第13章 切望と絶望 ~伽耶の記憶~
ー3003年ー 新宿某所
心底嫌いなあいつが話しかけてきた。
姿はまだ見えないが、私がこの邪神と面と向かって対峙するのは、恐らくこれで2度目だ。
1度目は2003年の記憶を見ていた時に私を強制的に排除した声の主、声の感じからしてあれは邪神の仕業だろう。
邪神はいくつもの世界線、時間軸に存在すると聞いた。
きっとその影響で私の事も当然知っているだろう。
そして、この邪神は気になる事を言っていた。
”ようこそ!3003年へ!”
私が向かったのは3001年だ。
今は3003年なのか?
私の時代である3001年から2年もずれてしまっている。
アガルタさんが間違えるとは思えない。
そうなってくるとおそらく仕掛けてきたのはこの邪神だろう。
何より、3003年という事実が問題だ。
大問題だ。
歴史書にはこのように記述されていた。
”この歴史書に記された出来事は、未だ完結に至らぬ世界の記録である。
3003年、神の黄昏が沈み堕ち誠の慈愛が成就するとき、世界は初めて真の完成を迎える。”
そして歴史書はこの3003年以降の歴史を刻んでいない。
つまりこの後の世界が記録されていないだけなのかそれとも世界が存在していないのか⋯⋯大体そんなところだろう。
私は白々しくも邪神に返事をする。
「あら?初めまして、かしら?
なんで私の双子の姉の名前を
知っているんですか?」
『じゃーーはははは!
とぼけても無駄だぞ!
斑鳩伽耶!お前はどの世界線でも双子ではない!
とぼけても無駄だ』
「そう、それで、偉大な神さまが
私如きになんの御用ですか?」
『⋯⋯おい、伽耶、2つ頼みがあってな』
「嫌です、お断りします」
『おいおいおい、
まだ何も言っていないだろう
何故警戒する?』
「あなた相手に警戒しないほうがおかしいのでは?」
『へぇ⋯⋯斑鳩伽耶⋯⋯
この世界線ではそこそこ肝が座っているな
まあ、聞いてくれ!
なあ、イナンナって分かるか?』
「ん?イナンナ?
いえ、聞いた事はありません」
『そうか⋯⋯
それならば⋯⋯アガルタって聞いた事ないか?
アガルタという場所、
もしくはアガルタという人物を知らないか?』
な⋯⋯なぜアガルタさんの名前がここで?
私は平静を装って答える。
「いえ、知りません」
『そうか⋯⋯知っていたらどこにいるのか⋯⋯
いや、どこから会いにいけるのか
教えてもらいたかったんだがな』
「そうですか、知っていたら
お教えする事もできたかもしれないですが
お役に立てず残念です⋯⋯」
『お主ぃ⋯⋯心が詠みづらいな⋯⋯
では、本当に知らないのか今から確かめにいくぞ?』
「え⋯⋯」
空から地響きのような雷のような轟音が聞こえてくると、私の真上の空が渦巻き始めた。
激しい突風と稲光と共に空を覆う超大な目玉が現れ、私を見下ろしている。
『やあ、伽耶、直接会いにきたぞ
さあ、本当にアガルタを知らないのか?』
「え⋯⋯ええ、知りません
それにしてもでかい目ですね
そんなにでかいと乾いたりしないのですか?」
『お主ぃぃい⋯⋯知っているな?
お前は今、嘘をついているだろう
心を詠めなくとも、言の葉の真偽くらいは分かるぞ
吾輩を侮るなよ?』
とても良くない状況だ。
神を侮っているつもりはない。
しかし邪神相手に分が悪い。
『 [真実を話せ] 』
「そう言われましても
知っている事なんて無いので
知らないものは話せません」
『なに? [真実を話せ] 』
「だから知りません」
『なぜ効かない!』
「え?」
『やはり何か知っているな!
吾輩の洗脳が効かないなぞ
普通ならありえない事だ!』
こいつ、今 私の事を洗脳しようとしたのか。
「だから知らないって言ってるじゃないですか」
『その腰の鞄か
その鞄、アガルタの作った物だな?
それが吾輩の力を無効化しておるな!
ぬぬぬぬぬ!アガルタ!いや、イナンナ!
破滅の箱になって少しは
吾輩の命令を聞くようになるかと思えば!
全く変わらんでは無いか!
お前は!もう我輩の所有物なんだ!
吾輩に忠実にしていればいい!
何故いちいち邪魔をしてくる!
ゆるさんぞぉぉおおお!』
邪神の咆哮で大地と空間に衝撃が走る。
『ぬぁぁぁあ!
イラつきが収まらぬ!
それならもう一つの頼み事を言うぞ!
斑鳩伽耶!
この世界線のお前はさっさとこの世から消えろ!』
「それこそ無理な話です!
なんの義理があって消えなければならないんですか!」
『ぬぬぬぬぬぬ!
斑鳩伽耶ぁぁぁぁあああ!わがままな奴め!』
この邪神にだけは言われたくない言葉だ。
『どいつもこいつも言う事を聞かぬ!
お主ら人間はナシアを見習え!
もういい!
まずは吾輩の触手をお主の脳にねじ込み
アガルタの情報を引き出す!
そのまま脳をシェイクして吸い尽くしてやる!』
空から無数の触手が私に降り注ぎ、一瞬の出来事にも関わらず私は横に飛び退いた。
相変わらず私の足は反射的に脅威の脚力を見せてくれる。
「あ⋯⋯あぶない!危なかった!」
『避けるな!虫けら!』
次々と襲いかかる触手を私は全力疾走で避けた。
触手がどこに来るのか直感的に分かる。
これはアーカーシャヴィジョンの力?
正面、左右、上から来ると見せかけて地面の下から、様々な方向から触手が襲いかかってくる。
『ぬぅぅぅううううう!何故あたらん!
お主!何かずるい事をしているだろう!』
「いえ、たまたま避けられているだけです
神さま⋯⋯
もしかして当てるの下手なんじゃないんですか?」
すると邪神の目玉が細くなり、笑っているような目玉になった。
『じゃははははー!ならば吾輩もズルをするぞ!
見てろよ~~斑鳩伽耶~~!』
性懲りもなく邪神の触手が私目掛けて降り注ぐ。
しかし無駄だ、全ての触手の軌道は把握している。
お前がどれだけ攻撃してきても避けてみせる。
私は触手を避け続けて邪神の攻撃は一生かかっても当たらない自信があった。
でも、その幸運も長くは続かなかった。
触手の1つが私の左腕を削ぎ落としてしまう。
「うああああぁぁぁぁあぁあぁ!
わ⋯⋯私の腕!あああっ!血が!」
『じゃーーーはははははーー!
あたったー!
あたったぞぉぉぉおお!
どうだ!吾輩のステルス触手は!
音も匂いも気配も無く襲いかかる!
吾輩!無敵なりぃぃいいい!』
「い⋯⋯痛い⋯⋯けど、こんな痛み!
いつも自分の首で味わってる!
私はすかさずエイラちゃんを思い出す。
「エイラちゃん、力を貸して!治療!」
治療と唱えると目の前に瓶の薬品が現れ、中には緑色の液体が入っている。
触手をかわしながらもふと考える。
削ぎ落とされた腕とか⋯⋯再生できるよね?
回復薬を飲もうとしていると、どこからか現れた触手で右足までも貫かれてしまい、足を失ってしまった。
「いったぁぁあああ!
ああああああぁあぁぁぁぁぁ!
まずいまずい!早く飲まないと!」
回復薬を一気に飲み干すと瞬間的に失った部位が生えて、本来の姿へと戻った。
「凄い凄い!エイラちゃんの薬凄い!」
『なに!なんだその力!お前人間だろ!』
「人間だから何!あんたは神さまの癖に
人間をおもちゃ扱いして、ださいじゃん!」
『ださっ⋯⋯ぬぐぐぐ!
神だから人間をおもちゃにしているんだろうが!
特権だよ!特権!
この面白さが分からないとは⋯⋯所詮、猿か!
人間などと大層な名前などいらぬ!
お主たちは猿だ!
いい加減!吾輩の!触手を受け入れろ!伽耶!』
「嫌です!その無駄に多い触手!
自分に挿し込んだらいいじゃないですか!
ご自慢の触手でしょう?」
『ええい!減らず口を叩くやつだ!』
私は尚も触手を避け続ける。
『この!虫けらがぁぁぁ!』
「イルルちゃん!力貸して!槍!
凄そうな槍!魔槍みたいな!」
心で槍を想像すると1本の槍が私の右手に収まっていた。
しかし、ここで予想外の事が起きてしまう。
こればかりは微塵も予想していなかった。
私と同じように、目、鼻、口のある人間の子どもがいる。
ソナリスでは無い、人間の子どもがいた。
こんな場所に人間の子どもがいるという事は私と同じように探検する事が好きな子どもだろうか?
この場所はアガルタさんの屋敷のすぐそばであり、ここから少し北に行けば私の実家だ。
この邪神の触手による猛攻で大地が激しく揺れ、何が起きているのか気になって地上に出てきてしまったのかもしれない。
気がつけば人間の子供が数人⋯⋯5人ほどが崖を登ってきて地上に立っている。
私は子供たちに間髪入れず危険を知らせる!
「駄目!ここにいちゃ駄目!早く戻って!」
子供たちは私の声に気づいて逃げようとするが、邪神は決して見逃さなかった。
『吾輩が見逃す訳がないだろう
しかも人間がこんなに⋯⋯
あれだけ変異させたのにどこから湧いて出てきた』
激しい音と共に子供たちの目の前にはいくつもの触手が突き刺さり、まるで一つの巨大な壁のようになって子供たちの行く手を阻む。
『まずはこのガキどもから始末するか』
「やめて!」
『知らん』
邪神の触手が容赦なく子供たちに降り注ぐ。
「やめろって⋯⋯言ってるだろぉぉおお!」
私は手に握っていた槍を子供たちの前に立ちはだかっていた触手に向かって投げると、1本の槍が100本ほどに分散して触手は一瞬にして消え去った。
『ぎゃぁぁぁああああ!』
一瞬たりとも攻撃の手を緩めてはいけないと思い、続けざまに邪神の目玉に向けて槍を投げる。
「槍!槍!槍!槍!槍!槍!」
『おおおおおおおおお!』
私の放った何百本もの槍が邪神の目玉を貫き始めると邪神は徹底的に防御にまわり、触手で目玉を隠し始めた。
「きみたちは早く戻って!戻れる?大丈夫?」
「は⋯⋯はい!戻れます!」
私は子供たちが無事である事を確認すると、再度大量の槍を投げる。
私の腕力では普通の槍を投げても10メートル飛べばマシな方だろう。
でもこの槍はちょっと力を入れて投げるだけで重力が無いかのように飛んでいき、狙った目標物に誘導するように軌道を変え放たれる。
このまま攻撃し続けて良い結果にもっていけないか⋯⋯私は必死に槍を投げ続けた。
「あのお姉ちゃん何者?すげー!」
「なんだよあれ!槍どこから出てるの?」
「なんかめっちゃかっこいい!」
「やっべー!」
「お姉ちゃん頑張れー!」
子供たちの声援が聞こえてくる。
「こらっ!早く逃げなさい!危ないからね!」
「はい!」
子供たちがやっと去っていった。
そして槍を投げ続けて気がついたが、邪神が妙におとなしい。
私は一度槍を投げるのを止め、様子を見ながらもう1本槍を投げる。
すると1本の槍が百本に増えて邪神を貫くと思った瞬間に、超大の触手で軽く弾かれ、逸れた槍は黒と橙の空を貫く。
貫いた空はぽっかりと穴を開け、穴の中心には青い空が輝いていた。
あの穴⋯⋯あの空⋯⋯青い空がある⋯⋯
あの黒と橙の空の上には青い空がある。
青い空をもしかしたら取り戻せるかもしれない。
そんな気持ちが湧いてきた。
しかし、そんな私の切望を絶望に引き込む声が聞こえてくる。
『じゃーはっ⋯⋯じゃはは⋯⋯じゃーっははははは!
さすがにちょっとは驚いたが⋯⋯
そんな槍、効かないよ』
「うそ⋯⋯」
『そう、全然効かない、何故だか分かるかい?』
「全然⋯⋯傷も⋯⋯負っていないのか?」
『ああ、全くな
吾輩のこの体は本体では無いからな
分身のようなものだ!
じゃーーーはははははは!』
「そんなでかい図体で本体じゃない?」
『そうだ、そして、今は3003年
吾輩の、吾輩による、吾輩の為の世界!』
「そうだ!そうだよ!
なんで3003年なんだ!
なんでよ!」
『くく⋯⋯3003年だと都合が悪いのか?
実は他の年代に来たつもりだったとか?』
「く⋯⋯」
『図星かぁぁぁ!あーははははぁ!
罠を張っていたんだよ!
3003年以外の時間軸から来る者がいたら
強制的に3003年に転送されるようにな
じゃはっ!じゃはっ!じゃはははは!
トリガーは⋯⋯』
それで⋯⋯それでか⋯⋯。
屋敷のみんなが血相を変えていたのは⋯⋯。
『さて、おしゃべりは
そろそろ終わりにしたいな、人間』
⋯⋯絶体絶命⋯⋯かもしれない。
でも考えて考えて考えて!
どうせ死ぬなら抗って死ね!私!
この邪神に対抗できる手段を考えないとまずい。
今、私の武器らしい武器は、エイラちゃんの治療と、イルルちゃんの槍と、リマちゃんの音。
この力はイメージが大事だ。
治療といえば、つまりは薬品。
毒も時には治療に使用される。
それなら治療の定義で毒も作れるはず。
西暦3000年代、アポピス菌という現在において最も強力な毒がある。
アポピス菌は、アポピス毒素とも云われており、一度体内に侵入すると血液中で増殖を続ける性質を持つ恐ろしい菌だ。
増殖した菌は赤血球や白血球を次々と破壊し、やがて血液そのものをアポピス菌で満たしていく。
やがて血液は血液としての機能を失い、血管の中はアポピス菌だけで満たされる。
アポピス菌は、捕食対象を失い、自身だけになると石化する性質を持つ。
そのため、大抵の生物はアポピス菌に侵食された時点から徐々に衰弱し、血管内のアポピス菌の割合が約50%に達した段階で、大抵の宿主は死に至る。
酸素運搬能力と免疫機能が著しく低下するため、血液がすべて石化するまで生き延びた者は、いまだ存在しない。
アポピス菌に侵食されてから死に至るまでの時間には個人差があるが、平均は5分、最短では数十秒、長くても10分程度だ。
そのような危険な毒にいくつかの毒を混ぜて、拮抗作用にならないイメージ⋯⋯。
更に相乗作用となるようにイメージして効果は邪神にのみ効くような毒。
生成⋯⋯。
『何をやっているか知らんが、吾輩が待つとでも思うか!』
邪神の触手が否応なしに私に降り注ぐ。
私は、その触手すらも紙一重で避ける。
避けながら武器となる物を生成する。
この毒を槍の先端に囲むように10個付けて、槍が刺さるのをトリガーとして轟音が鳴るように設定。
轟音の大きさは⋯⋯どうしよう。
間違えれば私の鼓膜や内蔵が負傷する可能性もある。
クラウカタ大噴火という過去の噴火で310デシベルだった。
その音の大きさは4800キロ先にいても聞こえたらしい。
それ以上の音が必要か?
でもやるしかない。
音の設定は400デシベル。
博打は嫌いだけど今は仕方ない。
イメージはまとまった!
槍の先端に轟音を付与して準備が整った。
まずは普通の槍を連投!
「私はまだ諦めないから!
そもそも!人間を見下しすぎなのよ!
神さまだからって傲慢が許されるわけ?
神も!人も!性格が全てよ!
この性悪神!
槍!槍!槍!」
『じゃーはははははは!
無駄な事を!
そんな槍は効かないと言っただろう
神と人間の格の違いを見せてやる!』
私は何度も槍を投げ放ちつつ、目立つような真っ赤な槍を1つ作った。
連投している槍とは別に真っ赤な槍を1本だけ右方向から弧を描くように投げる。
すると邪神の視線が左を向き、真っ赤な槍を凝視しているのが伺える。
今だ!
正面から投げ続けている槍に混ぜて、出来立てホヤホヤの音波の毒槍を投げ放った。
『ふん!なんだこの赤い槍は!
はじから投げれば
吾輩に気づかれないとでも思ったか!
こんな怪しい槍は、ほれ!』
邪神の目玉の前に黒い渦のようなものが現れて、その中に真っ赤な槍は吸い込まれていった。
その直後に私の背中に激しい衝撃と痛みを感じる。
「がっ⋯⋯そ⋯⋯そんな⋯⋯
これは、どうして⋯⋯」
私のお腹から真っ赤な槍の先端が突き出ている。
痛みに堪えながら後ろを振り向くと、さっきの邪神が作った黒い渦が禍々しく渦巻いていた。
「うぅぅうう⋯⋯」
私は痛みに耐えられずにその場で膝をつく。
『じゃははははは!
どうしたー!
自分で投げてきた槍だろう!
自分が貫かれているとは
これほどまぬけな事はないだろう!
じゃーはははは!』
私のお腹に刺さった真っ赤な槍が、その場で蒸発するように消えると私はすぐに回復薬を飲む。
飲んだ回復薬がお腹の穴から流れ出てくるけど、少しずつ穴は塞がり痛みも消えた。
『ぬぅぅぅぅう、その瓶はやっかいだな
何をやってもすぐ治療するでは無いか
つまらぬ!!!!』
邪神は私が真っ赤な槍で貫かれた事に意識を奪われ、私の放った大量の槍は感覚で弾き飛ばしている。
その為、槍の中に紛れ込んだ特別な槍に気づいた時には邪神の触手に深々と突き刺さっていた。
『ぬっ!なんだこの槍⋯⋯』
邪神が気づく頃にはけたたましい爆発と共に空中にドーナツ状の衝撃波が広がり、辺り一面に轟音の波が押し寄せる。
衝撃で私の体は激しく吹き飛ばされ、地面を転がり跳ね上がりバウンドしたまま回転が止まらない為、回転を止める努力をした。
「ああぁぁあああああぁぁあ!」
戦いながら移動していたせいか、気づけば実家の近くまで来ていた。
近くには子どもの頃からの馴染みの崖がある。
私は数百メートルは飛ばされたかもしれない。
吹き飛ばされる最中、衝撃で私の実家も崩れ去り、中にいた私の家族が驚いた様子でいるが、家の柱にしがみついてなんとか耐えている。
宙に浮いて飛ばされそうになっている弟の手を、お父さんが片手で捕まえ飛ばされないように掴んでいた。
私はこの家族になんの思い入れも無い。
家族だけど家族として受け入れられてこなかった。
でも、虐待されたわけでもない。
だから大切でも無いし、嫌いなわけでもない。
それでも、家族が吹き飛ばされそうになっている姿は、見ていて心が痛んだ。
私が放った槍の影響で実家が破壊され、家族が飛ばされそうになっている。
ごめん、みんな、私のせいだ。
私は吹き飛ばされながら視界から遠ざかっていく家族を見つめていた。
するとお母さんだけは私を認識している気がする。
「伽耶ぁぁぁああああああああ!」
お母さんが私の名前を叫んだ気がした。
そんな訳はない。
あれだけ無視され、邪魔者扱いされてきたんだ。
今さら自分に都合のいい妄想はやめよう。
私は罪悪感を宿したまま崖下に転落する。
まずい!
このまま落ちれば海だけど、海には謎の生物が多い。
特に、あの人間のような巨大で不気味な顔をした生物だ。
あんなものがいる海に落ちることを想像しただけでも、身の毛がよだつ。
そもそもこんな高い位置から海に落ちたら衝撃で死ぬかもしれない。
落下すればするほど勢いがついて死ぬ確率が高くなる。
早めにどうにかしないと。
下を見ると崖の途中に飛び出ていた根っこのようなものに手を伸ばして掴んでみるも、根っこはちぎれて、落下は止まらない。
もう1度根っこに手を伸ばして掴んでなんとか落下を免れた。
根っこに掴まりながら、呼吸を整える。
下はどんな生物がいるかも分からない海だ。
このままではいずれ落下して海に転落してしまう。
すると突然根っこが千切れて私は真っ逆さまに落ちる。
落ちる最中に槍を使えないか試しに出してみた。
「槍!お願い!崖に刺さって!」
見事に崖の側面に刺さり、ぶら下がる事が出来た。
槍を等間隔に刺して、上を目指すか⋯⋯。
しかし、上を目指してどうする。
上にはあの邪神がまだいるだろう。
そう考えていると邪神の声が反響して聞こえてきた。
『伽耶ぁぁぁ!
小賢しい真似をしおって!
さっさと死ねばいいのに何を粘っている!
おい人間!
くそ!なんだこれは!
目が見えにくいぞ!』
さっき放った毒か轟音かが聞いているのか?
少しは効果があったように思える。
そう、この状況で上に向かっても屋敷も消えてしまって
どうなっているかも分からない。どうする?
「おねえちゃぁぁぁああん!」
どこからか子供の声が聞こえる。
「おねえちゃん!下!下!」
下を見ると崖の中腹から子供たちが顔を出している。
あそこはまさか、鵺さんたちが教えてくれた集落か。
私は集落があるほうの崖に落下したみたいだ。
「そっちに行っていい?」
「いいよ!早く!」
私は子供たちの言葉に甘えて中腹に向かう。
槍を何度も壁に刺して足場代わりにしながら中腹の洞窟に向かい、なんとか到着した。
洞窟に着くと子供たちが手招きする。
「おねえちゃん、こっちこっち」
右側の石を押すと何やら横長のガラス板のようなものが出てきて、そこに目をあてるように子供たちから案内を受ける。
これが事前に聞いていた仕掛けというやつか。
目をあてるとピッという音と共に横の巨大な壁が上にスライドして開き始める。
開いた扉をくぐり中に入ると、中は正方形の小さな空間で行き止まりになっている。
「お姉ちゃん、ちょっと待ってね」
するとさっき開いたスライド式の扉が閉まり、私のいる正方形の小さな部屋が突然動き出した。
「うわわわ!こ⋯⋯これは?」
「エレベーターだよ、お姉ちゃん」
「これがエレベーターか!
あの自動で上下に移動する!」
「このエレベーターは
上下左右に移動するけどね!」
「凄いね!」
「凄いでしょ!
でもお姉ちゃんのほうが凄いよ!」
「え、私?なんで、私凄くないよ」
「凄いよ!だってさっきドドドドド!
ババババ!ドガーン!って
武器投げたりしてあの目玉タコと戦ってたもん!
あんなに戦ってる人見たの、
エヴァン兄ちゃん以来だよ!」
「ええええ!私と同じくらい
戦える人見たことあるの?」
「うん、今から行く場所にいるよ
あとで紹介するね!」
「ありがとう!あとで宜しくね!
あ、自己紹介まだだったね
私、伽耶っていうの
みんなの名前は?」
「おれ!きんた!」
「わたし、あかり!」
「ぼくは、みなとです!」
「ぼくはいつきです」
「つきのはね、つきのってなまえだよ!」
「みんな自己紹介ありがとね!
これで知らない人じゃないねぇ!」
一通りの挨拶を終えると、まもなくエレベーターが目的地に着いたようだった。
目の前の扉が左右に開くと、白が基調の整った綺麗な空間にでた。
壁や地面が平らで綺麗だ。
周りには普通の服から白衣のような服を着ている人など様々な服装をしている。
しかし、なによりも驚くべきは
みんな、みんな、みんな⋯⋯目があって、首から手が生えていない、普通の人間ばかりだ!
話には聞いていたけど実際に自分の目で見て初めて実感する現実味。
今まで地上でソナリスと暮らしてきた日々が嘘のようだ。
「お姉ちゃん、こっちきて!」
あかりちゃんときんたくんに連れられて通路を進むと奥の部屋に辿り着いた。
部屋には「村長」と書かれている。
「そんちょー!凄い女の人連れてきた!」
「凄いの!かっこいいの!」
「ええい、ちょっと待て待て!」
がちゃりと扉が開くと白髪に白ひげのおじいさんが現れた。
「こりゃ!きんた!なんじゃ!
またいたずらじゃないだろうな!」
「ちがうよ!そんちょー!見て見て!」
「ん?こちらのお嬢さんは⋯⋯」
「あ、初めまして!斑鳩伽耶と申します!」
「おお、斑鳩さん⋯⋯はて?伽耶?
わしは村長の山影っつーんじゃ
我々の集落へようこそいらっしゃいました
ここはセクターアークと呼ばれています
とりあえず中にお入りください
ほれ、お前達はもう他で遊んでなさい」
「ええええ、お姉ちゃんの話聞きたい!」
「わたしも聞きたいです!
お姉ちゃんの話!」
「斑鳩さんと真面目な話をするから
みんながいたら気が散るだろう」
「やだー!聞きたいー!」
「あの、私でしたら、構いませんので!」
「大丈夫ですか?迷惑では無いですかね?」
「いえいえ!全く問題ないです!」
「お前達!斑鳩さんの邪魔したりしないように
静かにしてるんだぞ!分かったかいの!?」
「はーい!」
「いやぁ、斑鳩さん、騒がしくて申し訳ないねぇ
もっと落ち着いて話できれば良かったんじゃが」
「気になさらないでください」
「それで⋯⋯斑鳩さん⋯⋯
あなた⋯⋯どこから来たんですか?」
「私はこの集落の上にあるソナリスの家に生まれて
そこで家族と約15年間暮らしてきました」
「15年間?じゃあ斑鳩さん
中学3年生位かい?」
「はい、学年で言えば中学3年です」
「随分大人びて見えるねぇ」
「あ、そうですか?
早く大人になって自立したいと
常日頃思っていたので嬉しいです!」
「そうだよなぁ、こんな世界じゃ
うちらみたいなのは差別されるからの」
それでどうやってここを見つけたんだい?」
「そんちょー!お姉ちゃんすげーんだぜ!」
「かやお姉ちゃん凄いの!ドドドド!」
「ん?凄い?ドドドド?」
「うん!上で目玉タコ相手に
槍とか使って対等に戦ってたんだぜ!」
「お前ら!また地上に出たのか!
あれほど出るなって言っとろうが!」
「だってー!
建物の中にずっといるの不健康だし!」
「あのな、外だって不健康なんだよ
あんな空の下にいても、なんにも良い事は無い
太陽でも出ているなら別じゃがな
分かったか!
次勝手に外に出たらおやつ抜きじゃぞ!」
「わかったよ、我慢するよ」
「はーい」
「まったく、結局斑鳩さんとの話が中断されてしまったな」
「いえいえいえ!」
「ところで、この子たちの言っていた槍?
とはなんですかな?
もし良ければ見せてもらえませんか?
見せられるようなものですか?」
「あ、平気ですよ
あの一応武器なので、急に槍を出して
取り押さえられたりしないですか?」
「おっふぉっふぉ!大丈夫じゃよ!
こちらがお願いしておるんじゃから
安心して出してくだされ」
「それでは遠慮なく⋯⋯」
私は槍をイメージするとテレポートするように槍が現れ、私の手の中に収まっていた。
「おおおおお!すげー!かっこいい!」
子供たちがはしゃぐ。
「これは⋯⋯もしかして他にも何か出せるんですか?」
「あ、今出せるのは、槍と薬と音ですね」
「薬と⋯⋯音?」
「はい、えっとぉ⋯⋯少し長くなりますけど私の話聞かれますか?」
「ああ、もちろんじゃ」
私は事の顛末を話した。
この世界に人間として産まれた事、
ソナリスたちと生活してきた事、
屋敷の事を大雑把に説明した。
ただし、アガルタさんや鵺さん、女の子たちの事はあえてふわっと伝えた。
まだこの集落の人たちが本当に信頼できる人たちなのか分からないからだ。
もしかしたら元シェルフドッグの研究員や末裔がいて悪巧みを企んでいる可能性だってある。
この村長である山影さんだってまだ味方だと断定できない。
それまでは詳しい事まで話すのは控えよう。
「なるほど、そういう事なのですな
ふむ、その力の事は
まだどこで得たものなのかは
お話できない⋯⋯それも当然ですな」
「え、ご納得頂けるんですか?」
「だって斑鳩さん、わしらまだ出会って
数十分ですぞ
まだ知り合いというほどでもない
それなのに同じ人間だからとあれこれ探るのも失礼じゃし
斑鳩さんの話されない決断は賢明だと思いますぞ
暫くして信用に値すると判断されたら
少しずつ他の事も話してくだされ
ここは閉鎖的ではあるから、新しい話は刺激になるんですじゃ」
「はい、そのようにさせていただきます
ご理解いただきありがとうございます」
「さて、それでの、斑鳩さんに会わせたい人がおるんじゃが
ちょいとよろしいかの?」
「あ、はい!大丈夫です!」
「それじゃあ、ちょっとついてきておくれ
あ、お前達はもうそろそろどこかで遊んでおれ!」
「やだー!ついてくー!」
「どこまでついてくりゃ気が済むんじゃか」
「お姉ちゃん!今から会う人がエヴァン兄ちゃんだよ!」
「あ、さっき教えてくれた強い人?」
「そうそう!エヴァン兄ちゃんも強いんだ!」
「斑鳩さん、こっちじゃ」
この集落⋯⋯もとい施設は洗練された白い壁と金属製の什器で冷たい研究施設のような趣があるけど、ところどころに置かれた観葉植物や鉢花が、暖かみを感じさせ冷たいイメージを緩和している。
部分的に吹き抜けのようになっていて、そこからはまるで太陽のような暖かな日差しが差し込んでいる。
これはどういう仕組みになっているのだろう?
それに集落と聞いていたからもっと質素で木や土壁の住宅をイメージしていたけど、余りにも想像とかけ離れていた。
こんなにも発展している施設が人間の居住区だとは⋯⋯。
これではソナリスたちの生活が余りにも原始的過ぎて比較せざるを得ない。
私の今までの生活は何だったのだろう。
◇◇◇
「エヴァンさん、今少し良いですか?」
村長が一人の外国人に話しかける。
「はーい!村長!
ご飯一緒に食べましょー!」
金髪イケメン発見!
正直なところ、人間は外見では無く中身だと思っている。
でもイケメンは性別問わず眼福ですな!
「いやぁ、すまないね、
食事のお誘いじゃないんじゃよ」
「オーーーー、残念です」
「こちら、斑鳩伽耶さんじゃ」
「ハーイ!カヤ!
カヤ?んーー?カヤ?
あ、俺はエヴァンダー・ヘロンって言います
みんなはエヴァンって呼ぶんで
宜しくでーす!」
「あ、宜しくお願いします!」
大きな手で握手を求められたので握手を仕返したらエヴァンさんの手が大きすぎて、私の手が爪楊枝のように感じてしまった。
「それで村長
こちらのラブリーな女性とはどのようなご関係で?」
「あー、エヴァンさん
斑鳩さんも能力を持っているんじゃよ」
「⋯⋯オーマイガッ!
彼女も力持ってるんですか!
どんな力ですか!
ちなみに俺の力はアナムネーシスって言って
異形化を解き正常化させる力です」
「異形化を解く!ええ!ソナリスを
人間に戻す事ができるって事ですか?」
「オーーーーーー!
理解が早いですね!その通りです!
ただ、ソナリスだけじゃないかな
世界には正しい形というものが
あるらしくてね
その正しいラインから
ズレている存在なら元の形に戻せます」
「えええ!興味がでますね、その力⋯⋯
じゃあ、正しくない形の存在は
見れば分かるんですか?」
「残念だけどそういう力はないんだ
俺の力は単純に正しい形に戻すだけだよ」
「へぇ⋯⋯その力を使えば
世界中のソナリスを
人間に戻せるじゃないですか!」
「いやぁ、そんなに都合の良いものでも
ないんだよね
俺の力は一度使うと半日は寝てしまうから」
「やはり何かしらの制約があるんですね⋯⋯
エヴァンさん、一つ聞いてもいいですか?」
「なんだい?伽耶ちゃん」
「そ⋯その力、いつどこで使えるようになったんですか?
あ、こちらの話は隠している部分もあるのに、
私ばかり質問してすみません、村長さん」
「おっふぉっふぉっ!構わんよ」
「ああ、それは子供の頃⋯⋯
いつ頃かは余り覚えていないけど
この施設の入口は崖になっているだろ?
あそこから落ちてさ、海に真っ逆さま」
「え⋯⋯ええええええ!
あの海に落ちたんですか?
大丈夫だったんですか?」
「まあ、結果助かったけどさ
海に落ちてもがき苦しんでいると海水を飲んでしまってね
もう駄目だ!って思ったらさ
海中なのに、目の前に屋敷があるんだよ」
「屋敷⋯⋯」
「ああ、バカな話だろ?
話半分で聞いてもらっていいよ
海の中に屋敷があるなんて
自分で話していても作り話のように感じるくらいだしさ」
「いえ、そういう偏見はしない主義なので
私は大丈夫ですよ」
「おっ、ありがたいねー
それで目の前の屋敷の屋根のところに
煙突のような穴が開いていてさ
そこに吸い込まれたんだよね
気がついたら屋敷の中の書庫みたいな部屋でさ
そこは息もできるし置いてある本も楽しくてね
暫く居座ってしまったんだよ
その時に一冊の本を読んでね
それ以来、この力を使えるようになったんだ」
「その本の装丁って黒ベースに金色などの
装飾がある本じゃなかったですか?」
「そうそうそう!
確かそういうカバーデザインだったね
伽耶ちゃんなんで知ってるの?」
「私もそのシリーズの本を読んだからです
エヴァンさんの入った屋敷って
地下室がありませんでしたか?」
「あったあった!細かいところまでは
覚えていないけど地下室はあったよ!」
「他にもミイラみたいな手を
見た記憶はありませんか?」
「見た見た!見たよー!おばけがいてさ!
たまにスッと出てくるんだよね!
怖くて逃げ回ってたよ!」
やはりそうだ。間違いない。
エヴァンさんは一度、アガルタさんの屋敷に迷い込んでいる。
屋敷で特殊な本を読んだから力を手にしたんだ。
エヴァンさんと私の出会いは何か運命じみたものを感じる。
ここに人間の集落があると教えてくれたのは鵺さんだけど、その情報源は間違いなくアガルタさんだ。
アガルタさん、私とエヴァンさんが会う事を願ってこの集落⋯⋯施設を教えてくれたのかもしれない。
偶然にしてはタイミングが良すぎるもんね。
「あのエヴァンさん
色々と教えて頂いてありがとうございます
私も少し情報を提供させてもらいますね
エヴァンさんが入った屋敷はアガルタという場所です」
「アガルタ⋯⋯アガルタ!?
それに伽耶ちゃん⋯⋯なるほど⋯⋯
アガルタと聞いてなんとなく思い出したよ
伽耶ちゃん、本当に実在するなんてね
きみもその力をあの屋敷で手に入れたのかい?」
本当に実在?
何の事を言っているのだろう。
「はい、それで私が手に入れた力は
時間移動、歴史への干渉、記憶の保存
対象の弱点サーチ、
それと最近生物のサーチ能力も使えるようになったので
全部で5つの能力が仕えます
ただ、使い方が良く分からないものも多いです」
「盛りだくさんだな!」
すると村長の山影さんが問いかけてきた。
「斑鳩さん、あなたの力は
槍と薬と音なのでは?」
「あっあー、勘違いさせちゃいますよね!」
槍などの力については借り物である説明をした。
「なあ、伽耶ちゃん」
「はい?」
「きみ、最強じゃないか?」
「いやいや!エヴァンさんこそ
凄い力持っているじゃないですか!」
「僕のは制限がある
でもきみは制限が無いのだろう?
その上、時間も移動できてサーチも出来て
槍などの攻撃手段もある、最強だろう」
「私もメインの力は制約ありますよ?」
「え!制約あるの?」
「はい、く⋯⋯首がもげます」
「はぁぁぁあああ?」
「い⋯⋯斑鳩さん、それは死ぬのでは?」
エヴァンさんと村長が目を丸くして驚いている。
「はい、死にます
初めて使った時、びっくりしました」
「いやいや!
伽耶ちゃん、生きてるじゃん!」
「どうやって生き返ってるのじゃ!」
「お見せする機会があったら見せますよ!」
「ちょっ!気になるなー!」
エヴァンさん、村長、私の3人で話をしていると、1人の女性が会話に加わる。
「ふふふ、みんな楽しそう」
「よお、沙羅!」
髪が黒と白のとても綺麗な女性がエヴァンさんの横にきて語りかける。
「話に割り込んでごめんなさい
ねえ、あなた、そちらの素敵な女性を
紹介してくださらない?」
「ああ!彼女は斑鳩伽耶ちゃん、
あの伽耶ちゃんだ
俺たちと同じような能力持ちだ!」
「えー!同じ力持ってるんですか!
仲間だ!嬉しいです!」
女性が飛び跳ねて私の手を握りとても喜んでいる様子が伺える。
「伽耶さん、初めまして
わたくしは白鴉紗羅⋯⋯
はくあさらって言います
仲良くしてくださいね
白いカラスって書いて白鴉です!」
「あ、私こそ宜しくお願いします!」
「それで、わたくしのいないところで
みんな何を盛り上がっていたんですか?」
エヴァンさんがすかさず答える。
「いや、盛り上がっていたっていうと
伽耶ちゃんに失礼になるけど
伽耶ちゃんが力を使うと
制約で⋯⋯首がもげるらしく」
「首が⋯⋯もげ⋯⋯」
ばたり
「沙羅ぁぁぁああああ!」
「ごめんなさい⋯⋯
あまりのパワーワードに
気絶しかけましたわ」
「ちょっと刺激強かったよな
ソーリーソーリー」
「伽耶さんお見苦しいところを
見せてしまいましたね
わたくし、都合が悪くなると気絶するんです」
凄い特技だな!
沙羅さんも交えて今までの話や先程までの話を続けた。
「あの、皆さん、ちょっと宜しいですか?」
「斑鳩さん、なんですかな?」
村長の目を見ながらこの施設について問いかけた。
「あの、この集落⋯⋯
ここっていつからあるんですか?
ソナリスもいないし
何しろ邪神に見つかっていないのが気になっています」
「ああ、この村の歴史についてかの
この村はの、2730年に
創設されたと聞いておるぞ」
「2730年!!!
世界の変異が始まった年だ」
「そうじゃな、だから今年で
創設273年記念ってところじゃな」
「もしかしてこの村を作った方は
世界や人間が変異していく中
この施設を作って、このような什器なども
持ち運んだ、という事になるんですか?」
「そうじゃな、そんなところじゃろ」
「あれだけの騒ぎの中
一体どうやって⋯⋯みんな体の変異で
身動きも取れない状況だったはず⋯⋯
しかもこんな崖にこれだけの機材を⋯⋯
いやいや、難しいでしょ
機材搬入用の装置でもあったのかしら⋯⋯」
「あああ、この施設はの
元々、もっと広かったんじゃよ
随分前の話らしいが周りの大地がえぐられ
崖だらけになっているのは分かるの?
あの目玉タコが定期的に暴れるからの
大地が削られ穴だらけになっておる
この村もその被害にあってしまったから
入口がさも崖にあるような感じに
なっておるが、元々は
地上に入口があったんじゃよ」
「なるほど、それでこんな崖の中腹に」
「そうそう、でも伽耶ちゃん
地上への出入り口はその崖以外にも
もう1つあるんだぜ」
「え!そうなんですか?
じゃあわざわざ崖から出入りしなくても
良いんですね!」
「まあ、そうなんだけど⋯⋯
どっちもどっちって感じだな」
「え?どっちもどっち?」
「あ~~~、その、もう一つの出入り口は
初代村長が罠をたくさん仕掛けていての
本人が亡くなったから罠の解除の仕方を
誰も分からなくなってしまったんじゃ」
「初代村長!引き継ぎ!何故しない!」
「なにやらあの目玉タコに
追われていたみたいじゃからの
忙しい方だったようじゃ
書物に少しだけ記述があったが
中々我が強い方みたいでの」
「一体どんな村長なんですか⋯⋯」
「ソナリスだったそうじゃ」
「ん~~~、でも人間の変異が開始されて
体が変異したあと、この村を作って⋯⋯
初代村長がソナリスっていうのは十分ありえますね
名前とか残っていないんですか?」
「初代村長の名前はナシアじゃ」
「え⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯」
一同、沈黙に陥る。
そこで沙羅さんが口を開く。
「あのね、伽耶さん
その反応を見るとナシアという人物が
何をしたのか知っているんですよね?」
「はい⋯⋯その結果
今、この世界になっているんですから」
「そうだよね
許してあげてとは言わない
でもね彼女の残した本が2つあって
一方には謝罪や後悔の言葉ばかりが記されていて⋯⋯」
「それでもあいつは邪神の手助けをして
邪神が人を殺しても邪神を褒め称え
自身が邪神に尽くす為に
自分の子供を犠牲にしてまで
700年もの間生き抜いてきたんですよ!
それを⋯⋯最後の最後に邪神に
裏切られたからといって
今度は後悔?謝罪?ふざけないでよ
笑えない⋯⋯」
「ま、伽耶ちゃんは時間移動ができるし
色々と見てきてるんだろうから
非道を直接見て許せる気になんかなれないよな」
エヴァンさんの表情が私の感情に呼応するように曇った。
「でも伽耶さん、ナシアは
この混沌とした世の中を打開する為の
ヒントを残していってるの
見てみたいと思わない?」
沙羅さんから大事な提案をされる。
それは想像を絶するほど貴重な情報だ。
「打開するヒント?」
「うん、ナシアは邪神に心酔していた
これは周知の事実
気に入られる為にどんな事でもしていたらしいわ
でも、ナシア自身が
”自分はいつでも殺されるかもしれない
というスリルがある”
と、考えていたみたいなの
そこでナシアの作った団体で
秘密裏に認識阻害の装置を作っていたの
その認識阻害の装置を
ナシアは普段から身につけていた
月のブローチの中に仕込んで
邪神に話しかける度に効果があるか試していたみたい」
「確かに⋯⋯
いつも月のブローチを付けていた⋯⋯」
「ある時、邪神がナシアを探していた事が
あったらしいの
でもその時、邪神がエイティという幹部に
ナシアの所在を聞いたそうなのよ
でもそのエイティの真横に
ナシアは息を殺して立っていたらしいわ
これがナシア初の認識阻害の成功だったみたい
その成功を元に更に改良して
認識阻害の範囲なども調整できるように
研究に研究を重ねて完成に至ったと
残された手記には記述されているわ」
この話を聞いて私はある記憶に合点がいく。
邪神が世界を変異させた時、目の前にいたはずのナシアが忽然と姿を消した。
民衆にリンチを受けた瀕死の状態で素早く隠れられるとは思えない。
あの時、認識阻害を使っていたのだろう。
「それで、この状況を打開するヒントは
その認識阻害の事ですか?」
「半分YES、この認識阻害も打開するヒントの一つ
この施設、あの目玉タコに
発見されていないと思わない?」
「あ、そうなんですよ!
それ不思議だったんです!
なんでこの施設は⋯⋯
まさかこの施設も認識阻害で隠れているんですか?」
「そう、ナシアがここの集落を作った時に
まず大規模な認識阻害装置を作ったの
それが今のこの施設を支えているわ」
「そうか、それで邪神は
ここを探り当てられないでいるのね
納得がいきました」
「それでね、この状況を打開するヒント
つまりは目玉タコを倒す方法を
ナシアは知っていたの」
「邪神を倒す方法!?
いや、確かに⋯⋯過去の映像で
邪神からそのような話を囁かれていたけど
あれの事ですよね⋯⋯名前⋯⋯」
「邪神を倒す方法⋯⋯
それが事実なのかは分からないわ
何と言ってもそのヒントが解けないから
真実である証明はできていないの」
「邪神がナシアに嘘を教えている可能性も
捨てきれないですしね」
「ええ、だけどナシアが邪神を倒す方法を
この施設に残しているわ」
「この施設にあるんですか!私にも見せてください!」
「ええ、見せるけど手強いかもしれないわよ」
「それでも見せてください!
見てみないと判断もできないので!」
「村長、伽耶さんを案内するけどいいかしら?」
「おお、構わんぞ、見せてやってくれ」
「分かりましたわ、では伽耶さん
こちらの部屋までついてきてください」
「ヘイ、俺もいくぜ」
「ぼくたちもいくー!」
「お姉ちゃんに着いていくー!」
「おまえらはいい加減、別の場所で遊んでおれ!
ほれ!解散解散!」
「えーーーー!村長のけちんぼー!」
「白ひげもじゃもじゃまじんー!」
「かー!礼儀がなってない!まったく!」
私は沙羅さんに連れられて施設の奥へ奥へと移動し更に階段を下りる。
目的地へ向かう道中、沙羅さんが興味津々で話しかけてきた。
「ねえねえ!伽耶さんって好きな人とかいないの?」
「え!きゅ⋯⋯急ですね!
私、こんな世界なんで恋愛とか
恋心を抱いた事がないんですよね」
「そっか!それならこれからだね!
ここの施設の中も男たくさんいるから
意中の相手が見つかるといいね!」
「は⋯⋯はい!
恋愛か⋯⋯ちょっと自分が
恋愛している姿が想像できなかったんで
なんか変な気分です
恋愛の話をしているのが⋯⋯」
「なによー!お年頃なんだから
恋バナに恋愛の実現!楽しまないと!」
「そうですね
沙羅さんは好きな人とかいないんですか?
そういえばエヴァンさんの事を
”あなた”って言ってましたよね?」
「うん、エヴァンはわたくしのハニーよ
彼氏であり夫でありパートナーなの!
ね?あなた?」
「おう、愛しの相手だけど
命の恩人でもあるからな
お互い好き合ってる運命共同体ってとこだ」
「命の恩人?
こういうプライベートな事
ズケズケと聞くものでも無いと思いますけど
沙羅さんがエヴァンさんを
助けた事があるんですか?」
「イエース、さっき伽耶ちゃんに
力を使えるようになった話をしただろ?
あの時、海に落ちたら
沙羅が海に飛び込んで
俺を助けようとしてくれたんだ」
「ええ?あの何がいるかも分からない
海の中に飛び込んだんですか!」
「そうなのよ、わたくし助けようと
無我夢中で後先考えず飛び込んだから⋯⋯
飛び込んでから思ったの
しまった!助けてもどうやって登るんだ!
って、あの時は焦ったわぁ」
「良く助かりましたね⋯⋯」
「伽耶ちゃんが教えてくれたけど
あの屋敷、アガルタだっけ?」
「はい、アガルタです」
「アガルタには沙羅も一緒に行って
沙羅も力を手に入れたんだよ」
「えええええ!沙羅さんもですか?」
「はーい!わたくしも力持ってます!」
沙羅さんは鼻息を荒くして誇らしげで自慢げな顔をしている。
「この力持ってる人ってそんなに
ポンポンいて良いものなんですかね?」
「ああ、たまたまだよ
この施設でもこの力を持っているのは
沙羅と俺の二人だし、
むしろ俺たち以外に力を持っている人は
初めて見たから
こちらこそびっくりしているんだ」
「お互いにびっくりしてますね
ってさらっと言ってますが凄い事ですよ!
結局二人でアガルタに行ったあとは⋯⋯」
「あのミイラの手が怖くてね
逃げ回っていたら正面の大きな扉から
外に飛び出てしまったんだよ、2人してね」
「あああ⋯⋯」
アガルタさんが悲しんでいそうな姿が安易に想像できる。
「そうしたら、また海の中に出て
これはまずーい!と思ってさ
海中の底には巨大な人間の顔した
化け物が静かにこちらを見ているし
死を覚悟したね」
「そこで、わたくしが力を使って
目から出したビームの力で
この施設の入口まで戻ってきたんです」
「沙羅さんの力⋯⋯
ん?この力を手に入れた人って
みんなビーム出せるんですか!?」
「今のところみんなビーム出せるかもね
あ、ちなみになんだけどぉ
わたくしの力はねー、裏の世界を視る力
名前はヴェイルサイトって言うらしいわ」
「裏の世界って⋯⋯なんですか?」
「この世にはね、表の世界と
裏の世界の二つが重なりあっているの
今、私たちがいるこの世界は表世界
そして裏世界は、すぐ隣にあるけど
人間には到達できない最果てに存在する
概念と存在の形が違う世界なのよ」
「ん~~~概念と存在の形が違う世界⋯⋯
いまいちピンとこないですね⋯⋯」
「そうねー、例えばこの世界に
たくさん咲いている極彩色の花
あるでしょ?」
「はい⋯⋯」
「あれをヴェイルサイトで視ると
今まで亡くなった生物の死体なのよ」
「生物の死体?」
「そう、表の世界では花に見えても
裏の世界で視える形は死体
動物や人間、死の概念がある生物の
全ての死体が積み上がって視えてるの」
「それってもしかして
こちらの世界で花が一輪あった場合
それは死体が一つ転がっている事と
同義という事ですか?」
「そうね、ただ、その辺りの花は
ただの花よ
あくまで極彩色の花の事ね」
「ちょっと気になったんですけど
今の世界って人が亡くなると
突然消えますよね?
あれはもしかして、消えてるんじゃなくて
花になってるんですか?」
「そうそう!良く気づいたわね!
その辺一帯に花が咲き乱れているから
気づきにくいと思うけど
この世界では人は死ぬと花になるの
でも条件付き、死体として残っているのは
誰か一人でも死体を見ている時までで
死体を見る視線が一つも無くなると
途端に極彩色の花 ”禍津花” に変異するわ」
「つまりあの花、全部死体なんじゃん⋯⋯
私⋯⋯昔、興味本位で食べちゃった」
「ふふ、人間あるあるね
わたくしも食べましたわ
ひどい味でしたわね
腐った肉のような味」
「なんか気持ち悪くなってきました⋯⋯」
「気持ち悪くなるよなー
俺は人間の死体だって聞いた後に
花を食べた勢だ!
想像以上にやばかったな、あの味は
まあ、そんな事もありつつ
海で沙羅に助けられてから
俺はすっかりゾッコンでね
アタックしまくってOKをもらったんだよ
おっと、しつこくはしなかったから
そこは勘違いしないでくれよ」
「へぇ~、いいなぁ、お二人の関係
とても素敵だと思います!」
「へへへ、ありがとな、伽耶ちゃん」
「ええ、ありがとう、伽耶さんにもきっと
素敵な相手が見つかるわ」
「はい!でも今は
この状況が落ち着いてから⋯⋯かな」
「そうねぇ、でもどんな状況でも
チャンスがあったら逃しちゃ駄目よ~
ねえ、また恋バナしましょ!
やっぱり友達同士でこういう話は楽しいわ!」
「はい!チャンスは逃さないように
できるだけ頑張りますね!
是非また恋バナしましょう!
私は友達がいなかったから
友達ができて、凄く嬉しいです!」
恋バナの後、廊下を進み暫く歩くと、一つの資料庫に辿り着く。
「沙羅さん、ここの部屋ですか?」
「ええ、ここの資料庫の突き当りの場所
あなた、そっちお願いね」
「Got it.」
2人は扉の両端のパネルに手をあてた後、網膜スキャンというものを行い重みのある扉が開く。
扉の厚みを見て驚愕する。
この扉や壁の厚さはおそらく50センチ以上はあるだろう。
かなり厳重な仕様になっている。
そして、私は部屋の中央を見て、おどろおどろしい物を目にし体中に鳥肌が浮き出た。
「これは⋯⋯」
「ああ、これがナシアだ」
中央には液体の入ったガラス張りのカプセルが置かれており、中には大量の腕を持つ生物が入っている。
本来、目である部分は口のようになっており、ナシアと思われるソナリスの心臓付近からは赤い石が飛び出ている。
「これが⋯⋯ナシア?
この液体はPFC⋯⋯
いやさすがにホルマリンか⋯⋯
あの、これがナシアですか?」
「ああ、この方がナシアさんじゃ」
「世界が変貌する時、
確かに人間全てを変異させていたけど
ナシアは姿を消していたから
変異する瞬間を確認できませんでした」
「そうだねぇ、この方がナシアだという証拠は⋯⋯
正直無いかな
なんといっても何百年も前の話だからね」
「伽耶さん
この異形体が持っていた本を見てみて
さっき伽耶さんの話聞いて
すぐにこの本を思い出したの
今、開けるから待ってね」
ナシアと思われる異形体の手前には金庫が置いてあり、沙羅さんはすぐさま解錠すると中に入っていた一冊の本を私に渡した。
「これは⋯⋯」
表紙には手書き文字で
”トリックスターのカテナポルカ”
と、タイトルが書かれている。
「トリックスターの⋯⋯カテナポルカ?」
「道化師の因果の舞踏、ってところだろう
英語、ラテン語、チェコ語を使っているね」
「中を読めば分かるわ
伽耶さん、まずは読んでみて」
私は本を開き、1文字も見逃すまいと食い入るように読み始めた。
読んで頂きありがとうございました。




