第10話 事件後の夜明け
金色の炎が魔法だった場合、たとえ建物の構造を完璧に把握してたとしても、あんなふうに周りの雑草だけ避けて燃やすなんて無理だろう。
しかも、外壁のすぐ下に生えてるようなやつだぞ?
実験で作られた炎だとしても、結果は同じだろう。
……光属性の幻覚、ってことならまだ救いがあるけど。
いや、あれは幻なんかじゃない。実際に目の前で燃えていたのだから。
「ああ……わかんねえな」
「しわ寄ってるよ。し、わ」
着物に爪を立て、軽やかに俺の肩に乗ってきた猫は、頭のてっぺんにあごを乗せ、尻尾を左右に揺らしていた。ふわふわした体毛が当たって耳が痒い。
そういえば……ソラが持っていった湯たんぽがない。そのまま置いてきたかも。
まあいいや。また作れば済むし。
ぼけっとしながら倉庫街を歩いていると、頭の上から「ねえねえ」と声がしてきた。
「さっきの火、家に持ち帰るの?」
「あ、これね。組合に押しつけようかなって」
一人で調べるには限界がある。設備が揃っていて、人手が充実している魔導士協同組合に譲渡すれば、有益な情報が得られるだろう。
それに、こんな大規模な事件……いや、事故?
一魔導士が抱えられる案件じゃない。
「霜月先生は魔導士界で重要な立ち位置の人だし、この件に関してはちゃんとした所に任せないと」
「これの調査してって、言われてないしねえ」
空気穴付きのガラス瓶を、ソラに見せびらかすように振ってみる。
……けど、中の炎は全然元気そうだった。俺が知る魔法の炎とはまるで違う。
不快さは感じない。
……不思議な安心感はある。
でも、その奥に、何かとんでもなくまずいものが隠れている気がした。
背筋がぞわりと冷たくなり、思わず瓶を握る手に力が入る。
陽光を受けてきらきらと輝く水面が、穏やかな波に反射している。その眩しさに目を細めると、頭の中のごちゃごちゃしたものがほんの少し薄れていく気がした。
海の風景に心がすっかりほだされ、時間の流れを忘れてしまいそうになる。
ただ、胃袋は正直だった。
……腹減ったな。




