第17章 アガメムノンの血 ~伽耶の記憶~
ー3003年ー 深淵の屋敷 核
「伽耶ちゃん!伽耶ちゃん!」
エヴァンさんの声が私の鼓膜を刺激し、私は重い体をゆっくりと起こす。
「うぅ⋯⋯頭も首もだるい
エヴァンさん、ただいまです
すみません⋯⋯
随分とお待たしました?」
「いや、まあ、多分半日くらいだよ」
「?」
エヴァンさんの顔が引きつっている。
「エヴァンさん、どうしたんですか?」
「いや、早速見る機会があったな⋯⋯と」
「?」
「首⋯⋯もげてたね」
「ああ!なるほど!」
朦朧としながら辺りを見渡すと結晶化したアガルタさんやエヴァンさんが部分的に血まみれになっている。
「伽耶ちゃん、毎回あんな感じに首が千切れてるの?」
「ははは、はい⋯⋯」
「しかも頭が飛んでいった後
伽耶ちゃんの首の切断面?
そこからミイラの手が出てきて
伽耶ちゃんの頭を拾いにいったんだけど
その手ってさ、このクリスタルの
アガルタさんだっけ?
彼女の手だよね?」
「あ!そうそう!
ちゃんと紹介していなかったですね!
アガルタさんはおばけじゃなくて
この屋敷に招かれた人を
手助けしてくれている素敵な女性です
この屋敷のオーナーみたいな方ですね!」
「はっ!なるほど⋯⋯そのような
立派な方にも関わらず、
幼少期におばけ呼ばわりして失礼しました
アガルタさん!」
「⋯⋯いつもならここで
アガルタさんの手が
壁から出てきそうなものだけど、
何かあったのかな⋯⋯
この部屋では手が出せないのかな?」
「しかし、伽耶ちゃん⋯⋯」
「はい⋯⋯?」
「首グロいって!ちょっとトラウマだよ!」
「あははは⋯⋯私もグロいと思ってます」
「まあ、首が千切れない修行をいつかしよう⋯⋯
それで、あれって力を使ったんだよね?」
「はい!使いました!強制でしたが⋯⋯」
「何か分かったかい?」
「色々と分かりました
まずアガルタさんは
私たちの運命共同体で間違いありません」
「俺たちの運命共同体?
どういう意味合いで?」
「アガルタさん⋯⋯
本名はイナンナさんって名前らしいんですけど
邪神との因縁がありました」
「アガルタさんもか!
あの目玉タコ!
本当にろくでもない存在だな!」
「それでね、アガルタさんって
屋敷のオーナーって言ったでしょ?
そもそもあの屋敷が異空間なの」
「異空間ね」
「アガルタさんは破滅の箱という呪具の
素材にされてしまった女神様みたいなの」
「え!この女性、女神様なのかよ!
子どもの時、逃げ出したりして
失礼な事しちゃったよ」
「それで破滅の箱の作成依頼を出したのが⋯⋯」
「あの目玉野郎って事か⋯⋯」
「それとアガルタさんやアガルタさんの
ご家族を殺して箱の素材にしたのが
ヘファイストスっていう鍛冶師でね
邪神とヘファイストス、
この2人に対して並々ならぬ恨みがあるみたい」
「アガルタさんにも
そういう事情があるのか」
「あと、さっき女性の声が
聞こえてきたの覚えています?」
「あれ、びっくりしたよ!」
「あの声の方もフレイヤ様っていう女神様で
やっぱり邪神に⋯⋯」
「おいおい~あの目玉タコ⋯⋯
どんだけ暴れ回っているんだか」
「だから、目玉タコの事は
天界にとっても人間にとっても
重要な案件で早期に解決しなければ
ならない事件だと思ってる」
「伽耶ちゃん、俺も同じ気持ちだが
少し整理しないか?」
「あ、はい!」
「まず目玉を倒そう、これは共通認識
目玉の本体は狭間に隠れている
外にいる巨大な目玉は謂わばクローン
だから本体を探す為に狭間に行く必要がある
ただ、狭間に行く方法が分からない
ナシアによると人間の集落の老人が
狭間への渡り方を知っている
しかし、その老人の話が既に
何百年も前の話なので子孫を探すしかない
そして、狭間に渡って目玉を見つけても
倒し方の確証が無い
⋯⋯こんなところかな?」
「だと⋯⋯思います!」
「問題点は狭間への渡り方を
知っている人がいるのかどうか⋯⋯
それと、目玉を倒す方法、この2つか⋯⋯
結構、難易度高いな!」
「でもまずは色々と調査してみましょう!」
「やるしかないもんなー」
「その前に⋯⋯ここからどうやって
出ればいいのかしら?」
「まずそこが問題だ!」
「アガルタさん?フレイヤさん?
外に行きたいんですけど
ここから出る事ってできますか?」
呼びかけると結晶化したアガルタさんの丁度頭上付近にある肉の壁が青白く光り始める。
その壁をじっくりと観察すると、他の壁よりも盛り上がっている。
盛り上がった部分を暫く見つめていると、その盛り上がった部分は手がいくつも重なり合って何かを包みこんでいるかのような形をしていた。
たくさんの手に包みこまれた壁がまるで花が咲くように開くとそこにはアガルタさんの記憶で見たあの忌々しい血の呪具が入っていた。
「これ、アガルタさんたちを素材に変化させた呪具!」
すると今にも消えてしまいそうな声でフレイヤ様が話しかけてきた。
《イナンナを葬り去ったその呪具が希望の鍵
呪具の名はアガメムノンの血
血を通して対象を見つめ
”イピゲネイア” と唱えるのです
例え邪神であっても狭間でその呪文を
受ければひとたまりも無いでしょう
また、もう一つの使い方を伝えます
今度は呪具を見ずに
”アガメムノン”と唱えなさい
あなたを助ける一振りの剣となるでしょう
ただし後者については間違えても
呪具を見ながら唱えてはなりません》
「もしかして、イナンナさん一家を
素材に変えたあの呪具が目玉にも効く?
フレイヤ様!
助言をいただきありがとうございます!」
《我の助言はここまでだ
我はまもなく消える
世界と戦乙女たちをどうか頼んだぞ
それと、書庫の端にいる者は害は無い》
フレイヤ様の声は次第に音を消した。
「フレイヤ様!まだお聞きしたい事が!
フレイヤ様!」
フレイヤ様の声が全く聞こえなくなった後、アガルタさんの頭上にある呪具を手に取り紐に括り付けると首から下げた。
呪具を受け取ってすぐ、地面が渦を巻くように捻れ、穴が開き、私とエヴァンさんは下の空間へ落下した。
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