第12章 反撃の狼煙 ~伽耶の記憶~
ー3001年ー 深淵の屋敷 地下室
「もう⋯⋯さいっあく⋯⋯」
私は苛つき、静かな怒りを秘めていた。
世界と人間が "私の良く知らない健全な世界" から "私の良く知る混沌の世界" に変異するその瞬間を見てしまった今、想像以上に不快で苛立ちを覚える内容だったと感じている。
ただ、今は体が疲弊していてまともに座ってもいられない。
横を見ると私と同じく息切れをしている鵺さんが寝転んでいた。
2人共、最初は血まみれだったけど少し時間が経つと血は消えていた。
すると鵺さんがおもむろにひとつの疑問を投げかける。
「とりあえずはお疲れ様⋯⋯だけど⋯⋯
ねぇ、伽耶ちゃん⋯⋯うちらさ⋯⋯
頭がさ⋯⋯首からもげ飛んだよね?」
私は一度知らぬ顔してそっぽを向くも、結局おずおずと頷いた。
「いやさ、伽耶ちゃんは
その能力使う時っていつも頭吹き飛んでるの?
そんな訳ないよね?」
「いえ、いつも大体、頭が吹き飛んでます
そもそも目からビームを出した事自体
経験が少ないですけど⋯⋯」
「ええ!いつも頭吹き飛んでるの?
僕初めてだよ!頭吹き飛んだの!
いつも僕は力使っても頭吹き飛ぶ事ないもん!
しかもなに!?
握手しただけじゃない!
握手しただけで共鳴したかのように能力発動するじゃん!
そんな事で能力発動しないと思うんだけど!」
「頭吹き飛ぶ吹き飛ぶって余り連呼しないでください!
グロいです!」
「え、あ、うん?あ、ごめん?
いや、実際頭吹き飛んでるし、事実としてグロくない?
というかなんでお互いに首くっついてるの?」
「それは⋯⋯永遠の謎でして⋯⋯
いつも力を使った後、何故か首が繋がってるんです」
「そっかー⋯⋯それなら仕方ないねぇ⋯⋯」
「はい⋯⋯仕方ないです」
「仕方無くないけどね!?
もっと不思議に思おうよ!
なんで繋がってるの!
なんで僕ら生きてるのさ!」
「だって、うちらの事を見張ってる人がいないから
分からないじゃないですか!
生きてるのは事実ですし、とりあえずいいかな⋯⋯と」
「あばうと!!!
あー!伽耶ちゃん、あばうとおぶじ大雑把!
おじさんね、そういうとこ気になるの!
それにね、今この状況で
見ていたであろうお方がおそらく2人います!
おじさん知ってるよ!」
「はっ!そうだ!アガルタさんとフレイヤ様!」
「そう!そのお二方!
直接聞けばいいんだよ!
先に⋯⋯アガルタさん、います?」
カラ~ン
アガルタさんが鈴の音で返事をする。
「アガルタさんさ、僕たちの首が吹き飛んだの見てました?」
カラ~ン
「おおおおおお!」
2人して驚く。
やはり事実として私たちの首はもげていたのだ。
「アガルタさん、ちょっと聞きたいんですけど
僕たちの頭が吹き飛んだ後に
どうやって首が繋がって生き返ってるのか
原因を知ってたりしますかね?」
鵺さんが問いかけるとアガルタさんが妙な動きをし始めた。
レンガの壁をなぞり始めたのだ。
「アガルタさん、それ、何してるの?」
すると指で四角になぞった壁が上下に開き、真っ暗な空間が現れた。
すると暗い空間がちらつき始めて映像が流れ始める。
その映像には、第三者視点で地下室を捉えた光景が映っている
「これ!鵺さんと私!」
「アガルタさん⋯⋯
セキュリティばっちりじゃないですか!」
2人して関心していると私たちが握手をして、頭が痙攣するシーンから始まった。
「あ、やばいやばい!グロそう!
絶対頭吹き飛んじゃいそう!」
「吹き飛ぶんだよ!知ってるよ!
グロいから安心しなさいよ!」
すると案の定2人の首はもげ、吹き飛んだ頭が激しく回転しながら地下室に転がり、鵺さんと私の首から大量の血が流れ出てくる。
「ぎゃぁぁあああああああ!」
「ぎょわぁぁぁあああああああああ!」
地面に血溜まりが出来始めた頃、そこからわずかな時間で異変が起きた。
鵺さんと私の体の首付近がなにやらモゾモゾと動いている。
「え、なにあれ⋯⋯私の体、首のとこ動いてるんだけど⋯⋯」
「伽耶ちゃん⋯⋯僕の首も⋯⋯食道付近?
なんか膨れてきたんだけど⋯⋯」
2人で映像に釘付けになっていると2人の切断面、食道の辺りから干からびた黒い手が勢いよく飛び出してきた。
「ぎゃぁぁぁああああああ!なんじゃこりゃー!」
お互いの首から飛び出した手は何かを探るように伸びて、それぞれの体に合う頭を見つけると頭を掴んでそのまま引きずり私の体には私の頭を、鵺さんの体には鵺さんの頭を取り付けた。
取り付けた後、切断面は青白く光り、じんわりと首は治癒されてしまった。
干からびた手は私たちの体の中に消えていった。
そして、あの干からびた黒い手、とても既視感がある。
「もしかして、アガルタさんが生き返らせてくれたの?」
アガルタさんは渾身のサムズアップを放つ!
「アガルタさんありがとう!え!じゃあなに?
アガルタさんがいない状態でこの力を使っていたら
私死んでいたって事?」
「伽耶ちゃん⋯⋯」
鵺さんが合掌している。
「鵺さん!なんで祈ってるのよ!
縁起悪いからやめっ!まだ生きてます!
失礼ですよ!
それにしてもアガルタさん、蘇生までしてくれてたのか⋯⋯
なんかいつもありがとね、感謝しきれないし、
恩が溜まるばかりで返せてないや」
アガルタさんが気にするなと言っているかのように手の平を広げてひらひらと振っている。
「アガルタさん⋯⋯
こんなおじさんの事も
ついでに生き返らせてくれてありがとねぇ」
鵺さんは鼻水を垂らして感謝を伝えた。
アガルタさんが右腕の上腕二頭筋をアピールしながら左手でペチペチ叩いているその様は、「まあね、腕がありますから!」という主張にも見えた。
でも、もしかしたら「もっと頑張れよ!鵺さんよ!首が千切れないように筋肉鍛えろよ!」と激励しているのかもしれない。
真実は闇の中。
あれ?という事は私が初めて歴史書見て頭が吹き飛んだ時も、アガルタさんが首を繋いでくれていたのか!
普通に命の恩人なのですが⋯⋯。
アガルタさんに足を向けて眠れません。
まあ、アガルタさんはこの屋敷自体だから、どっち向いて寝ても絶対アガルタさんに足向けちゃうんだけどね。
◇◇◇
程なくして女の子たちが目覚め始めた。
目覚めた女の子たちはまるで熟睡してすっきりしたような表情であくびや目をこするなどしながら起き上がり始めた。
「みんな~~~~!おはよ~~~~!」
私はみんなを優しく抱きしめる。
女の子たちはまだ少し夢の中にいるかのような反応だが確かに目覚めた。
それだけで十分だ。
「目覚めるって聞いてはいたけど
自分の目で見るまではやっぱり不安で⋯⋯
みんな起きてくれて良かったぁ⋯⋯」
「うん、心停止とかしていたから不安にもなるよね」
「みんなオレンジジュース用意するから
良かったら飲んでね」
と言った途端にアガルタさんがオレンジジュースとコップを用意してくれた。
「アガルタさんありがとう!助かります!」
女の子たちは少しずつジュースを飲んだりゆったりして、体が本調子に戻ってくるのを鵺さんと一緒に待った。
数時間するとみんなの体調はすっかり元通りになって駆け回っている。
そこにすかさず鵺さんが語り始める。
「それではおじさん、少し大事なお話をします」
鵺さんが珍しく真面目なふりをしている。
「ふりじゃないから!真面目だからっ!」
大事な話ってなんだろう⋯⋯。
「みんな起きたばかりですまないけど
1つだけ手伝ってほしいんだ
伽耶ちゃんとおじさんに力を貸してくれないかな?」
女の子たちが首を傾げておじさんを⋯⋯鵺さんを見つめている。
「西暦3000年の世界はとても大変な事になっています!
それはみんな分かってるよね
伽耶ちゃんからすれば滅茶苦茶な時代を終わらせたいだろうし
僕からすれば子孫の世界を少しでもマシにしてあげたい
女の子たち、きみたちは⋯⋯まあ
僕と伽耶ちゃんがこれからも守っていきたい
そう思ってます!」
「うんうん、守っていきたい!」
「そしてアガルタさんの事情も実はあります
だから、みんなで楽しく
素敵な未来を過ごしていく為に対策をしなければいけません
絶対にやらなければならない事が1つだけあります!
そのやらなければいけない事はとても体力を使います」
鵺さんは柄にもなく大事そうな事をみんなに力強く伝えている。
「伽耶ちゃん、近い内にまた目から
あのビームを発射してほしいです!」
「えぇぇぇええ!首もげますけどぉぉぉ!」
「そこを!なんとか!」
鵺さんが懇願してくる⋯⋯先祖の頼みというのは断りにくいものだ。
しかもなにやら重要な事みたいなので不満顔で承諾した。
「女の子たち!
伽耶お姉ちゃんが目からビームを発射してる時に
みんなの力を貸してほしい!」
「良くわかんないけどわかったー!」
「大丈夫、お姉ちゃんはわたしたちが守るぅ」
「ちからかすー!」
女の子たちは快諾しているが
少しだけ心配になったので鵺さんに問いかける。
「鵺さん、一応確認ですけど
女の子たちには私みたいな⋯⋯なんていうのかな⋯⋯」
「グロかったり痛かったりする事がないのかって?」
「そうそう!そこ心配してたの!」
「無いよ!
もし痛かったりグロかったりする事があったとしても
それは伽耶ちゃんだけだから大丈夫!」
「大丈夫じゃないっての!」
「よっ!死に上手!」
「嬉しくない嬉しくない!
ぜんっぜん嬉しくないよ!
死に上手とか褒め言葉でもないし!」
鵺さんはニタニタと笑いながらアガルタさんにも話しかける。
「アガルタさん⋯⋯
アガルタさんは分かってると思うけど
時がきたら宜しくお願いします」
アガルタさんはOKサインを出しているがたまに思う事がある。
きっと鵺さんとアガルタさんは私の知らない事を知っている。
おそらく私にはまだ言うタイミングでは無いから共有していないか、または言う必要が無いか⋯⋯。
どちらにしてもアガルタさんや鵺さんの戦いが別にあるのだろう。
それを無理に聞くのも無粋だ。
だから私はあえて色々聞かないでおこうと思った。
いつか勢いで聞いちゃうかもしれないけど。
鵺さんが話を続ける。
「それじゃ今日から数日間は休んで⋯⋯
この時間経過の無い屋敷の中で
数日間って矛盾してるよね⋯⋯
アガルタさん、地球時間で3日経過したら
鳴るようなストップウォッチみたいなのあったりする?」
「え?どの時代の物でもいいから
時計を持ってくればいいんじゃないんですか?」
私は興味本位で聞いてみた。
「伽耶ちゃん、そっか、この屋敷の中に時計持ち込んだ事ないもんね」
「はい、無いですね」
「アガルタさん、もし可能だったらどこかの時代の時計を
1つ持ってきてもらえたりしませんか?」
カラ~ン
アガルタさんの承諾した鈴の音が聞こえる。
暫くするとオーブンの扉が開きそこから時計が2つ出てきた。
「おお、アガルタさん気が利く!
1つはデジタル時計でもう1つはアナログ時計か!」
鵺さんは2つの時計を持ってテーブルの上に置いた。
みんなで時計を見ていると、アナログ時計は長針や短針が何十本にも増えて、全ての時を指しているように見える。
デジタル時計は常にデジタル表記の部位が全て点灯していて、何月何日何時何分なのか何一つ分からない。
「これは⋯⋯使い物にならないですね⋯⋯」
「そういう事、この屋敷で唯一困るのは時間の概念なんだよ
この屋敷の中は
正確には時間が止まっている訳じゃないんだよ
屋敷にいる間は外の時間に動きが無いだけで、
この屋敷にはこの屋敷独自の時の流れがあるんだ」
「だから料理もできる?」
「ご明察!
そう、時が止まっていたら
おそらくコンロの火は点かないだろう
でも火は点くし、水だって流れる
それはここが外界とは隔絶されている
特別な空間だから、とでも認識してほしい」
「なるほど、だから外界の時計は対応できない
ってところなんですかね」
「そうだね
それと時間を計る上で料理くらいだったら
アガルタさんお手製ストップウォッチがあるんだけど、
さすがに3日とかになると
対応している時計とかストップウォッチを
屋敷の中で見た事ないんだよね」
「確かに⋯⋯
キッチンのストップウォッチ使わせてもらいましたけど
あれアガルタさんお手製なんですね!」
アガルタさんがウキウキしながら両手でピースをしている。
アガルタさんって相変わらずかわいい動きするよね。
すると鵺さんが提案をする。
「アガルタさん、1階の窓って様々な時代の
色々な場所の風景を映せると思うけど
そこの窓にどこかの時代の時計を
映しておくことってできないですか?
そうすればこの屋敷の中でも
時間の経過を見る事ができるかな、と思いましてね」
アガルタさんは考える間も無く、人差し指を立てて何かを言いたげなジェスチャーを披露している。
「お?何か妙案でも?」
「鵺さん!アガルタさんが何かしようとしてる!」
アガルタさんが両手の人差し指をくるくる回している。
くるくるくるくると。
「一体なんのジェスチャーだ!」
「わからないけどきっと何かしてくれそうな予感!」
少し間を置いてから、アガルタさんがオーブンに勢いよく指をさし始めた。
「おっ!なんだ!」
更に追加するようにアガルタさんの腕が10本くらい出てきてオーブンを尚も指さしている。
「まさかー?このオーブンにー?」
「まさかまさかのーーー?」
私たちはオーブンの前に屈んで期待に胸を膨らませる。
するとオーブンが激しく揺れ始め チーン! という音と共にオーブンの扉が開く。
パパパパッパパー!
そこには出来立てホヤホヤのアガルタさんお手製ねこ型ストップウォッチDXが入っていた。
「おおおおおお!ストップウォッチだ!」
「しかもねこ!」
鵺さんは手に取りあれこれと操作を始めること数秒で歓喜の声を上げる。
「これ!数日間の計測もできるストップウォッチです!」
一瞬で作ってしまうんだからアガルタさんは凄い。
「アガルタさん相変わらず凄いすごーい!」
腕組みをしてやりきった感を醸し出しているアガルタさんは今日もとても輝いている。
「アガルタさん、いつもありがとうございます!
ではみんな、アガルタさんに作ってもらった
このストップウォッチで3日を設定します!
なので3日間休みましょう!
このストップウォッチが鳴ったらお休み終了!
お休みが終わったら
1つだけさっき話した事を手伝ってください!
では終わり!休もう!休もう!」
「やすもー!」
「ねよー!」
みんな休日モードに入った。
私はクールな面持ちで考える。
3日後にまた頭吹き飛ぶのかー、と。
顔はクール、心は涙。
ああ、いたいけな少女は今日も今日とて波乱万丈。
私の平穏の日々はいつ訪れるやら。
とほほ。
◇◇◇
その後、疲れた体を癒やす為に食事、適度な運動、睡眠、読書、みんなとの談話、屋敷の探検、など様々な活動をおこなっている内にいつの間にか3日が経過してしまった。
アガルタさんのお手製ストップウォッチから
「にゃおっ!にゃおっ!にゃおっ!にゃおっ!」
と、かわいい猫の泣き声が鳴り響いている。
まさかのにゃんこボイス!
「やあ、みんな休めたかな?」
鵺さんは相も変わらずいい人そうな笑顔で挨拶をする。
笑顔をこれだけ振り撒いて胡散臭くないのだから凄いものだ。
「さて、みんなにお願いしていた事を
今からおこないます!とても重要です!
でも力みすぎないように!」
鵺さんは何をしようとしているのだろう。
説明はあるだろうけど自分から聞いてみた。
「鵺さん、今から何をするんですか?」
「そこの説明を先にするね
みんなこっち来て
こっそり教えるから」
「なぜに声小さめ?」
「まあまあまあ
これからアガルタさんに
別次元の2024年に繋いでもらいます
そこで破滅の箱で
初めて換魂の儀式をおこなおうとしている
ナシアの両腕を吹き飛ばし
ナシアの横にいた僕の膝も吹き飛ばします」
「へぇ~~、へぇ⋯⋯⋯⋯へぇ⋯⋯
あれやったのあんただったのかーい!」
「元々は別次元の伽耶ちゃんがやったんだよ
僕はそれと同じ事を提案するだけ」
「ええ?そんな事できるんですか?」
「できるんだよ、きみがね?
僕は補助するだけさ」
鵺さんが手のひらをこちらへ向け、私を示した。
「ええ?私が?別次元の私では無く?」
「そうそう、今の伽耶ちゃんがね?」
「責任重大なんですけど!」
「大丈夫大丈夫、あのオーブンあるでしょ?
あそこから好きな時代好きな場所に
繋げる事ができるのさ
アガルタさんの協力は必須だけどね」
「前々から思っていますけど
ここの屋敷、凄すぎません?
アガルタさん、何者なんですか?」
「ああ、アガルタさんの凄さは
計り知れないものがある
全てアガルタさんのおかげだよ
アガルタさんが何者かは⋯⋯
まあ、それは一段落してからだね~」
「愛しのアガルタさんの事を
根掘り葉掘り聞きたい!」
「ストーカーは嫌われるぞ~」
するとアガルタさんは2本の腕で私をそっと抱きしめてくれた。
「きゃー!アガルタさーん!大好きー!」
「アガルタさーん⋯⋯伽耶ちゃんに甘くしちゃうと
この子、歯止めが効かなくなりますよ~?」
アガルタさんは力強く親指を立ててくれた。
「伽耶ちゃんがストーカーになったら
アガルタさんの責任でもあるんですからねー」
「大丈夫です!アガルタさんのファンだけど
抑える部分は抑えます!」
「まったくほんとかね
伽耶ちゃんの将来が心配でならないよ」
鵺さんが呆れ顔でいる。
大丈夫、鵺さん。
私はそこまで危ない人では無いです!
ちょっと気持ち悪いだけですから!
「それでだ、悪いけど話戻すよー
このオーブンとか上の正面玄関とかってさ、
好きな時代に繋げられるんだよ
でも、このオーブンからだと
視覚的にナシアの腕を狙う事が難しいから⋯⋯」
「あ、ちょっと待って⋯⋯
視覚的に狙うのが難しいのはなんでですか?」
「えっと、オーブンの中は
直でナシア達のいる現場に繋がるわけでは無いんだ
オーブンから繋ぐのは
隠密性が高い接続になる事が理由だね」
「へー、ナシアとかに気付かれにくいんだ」
「そう、上の扉とかで繋ぐと直接現場に繋げられるけど
その分、気付かれる可能性はかなり高いね
というか眼の前に誰かいたら絶対気づかれる
でもこのオーブンからだとあの邪神にも気付かれない」
「おおおおお、なるほどぉ」
「その分、オーブンの中は
ワームホールみたいになっているんだよ」
「はい!鵺さん!ワームホールってなんですか!」
「あ⋯⋯書庫でその辺りの知識は得ていなかったか
えっと時空の穴⋯⋯折り曲げた近道⋯⋯ん~~~
遠い場所に一瞬で行く事ができる穴、って感じかな?」
「つまりその穴は先が見えない?」
「そう、そうそうそう
つまりそういう事だね
だから女の子たちの力を借ります」
私と女の子たちは、黙って話を聞き続けた。
「まず伽耶ちゃんは目から光線を放ってもらいます」
「とほほほ⋯⋯あい⋯⋯」
「オーブンの奥、遥か彼方に向けて放って欲しいんだ」
「あい」
「伽耶ちゃんは何も考えず光線を放ったら
女の子たちは、みんなの力を伽耶ちゃんに
ぎゅーーーーって送って!」
「ぎゅぅぅぅぅうううう!」
女の子たちが鵺さんの真似をしている。
「みんなの力を伽耶ちゃんに送る事で
伽耶ちゃんの光線の威力が増大するのと
光線に介入⋯⋯ビームをいじる事ができるから
みんなでビームを使って悪者を退治しよう!」
「おーーーーー!」
「あの⋯⋯鵺さん、簡単に言いますけど
私、ビームなんて自在に出せませんよ?」
「ビームは出せるさ
出す方法があるんだけど、先に教えておく?
それともぶっつけ本番いきなりやっちゃう?」
「鵺さん、心の準備もあるので先に教えてください」
「先に教えたら心の準備が重くなるよ?
大丈夫?僕はぶっつけ本番で
きみに嫌われたとしても
ビームを出させようとしてたけど」
「先に教えてください!是非!」
「ははは、分かったよ
仕方ないな~~~」
なんだか、いらり。
「ビームを放つ条件はいくつかあるんだ
例えば歴史書や別時間軸への移動のきっかけを
伽耶ちゃんが得る事であったり
自身の生命に危険が及んだ時⋯⋯とかね?」
「ちょっとまてーい!鵺氏!
まさかぶっつけ本番で私のかよわい命を
奪おうとしてたんじゃないでしょーね!」
「ははは、まあ、アガルタさんが
復活させてくれるだろうし
平気でしょ?」
「いやいやいや、あぶなーい!
先に聞いておいて良かったぁぁぁあ!
平気か!平気じゃないか!
そこを判断するのは私です!
私自身の事なんですから!
今後は、どんな理由があっても
いきなり殺したりしないでくださいね?
どうせ生き返るから死んでもいいじゃん⋯⋯
なんて!そんな訳ないから!」
「ちょっと突拍子もない話だったよね
気持ちが先行しすぎちゃってたよ
いやぁごめんごめん」
「あっぶなー⋯⋯
たまに鵺さん怖いっす
私の先祖、ぶっとんでるわー」
「それじゃ、話を続けるよ?」
「さらっと次に進むのね
どぞどぞ、説明続けてください」
「では、伽耶ちゃんにビームを出してもらう為に
僕は伽耶ちゃんを瀕死にします」
「あい⋯⋯はぁ⋯⋯やだやだ⋯⋯」
「すまないね、そしてビームを撃ってもらったら
運命の乙女メイちゃんはビームを
2つに裂けるイメージをしてね」
「かしこまりました、その任、かならずや遂行しまち」
「その後ビームの誘導は僕がやるから
ビームがナシアと過去の僕に当たるタイミングを見計らって
過去の僕だけを破滅の箱の中に引きずり込んでほしい
合図は出すから
これは神の意志レレちゃんにお願いします」
「異論はないよ、レレちゃんがんばるー」
「アガルタさんは箱の中に入った過去の僕を保護して
α世界の屋敷に送ってほしいです
あ、伽耶ちゃん
α世界はいくつかある世界線のひとつの事ね」
「なるほど、補足どうもです」
「緊張してるな?」
「殺されかける事が分かってて
緊張しない方がおかしいですって!」
アガルタさんは鵺さんの提案に承諾をした。
「ここまでをみんなでしましょう!」
「あの、鵺さん?」
「なんだい、伽耶ちゃん?」
「この行動をする事で何が起きるんですか?」
「それがねーこの世界では何も起きないんだよ
そのかわりにね
別の世界で伽耶ちゃんと僕が出会う事になるんだ」
「あーーーーー、なるほど」
「絶対に大事な行動なんだよ
例えばどこかの世界線の僕がとても愚かだとして、
この行動をおこなわなかった場合
最悪、他の世界線の僕や伽耶ちゃんが
消えてしまうかもしれない
だから必ずこれは必須行動なんだよ」
「そうなんですね」
「そういう事だね、よし、
ではこれからいよいよ本番です!
みんなー!気張っていきましょー!」
「おー!」
鵺さんがオーブンの前に片膝をついて座りオーブンの扉を開ける。
ゆるりと開いた扉の先は、ただのオーブンとなんら変わりが無い。
「アガルタさん、2024年の
ナシアが初めて換魂の儀式を行っていた
あの時、あの場所に繋いでください」
カラ~ン
アガルタさんの返事と共にオーブンの中が捻り巻かれ、徐々に亜空間へと変貌していく。
アガルタさんが指でOKサインを出すと私の出番がきた。
「それじゃ、伽耶ちゃん
このオーブンの中に向けて集中しててね」
私は視線を亜空間の先の先、遥か彼方の遥か過去のナシアに光線が届くように集中した。
ただ、この亜空間を見ていると、目には見えていないのに脳内に映像が送り込まれてくる。
この亜空間の中には多くの彷徨い人がいるようだ。
どこからか紛れ込んだか、何かの拍子でこの亜空間に入ってしまったのだろうか。
子供や大人、老人もいる。
皆、泣きわめき、憔悴し、うなだれている。
逃げ惑う人も多々いる。
この亜空間では一体何が起こっているのか。
私のいる屋敷以外の場所、亜空間などはアガルタさんの管轄外なのだろうか?
今度聞いてみよう。
「よし!そうしたら女の子たちはみんなで
伽耶ちゃんの背中に手をパーにしてあてて
目を閉じながら集中して
ぎゅ~~~~~~って手の平に
暖かいまんまるが集まるイメージで力を入れてみて!」
「ぎゅ~~~~~~~~~!」
女の子たちが鵺さんの真似をしていると、私の背中と手のひらが暖かくなってくる。
「おおおおお!これは!なんだなんだ!
温かいぞー!」
「よし!次はビームを放つよ!
伽耶ちゃん!覚悟は良い!?」
「いいわけないでしょう!」
「女の子たちは合図があるまで目を閉じてるんだよ!」
「あああ!んもう!覚悟いいです!」
鵺さんに返事をすると鵺さんの両手が
いつの間にか私の首を掴み
これでもかというほどの力で握りしめている。
「あ⋯⋯ああ⋯⋯く⋯⋯」
鵺さんの指が私の気管を強く絞めて
指が喉にめり込んでいる気がする。
呼吸をしたいのに強制的に妨げられるというのは
こんなにも痛くて苦しいものなのかと思い知らされた。
頭の中に血管の音が響き渡る。
耳がこもっていて、まるで水中にでもいるかのようだ。
気管と一緒に血管も強く締め付けられ
血液の行き場所が無くなり頭が爆発しそうだ。
「伽耶ちゃん!すまない!
苦しいだろうがオーブンの中に集中して!」
私は苦悶の表情でオーブンの中を見つめる。
このままでは死んでしまう。
本当にまずい。
意識を失いそうになったところ、眼球が急激に極度の熱に包まれ赤い光が漏れ始めた。
私の頭は激しく痙攣を繰り返し、直後、私の目からけたたましい轟音と共に激しい光線が撃ち放たれる。
その光線はオーブンの更に奥、亜空間の最奥に吸い込まれていく。
「よし!伽耶ちゃん!
頑張ったね!お疲れ様でした!
女の子たち!目開けていいよ!」
光線が発射されると同時に、私の首を絞めていた鵺さんの両手が離れた。
直後、頭の中で行き場を失っていた大量の血液が
スッと体へ抜けていき、頭が軽くなった。
「げほっ!げほっごほっ!げほっ!
はぁ!はぁ!はぁ!
い⋯⋯息が⋯⋯できる!
鵺さん⋯⋯私、死ぬところで⋯⋯」
「伽耶ちゃん!すまない!
今は目の前の事に集中しよう!話は後で!」
「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯あい⋯⋯」
私の目から光線が放たれ続けているが、光線がこれほどまでに出続けているのは初めての経験だった。
「よし!次はメイちゃん!
伽耶ちゃんの放つビームを2つに裂けるイメージをして!」
「かしこまり、ビームを⋯⋯裂く
んんんんん⋯⋯裂けろぉぉぉお
⋯⋯⋯⋯⋯⋯む
裂けた気がする⋯⋯」
「ありがとう!次はレレちゃんなんだけど
少し待ってね
保険でスヴァちゃん!
⋯⋯スヴァちゃん!?
伽耶ちゃんに手をあてながら寝てるっ!
眠りと予兆の戦乙女だからか!
もし僕の声が聞こえてるなら
亜空間の先にいるナシアと過去の僕に
ビームが当たったら教えてほしい!
僕は今からビームの方向を調整する!」
「ぞれよりもぉぉぉ!ヌエざん!
わだじ⋯⋯ぐびが⋯⋯やばいがも⋯⋯」
光線の影響で頭が取れそう。
「伽耶ちゃん!
すまないが少し耐えてくれ!」
「ぞんな⋯⋯むぢゃな⋯⋯
どうやっで、耐えるでずがー!」
「スヴァちゃん!任せていいかい?
くそっ、寝てるから任せてもいいものか
判断がしにくい!」
そこに助言する破壊者のラズちゃんが一言発言する。
「やっほー、ちゃんとスヴァちゃんに
伝わってるから安心して、ヌエっち」
あ、そういう助言もしてくれるんだ。
それならアガルタさんの通訳もしてくれそうじゃない?
あとでラズちゃんに聞いてみよう。
などと首が千切れそうな最中に考えてしまった。
「ヌエざん⋯⋯もう⋯⋯だ⋯⋯め⋯⋯がも」
あっけなく私の首はもげて、取れた頭はビームを放ったまま回転しつつ後方へ飛んでいく。
飛んでいく私の頭を女の子たちが目で追い「お~~~~」と歓声をあげている。
見てはいけません!
R指定だから、みんなにはまだ早すぎます!
その放物線を描いて飛翔する私の頭を、戦術の嵐カーラちゃんが空中でキャッチし私の胴体に素早く戻した。
「伽耶どの!まだ諦めるでない!
頭がぶっとんだからといってなんだ!
そなたはこれしきの事で死ぬ乙女ではなかろう!」
いやいや!死んでるから!
見てよ!私の顔!
この無機質になって命の灯火が尽きた顔!
血色だって急激に悪くなってるでしょ!
私の頭は吹き飛んでしまった事で
目からの光線がか細くなり今にも消えてしまいそうだった。
すると寝ていたスヴァちゃんが寝言でも言っているかのような声で、ぼそっと予言を零した。
「びーむ⋯⋯当たるまで⋯⋯
3⋯⋯
2⋯⋯
1⋯⋯
当たったよ⋯⋯
おやすみなさい⋯⋯」
スヴァちゃんの声が聞こると聞き耳を立てていた鵺さんが飛び跳ねる勢いで号令を出す。
「レレちゃん!今です!
過去の僕を引きずり込んでください!」
「異論はないよ
2024年、換魂の儀式を行っている最中、
破滅の箱の前にて両足を欠損せし鵺よ
誰にも気づかれず
光の如く破滅の箱に吸い込まれなさい」
少し間を置いて、レレちゃんが口を開く。
「異常はないよ、ばっちり
吸い込まれた」
静寂が少しだけ続き、鵺さんが息を大きく吸いながら歓喜の声をあげる。
「終わった、これで一段落です!」
「わーい、やったー」
「ふっ、戦時下ゆえ、まだ気を抜くでない」
「やったー!よくわからないけどやった!」
それぞれが喜ぶ中、
私の頭をカーラが支えてくれている。
すると例のあれが始まる。
私の切断された気管だか食道だかの穴からアガルタさんの手が飛び出てくる。
アガルタさんの手は私の頭をそっと掴み、そのまま千切れた切断面同士を密着させると、青白い光と共に首が繋がった。
一瞬にして治癒されてしまい、今回は時間移動をした訳でも無いので私の意識もはっきりとしている。
ただ、首が繋がると同時に一瞬だけ自分の体全体が光ったように見えた。
「ふぅぅぅぅ、アガルタさんありがと!
カーラちゃんもね!ありがと!」
「勇ましかったぞ!伽耶どの!
さすがはあたしが見込んだ男よのぉ!」
「じょしじょし!男じゃないよー!カーラちゃーん!
あっと、鵺さん、これで一端は一段落ですけど
ちょっとひとつ共有が⋯⋯」
「ん?もしかして、僕へのクレーム⋯⋯
だよね?」
「あー違います
別に先に聞いていたし
その事で今更ぐちぐち言いませんよ
ただ、その、私⋯⋯急に生き物の場所とか
分かるようになったかも⋯⋯」
「え?」
「えっと、人間とかソナリスとか
生き物の場所が分かるんです
壁とかすり抜けて
どれくらいの距離にいるのかとか⋯⋯
今、千切れた首が繋がってから
急に視界の見え方が変わってびっくりしました」
「まさか⋯⋯いやいやいや
確かナシアが言っていたよね
サーチ能力を儀式の最中に失った⋯⋯
腕を失ってからサーチ能力が無くなった⋯⋯」
「やっぱりー!それですよね!
だってこれ普通じゃないですもん!
凄いんですよ!
みんなどこにいるか分かる!
体温も分かるし、あと頭の上に数字?
なんの数字だろ⋯⋯」
「数字?みんなの頭に数字?
僕の数字はなんて表示されてる?」
「0:00:00⋯⋯ですね
0時0分0秒って言えば良いんですかね?
女の子たちもみんな0:00:00です
私のは、鏡が無いと見れない⋯⋯」
するとレンガの壁が横に開くと、壁の奥の暗闇から姿見が現れた。
「あっ!アガルタさんありがとうございます!」
私は鏡越しに自分の頭の上を確認する。
「同じく0:00:00⋯⋯ですね」
鵺さんが無言で私の方を見つめている。
「鵺さん、どうしたんですか?」
「一旦、その数字については気にしないでおこう」
「あ、はい⋯⋯もしかして何か心当たりでも⋯⋯」
「うん、まだ予想の範疇ではあるけど⋯⋯
今は他に優先する事が多いからね」
「あー、気になるんですけど!」
「悪い話だから今話して場を見出したくない⋯⋯
っていうのが本音かな
それに悪い話と言ってもこれ以上悪化する話じゃないし
察しが良ければ自分自身で気づくかもしれないよ?」
「⋯⋯はい」
今、会話をしていてなんとなく分かってきた。
多分、この数字は時間⋯⋯寿命だろう。
私は一旦深く考えるのはやめた。
「さて、切り替えていこう
ナシアはサーチ能力が無くなった事で⋯⋯
邪神の顕現が遅れた⋯⋯
これも何か関係があるのか?
伽耶ちゃん、そのサーチ能力、どれだけの能力なのか
暫く色々と試しておいてもらえないかい?」
「もちろんです!
折角の能力なんですから使ってみます!
という訳で!私はすぐに外に出ますね」
「え!大丈夫かい?
少しくらい休んだほうが⋯⋯」
「大丈夫です
私と同じような境遇の人たちの
集落があるって言ってたでしょ?
それならなるべく早く助けに行きたいし⋯⋯
この間、3日も休んじゃってるしさ
あ、ここでは時間の流れは無いんでしたね
どうにも時間の流れがない事に慣れないなぁ」
「ん~~~、しかし伽耶ちゃん1人だろ?
1人で大丈夫なのかい⋯⋯?」
「大丈夫、今までだって1人だったんです」
そう、大丈夫。
今の私には帰る場所がある。
それが今の私を支えている。
「それに鵺さん、外に出たところで
差別はされますけど
殺されたり命の危険に晒された事なんて⋯⋯
⋯⋯いやぁ⋯⋯アガルタさんのとこ来る直前に
私、殺されそうになってたわ⋯⋯
あはははは
なるべく見つからないように
人間の集落に向かいます⋯⋯ははは」
「ん~~~、心配だなぁ
何かあった時の為に
伽耶ちゃんの武器になる物があればいいんだけど」
すると、助言する破壊者のラズちゃんが、待望のアガルタさん通訳をしてくれた。
「アガルタさんから1件のメッセージです
ぴーーー」
「留守電かよ!」
鵺さんがこてこてにツッコむ。
「お外に出る時にあたしたちと
リンクを繋いで外出できるみたいだよ」
「んんー?どういう事?」
私が間の抜けた顔で考えているとラズちゃんが続けて説明をする。
「なんかね、アガルタさんが言うには
あたしたちと縁を繋いだ状態にしてお外出ると、
あたしたちの力の一部を伽耶ちゃんが使えるんだって
でもね、お外出る時に縁結びできるのは3人までらしいよ
3人以上と縁結びしてお外出ると
全ての行いに対して東西南北が凶になるって
だから縁結びは3人までがいいって」
「おみくじか!」
「つまり⋯⋯3人までとリンク繋いだ状態なら吉
でも、3人以上とリンクを繋いだら
どこに行っても何をやっても
悪い事ばかり起きる、って事だよね?」
「うん、そゆこと」
「なるほどぉぉぉぉおおお
呪具じゃん!!!!!」
「アガルタさんがね
間違った使い方しなければ問題ないわよ
でも伽耶ちゃん、ド忘れして
みんなとリンク繋いじゃって凄い災難にあうのに
なんで今日はこんなに運が悪いんだー!
とか言って
1日中バナナの皮で転んでそう!ふふふふ
⋯⋯って言ってる」
「いや、アガルタさん、
私そんなまぬけキャラに見えてるの!?
いやいや、いやいやいや
私、結構しっかりしてるんですよ?」
「見えなーい」←鵺
「見えなーい」←アガルタ
「なんでよ!
そこまでずっこけキャラで通してないでしょ!」
「んー、しっかりしてそうなんだけど⋯⋯
いや、おじさんは伽耶ちゃんしっかりしてると思うよ?
でも、なんかキャラがどことなくずっこけ⋯⋯」
「言わないで!
私をずっこけキャラで定着させないで!」
するとラズちゃんが補足を入れる。
「アガルタさんが、すっごい笑ってる」
「その情報!
わざわざ伝えてくれてありがとね!
ラズちゃん!」
私は颯爽とリンクを繋ぐ事に集中する。
「よし、早速だけど繋ごう!縁結びだ!
でも誰と繋ぐべきかな~」
《ずっこけの伽耶⋯⋯
我のおすすめ3選を伝えよう》
「うわぁぁ!唐突だな!フレイヤ様!」
「ちょっと!フレイヤ様まで
私がずっこけキャラって認識になったじゃん!
鵺さん!どうしてくれるの!」
「ま、まあ?いいんじゃない?
楽しいし!」
「楽しいのはみんなでしょ!
見て!私のこの聡明!明晰!才色兼備な出で立ち!
どう見てもずっこけキャラじゃないでしょ!」
《伽耶⋯⋯すまない
時間が無い故、話を続けるぞ》
「あ、フレイヤ様、すみません!」
《ーー槍の嵐イルル
純粋な攻撃要員として期待できるだろう
無限に生成できる槍が強みだ
ーー轟音の戦乙女リマ
ソナリスは音波で視界を得ているので轟音に弱い
そして最後に
ーー癒やしの戦乙女エイラ
治療は必須だ》
「確かに、この3人は外出の時にいいですね
フレイヤ様!ありがとうございます!」
《すまない⋯⋯もう少し
助力できればよいのだが⋯⋯》
またフレイヤ様の声が途切れてしまった。
鵺さんの記憶を見た時にフレイヤ様と天和瑞祈という女性が討ち取られていた。
天和瑞祈⋯⋯一体彼女は何者だったのだろう。
亡くなったはずのフレイヤ様はテレパシーのような通信手段で声を発しているし、ご存命であると判断して良いものなのだろうか?
謎は深まるばかりだ。
「おねえちゃん、アガルタさんがこれ渡してって」
ラズちゃんが持っていた物は3つの水筒のような物だった。
見た目はガラスのようで中身が見えていて、中にはゼリー状の青白い液体が入っている。
しかし、瓶を少し振ってみると、それは液体では無く、粒子の集まりのように見える。
「その水筒にそれぞれイルルちゃん、
リマちゃん、エイラちゃんの髪の毛を
1本ずつ入れてお外に出れば力使えるって言ってるよ」
「え!そんな簡単なの?
また何か儀式めいた事が必要なのかと
思っていたから少し身構えてたよ!」
「ううん、それだけで大丈夫みたい
他の子の力使いたい時は
入れる髪の毛を変えればいいだけだよ」
「へぇー!便利!
力を使うのってどうやるんだろ?」
「頭の中でイメージすればいいらしいよ
持って行く力は槍と音と治療でしょ?
だから槍が空から降ってきたり手に槍を持ったり、
口や手から音出したり
錠剤飲んだら回復したり、そんなイメージ」
「え!そんなので良いんだ!」
「良いみたい」
「アガルタさんもラズちゃんもありがとう!
外に出たら試してみる!」
ラズちゃんが小刻みに手を振っている。
「こらこら、
せめて治療効果のあるエイラちゃんの力だけでも
試していきなさいな
外で試して使い方が分からないとか
効果が無いなんてなったら面倒でしょ」
「あ⋯⋯ははははー」
「勢いで行動しないこと、大事だよ?」
「⋯⋯あい」
私は今この場でエイラちゃんの治療だけでも試す事にした。
私はイルルちゃん、リマちゃん、エイラちゃんの3人に髪の毛を1本ずつ貰えないか交渉をすると、快く髪の毛を譲ってくれた。
私は3人の髪の毛の入った瓶を腰のウエストポーチに入れて外出する準備を整えた。
「さて、外に出る前に少しだけ⋯⋯
治療だけでも試してみようと思う!」
「わくわく」
「わーい!エイラちゃんの力ー!」
「そうしたら、いくよーーー」
私は脳内で摂取しやすい液体の回復薬を想像した。
力を使うとどこからどのように発動するのかさえ分かっていない。
でも、瓶に入った緑色の液体ーー回復薬を想像、効果は傷も病気も全て治す、そんな薬を考えていると、手のひらから引力のような圧を感じる。
手が磁石のS極だとすると上にN極があるかのような引き込まれる力だ。
私は自然と手の平を上向きにしていると、手のひらが少し青白く光って、勢い良く瓶に入った液体の薬が出てきた。
私が想像していたものと同じ形だ。
「おおおおおおおお」
みんなで大声を出してはしゃいだ。
「今、体に傷は無いから
飲んで大丈夫かどうかだけでも試してみるね」
「うんうん!」
「おじさんも飲んでみたい!」
「え、鵺さんも?」
「うん!」
「その少年のような返事やめて、鵺さん
ただ、毒見の意味もあるから
飲むのは私だけにするからね
問題無かったら後で渡すから」
私はキャップを開けると回復薬を少しだけ口に含む。
口に入れた状態で何も問題がなさそうな事を感じると、口の中の液体を飲み干した。
「どう?大丈夫?伽耶ちゃん」
鵺さんと女の子たちが心配している。
「ん⋯⋯すっごい無味無臭」
「あーーーーー
味のイメージしなかったのか!」
「うん、形と効果は考えたけど
味まで考えてなかったや
今度からはレモン味にでもしよう」
縁結びの使い方はなんとなく分かった。
あとは実践あるのみだ。
「鵺さん、人間がいる集落ってどこにあるんですか?
大体の場所でもいいので分かりますか?」
「分かるよ
伽耶ちゃんの実家の横って崖になっていて
真下は海だよね?
結構な高台に家があったと思うけど⋯⋯」
「はい、実家は高台にあります
崖がいつ崩れるのか、
幼少期からひやひやしてましたけど慣れました」
「そこの崖のほぼ真下に人間の集落があるんだよ」
「えええええ!うちのほぼ真下?
そんなの今まで知らなかったんですけど!
私これでも近所を結構探検してるので
うちの下の崖になにかあるのか
見にいった事ありますけど
奥行きの無い洞窟があるくらいですよ?」
「崖下見に行った事あるんだ⋯⋯
伽耶ちゃん活発だよね⋯⋯結構さ」
「はい、1人ぼっちの事が多かったので
どうしても探索とか部屋で絵を描いたり
1人でできる事を主な趣味にしていたので」
「ちなみに、その崖の中腹にある
奥行きの無い洞窟が人間たちの集落だよ。」
「いやいや!
洞窟の中に入りましたけど何もなかったですよ!
ただ、崖の側面がえぐれたような
くぼみがあったくらいです」
「その奥の行き止まりの先に集落があるんだよ
集落の人間はひっそりと暮らしていてね
主食は自分たちで育てた野菜と豆から作った代替肉で
健康を維持しているようだ
あと隠し扉を開けないと
中に入れないようになっているから
入る時は仕掛けがあるみたいなんだ」
「壁を押すと扉が開く、みたいな?」
「いや、詳しくは分からないんだ」
「行ってみてから確認するしか無いですね
でも、まさかあのくぼみの奥に
隠し扉があるなんて思わなかったです⋯⋯
すぐにでも助けに⋯⋯あ!アガルタさん!
鵺さん!みんな!ごめん!
ちゃんと相談していなかった!」
「ん?急にどうした?」
「人間が住む集落の人がもし
この場所に引っ越ししたいって言ってきたら
ここに案内してもいい?」
みんなできょとんとした顔で見つめ合っている。
ラズちゃんが最初に口を開いた。
「アガルタさんが、何も問題はないって
それに、もし害のある人間だったら
この中に入れないようにしてあるって」
「おじさんも女の子たちも問題ないぞ
むしろ集落の話をしている時から
御本人たちが望めば保護する方向性で考えてたよ」
「先走っちゃってたけど、みんなありがとう」
私は笑顔で背を向け、涙を隠す。
この優しい人たちを失ってしまった時の事を
想像してしまって、少し泣いてしまった。
「ところで伽耶ちゃん、崖の下へは
まだ行き方覚えてる?」
「はい!地形が変わっていなければ
なんとなく覚えています!
少し遠回りしないとですけど
奥に回って下から壁伝いに行けるはずです」
「分かった、あと何か必要かな?」
「あ、アガルタさん、
この屋敷の水とか食料って
外に持ち出せそうですかね?
外に持ち出した瞬間に
灰になったりしちゃう?」
するとアガルタさんは指で
バッテンのジェスチャーをしている。
「ああああ、持っていけないかぁぁぁぁ」
するとラズちゃんがアガルタさんの声を代弁する。
「なんかね、ここにある
おご飯とかお水とかって
世界中のあらゆる時間帯から持ってきた
食材の魂みたいなものなんだって
だから外に持ち出すと消滅しちゃうみたい
つまりはあたしたちみたいな存在って事」
「え!ここの食材って本物じゃないの!
だって冷たいしパンはふかふかだし!」
「うん、アガルタさんがあたしたちの存在を
この空間に固定してくれてるみたいに
食材も固定しているから
現実にある食材と同じような質感を
持っているみたい」
「アガルタさん、相変わらず神ですな!」
鵺さんが興奮している。
「分かりました!
じゃあ、食料が必要だったら
自分で草とか食べます!」
私はある程度の準備をし終えると、屋敷の正面玄関に立つ。
「アガルタさん!3001年に行きます!お願いします!」
カラ~ン
アガルタさんの返事が聞こえると屋敷が一瞬揺れ動くと、さっきまで綺麗な海と空が映っていた窓の景色がぐるりと変わり、私の見知った黒と橙の空、色の無い世界が映し出された。
「アガルタさんが、
もうお外出れるって言ってるよ」
ラズちゃん、ナイス通訳!
「それじゃみんな!行ってきます!
いいこで待っててね!」
「はーい!」
私は扉の取手を握って外に出る。
久しぶりの外だ。
そう、これが本来の私の日常。
過去の青い空を見てしまった身としては
この黒と橙の禍々しい空に
吐き気を催すようになってしまった。
そんな吐き気を振り払い私は歩みを進める。
まず、私の体がおかしい。
屋敷から出てすぐに気づいた。
体が少し透けている気がする。
私は戸惑いながら屋敷の正面玄関越しに見守ってくれている皆の方を見る。
するとアガルタさんが鵺さんの腰を指さしていると、鵺さんも腰から何かを取り出して飲むジェスチャーをしている事に気づいた。
まさか、エイラちゃんの薬を飲めという事だろうか?
私は皆の方を見ながら回復薬を生成すると、皆は私に向けてOKと意思表示している。
「これ、飲めばいいの?」
飲む素振りをするとみんなが激しく同意してくれている。
私は回復薬を一気に飲み干すと、そこで意識が途絶えた。
◇◇◇
気がつくと私は屋敷の外、玄関横で倒れている。
体中が痛い、体中血だらけで耳も聞こえにくい。
前、屋敷から実家に様子を見に行った時はこんな事なかったのに、なんで体中⋯⋯。
私は動こうとしても中々動けず、体が言う事を聞かない事に苛立ちを覚える。
なんとか上半身を起こして屋敷の玄関窓を見ると心配そうに見守る皆がいる。
するとまた腰を指さしている。
でも体が動かない。
動くと骨も筋肉も軋んで、とにかく痛い。
暫し、体を休めていると息切れが激しくなってきた。
朦朧としてくると、屋敷の外壁からアガルタさんの手が出てくる。
アガルタさんは優しく私の頭を撫でると、壁に何か書き始めた。
早く 薬 飲んで
アガルタさんの文字を読んですぐに焦りを感じる。
朦朧としていたから危機感が無かった。
きっとこの体は瀕死で危険な状態なのかもしれない。
屋敷の中では大丈夫だったのに。
私は力を振り絞って思考と手に集中すると、ゆっくりと回復薬が出てきた
回復薬を手にして一気に飲み込むと無味無臭の液体が喉を通って胃袋まで達し、体全体へ満たされていくのを感じる。
私の体中の傷、痛みはみるみる回復して、健康を取り戻した。
「さっきまで動けないし、
しゃべるのもきつかったのに
完全に治った!
エイラちゃんの回復薬すごーい!」
アガルタさんもみんなも拍手をして安心してくれている。
私は立ち上がると屋敷を背に、3001年の世界を前にして皆に告げる。
「みんなありがとう!
元気になったから行ってきます!」
私は意気揚々と一歩踏み出すと、ふと気づく。
確かにここは私の知っている時代だ。
私が生まれ育った3001年。
でも何かおかしい。
この世界は何かおかしい。
空に浮かぶ黒と橙の模様の流れが異常に早く風も異様に強く吹いている。
それにこのずっと鳴り響いている雄叫びみたいな声は何?
「ォォォオオオオオオオオオオオオオ」
辺りを見回す中で背後に振り返るといつものアガルタさんの屋敷がある。
正面の扉の窓にはみんながいるけど、鵺さんとアガルタさんの手、それにラズちゃんが何か揉めている。
「え、なに?
ねぇ!みんな!どうしたの!」
屋敷に近づこうとすると鵺さんが血相を変えて扉の窓に駆け寄り、身振り手振りで何かを伝えようとしている。
「鵺さん!どうしたの!
分からないから一旦そっちに戻るよ」
戻ろうとしたが、屋敷の扉は硬く閉ざされていて開かない。
「ちょっとなに!」
すると鵺さんがガラスに左手をあて、右手で私の背後の何かを指さしている。
指さす方向を見るも何も見当たらない。
あるのは黒と橙の空だけだ。
「何を言いたいの!
もう!なんで扉開かないかな!」
すると屋敷だけが激しい振動を起こし始め、私は注意深く観察しながら数歩後退する。
「アガルタさん!鵺さん!みんな!
何が起きてるの!」
屋敷の中にいるみんなの顔色が優れないまま屋敷が上部から少しずつ崩壊していく。
「待って!どうしたの!
みんな!あー!もう!どうしたらいいの!」
崩壊を始めると周りにあった草木も同時に消え始め、屋敷の半分が消えた頃には屋敷がそのまま後方に徐々に崩れ去り奈落へ落下していった。
落ちていく屋敷の扉にいる皆は絶望的な顔をしながら崖下に消えていった。
「みんな!みんな!どうして!」
屋敷が無くなって初めて気づく。
屋敷のあった場所は元々何も無かったのだ。
そこにあるのは殺風景なただの崖だけだった。
すかさず聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『じゃーははははは!見つけたぞー!
斑鳩伽耶!ようこそ!3003年へ!
ようこそ!ついに完成する吾輩の時代へ!』
読んで頂きありがとうございました。




