界に来ると否が応でも否が応でも沙羅さんの遺体が見えてしまう。


沙羅さんは裏世界で目を開けた状態で倒れていたので、私は沙羅さんの瞼を、そっと指で閉じた。

沙羅さん、落ち着いたらまた来るからね。


『この!この!吾輩の触手は

 おまえらのビームくらい防げるんだぞ!』

「でも神さま、裏世界からの攻撃は

 防げないんですね?」

『裏世界は別だっ!ずるいぞ!

 ずるい!ずるい!吾輩は悔しい!

 人間如きにこんなひどい事されるとは!

 そもそもおまえら!

 どこでそんな力を手に入れたんだ!』


と、邪神は話をして気を紛らわせようとしているのだろう。

でも細心の注意を払って気配を感じ取った。

私は勢いよく前転する。


『なっ!』

「あら?どうしたの、神さま?」

『ぬぐぐぐぐぐぐ!』

「沙羅さんにも不意打ちして

 卑怯な手でたまたま沙羅さんに

 勝ってましたよね?」

『許さんぞ!ゆるさーん!

 吾輩を侮辱しおってぇぇぇええ!』


「私⋯⋯いえ、わたくしのほうが

 あなたの事を許しませんわ

 沙羅さんに代わってわたくしが

 あなたを痛めつけてみせますわよ」

『ぬがぁぁぁ!あの女の真似しおって!

 苛立つ苛立つ苛立つ苛立つ!』


そうこうしている内に周りにいた住民は

ほとんど避難を終えていたが、エヴァンさんから提案を貰う。


「伽耶ちゃん!

 この、元ソナリスの人達も連れていくぞ!」

「あっ!どうしよう⋯⋯想定外だから⋯⋯

 でも、連れて行かない訳にはいきませんよね

 今この場でいる元ソナリスの方だけでも

 保護しましょう!」

「そうこなくっちゃ!」


エヴァンさんと住民の中で力自慢の人たちが元ソナリスの人たちを抱えてアガルタさんの屋敷に避難を行った。

しかし、私たちの救出活動が邪神にまじまじと見られてしまう。


『なるほど⋯⋯やっとだ⋯⋯

 やっと見つけたぞ

 そこにいたのか⋯⋯イナンナ

 おかしいと思っていたのだ!

 破滅の箱は吾輩の元にあるというのに

 破滅の箱は時におかしな挙動を起こす!

 呪いの力というだけでは説明のつかない事が

 起きていたから、必ずお前の意思があると

 信じていたぞ!イナンナ!

 ナシアの腕を奪った時に

 生物のサーチ能力も奪い

 吾輩の顕現計画を遅延させたのも

 お前の意思だろう!

 じゃはっ!じゃーっは!やっと見つけたぞぉ!』

「残念でした、ナシアの腕を奪ったのも

 サーチ能力奪ったのも、

 あなたにとって不幸な事は全部

 私が計画してやった事よ」


本当は違うけど邪神が悔しがるならなんとでも言ってやる。


『なななな!斑鳩伽耶ぁぁぁああ!

 全部お前のせいだと?

 やはりお前は邪魔な虫けらだぁぁ!

 吾輩の洗脳は効かない!

 脳内の声は聞こえない!

 吾輩の攻撃も効かない!

 可愛くない!可愛くない!可愛くない!』


すると控えめな声でエヴァンさんが私に声をかける。


「伽耶ちゃん!

 この場にいる人は多分全員救出した」


私は付近にサーチを発動すると、人間の姿が無い事を確認した。


「エヴァンさん!みなさん!

 ありがとうございます!

 はい!今サーチかけてみましたけど

 確かにみんな救出できています!」


エヴァンさんと会話していると激昂した邪神が怒りに任せて触手を振り下ろしてきた。

その触手を確認した私は、アガルタさんの扉に入りその場を後にした。


『ぬがぁぁぁぁ!どこだぁ!

 虫けらぁぁぁああ!逃げるな!

 出てこい虫けら!

 お前は吾輩が永遠に拷問してやる!

 イナンナ!お前は必ず

 核を捕まえてやるからな!

 隠れても無駄だ!絶対だ!

 絶対に見つけ出してやる!』


アガルタさんの屋敷の中にまで邪神の声が反響してくる。


「みんなただいま!」

「おかえり、伽耶ちゃん、お疲れ様!」

「いやはや、あの目玉にはまいったね

 あれでも神って名乗れるんだから

 気楽なものだよな」

「エヴァンさん、残念ながら

 邪神も死神も神ですからね」

「嫌な世の中だよねぇ」

「あ、鵺さん、アガルタさん

 地下施設(セクターアーク)にいた人たちは全員保護しました」

「おお!伽耶ちゃんエヴァンさん

 お疲れさまでした!お見事!」


アガルタさんは拍手をしている。

しかしアガルタさんの手を初めて見た地下施設(セクターアーク)の住民たちは悲鳴を上げ始める。


「きゃぁぁぁああ!」

「うわぁぁ!なんだ!あの手!」

「化け物ぉぉおお!」


アガルタさんが両手の人差し指を突っ付き合い、あからさまに悲しそうなジェスチャーをしていた。


「まってみんな!

 あの手はアガルタさんって名前で

 この屋敷のオーナーなの!

 凄く優しくていつも助けてくれる

 私の家族みたいな人なの!

 だから怖がらないであげてください!」


新しく屋敷にきた人々がざわつく。

すると金太くんが声を張り上げる。


「なぁ、なんでみんな怖がってるんだ?

 だってさ、何もされてないじゃん

 この手が怖いの?

 干からびてるし壁から手が出てるし⋯⋯

 でもさ、それって

 見た目で判断してるじゃん

 ぼくたちの事を受け入れてくれたのに

 ちょっと失礼じゃないかなって思う」


さっきまでの住民たちのざわつきが嘘のように静まり返ってきた。

そこで村長が白いヒゲを撫でながら、どこにあるか分からない口を開く。


「そうじゃの、金太の言う通りじゃ

 何を怖がる事があるのか

 アガルタさん、気を悪くしないでくだされ

 怖がってしまい申し訳ない

 人は未知の存在に出会った時、

 怖がってしまうものなんですじゃ

 みんな新しい環境に

 警戒しているだけなんじゃ

 どうか許してあげてくださらぬか

 ほれ!みんなも謝罪せい!」


地下施設の住民たちはまばらに謝罪を始めるとアガルタさんは両手を横に振って元気を取り戻したように感じた。

ここですかさず私が地下施設の住民に質問をおこなう。


「あの、みなさん、一点ご協力を

 お願いしたいです

 皆さんの中に ”狭間への渡り方”

 もしくは何かしら受け継いできたような

 家系の方、いらっしゃいませんか?」


暫くざわつく声の中、1人の男性がだるそうな顔で挙手をしている。


「うちに代々伝わる小刀ならあるっす」

「小刀⋯⋯ちょっと違うかも」

「あのぉ、ちといいっすか?

 狭間という事であればこの小刀かも

 しれないっす。」

「え?小刀が?何故ですか?

 ただの小刀にしか見えないですけど⋯⋯」

「この小刀の名は”狭間切斑鳩(はざまぎりいかるが)”なんす」

「ハザマギリイカルガ!

 私の苗字が入ってるじゃん!」


するとだるそうな男は小刀を持って近寄ってくる。


「あの、多分これあなたが

 持っておくべきっす」

「あ⋯⋯ありがとう⋯⋯

 いいんですか?代々伝わってきた

 ものなんですよね?

 そんなにすんなり渡して⋯⋯」

「大丈夫っす

 親父とかじいさんたちに

 ずっと言われてきたんす

 斑鳩伽耶という女性が現れる事があったら

 この小刀を渡せって⋯⋯

 だからその小刀がなんなのかも分かんねっす

 ⋯⋯正直重荷だったんす

 そんな重要な使命、自分には到底

 責任持って果たせる気がしなかったんで

 これを渡す事でやっと肩の荷が下りるっす」

「⋯⋯その⋯⋯なんだか面倒事に

 巻き込んでしまってすみません」

「いえ、大丈夫っす

 別にあなたが悪い訳でもないんすから

 たまたまうちの家系が

 この流れに関わっていただけなので

 むしろ厄介払いみたいな感じになって

 すんませんっす」

「ありがとう

 この小刀、確かに受け取りました」

「うっす」

「あの、ところであなたの名前は?」

花鶏花鹿(あとりかじか)っす」

「あとりさん、改めまして長い間

 小刀を大切に保管くださって

 ありがとうございました」

「いえ、むしろ丁寧にありがとっす

 ちなみに自分、花鶏って苗字っすけど

 うちのじいちゃんの旧姓は斑鳩っす」

「え!」

「もしかしたら同じ家系か親族かも

 しれねっすね、んじゃ失礼するっす」


花鶏さんは後ろを向き書庫の隅に移動し、座って寝始めた。

私は花鶏さんに深く一礼をした。


「ねぇ、鵺さん」

「ん?」

「なんか、血筋とか歴史が積み重なって

 紡がれていって、それを後世が受け取るって

 感慨深いものがあるね」

「そうだね、前の世代の想いとか

 深く考える必要は無いと思うけど

 多少は報われてほしいよな」

「はい、って目の前にご先祖さまがいるのに

 なんか変です!」

「変だよなぁ、子孫が目の前にいるのに⋯⋯

 1000年分のジェネレーションギャップ!」

「ふふふふ」

「ははははは」

「猫食べたがる宇宙人のドラマ知ってる?」

「知りませんよ~

 私の時代にテレビ無いんですから」

「話す車が相棒のドラマ見た?」

「だから、テレビが無いんですよ~、ふふふ」

「ジェネレーションギャップ凄いだろ~?あははは」

「はい、凄いですね、鵺さんの話

 なにも分からないですもん、あははは」


◇◇◇


「さて、それじゃ鵺さん

 この小刀、見てみますか!」

「うん、あ!エヴァンさん!

 一緒にこの小刀確認しましょう」

「まさかこんなあっさり見つかるとは⋯⋯

 すんなり行くと順調すぎて怖いな」

「うん、私ももう少し苦戦するか

 さいあく見つからないという状況になるのかな?

 って少し構えてたんだよね」

「さてさて、狭間切斑鳩(はざまぎりいかるが)ねぇ

 ふむ、こういう類いの物は

 まず鞘から抜いて刀身を確認する

 そこで特に違和感が無ければ

 柄の目釘を抜いて

 刀身に何か掘られていないか

 確認するのが王道だが⋯⋯」


すると隅にいた花鶏(あとり)さんが、ばつが悪そうな顔でゆっくりと戻ってきた。


「あのーー、すんませんっす

 小刀を渡すだけ渡して大事な事

 伝えてなかったっす」

「あ、何かありました?」


私たちは花鶏さんを見つめながら話を伺う。


「ちと小刀いいっすか?」


花鶏さんが小刀を持つと何やら細い棒で小刀の柄の一番下を3度ほど打ち付けると、中からビニールに入った小さな紙が入っていた。


「多分、これが皆さんに必要な物かもしれないっす

 んじゃ自分は失礼するっす」


花鶏さんが渡してくれた紙をゆっくり開くと、多くの文字が書かれていた。

そこには「伽耶さんへ」と書かれていて私宛ての手紙であることは明らかだった。

私と鵺さん、エヴァンさんの3人で手紙を読み進める。

読んで頂きありがとうございました。

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