第9話 火事の後始末
まあ、これについての調査は協同組合に任せておけばいい。
とりあえず……火事の後始末は消防士に推しつけよう。
たまたま背後にいた、声をかけてきた年配の消防士は、奇妙な生き物でも見ているかのような呆けた表情で硬直している。ほかの人らもざわついているけど動かない。
……何これ、どうしたらいいの?
さっさと帰りたい。
「……終わりましたので、俺は行きますね。あと、今の仕事の請求書です」
帯から取り出した請求書に『百円』と書いて、ちょっと乱暴に渡す。※
依頼主は銀三じいさまだけど、消防士が火を消してくれていたら、今頃俺はぐっすり眠れていたわけで。
まあ、八つ当たりなんだけど。
くそ。本当は先生に請求したいくらいだ。
その場から立ち去るとき、背中には、高額にした請求書を見た消防士たちの悲鳴が届いてきた――。
***
朱色の傘に乗って飛び、人気のない場所に降りた。
どうやらここは港の端にある倉庫街らしい。そこには古びた建物が立ち並び、鉄やコンクリートの冷たい壁が朝日に照らされている。
あれだけの騒がしさのあとでは、この静けさがまるで夢の中みたいだ。
「あー、疲れた……」
周囲に人気がないのを確認してから、大きく背伸びする。両手を真上に向かって伸ばし、長い一日の疲れを吐き出すように息を吸い込んだ。
「人見知りは相変わらずだねえ」
さっきの消防士たちの視線が頭をよぎる。
魔導士の仕事が見たいのはわかるけど……あんなに注視されるとさすがに怖い。
父親はこっちの国の人間で、母親はこの国じゃない、どこかの国の人。ハーフのせいか、顔立ちや緑色の瞳が周りの人たちとは異なるため、通行人には頻繁に目線を向けられる。
加えて、小さい頃にいじめられたこともあって、より一層差別的な目で見られていたように感じる。
いつだってそうだ。
魔導士ってだけで物珍しがって見られる。半分は好奇心、残りは偏見。俺はその真ん中でいつも立ち尽くしてる。
……やめやめ。辛気臭い。
嫌な記憶を払拭するかのように頭を左右に振った。
「せっかくだから、この辺散歩でもしようか」
ゆるやかに吹いている風が、海を優しく揺らしている。
――しばらく海を見ながら歩いていたが、どうしても気になるのはあの火事だ。
建物は真っ黒に焦げていたのに、すぐ近くの木や雑草は燃えていなかった。
……火が、あそこだけ避けたみたいに。
わざと?
そんなバカな話、あるのかよ。
※明治時代の町人の月収は約十円。




