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第14章 トリックスターのカテナポルカ ~伽耶の記憶~

ー3003年ー セクターアーク 閉架(へいか)室内・隔離保管庫


 私はナシアの書いた本を読み始めた。


─────────────────────────────────────

トリックスターのカテナポルカ


著 ナシア・T・ミューティニー


 もうどうでもいい。

結局あたしも有象無象の一人だった。

あたしは遥か昔の700年前から神さまと偽る邪神の傀儡として利用されてきた。

利用されるのは構わなかった。

あたしは神さまに心底惚れていたから。

あたしに群がる有象無象とは違う。

神さまはあたしの前で示して見せた。

神である証明。

呼吸をするように人を殺してみせたのだ。


あの出来事がもう700年も前だとは、時の流れは早い者だ。

あたしは完全な不老不死という訳では無いが自分の子供に乗り移る事で生き長らえてきた。

一種の不死だ。

どうしても神さまの顕現を見たかったのだ。

しかし、その悲願が叶うその時、神さまはあたしを見捨てた。


神さまは最初から人間という存在を "使い捨ての玩具" としてしか見ていなかったのだろう。

神さまはあたしに「冥土の土産」として自分の弱点を教えた。

あたしは絶望した。


でも神さまを軽蔑はしなかった。

ただただ絶望した。

失恋以上のショックだった。

どのような事があってもあたしは絶対に神さまを裏切ることはしない。


でも神さまはあたしなんてどうでも良かったのだ。

こんなどうでも良い存在と良く700年も一緒にいてくれたものだ。

あたしが我が子を犠牲にして転生した生き様を面白がっていたから、飽きずにいてくれたのだろうか?

そう、神さまは弱点についてあたしに言った。


「ナシア⋯⋯

 吾輩の名は⋯⋯

 ▢▢▢▢▢▢▢⋯⋯だ

 吾輩の名前は

 吾輩を滅する唯一の弱点なのだよ

 今、生きている人間の中で

 吾輩の名を知っているのはお主だけだ

 なあ、ナシア⋯⋯

 何故、吾輩の真名を

 役立たずのお主に教えたか分かるか?

 約束?

 違うなぁ、吾輩はいたずらやスリルが好きなんだ

 下等なお前に一瞬とはいえ吾輩の命を握られる

 じゃはははは!愉快だとは思わんか?

 まあ、どうせこれから起きる事で

 お主は特別な存在になるんだ

 だから冥土の土産に吾輩の名前を受け取れ」


あたしを舐めやがって。

何が神さまだ。

あたしはあんな奴の顕現を見たいなどとあいつに期待してしまった。


あたしを仲間外れにしやがって!


死ね!死ね!死ね!死ね!


あたしを裏切る奴は!


神だろうが悪魔だろうが全員死ね!


 あたしはあの世界が変わった日、民衆から暴行を受けた。

これまでかと若干諦めていた部分もある。

心も体も疲弊していた。

だけど、そんな時あたしに手を差し伸べてくれた人物がいる。


 ーーエイティだ。


ボロボロになったあたしに近づき隙を見て、あたしの襟にある認識阻害を起動した。


その状態であたしを抱きかかえてエイティはどこまでも逃げてくれた。

ただ、逃げ始めた時が大変だった。

エイティもあたしも異形体になってしまったからだ。


突然変異というのはとてつもなく痛みを伴うもので、2度と経験したくないものだ。

所々記憶が飛んでいて定かでは無いが、あたしを抱えたまま3時間は移動したみたいだ。


それにしても異形体には慣れない。

目が全く見えないが、元々目があった部位には口のようなものができている。

歯や舌もあるので眼筋を動かす要領で目の部分の口を動かしてみた。

瞼だった部位は動かないが、歯だけが上下に動く仕組みだ。

カッ!カッ!上下の歯を当てて音を出す。

すると人間だった時よりも大きな音が鳴った。

歯の構造が人間とは違うのだろうか?

心地よい歯の音だ。

更に、この歯の音を鳴らす度に視界が確保される事に気づいた。


この歯の音に加えて、舌のような部位もできていたので、触ってみたが、もの凄く硬い。

何度か試している内にこの舌のようなものの先端から空気のような風が勢いよく出る事に気づいた。

脳と目の中間付近に力を入れて、お腹を膨らませた後にへこませると、凄まじい音が出る。

ガラスのコップは瞬時に割れて、目の前の壁もすぐに崩れ去った。

目が無いのに目の前というのも違和感があるものだ。

この舌のような部位から出す音は一呼吸で1時間は出し続ける事ができた。

さらに舌からの音は歯の音よりも視界が鮮明に見える。


まるで潜水艦のソナーのようだ。

こんな体にされてしまったが慣れていくしかない。


神から逃げる最中、お互いの顔を音波で見る度に「化け物になったわね」と笑いあっていた。

笑ったあと、虚しさが込み上げてきた。

それでもエイティはいつもあたしを励まし、いつでもあたし助けてくれた。

その好意にあたしも応えなければと思い、時折エイティの肩を揉んだりした。

あたしが欲していたのは神では無く、こういう対等な友達だったのかもしれない。


でも散々我が子を殺し、世界中の動物を殺し、神まで顕現させてしまったあたしは生きている価値も無いのだろう。

だけど、まだ死ねない。

あたしは死ぬ前にやるべき事が1つある。

神の弱点を後世に残し、いつの日か討ち取ってもらう事だ。

いつかあいつに一泡吹かせなくては死んでも死にきれない。


 とある日、エイティが良い場所を見つけたとはしゃいでいた。

女子大学のようだ。

世界の混乱の影響で校舎内には誰も見当たらなかった。

そこの地下室に到着すると幸いにも様々な薬品が置いてあった。

そこであたしは神の名前について研究と実験を始める。


この女子大学に到着するまでの道中、神の事を考えてつい名前を口走ってしまった。

すると口走った瞬間、目の前に目が現れたのだ。

あたしたちは認識阻害の影響で見つからずにすんだが、どうやら名前を発言してしまうと発言した場所へ瞬時に神が現れるようだ。


その為、どのような状況下なら危険で、安全なのか、トライアンドエラーが必須だった。

その実験の中で分かった事がある。

大きく展開した認識阻害の中でなら神の名を語っても問題無かったのだ。


しかし、紙に書いてしまった時が問題で、紙に名前を書いてしまうと書かれた名前がビーコンのような役割となり、認識阻害でさえ突破して神に信号が届いてしまう事が分かった。

つまりどんな言語でも書物に書き残しておけないのだ。


次に認識阻害の中から、頭の中で神の名前を唱えてみると問題無かったが、認識阻害の無い場所で神の名前を唱えてみると瞬時に神が現れた。

脳内で考えても駄目だとは思ってもいなかったので正直かなり冷や汗をかいた。


あたしはもう長くない。

神によって、いつの間にかあたしの心臓が賢者の石の精製炉にされてしまった。

異形化の時かもしれない。

もっと前かもしれないが分からない。

そこでこの本を残す。


伽耶、一度も会った事の無い女。

だが幾度となく神から聞いてきた名。

お前が神に抗っているのは知っている。

どの世界線でもお前は小賢しいらしい。

何度か出るお前の名前を聞いて、正直嫉妬した。

まあ、今更そんな事を書き残してもなんの意味は無い。


もし、まだアガルタに辿り着いていないならアガルタを見つけるべきだ。

神を倒そうとしているお前ならきっと分かるはずだ。

何故、この名を知っているかはエイティを問い詰めてくれ。

あたしは詳しく知らんし行き方も知らん。


託されても迷惑だと思うかもしれんがあたしのわがままに付き合ってほしい。

そして、あの神の名前が分かったら、後は狭間という場所に行きモンキーオーキッドという花を辿っていった先に神の核がある。

その核の前で名前を言ってやれ。

この時が神を倒す唯一のチャンスだ。

狭間への行き方は自分で調べろ。

確か知っているじいさんがこの施設の中にいたはずだ。

唐突な話だと思うが少しずつ分かるはずだ。


最後に、全ての人間に言わせてほしい。

世界を滅茶苦茶にしてごめんなさい。

─────────────────────────────────────


 ここで文章が途切れている。


次のページに1枚の封筒が入っており1枚の紙が入っていて何も書かれていないが、紙の表面に触れると凹凸があるのが分かる。


「あの!誰か鉛筆持っていませんか?」

「ああ、俺が持ってるよ」

「わたくしも持っていますわ」

「わしも持っておるぞ、斑鳩さん!」

「あ、1本で大丈夫です!」


1番取りやすい位置にいた村長さんの鉛筆を借りた。


私は借りた鉛筆で紙の表面を優しく力を入れず黒く塗りつぶしていく。

するとそこにはエイティからナシア宛の文章が浮き出てきた。


─────────────────────────────────────

はーい!ナシアちゃん!

もう、この超音波で視界確保するの本当に面倒ね!あのクソ神!

こんな体にしおって!

そうそう、シェルフドッグで作った伝書鳩もどきいるじゃない?


ちょっとビジュアルがあたい好みじゃないのよね。

妙にまつ毛濃くてあたいよりバチバチじゃない!

伝書鳩の癖に許せないわ!嫉妬しちゃう!

ナシアちゃん、あなたこの伝書鳩の顔のデザイン⋯⋯あたいをモデルにしたんじゃないの?

まあ、モデルにしてもいいけど、今度からモデルにするなら馬もどきとか作る時にあたいの顔にしてよね!

馬はいいわよ~!!

ナニがいいかは、ヒ・ミ・ツ・よ!


追伸

あの場所、ついに見つけたわ

そこに置いておいたら伽耶ちゃんらしき子が天井の穴から落ちてきたのよ

伽耶ちゃんったら、ナシアちゃんの本、ちらっと読んでいたわよ


もひとつ追伸~

認識阻害使っているのにパスタ作ろうとしている伽耶ちゃんにバレそうになったわ

くわばらくわばら

バレてないから安心して


AGARTHA FーGー29

─────────────────────────────────────


 これ以上は何も書かれていない。


「AGAR⋯⋯これ⋯⋯アガルタじゃん!

 それにこの本!随分昔の本なのに私の名前!」

「そう、伽耶さんが来てから

 アガルタと伽耶さんの名前が繋がって

 この本の事を思い出したの

 ねえ、これ見て分かる?


 FーGー29 


 わたくしにはまったく分からなくて⋯⋯」

「俺も同じく分からないんだよなぁ

 何かの暗号か?」

「何かの頭文字なんじゃないかの?

 F⋯⋯F⋯⋯

 なんちゃらゴリラである事は

 確実だと思うんじゃがの⋯⋯

 FとGじゃから、ファイナルゴリラ29歳?

 絶滅危惧種か!

 誰か何か思いつかんか!」

「村長、どんだけゴリラ推しなんだよ」


横でゴリラ論争が起きる中、私はじっと考える。

アガルタさんの屋敷でそんな表記があるのは⋯⋯。


「⋯⋯分かった!!!」

「え!分かったのか!伽耶ちゃん!」

「あっさり分かったの!斑鳩さん!」

「うん、これ書庫にある本棚の請求記号だ」

「斑鳩さん、請求記号とはなんじゃ?」

「たくさん本が置いてある場所で

 何がどこに置いてあるのか把握するための

 本の住所みたいなものです」


「なるほど、という事はその本棚に

 何かがあるって事か?」

「本がありました、本のタイトルは

 45×✕2✕✕✕31✕6✕7

 これで間違いないです

 この数字は書いても問題ないでしょうし

 こっちの紙に書いておきます」


そう、この本、手書きのタイトルで中身には何も書かれていない不思議な本だったから、とても印象に残っている。


「45×✕2✕✕✕31✕6✕7

 なんじゃこりゃ?」

「斑鳩さん、この3つ目のばってん

 他のばってんより少し小さめじゃが

 これは気にせんでいいのかの?」

「いえ、記憶に残っている内容を

 そのまま書いているので

 その小さめの×は少し小さい×であると

 判断してもらったほうが良いと思います」

「んー、とは言っても⋯⋯なんじゃこりゃ、

 ✕のところに何か入れるのか?」

「掛け算かしら?それともエックス?」

「45かけるかける?なんじゃそれは」

「違うわよねー」


私はふと本を閉じて、本の装丁や背、小口なども見直したが特にこれといった答えを導き出せなかった。

暫く考えていると沙羅さんが口を開く。


「ねぇ、そういえばさ、この数字って被ってないよね?

 ✕を除くと1から7までの数字があるわ」

「ああ、だとしても全くわからんよ

 上から4523167⋯⋯

 もしかしたらナシアの本のページを探れば何か⋯⋯」


エヴァンさんがナシアの残した本をペラペラめくって4、5、2ページと順番に確認するが、何か隠されたメッセージのようなものが記されているようには見えなかった。


「だめだ!分からない、

 この数字はなんなんだ?」

「あの⋯⋯これも分かったかも⋯⋯」

「え!また分かったんですか!伽耶さん!」


沙羅さんが興奮して声を張り上げると私は口を開き、謎を解き明かす。


「こちらの集落にあったナシアの本

 "トリックスターのカテナポルカ" のタイトルは14文字

 数字の方も✕を含めれば14文字⋯⋯

 つまり、この本のタイトルと

 メモに私が書いた数字を照らし合わせれば


・トリックスターのカテナポルカ

・45× ✕2✕ ✕ ✕31✕6✕7


 これなら分かりやすいわ!」

「これは⋯⋯

 1がテ、2がス⋯⋯」

「全て組み合わせると⋯⋯」

「テ・ス・カ・ト・リ・ポ・カ!」


皆、口を揃えて、邪神の名を発言する。


「認識阻害の中でなら

 名前を言っても大丈夫なんですよね」

「ええ、大丈夫ですわ」

「テスカトリポカ⋯⋯

 この名前があの邪神の弱点⋯⋯」

「おっふぉっふぉっ!

 案外すんなり答えが出たの!」

「伽耶ちゃん、凄いな!

 俺、I was surprisedだよ!

 びっくりした!」

「はい!

 早くこの名前を本人に叩きつけて

 こんな世界、終わらせないと⋯⋯」


しかし、私たちは劣化という状態変化を全く考慮していなかった。

認識阻害自体が劣化するなんて思わなかった。


その瞬間、全身に悪寒が走る。

施設全体がとてつもない振動に襲われ、辺りの機材や照明が落下する。

壁や天井には亀裂が入って、亀裂からは水や土がなだれ込んできた。

次の瞬間、真上から巨大な塊が私たち目掛けて落ちてくる。

一瞬の出来事だったが天井や上部の地層から邪神の触手らしきものが見えている。


「危ない!伽耶さん!」


沙羅さんが飛び込んできて私の体を激しく突き飛ばす。

その衝撃で私の体は大きく跳ね飛ばされ、壁と機材の隙間に打ち付けられた。


「いたたたた」


辺り一帯は粉塵が舞い上がり、周辺は灰色に閉ざされていた。

天井には大きな穴が空いて地下の施設内にいるにも関わらず、黒と橙の空が垣間見えている。


「沙羅さん!エヴァンさん!村長さん!

 みんな大丈夫ですか!」


声をかけても返事は無い。


「沙羅さん!」


暫くすると、舞い上がっていた粉塵がようやく落ち着き、灰色の世界に静寂が戻った。

かすんでいた視界も、少しずつ輪郭を取り戻していく。

辺りの景色が見えるようになると沙羅さんやエヴァンさん、村長、その他大勢の村民が倒れているのが

確認できた。


「一体、何が起きたの⋯⋯

 まさか、名前を言ったから⋯⋯」


私の言葉に重ねるように

聞きたくも無い声が響き渡る。


『じゃーーーははははははーーー!

 伽耶ぁぁあああ!それと人間ども!

 巣をついに見つけたぞ!

 ワラワラとそんなところで群れていたか!』

「くっ⋯⋯神さま⋯⋯」

『じゃーはははは!こそこそとしぶといな』

「神さま⋯⋯ふふふ⋯⋯何が神さまだ⋯⋯

 お前なんか目玉の大きなタコだろう

 おい!目玉タコ!

 世界をこんな状態にして

 どう責任とるつもりよ!」

『この羽虫が⋯⋯ブンブンブンブンと⋯⋯

 吾輩の周りを飛びおって⋯⋯

 線移動?時間移動?小賢しいわ!

 吾輩が気づいているのは分かっていただろう

 それでもブンブンと様々な時代を飛び回りおって!』


まずい、この施設がバレてしまった。

ここには多くの人がいるし何しろ邪神から逃げたナシアの遺体もある。

邪神はナシアに対し、必要以上に固執していた。

恐らくナシアのあの胸にあった赤い石が目的なのだろう。


『伽耶ぁぁぁあ!

 さっきは良くもやってくれたな

 本体でも無いのに痛かったぞ!

 死なんが痛かったぞ!』


どうする、会話で場を持たせられるのか?


『まあいい、脅威はここで全て消しておかんとな

 吾輩の触手の餌食にしてやる

 お前ら全員ミンチだ!』

「槍!⋯⋯うぐっ!」


私は天井に空いた穴から邪神に向けて1本の槍を投げるが、触手で軽く振り払われてしまった。

そして左足首に痛みが走る。


『随分とご立派な攻撃だな』


今の私の槍では効果が無い。


『さて、全員ミンチというのは嘘だ

 ちょっと遊んだだけだ』


この目玉タコは何を企んでいる?


すると天井の穴から素早く1本の触手が侵入してくる。

侵入した触手は目的があるような動きで施設の中を探り始めた。

このルートはナシアの遺体のあった部屋へ続いているはずだ。


「やめろ!」


私は槍を取り出し撃ち放つが邪神の触手に耐性ができたかのように効きにくくなっている。


『やめろ?何をだ?攻撃など野蛮な事は

 一切していないだろう?

 巣の中を探索してはいけないのか?

 吾輩は神だぞ?

 それに客人に茶ぐらい出せないのか?』

「お前は客人じゃ無い!

 こういうの、昔だったら不法侵入って言うらしいですよ!

 神なのにそんなせこい事をするんですね!」

『なんとでも言え

 それにしても吾輩の名を口にするとは愚かだな!

 自分たちの居場所をさらけ出しているようなものだぞ!』


周辺で倒れていた人たちが少しずつ起き上がり始める。


「ええ、神さまのお名前

 ちょっとだけ言ってみたかったんですよ

 何か悪いですか?」

『じゃーーはははは

 ナシアから聞いたな?

 しかし、どうやって聞いた?

 発言しても記しても思考しても

 吾輩には現れるのだぞ?

 それを今までばれずに⋯⋯

 どうなっておるのだ?』


本当に迂闊だった。

もっと慎重に行動すべきだった。

認識阻害があるからと言って何故、邪神の名を口にしてしまったのか。


「沙羅さん!沙羅さん!大丈夫ですか?」


沙羅さんに声をかけるも動く気配が無い。

横にいたエヴァンさんと村長さんが起き始める。


『じゃは!じゃは!じゃあぁぁぁはははははぁあ!

 いたぞ!ついに見つけたぞ!

 ナシアァァァァアア!』

「Shit!何があったんだ!

 伽耶ちゃん!状況は何か分かるかい!」

「エヴァンさん、端的に情報共有!

 邪神が上部から侵入!

 ナシアが攫われそう!

 私の攻撃が通じない!

 沙羅さんが呼びかけても反応なし!

 以上です!」

「分かった!Thank you!」


私は薬を作り自身の左足に塗布し足の痛みを取り払うと、沙羅さんの元へ駆け寄る。


「沙羅さん!沙羅さん!大丈夫ですか?

 沙羅さん!返事をしてください!」


沙羅さんは眉間にシワを寄せながら徐々に目を開く。


「伽耶⋯⋯さん⋯⋯

 無事?大丈夫?」

「はい、お陰様で私は大丈夫です

 今は私の心配では無く

 ご自身の心配をしてください

 今、薬作りますから少し待ってくださいね

 どこが痛いとかありますか?」

「う⋯⋯うん、ちょっと肺が痛いかな」


もしかしたら肺に骨が刺さっていたり何かしらの傷を負っているかもしれない。

私が薬を作っていると沙羅さんが胸を押さえ、苦しげに声を上げる。


「伽耶さん、後ろ危ない⋯⋯」


その言葉と同時に沙羅さんが溶けるように目の前から消えてしまった。

気がつくと私の背後からいつの間にか迫っていた触手が溶ける。

ナシアを引きずり出している触手もいつの間にか溶けていた。


「え⋯⋯何が起きてるの⋯⋯

 というか沙羅さん!どこに行ったの!」

『ぎゃぁぁぁああ!なんだ?

 腕が痛いぞ!

 伽耶!何かやったのか!

 もぉぉぉおお許さないぞ!』


上空から6本の触手が襲い来る。

3本は上空から、3本は崖のほうから穴を拡張しながら無理やり侵入し私たちの元へ辿り着いた。

逃げ場は無い、けれどまた邪神の触手が、全て溶けるように消滅した。


『ぎゃぁぁぁぁあああ!

 なんだ!何をしてるんだ!

 ずるいぞ!人間!』

「さっきから触手が溶けるように消えてるのって、

 もしかして沙羅さんの力?」


私が瞬きをした瞬間、目の前に滲み出てくるように沙羅さんが現れる。


「うん、伽耶さん正解、これ私の能力なんだ」

「でも沙羅さんの力って裏の世界を視る事ができる能力だって⋯⋯」

「うん、そうだけどわたくし

 裏の世界に行く事もできるのですわ」

「もしかして消えた時って

 裏の世界というところに行ってるんですか?」

「そうよ、それで裏の世界から

 表の世界にある触手に触れて

 裏の世界に引きずり込むの

 そうすると引きずり込まれた部分は

 表の世界では消滅した事になるのよ」


「ひえーーーー!

 エ⋯⋯エグくないですか?」

「あら、わたくしの能力エグいかしら?

 でも紳士的な方には紳士的に

 暴力的な方には暴力的に

 エグい方にはエグい対応をとるのが

 わたくしの流儀でございますわね」


私では全く刃が立たなかったけど、沙羅さんの能力は凄い!


この力があれば邪神を追い詰められるのではないかと調子の良い事を考えてしまう。


「沙羅さん、薬できました

 これ、飲んでください

 胸の痛みがとれるはずです」

「伽耶さん、ありがとう

 いただくわね」


私の用意した薬を口に運ぶと、沙羅さんは大量の血を吐き私の薬は鮮血に染められた。


「な⋯⋯なんで!沙羅さん!」


驚きと焦りの中、沙羅さんを見ると胸の中心にぽかりと穴が空いている。


「どうして⋯⋯」


目に涙を溜めて沙羅さんを見つめるも、沙羅さんの目からは光が失われ既に事切れていた。


「エヴァンさん!エヴァンさん!

 エヴァンさん!エヴァンさん!』


私はエヴァンさんを呼び続ける。

頭が真っ白になりエヴァンさんの名を呼ぶことしか出来なかった。


「伽耶ちゃん、どうした、何か⋯⋯

 ⋯⋯沙羅⋯⋯沙羅!

 これは一体⋯⋯何が⋯⋯沙羅ぁぁああぁぁぁあ!」

『あははははは!

 どれ、よく分かっていない

 そこのモンキーたちに吾輩が説明してやろう!

 その娘、吾輩の触手を破壊⋯⋯

 いや吾輩の超硬度な触手を、

 裏の世界に引きずり込みおってな?

 吾輩の触手を次元の境界線を使ってちぎりおった

 だから、同じ事をしてやったまでよ!

 じゃはー!じゃはーはは!

 紳士的な者には紳士的に、

 暴力的な者には暴力的に、

 卑怯な者には卑怯な対応をとるのが

 吾輩の流儀なのだぁ!

 じゃっは!じゃっは!じゃっは!じゃっは!』

「テスカトリポカァァァァア!」

『その名を呼ぶ者は万死に値する!

 死ねぇぇぇええ!』


エヴァンさんの目から激しい光線が放たれるも、邪神の触手は裏の世界に消えヴァンさんの背後に現れた。


「駄目ぇぇぇえぇぇ!」


このどこから出てくるかも分からない触手を前に、ただ叫ぶ事しかできなかった。

でも、その叫びが轟音の戦乙女リマの力を無意識に発動させ、その轟音でエヴァンさんを吹き飛ばし、邪神の触手を回避する事ができた。

また、この轟音で奇跡が起きた。

何に反応したのか分からないけれど

胸に穴の空いた沙羅さんの目に光が戻った。

沙羅さんは虫の息だけど、私に何かを伝えようとしている。

私は沙羅さんに駆け寄り、沙羅さんの頭を自分の膝の上に乗せた。

私は薬を取り出し、沙羅さんに飲ませようとすると、沙羅さんは手の平を見せて遠慮の意思表示を露わにした。


膝枕の状態となった沙羅さんは私を見つめながら、か細い声で言葉を伝える。


「伽耶さん⋯⋯私の力⋯⋯使って⋯⋯ね」


突如、沙羅さんの目が赤く輝き、私の眼球目掛けて光線が放たれる。

私は突然の事で驚きつつも、沙羅さんの光線を受け入れた。

沙羅さんを見つめていた私は光線の威力で、顔の角度が強制的に空を見上げるような位置に変わった。


光線を出し尽くすと一言だけ発する。


「素敵なパートナー⋯⋯見つけてね」


その言葉を最後に沙羅さんは目を開けたまま、静かにその生涯を閉じた。

私は上を向いたまま、唇を噛み締め、友人の死を初めて体験する。

涙が止まらない。

嗚咽を漏らしながら沙羅さんの手を力強く握る。

下を向いて必死に呼びかける。


「沙羅さん!沙羅さん!沙羅さん!」


私は薬を沙羅さんの口に流し込んでみたけど、蘇生できる訳もなく、ただ液体をかける音が虚しく響くだけだった。

私が薬をかける姿を見て、邪神が嘲笑する。


『なんだ!その女を蘇らせたいのか?

 じゃっはははははは!

 吾輩が手助けしてやろう!

 ほれっ!』


天井の穴から4体のソナリスが落ちてきた。

私は警戒するも、既に生命活動を終えた死体のようだ。


『そのソナリスを

 ちぎって!加工して!つなぎ合わせて!

 その女と合体だ!5体合体!超変身!』


こいつ、この邪神は沙羅さんで遊び始めたんだ。


「やめて!やめて!

 なにしてるの!そんなことやめて!

 こんな事になんの意味があるの!」


目の前のソナリスの体が千切れミンチになり、沙羅さんの体に次々と縫合されていく。


「やめてよぉ!やめてぇ!」


あっという間の出来事だった。

気がつけば沙羅さんの顔をした異形の生命体が目の前に立っている。


「あたしの友達に!なんて事を!許せない!

 命を弄んで何様だ!」

『神さまだよ!じゃっは!じゃっは!

 ほれ!ソナリスならぬ沙羅リスだ!

 沙羅リス!その女と遊べ!』


沙羅さんだった物はまるで文明時代にあったスピーカーのように大きな音を発した。

私の轟音と似ている。

しかし、私の轟音と違うのは振動だ。

私の轟音は大きな音を瞬時に放出して一度で出し切る。

その為、衝撃波としての効果が強い。

でも沙羅さんの出す音は激しい振動を繰り返し、私の内蔵を長時間揺らし、内部からじわじわとダメージを与えてきた。


脳が揺れて頭が痛いし内蔵も揺れて吐きそうだ。


「沙羅さん!やめてっ!」

『いやよ!だって沙羅!悪い子だもの!』

「目玉タコ!

 お前が沙羅さんの真似をするな!似てないんだよ!」

『ひどいわ!沙羅!ショック!』

「ふざけるなよ⋯⋯

 お前っ、お前、絶対に許さない!」

『吾輩にそんな事を言って

 生きている者は1人としておらんがな

 じゃはははははぁぁぁぁ!』

「沙羅さん⋯⋯

 沙羅さん、ごめん、本当にごめんなさい⋯⋯

 ごめん⋯⋯」


私は左手で目を覆い、溢れる涙を隠しながら、指と指の隙間からかすかに見える沙羅さんを狙う。

そのまま力を込めると、上空から大量の槍が沙羅さんもどきに撃ち落とした。

槍は沙羅さん以外の部位を貫き沙羅さんもどきは動かなくなった。


『ちっ⋯⋯つまらないな!もう終わりか!

 もっと遊べただろう!』


邪神は不機嫌そうな態度を示した。

そこにエヴァンさんが朦朧としながら立ち上がり沙羅さんを見つめると、うずくまり少し泣いているように見えた。

私は涙が止まらない、こんな姿を邪神に見せるなんて不本意だ。

でもこんな状況で泣くなという方が難しい話だ。

さっきまで笑顔で恋バナをしていた友人の顔が無機質になり、肌から色が失われていく。

こんなの耐えられる訳が無い。

私は涙を溢れさせた状態で邪神を睨みつけた。


「二人とも!ナシアさんの遺体が!」


村長さんが指さす先には、ナシアの遺体を持ち去る触手が見えていた。


「あぁぁあああああっっっ!」


私は大声で吠えるも何の効果も無い。

この邪神は沙羅さんの死を悲しむ暇さえ与えてくれないのだろうか。


『じゃーーーーーっはははははははははは!

 やっと、やっとだ、吾輩の元に

 やっとナシアが帰ってきた!

 封印!年月!赤石!待ちに待ったこの瞬間!

 やっと吾輩の世界が完成する!』


邪神はナシアの遺体を掲げながら恍惚とした声で宙を漂っている。

そして邪神は、鼻歌を歌い始めた。

ふん♪ふんふーーーん♪ふふーーん♪

空を覆う邪神の目は相も変わらず不気味だ。


「テスカァァァァ!沙羅を!

 沙羅を返せぇぇぇええ!」


エヴァンさんが勢い良く光線を放つも邪神の目の前で透明の壁のようなものが光線を弾き、邪神には届かなかった。


『吾輩の世界へようこそ

 人間諸君⋯⋯

 ここからが本当の遊びの時間だ

 いざゆかん、狂気の世界へ』


邪神はナシアを目の中に取り込むと、黒と橙の雲のようなもので覆われていた空が真っ赤な真紅の空へと変貌した。

世界全体が夕焼けのように赤い世界になる。

海中からは何か分からない光の球が複数出現して宙に浮いている。


そして、子どもの頃から考えていた起きそうで起きない事が、実際に起きてしまった。


今いる集落の天井に空いた大きな穴の先、地上からはたくさんの雄叫びや咆哮が聞こえてくる。


「村長!みんなはもう避難部屋に

 隠れてるんだから、あんたも

 早く隠れてくれ!」

「お、おお!すまん!先に隠れておるぞ!」

「伽耶ちゃん、何かやばい気がする!

 様子を見たい!一旦地上に上がれるかい?」

「はい!いけます!」

「沙羅⋯⋯またあとでな⋯⋯」


エヴァンさんと私は邪神の開けた天井の穴を登り始めると、私は沙羅さんの遺体を確認する為、下に顔を向けた。

すると直前まであった沙羅さんの遺体は既に消えていて、変わりに一輪の禍津花が咲いていた。


沙羅さん、どうか安らかに眠ってください。

私は溢れる涙をぐっと我慢する努力をした。

あの邪神の前でこれ以上泣く姿は見せたくない。

我慢しなきゃ、私!


◇◇◇


 エヴァンさんと共に地上に出ると一帯の風景が赤く染まり、全く別の世界となっている事に思わず息を呑む。

エヴァンさんと共に雄叫びが聞こえる方へ猫のように忍びよると、そこにはとあるソナリスの一家がいた。

エヴァンさんが草むらの影からその様子を見て気味悪がっていた。


「伽耶ちゃん、ソナリスのあんな状態

 見た事あるかい?あんな頭を振って

 口もあれほど凶暴な口は

 していなかったはずだ!」

「私も初めて見ました⋯⋯何あれ⋯⋯

 それにいつもより明らかに

 手が多くなってます」

「そうだよな」


そう会話しながら、私はまず、目の前にいる一家が自分の家族では無いかと慎重に確認する。

いや、髪型や体型が明らかに違う。

私の家族じゃ無い。


一安心したところで、草むらに隠れながら行動していると足元にカエルもどきがいた。

カエルもどきが迷惑そうに鳴き始める。


「おいっ!おいっ!おいっ!おいっ!」


まるでおじさんが若者を呼び止めるかのような泣き声だ。

しかし、実際に顔がおじさんなので何も違和感は無かった。

このカエルもどきが鳴いた事で前方にいた様子のおかしいソナリスたちが、こちらに駆け寄ってくる。


「カカッ!カッ!カカカカッ!

 キィィィイイイイイイイイイ!」


ソナリスが視界を確保している音だ。

カエルもどきが跳ねるとソナリスたちが一斉にカエルもどきの方を見て咆哮を上げ始めた。


「ちょ⋯⋯なに⋯⋯こんな咆哮を

 上げる事なんて今まで見た事ない!」

「個体差って事は無いのか?」

「個体差があったとしても

 こんな咆哮をあげるなんて⋯⋯」


小声で話しているとソナリスがカエルもどきを囲み、ソナリスの顔にある3つ口を大きく広げ、聞いた事の無い鼓膜に響く音を出し始めた。


「グェアアアアアアアアアアアア!」

「くそっ!なんなんだこの重い衝撃波は!」

「普通ソナリスはこんな音を出しません!

 邪神の影響でソナリスに手を加えられて

 おかしくなっているのかもしれないです!」


さっきの沙羅さんみたいに⋯⋯とはとても言えなかった。


カエルもどきは一瞬にして膨れ上がり爆散してしまった。

その爆散した肉をソナリスたちは四つん這いになって貪り食っている。


「おい!伽耶ちゃん!こいつらやばいぞ!」

「これ、絶対、邪神のせいだ!

 そうじゃないとこんなのおかしい!」

「ああ、ナシアの遺体を取り込んだ辺りから

 世界の様子がおかしいから間違いないな」

『じゃぁぁぁああははははははははぁあ!

 ソナリス諸君、獲物はそこの草むらにいる

 家畜2体が放牧されているから

 早いもの勝ちで食っていいぞ!

 さあ!集まれ!世界中の人間を食い尽くせ!

 食べて!食べて!食べまくるぞ!』

「グェアアアアアアアアアアアア!」


ソナリスの雄叫びが四方八方から聞こえてくる、足音が近づいてくる。

すると私たちの前にソナリスが複数体現れた。

前方に20体、後方に30体はいた。


「伽耶ちゃん、悪い、なるべく頑張るけど

 さっき踏ん張って2発もビーム撃って眠いし

 棒で殴るくらいしか貢献できないよ

 もうへろへろなんだよね

 すぐにでも寝ちゃいそうだ⋯⋯」

「大丈夫です、私、力を貸してもらって

 戦闘は多少得意なので任せてください」

「頼もしい~!女は強しだね!That's great!」

「一緒に頑張りましょう!」

「ああ、ちょっと偵察にきたつもりが

 こんなに狂ったソナリスが待ち構えているとはね」


この時、私は体の中で新しい力が芽吹いている事を肉体的にも精神的にも感じていた。

さっき沙羅さんが私に託してくれた力、ヴェイルサイトという力だ。

力を受け継いだ後、説明を受けた訳でも無いのに不思議と使い方が分かるから不思議だ。

私のアーカーシャヴィジョンなんてほんと不親切で、未だに使い方が分からないのに!


さっき沙羅さんが使っていた裏世界に引きずり込む力、私も使ってみよう。


「エヴァンさん、私ちょっと行ってきます」


私は唐突に裏世界へと入り込む。


「か⋯⋯伽耶ちゃん!急だな!

 沙羅の力⋯⋯もう使いこなせてるんだな

 どうか沙羅の無念を晴らしてやってくれ!」


裏世界に入った私は前方の20体を次々と裏世界に半分だけ引きずり込み、表世界から消滅させ、後方にいた30体がエヴァンさんに襲いかかっているところを槍で一掃した。


『おいおーい!いつの間に

 裏世界に入れるようになったんだよ!

 厄介な能力を覚えやがって!』


今の内に逃げようとエヴァンさんに連携を取るも、エヴァンさんの反応が薄い。

おそらく光線を撃ったあとの制約で眠りに入ろうとしているのだろう。

そうこうしている内にまたソナリスたちが大量に集まってきて、私たちを囲む。


今度は100体はいるだろうか。

とにかく想定外の数だ。


大量に集まったソナリスは全員が興奮状態で呼吸が荒い。

ソナリスを見ていると、私はある事に気づいた。


「あいつ⋯⋯あいつら⋯⋯

 お前らはいつも、私を苛つかせる!!」


大量にいるソナリスの中に、顔見知りがいたのだ。

学校の女教師やクラスメートだ。


「ふっふっふっふっ!

 伽耶ぢゃんじゃぁぁぁぁあん!

 美味しくじまじょ!ね!?

 一緒に美味しくじまじょぉぉぉおお!」

「お"い"!あいづ!ブザイグだぞ!

 捕食対象!ブザイグゥゥウウ!」

「いえぁああああああああ!

 貪り食うぞぉぉぉおお!」

「骨の一片ずら残すなっ!

 教室であんな美味じぞうな匂い放っでだんだ!」

「ごりゃどんでもないごぢぞうになるぞ!

 ぎゃばっ!ぎゃばっ!」

「ぎだぁぁぁ!

 初めで捕食ざれぢゃいまじだシリィィィズ!

 ごれは流行るぅぅうう!」


私を怒りを抑え、冷静になり、両手を強く握り全身に力を入れる。

すると邪神から命令が放たれる。


『ソナリス!その2人を食えぇぇぇ!

 跡形も無く食い尽くせぇぇ!』


一度に100体以上のソナリスが襲ってくる。

私はなんとかなるかもしれないけどエヴァンさんが心配だ。

そう感じた私はエヴァンさんの手を握る。


手を握った途端、何故かエヴァンさんの眠気が解消されるのを見て驚愕した。


「え、伽耶ちゃん、あれ、まだ外⋯⋯俺もう起きたの?

 待って、伽耶ちゃんずっと戦ってたの!?」

「エヴァンさんの手を握ったら目覚めました!

 エヴァンさんが寝てからまだ5分も経っていません!

 ソナリスの攻撃、来ます!」


エヴァンさんが立ち上がると私は握った手を強く持ち、まるでタンゴを踊るかの如く槍で攻撃をし、敵の攻撃を避ける。

エヴァンさんと共にしゃがみ、跳ね飛び、時に前転や後転をして華麗に舞い殺す。

敵に隙ができると槍で突き、薙ぎ払い、2人で戦場を駆け抜けソナリスの頭を次々と踏みながら槍を下方に突き抜ける。


「槍!しゃがむ!槍!槍!後ろ避ける!」


もう槍を何本投げたのだろう。

ソナリスを倒せば倒すほどその数が増えてきている気がする。


するとやっと女教師とクラスメートの集団が襲いかかってきた。


「がやちゃぁぁぁぁああああああん!

 いだだぎまずぅぅうう!」

「ぶざいぐぅぅうう!

 ふどもも食わぜろぉぉぉおお!」


あなた達は特別。

そう、特別コースを味わわせてあげる。

これが数年一緒に過ごしてきたソナリスへの、せめてもの手向けの言葉だと思って受け取って。


「鵺さん、ちょっとだけ離れます」


私はまず、裏世界へ移動する。


「ががが!がやちゃん!どご!

 急にいなぐなっだんだげど!」


裏世界から表世界のソナリスたちがいる中央に超音波の玉を設置。

超音波の玉から出る音響放射力を使って、周囲の空気を一点へ収束させ、そこに強力な気流を発生させる。

こうすると散り散りになっている敵を一箇所にまとめられる。


「ぎゃぁぁぁ!なに!この風!引き寄せられる!」


ソナリスたちが一箇所に集まったら全方位から槍を放つ。

100本放っても突き刺さらない。

皮膚の硬度が以前よりも随分と上がっているようだ。

槍を200本、300本と放つと、ようやく突き刺さるようになった。


「なんだよ!なんなんだよ!

 めちゃくちゃ槍が刺さってくるんだけど!

 この槍なんだよ!

 いでぇぇよぉぉおお!がぁぢゃぁぁぁん!」


そこで私はやっと表世界に戻り、女教師やクラスメートの様子を伺う。


「が⋯⋯がやちゃん、先生にこんな事しちゃ駄目でしょ」

「おい!ブサイク!この槍!早く抜けよ!」


槍が刺さって元気な者もいるが失神している者もいるようだ。


「エヴァンさん、ごめん!個人的な復讐を果たすから!」

「あ、ああ!沙羅を殺された今、

 伽耶ちゃんの復讐を止めるつもりはない

 だけど!やるからには後で後悔しないようにするんだ!」

「はい!」


私は復讐心に囚われている。


「ねぇ、みんな⋯⋯」


私は静かに語りかける。


「なんだよ!ブサイク!」

「なに見下してるんだよ!」

「伽耶ちゃん!先生ね!

 伽耶ちゃんの事大好きなの!

 だからここから逃がして!」

「そ、そうだよ!

 俺らもお前の事が好きでさ!

 ごめんて!逃がして!」

「好きだと意地悪しちゃうじゃん!

 ごめん!」


私は怒りを両拳に集約させた。


「だから⋯⋯

 好きな子には優しくしろって!

 言ってるでしょうがぁぁぁ!」


私の怒りの鉄拳が女教師とクラスメート目掛けて炸裂する。

鉄拳と言っても槍の柄の部分だ。

あんな硬い皮膚を素手で殴ったら一溜まりもない。

だから槍の柄の部分でぼこぼこに殴りつけてやった。


「あと、お前らが好きなのは

 私じゃなくて!

 私の肉でしょぉぉがぁぁぁ!

 私!自身を!

 好きじゃない!くせに!

 好きだとか!軽々しく!

 言うなぁぁああ!」


私は女教師とクラスメートが気絶するまで殴り続けたが、先生はまだ意識があるようだ。


「か⋯⋯伽耶ちゃん

 暴力は⋯⋯良く⋯⋯ないわ⋯⋯」

「うるさい!あんたが言うな!

 それと、先生⋯⋯

 やっぱりその口紅、似合ってないから!」

「そ⋯⋯そん⋯⋯な⋯⋯」


暴力は良くない。

でも他人の痛みが分からない者がいるのも事実。

他人の気持ちが分からない者には、同じ事をやり返して思い知らせる事も時には必要なのでは無いかと、私は思う。

精神論だけでは解決しない事もあるのだ。

と、自分自身に言い聞かせ正当化したつもりになった。


そうこうしている内に朦朧として寝そうになっているエヴァンさんと手を繋ぎ直す。


「おっと、終わったかい?」

「はい!多分、1人も死んでません!」


エヴァンさんは目を見開いて苦笑いしている。


「復讐の対象って⋯⋯

 あの串刺しの肉団子みたいなやつ?」

「はい!」

「あれ!みんな死んでるように

 見えるんですが!」

「死んでません!大丈夫!

 ソナリスは案外頑丈なので!」

「あ、ほんとだ、少しピクピクしてる」

「でしょー?」


すると女教師やクラスメートの後ろに隠れていたソナリスたちが襲いかかってきた。


「あああ!きりが無いな!」

「本当に!どれだけいるんですかね!」


さすがに対処しきれなくなってきたその時、1体のソナリスがパイナップルでも入ってしまいそうな大きな口を開けて私の顔の前にまで迫っていた。


「やばっ⋯⋯」


まずい、さすがにこの距離はまずい!

手元にある槍を上に向けて下から突き上げようとするが間に合わないような気がする。

でもやらないとまずい、そう考えていると横にいるエヴァンさんが大きな声で「アナムネーシス!」と叫びながら、目から光線を出し私の目の前にいたソナリスを撃ち落としてくれた。


するとエヴァンさんのアナムネーシスを受けたソナリスは体の不調を訴えるかのように倒れ込みもがき苦しみだした。

絡み合ったミミズのように地べたでのたうち回っている。

口から黒と橙が混ざったような液体を大量に吐き始めると肩にあった腕が少しずつ体内に埋もれていき、

発声器官となっていた目の部位は歯が抜け落ち、舌も腐り落ちたかと思うと眼窩の奥で粘ついた組織が蠢き、赤黒い肉が絡み合いながら球体を形作り、いつの間にか眼球が形成されていた。


「すっご!エヴァンさんの力、

 凄すぎです!まさか本当にソナリスを

 人間に戻せるなんて!」

「ふふん、そうだろ?

 この力で何人か人間にしてきたからね

 でも今までソナリスだった方からは良く恨まれたよ

 目玉のある人間にしやがって、ってね?」

「ああー、この世界って、

 ソナリスでいるのが普通ですからね

 それもこれもあの目玉タコのせいですが!」

「ああ、あいつめ、空から見下していい気なもんだよ」

「あの位置から叩き落してやる!」

「それと伽耶ちゃん、悪けどもう少し

 手を繋いでおいて貰えないかい?」

「手を繋いだら起きた、という事は

 眠くないんですよね?」

「ああ、何故か眠くないんだよ

 伽耶ちゃん、

 何かそういう力持ってたっけ?」

「いえ?

 私の力は時間の移動、歴史への干渉、

 対象の弱点サーチ、記憶の保存、

 それと生物のサーチ、

 あとは沙羅さんの力の裏世界を見て出入りできる⋯⋯とか

 そんな感じですね」


「もしかして歴史への干渉じゃないか?

 例えばAの道筋をBの道筋に

 書き換えられる、という解釈なら

 俺の力を何度でも使用できるように

 書き換える事だってできるかもしれない

 あくまで俺に都合の良い考えだが⋯⋯」

「エヴァンさん!途中でごめん!ソナリスが!」


辺りを見渡すと100体以上のソナリスが襲いかかってくるのが見える。

私たちまで10メートルに迫る距離だ。

私が必死に槍を投げる中、エヴァンさんの目を見ると赤い光が一点に集光していた。


「伽耶ちゃん!

 もしこの力を伽耶ちゃんの影響で

 何度でも使えるなら遠慮なく撃ちまくれるって事だ!

 今までやった事は無いが、遠慮無く撃ってみるよ!」


次の瞬間エヴァンさんの目から発射された大量の光線は分裂しながら全てのソナリスを捕捉しており、決して外れることのない。

誘導弾と化していた。

その光線は余すことなくソナリスを撃ち抜き数百体はいたであろう狂乱者たちは地面に倒れ込みのたうち回った後、全員異形化が解け、人間の姿に戻る事となった。


『だぁぁぁああ!なんだその力は!

 折角おもしろ生命体にしてやってるんだから

 人間に戻しているんじゃあないよ!

 つまらん!つまらん!

 お前らが勝ってどうするんだ!

 もう!お前らの悲鳴とか裏切りとか

 絶望とかそういうのをユーザーは

 求めてるんだからさ!空気読めよ!』


目の前にいる全てのソナリスを人間に戻したエヴァンさんは、邪神を睨む。


「アナムネーシス!」


邪神に向けて放たれた超弩級の光線は邪神の眼前まで届く。

邪神はすかさず触手で防御を試みるも邪神の触手はあっけなく闇へと戻り、光線は邪神の眼球を見事に貫いた。


『ああぁぁぁぁあぁああああぁ』


邪神は力を失い崩れ去っていくように見えるも、視線が勢い良く私たちを捉えた。


『だぁあかぁあぁらああああ!

 これは吾輩の分体で、

 死にはしないのだよ

 いくら抗っても無意味だぁぁあああ!

 無意味無意味無意味ぃぃぃいいい!

 じゃっはっ!じゃっはっ!じゃっはっ!』


邪神は尚も私たちを侮る色を崩さない。

すると邪神はぴたりと止まりゆるりと告げる。


『お前達の目から出る光線

 まさか神の力の一旦か?

 それをどこで手に入れた?

 イナンナ⋯⋯アガルタと関係があるのか?

 まずはお前らを捕獲して

 手足を切断した後

 脳に触手を溶け込ませて

 時間をかけて記憶を覗いてやろう

 この蟻の如き大群に耐えられるかな?』


世界が赤く染まる時に一緒に出現した謎の光を触手で指差す。


『ポータル!

 あれは世界に繋がっている!

 世界中のソナリスをここに呼ぼう!

 さあ!吾輩からの命令だ!

 世界中のソナリスよ!

 吾輩の眼前にいるエヴァンと伽耶の2人を

 捕獲して吾輩の元へ連れてくるのだ!

 時は今!』


命令を受けた世界中のソナリスが

光の球体から這い出てくる。

「グェアアアアアアアアアアアア!」


10⋯⋯100⋯⋯1000⋯⋯10000⋯⋯


一体どれだけのソナリスが出てくるのか⋯⋯この数に私たちは圧倒された。

そもそも世界中にこれだけのソナリスがいた事にも驚きを隠せなかった。

「エヴァンさん!この数はさすがに捌けないでしょ!」

「ああ、ちょっとまずいかもしれない!

 だけどやれるところまでやってみるさ!」


ポータルと呼ばれる光の球体から這い出てきたソナリスたちは海へぼちゃぼちゃと落下したかと思うと海の上をトビウオのように跳ねて崖に飛びつくと、崖をチーターのように俊足で登り切り私たちの前に現れた。

それは押し寄せる波のようだった。


「槍!槍!毒!音!」

「アナムネーシス!アナムネーシス!」


私とエヴァンさんはソナリスの波を片っ端から攻撃する。

しかし私たちのスタミナを気遣いもせずソナリスたちは襲い来る。


「もぉぉぉおお!いやんなっちゃう!

 私、これでも中学3年で本当は遊び盛りなのに、

 なんでこんな事になってるの!

 友達いないから一人遊びだけどさ!」

「そうだなぁ!こんな事してないで

 本当は遊んでいてほしいもんだ!

 凄いナイスアイデアがあるぞ!

 世界が正常になったら遊び放題だ!

 どうだ!素敵だろ!」

「エヴァンさん⋯⋯

 それって邪神倒さないとじゃないですか!

 倒すつもりでしたけど

 本体がどこにいるかも分からないのに

 正直ちょっと打つ手が無くて困ってます!

 そのアイデアで何か思い浮かびませんか!」

「ナイスアイデアはあるぞぉ!

 ナシアの本、覚えているか?」

「はい!記憶しています!」

「本の中の最後のほうに書かれていた内容だ!


 ”そして、あの神の名前が分かったら後は狭間に行き、

 モンキーオーキッドという花を辿っていった先に神の核がある。

 その核の前で名前を言ってやれ。

 この時が神を倒す唯一のチャンスだ。

 狭間への行き方は自分で調べろ。

 確か知っているじいさんがこの施設の中にいたはずだ。”


 ナシアがあの本を書いた時期はかなり前だ!

 だからそのじいさんとやらが生きているとは思えない⋯⋯

 つまり運が良ければその情報は子孫に引き継がれているが⋯⋯。

 今までそんな子孫を見かけた事は無い!」

「でも確認するにしても

 エヴァンさんたちがいた地下施設に一旦戻らないと!

 だけどその前にこの大群!

 攻撃しても攻撃しても数が減らない!」


私たちの攻撃を尻目に、敵の猛攻は止まらなかった。

私は無我夢中で槍を投げ続ける中、多くのソナリスの中にお母さんの姿を発見してしまう。

でも既に私の槍は手を離れ親の胸元へ迷いなく飛翔する。

私は咄嗟に両手を左に払いのける。


「駄目ぇぇえ!」


すると高速で飛んでいた槍は私のお母さんを避けるように弧を描いて後方へと落ちていった。


「エヴァンさん!ごめん!

 あの辺にも光線放って!」

「ああ!任せろ!」


私は家族に対して何の思い入れも無い。

これは紛れもない事実だ。


産まれた時から今まで家族にはほとんど相手にされず家族の愛を感じた事もない。

実家ではほとんど無視されていた。

でも暴力を振るわれた訳でも無いし、かなり怪しいが一応食事らしきものも用意はされてきた。

私のような今の時代における異端であっても最低限生きる選択を与えてくれていた。

それを考えれば憎む気にはなれなかった。


エヴァンさんの放った光線を受けた母は徐々に異形から人間へと姿を変えていき、今までは音で見てきた世界を眼球で見る事ができる状態に驚きを隠せない様子だった。

しかし母は後ろから迫る大量のソナリスに巻き込まれて、その姿は一瞬にして消え去っていった。


「今!私のお母さんがいたの!」

「ああ、それで光線を!」

「はい!散々槍で殺してきてるのに

 自分の家族だけ、光線で助けてもらうなんて

 私ひどい人間ですかね?」

「いや!状況が状況だ!

 操られて錯乱したソナリスから

 身を守るために抗っているんだ!

 仕方ないさ!

 気にしないで自分が生きる事を

 第一に考えるんだ!」

「はい!ありがとうございます!」

「あと、顔見知りがいたら

 そっちに光線を撃つから教えてくれ!」

「はい!」


女教師とかを人間に戻すのは後にしよう。


大波のように迫りくるソナリスの群れを槍で貫き、薬品で燃やし、音で弾き飛ばす。

しかし人というのは上を見ない。

特にこのような切羽詰まった状況では上を見ないものだ。


まさか自分たちの真上にポータルが設置されているとは思いもしなかった。

押し寄せるソナリスを押し返していると真上から雄叫びが聞こえてきた。

私とエヴァンさんは素早く見上げると大量のソナリスが降ってくる。


「危ない!」


この状況にエヴァンさんが咄嗟に私を抱えて横に避けると、避けた先には地面が無く、私たちは崖から飛び出し海へと真っ逆さま墜落していった。


「し⋯⋯まったー!伽耶ちゃんごめん!」

「きゃぁぁぁあああ!」


私たちは勢いよく落ちていき、運の悪いことに下は海ではなく、岩礁だった。

このままだと本当に死ぬ!

崖まで距離がありすぎて槍も届かない。


私は目に力を入れて光線を放つ事で落下の勢いを殺そうとした。

目に力を入れ、集中する。

まだ自在に出せないから不安だけどやるしかない。


ところが目の前に迫ってくるのは岩礁では無く、突然、見慣れた扉が空中に出現した。

私たちを受け止めるように扉が開き、私たちは吸い込まれるように扉の中へ落ちていった。

読んで頂きありがとうございました。

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