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第16章 アガルタの過去 ~イナンナの記憶~

ー悠久の古ー 天界


 彼女は今でこそ深淵の底にある屋敷「アガルタ」と呼ばれているが、生前はイナンナという名を持ち、愛と戦いの女神だった。

これはそんなアガルタ⋯⋯もといイナンナの記憶。


 ボクは行方が分からなくなっていた母のニンガルを探していた。

それこそ色々な噂を聞き、様々な場所を探していた。

ボクは天界、地上界、冥界、果てから底までくまなく探し回ったが母は見つからなかった。

ある時、冥界にいる姉のエレシュキガルを尋ねる。


ボクは普段天界を住まいとしているけど、家族の中に冥界の者がいた為、冥界への出入りも許されていた。

しかし、冥界の古城を訪れてもお姉ちゃんはいなかった。

お姉ちゃんのいない古城の部屋は荒れ果て、何者かに荒らされたような様変わりをしていた。

そこで一人の悪魔が声をかけてくる。


「もしかしてイナンナ様で?イナンナ様!」

「ナムタルか!お姉ちゃんはどこに行った?」

「ああ、イナンナ様、すみません、

 エレ様はどこに行ったのか

 まったく検討もつきません」

「検討もつかない?どういう事だ」

「エレ様が食事をされていた時です

 突如この部屋が逆になりまして⋯⋯」

「逆に?」


「はい、エレ様は右手にナイフ、

 左手にフォークを持たれています

 しかし気がついた時には左手にフォーク、

 右手にナイフを持たれていました

 すぐに違和感を感じまして、

 改めてエレ様を見ていると

 私の立ち位置も

 エレ様の右手に立っていたのですが

 いつの間にか左手に立っておりました

 そこで明らかな異常を感じ

 辺りを見回しましたところ

 部屋中の装飾品や内装が全て

 普段とは逆の位置に配置されておりまして⋯⋯」

「鏡写しの転移門か⋯⋯」

「鏡写しの転移門?とはなんでしょうか?」


「通常の転移門は天界から冥界、

 冥界から天界につなげる事はできない

 これは双方が侵略行為で奇襲をしない為の

 最低限の規則で絶対的なシステムになっている

 しかし、近年そのシステムを破る転移門が開発された

 それが鏡写しの転移門だ

 地上界にはそれぞれ

 天界と冥界との相反する座標がある

 そこで鏡写しの転移門を作動させると

 天界や冥界に転移門を

 繋げる事ができるんだよ」

「という事はエレ様はその転移に

 まきこまれてしまわれたと?」

「ああ、ただ、何故お前は転移していない

 あれに巻き込まれたら

 周りにいる者も全員転移するはずだ」


「私は、良くは分かりませんが

 エレ様がいなくなる直前

 私に向けてそちらにかけてあった

 鏡を投げつけられまして⋯⋯

 私はびっくりして目を瞑りました、

 逆鱗に触れる事でもおこなったのかと

 恐れておりましたが

 その後、エレ様が何もおっしゃらないので

 恐る恐る目を開けると

 エレ様が突然いなくなっておりました


 私はきっと自分が何か無礼を働いてしまい

 呆れたエレ様が部屋を

 出ていってしまったのかと思い

 館中を探し回り、数日間街中も探しており

 先程、館に戻ってまいりましたところ

 イナンナ様がいらっしゃった⋯⋯

 という状況でございます


 もしかして私が転移していない理由は

 そのエレ様が投げられた鏡⋯⋯

 それが関係していたりしないでしょうか」


「なるほど⋯⋯鏡写しの転移門は1つ弱点があってな

 転移が発動するまでの数秒の間に

 鏡で無くともはっきりと反射する物を

 手に取れば転移自体を反射できる」

「そうなのですか!

 つまり私はエレ様に守っていただけた

 という事ですね⋯⋯」

「そうなるな」

「主人を守る側の者が主人に助けられるなど

 従者失格でございます」

「そんな事はない、

 ナムタルはお姉ちゃんにとって

 守りたいほどの大事な存在だったんだろう」

「嬉しくもあり、情けなくもあります

 エレ様を一刻も早く探さなければ

 イナンナ様、これからどうされますか?」

「ボクはこれから再度天界に戻るよ

 ヘファイストスに会わないとね」


「ヘファイストス様ですか?

 あの高名な鍛冶師の方と

 何か関係があるのですか?」

「鏡写しの転移門を作ったのは

 ヘファイストスだ」

「なんと!」

「ああ、普通鏡写しの転移門は

 自分が移動する事も

 相手を移動させる事もできる

 秘密裏に転移門を使用した場合

 転移門の発動範囲の者は全て転移するから

 目撃者というものが残らず

 鏡写しの転移門が使用されたという

 認識や噂がたちにくい

 ただ、今回はナムタル、

 お前が目撃者として残ってくれていたから

 鏡写しの転移門が使用されていたという

 証言を得られた

 大手柄だぞ、ナムタルありがとう」


「いえ、私なぞエレ様のおかげで

 ここに残っただけです

 実際には何も分かっておらぬ阿呆な上、

 何もできておりません」

「そうでもないだろう、

 お前は何が起きたのかを分かる範囲で

 明確に教えてくれた、そこが重要なんだ」

「私如きにもったいないお言葉でございます」


「そう悲観的になるなよ、ナムタル

 本当に助かったんだから

 さっそくですまないが

 ボクは天界に戻るよ

 ネティに伝えてくれないか?

 天界に急いで戻りたいから

 最短の門を全て

 ボクが通れるようにしておいてほしいと」

「わかりました

 通行料のメ(装身具)は

 どうされましょうか?」

「今度、7つのメを2組持ってくるから

 今は見逃してくれないか交渉できないか?」

「イナンナ様ですので、問題ないかと、

 少々お待ちくださいませ」

「ああ、無理を言ってすまない」


◇◇◇


「⋯⋯⋯⋯イナンナ様

 ネティからご伝言です」

「ん?改まってなんだ?」

「7つのメは1組でいいとの事です」

「あーー、そういうの

 裏がありそうで怖いな」

「いえ、代わりに今度一緒に

 写真を撮らせてほしいとの事です」

「なるほど!そんな事でいいなら

 何枚でも撮ってくれ

 ありがとうと感謝の意を伝えてほしい」

「はい、もちろんです

 私はこのまま冥界でできる事を続けます

 もう門は全て開放されていると思いますので

 お気をつけていってらっしゃいませ」

「ああ、いってくるよ、色々とありがとう」


そこからボクは冥界の門番ネティが開放してくれた最短の門を神速で通り抜け天界に到着する。

さすが最短の門、あっという間に目的地に着いた。

目の前には天界の鍛冶師、ヘファイストスの部屋の扉が立ちふさがっている。


「ヘファイストス!」


ボクは勢い良く扉を開ける。

しかしヘファイストスの部屋には誰もいない。

部屋の奥まで確認したが鍛冶道具が乱雑に置かれており炉には轟々と唸る炎が満ちているだけで人の気配は無い。

ボクは振り返り炉の部屋を出ようとすると小さい声が聞こえてくる。


「イナンナ⋯⋯駄目だ⋯⋯

 そこから⋯⋯出るな⋯⋯」


この声はお姉ちゃんの声だ。

ボクは素早く見上げる。


「お姉ちゃん!」


ボクの上にはお姉ちゃんがぶら下がっていた。

体中の骨が抜かれ、おそらく残っている骨は頭蓋骨だけだろう。

天井にいたお姉ちゃんは布でも乾かすかのように何本もの支え棒に垂れ下がるように置かれていた。

お姉ちゃんはとても息がしにくいような呼吸をしている。


「お姉ちゃん!なんで!そんな!何があったの!」


お姉ちゃんは何かを伝えようとしているが炉の音にかき消され、ほとんど聞こえない。

おそらく退室しようとしたボクを引き止める声が精一杯の声だったのだろう。

今はどの声もボクの耳には届きにくい。


「お姉ちゃん!今おろすから!少し待って!」


炉の端の段差に足をかけ、姉を助ける為に登ろうとすると、部屋の出入り口の方から声が聞こえてくる。


「困るなぁ」


このどすの利いた声は聞き覚えがある。


「ヘファイストス!」

「おうおう、どうした?

 そんな剣幕で睨みつけやがって」

「お前がやったのか!」

「何をだよ」

「ボクのお姉ちゃんをこんな状態にしたのはお前か!」

「お姉ちゃん?エレシュキガルの事か?

 どうした!何かあったのか?」

「お前⋯⋯とぼける気か⋯⋯」

「いや、とぼけるも何も、全く状況がわからん」

「じゃあ、何故この部屋に

 瀕死のお姉ちゃんがいる!」


「はぁ?待て待て待て!

 この部屋はたまにしか使っていないぞ!

 エレシュキガルがどこにいるんだ?」

「ここの上にいる!

 いい加減本当の事を話せ!」

「だから!俺は何も知らねーよ!

 知ってたら白状してるぜ!

 お前とは知らない仲でも無いだろ!」

「⋯⋯お姉ちゃんが⋯⋯

 冥界の古城にいなかった⋯⋯

 それでいなくなる直前に

 鏡写しの転移門が使用された証言があった

 鏡写しの転移門はお前が作っただろう

 その上、お前の工房にお姉ちゃんがいる

 この状況証拠をどう説明する!」

「いや、それは俺じゃねーぞ」

「そんな戯言!

 通用すると思っているのか!」

「落ち着け!俺は違う!」

「どう信じろと言うんだ!」

「これを見ろ、

 この間、鏡写しの転移門の所有権は

 あの目玉の邪神に譲渡したんだよ」

「な⋯⋯この書面は⋯⋯

 本物の譲渡契約書⋯⋯」

「ああ、権利書だって目玉に渡してある

 何かあったのなら目玉に確かめてみろ

 そもそもこの契約書はゼウス様認めた証だから本物だ」

「あの邪神(ノクス)⋯⋯目玉!目玉!目玉ぁあ!」


ボクは頭に血が上っていてまともな判断ができないでいた。

ボクは勇み足で炉のそばを離れ出入り口に向かおうとする。

足を一歩前に進めると右足が砂のように崩れてしまった。


「なっ!イナンナ!」


ヘファイストスが駆け寄ってくる。

ボクは左足も前に進めると、右足と同じく足が崩れ落ちる。


「イナンナ!イナンナ!駄目だ動くな!」


ヘファイストスが焦り叫ぶ。

そんな図体をして心配性なのか。

ボクの足が崩れた⋯⋯。

痛みは無いが、体がおかしい⋯⋯。

ヘファイストスがボクを支える。


「イナンナ!大丈夫か!

 この足は⋯⋯一体⋯⋯

 お姉ちゃんも近くにいるって言っていたな

 ⋯⋯そこの炉の上か!」

「ああ⋯⋯クソ⋯⋯ボクの足が⋯⋯

 これは何かの呪いか⋯⋯」

「今助けてやるから少し待ってろ

 エレシュキガル!聞こえるか!

 聞こえたら返事をしろ!」


いくらヘファイストスが呼びかけてもお姉ちゃんからの返事は聞こえなかった。


「くそっ、骨が無くなってるから

 声が出せないのか?

 おい、イナンナ!

 今からエレシュキガルも助けるが先にお前からだ!」

「あ、ああ、すまない⋯⋯感謝する⋯⋯」

「一度この部屋から出すからな」


ヘファイストスはボクの後ろに周りボクを抱きかかえたその時、ボクは違和感を感じていた。


「なあヘファイストス⋯⋯」

「なんだ!」

「ボク、お姉ちゃんが

 どういう状態なのか説明したか?」

「どういう状態か?瀕死の状態って

 言ってただろう!だから急いで助けるぞ!」

「違う、お前の位置からお姉ちゃんは見えない

 それに骨が無くなっているなんて

 ボクは一言も言ってないぞ」


ヘファイストスはボクの後ろでボクを抱きかかえながら無言でいる。

少しの間、無言になり、炉の音だけが耳に残る。


「おい!ヘファイストス!」

「⋯⋯なぁ、今俺がどんな顔をしているか、分かるか?」

「お前!何を言ってる!」

「笑みを通り越して、顔が引き裂けそうだぜ!」


ボクは薄々感じていた。

こいつだ、こいつがお姉ちゃんをさらった犯人だ。


「イナンナー!お姉ちゃん助けないとな!

 お姉ちゃんはどこにいるんだ!

 イナンナ!炉の上か!

 お前、足も崩れてどうした!

 なぜ足が崩れたんだぁぁぁあ!

 ⋯⋯それはな、あの炉の前で

 何も対策せずに数分突っ立っていたら

 体が砂になっちまうんだよ!

 がはははは!

 砂になっちまったら動かずに助けを呼ぶ事!

 動いたら衝撃を受けた場所から

 崩れ落ちるんだよ!」


ボクは、愚かにもこいつを信じてしまった。

それが過ちだと感じながら。

このような状況で犯人が判明するまで、誰も信用するべきではなかったんだ。

それなのにボクは⋯⋯。


「おい!イナンナ!

 まだお姉ちゃんを助けられるかもしれないぞ!

 頑張れ!頑張るんだ!イナンナー!」

「うるさい!ヘファイストス!

 その臭い口を開くな!

 お前が語る度に世界が汚染される!

 お前如きがお姉ちゃんやボクを語るな!」

「おーほほほほほ!怖いな!イナンナ!

 ゲル・ヴィーヴルの如き威圧よ!

 でもな⋯⋯今、お前が崩れないように

 処置をしてやってるのも俺だという事を

 忘れないでもらいたいもんだねー」


するとヘファイストスは、

ボクの両のこめかみに親指と薬指を当て、力を込めた。

途端に頭全体が燃えるような熱に包まれ、そのまま意識が闇に沈んでいく。


「うぅぅぅうううう⋯⋯」


◇◇◇


 暫くして自分のよだれが垂れている事に気づき目覚める。

ここはどこだろう⋯⋯薄暗い場所⋯⋯壁が煉瓦造か?

妙に鉄臭い場所だ。

動こうとしたが全くとして動けない。

何かの拘束具で体中を固定されているようだ。

虚ろとした目で周りを見渡すと薄暗い中、目の前の台に目を瞑ったお姉ちゃんの頭が置かれている。


「うわぁぁぁあああああああ!

 お姉ちゃん!

 ああああぁぁぁああぁぁああ!」

「お!目覚めたか!イナンナ!

 どうだ!この素材の数々!

 ここに置いてあるのは

 エレシュキガルの頭、

 この砂はエレシュキガルの体だったもの、

 あとこの骨はエレシュキガルから

 事前に抜き取っていたものだ」

「お姉ちゃん!お姉ちゃん!」

「⋯⋯おい!うるさいよ!

 少しは黙って俺様の自慢話を聞け!」

「んんーーーーーー!」


ボクはとても堅い糸で口を縫われてしまい言葉を発する事ができなくなった。


「それでイナンナさんよ、

 エレシュキガルの紹介は済んだけど

 こっちの特別な素材はまだだったな」


ヘファイストスが奥から巨大な台を引っ張ってくる。

台の上には布の食い込んだ脈打つ肉塊が置かれていた。


「なあなあ、イナンナ、これヤバイだろ?

 気持ち悪いよなー、でもこれ、

 とんでもなく貴重な素材なんだぜ?」


脈打つ肉塊はもぞもぞと左右に動いている。


「なあイナンナ」


ヘファイストスがボクの名前を呼ぶ度に肉塊が動く。


「さて、これなんだ?」


ヘファイストスが肉塊の中にある銀色の何かを取り出す。

アクセサリー⋯⋯ロケットだ。

ヘファイストスがロケットを静かに開くとそこには仏頂面の姉エレシュキガルと、笑みをこぼすボクの写真が入っていた。

そのロケットは、ボクの探していた母がいつも身につけているロケットだ。


「んん!んんんんんん!んんんんん!」

「分かったか!正解正解!大正解!

 お前の母、ニンガルの肉塊だ!」

「んんんんん!ん~~~~~~~!」

「凄いぞー!何が凄いか今教えるからな!

 この苦労して入手した血、これだよ

 見てろよー、

 この夜飯にする予定だった魚で見せてやる

 この容器に入った血を通して

 対象物を見るだろ!

 見たままこう言うんだ⋯⋯

 イピゲネイア!」


ヘファイストスが謎の言葉を言い放った途端、目の前の魚がバラム!と音を立てて開いた。

肉も内臓も骨も、すべての組織が花びらのように放射状に展開している。


「がはははははは!すげーだろ!

 この血液はな、所持している人物の特性に応じて

 相手を呪える呪物なんだよ

 つまりー!俺はー!鍛冶師!っつー事はだ、

 この血液を使えば対象物が俺に都合の良い

 最高の素材になるって事だ!

 ベストな形でな!がはははは!」


こいつの吐き気を催す講釈を聞いて、怒りはいつしか殺意へと変わっていた。

しかし、無常にもボクの体は一切動かず、口も縫い合わされていて身動きが取れなかった。

こいつの凶行をボクはただ見ている事しか出来なかった。

その刃がボク自身に向いたとしてもボクは何もできなかった。


「だからな?お前の母親も姉も、

 俺様の手によって素材になったわけよ!

 そして!次はもちろんお前だよな!

 いやいやいや、そんな目で睨むなよー!

 破滅の箱とかいうとんでも無い物を作れって

 目玉から依頼された俺の身にもなってくれ!

 人間界に災厄をもたらす箱を作れっていうんだぜ?

 そんなの神を素材にするしかないだろ!

 それにな、あのいたずら好きな神に

 こっちは付き合わされてるんだ。

 文句があるなら

 俺のクライアントの目玉に言えよなー

 がーーーはははは!がーーはははは!」


ボクは怒りと悲しみで目や口から血と涙の混じった闇の涙が溢れ出た。


「ふぐっ!ふっ!ん!ふぐぅぅうう!」

「がはははは!無理無理!

 どう足掻いてもそこからは逃れられんよ

 さてさてお前はどんな素材に

 変わってくれるかなー?

 このヘファイストス!

 お前の偉大なる変貌!見届けてやるぞ!」


ヘファイストスが血の入った呪具をボクに向ける。

血を境界にしてヘファイストスとボクの目が合い、ヘファイストスは力強く呪文を唱えた。


「イピゲネイア!」


ボクの体全体に月でも墜落したかのような衝撃が走り、体中から血が吹き出てくる。

自身の骨という骨から外に向けて億万の針が飛び出るような痛みが走る。

吹き出した血が次第に結晶へと変わり、それらがボクの体を取り囲んでいく。

みるみるうちに、ボク自身もまた青白い結晶と化していた。


「美しい⋯⋯美しいな⋯⋯イナンナ

 お前⋯⋯最高だよ⋯⋯天界、いや冥界の

 果てまで探しても2つと無いほどの

 呪いの箱にしてやるからな!

 そうそう、お前ら家族を素材にした、この血の呪具⋯⋯

 勿体ないがお前らと一緒に埋め込んでやるよ

 こいつも呪具だからな、恨み倍増だ!

 まあ、人間に災い振りまいてりゃ、

 俺の偉業に対する恨みなんて

 いつの間にか晴れるだろうよ、

 だから気楽に人間界で呪いまくってろな

 じゃあな~、もう二度と会うことも

 無いだろうがな⋯⋯がははは!」


◇◇◇


その後、ボクが気付いた時には箱に囚われた存在になっていた。

もはや肉体は無く魂だけが残った。

だが、この箱はボク1人じゃない。

ボク以外の存在を感じる。

おそらく姉は箱の外装として使われ、母は箱の中の虚無空間を形成する為に使われた。

そしてボクはこの箱の意思と核、つまり呪いの部分に使われたんだろう。

母と姉の意識は感じない。

きっと意識が残っているのはボクだけなのだろう。

この恨みはどこで晴らせば良いのだろうか?

晴れる時がくるのだろうか?

ボクの意思とは別に多くの人を呪ってしまう。

多くの人の魂を奪ってしまう。

この箱の中には、母を素材として生成された虚無がある。

虚無は、光さえも吸い込む闇の空間であり世界誕生以前に存在したギンヌンガガプと呼ばれる裂け目の闇に酷似していた。

この虚無の空間はボクには制御できない。

止める事ができないんだ。

それなら、ボクに残っているほんの少しの力を使って迷い人を導き、保護できる場所を作ろう。

虚無の空間の底に安息地を作り、この箱の中だけで無く、世界中で本当に必要とする人の憩いの場所 ”アガルタ(理想郷)” になろう。

それが犠牲になった人へのせめてもの償いで、目玉とヘファイストスに対するボクなりの復讐。

そして、いつか、必ず、本当の復讐を成し遂げる為に、力を蓄えていかなくては。


待っていろ、邪神(ノクス)、ヘファイストス。

ボクたちを陥れた代償が、お前の想像を遥かに超えるものだと、知らしめてやる。

読んで頂きありがとうございました。

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