第11話 おもちゃの汽車
「なんか腹減ってきたし、帰って飯にしよう」
「まだ早い気がするけど……」
「じゃあ、朝市でしらす買ってからにしようか」
日の出の時間には、漁に出ていた船もすでに帰港している。
朝市、そろそろ始まってるかもな。
生しらすって、なかなか買えないし……今日は贅沢してもいいだろ。
帰宅する頃にはちょうど朝食を始めてもいい時間になっている。
保冷用の鞄は今から作るからいいとして、氷は買うしかない。財布の中身は大丈夫だったはず。
今日の朝ごはんは、熱々のごはんの上にしらすをたっぷり乗せて、大葉と白ごま、仕上げに醤油を回しかけた生しらす丼で決まり。
想像したら口の中に唾液が滲む。
肩の上に乗って「おいしいよーしらすーああー」と、適当な歌を口ずさんでるソラの背を撫でる。
人並みのごはん食べるの、久しぶりだ。
……とはいえ、その前に片付けないといけないことがある。
さびついた扉の前に置かれていた木箱を机代わりにして、帯から再び万年筆と紙を取り出した。
『霜月清輝の研究所の火災について。瓶に火災の原因である炎を閉じ込めてあるので、組合の方で調査してほしい。 利他ユウナ』と書き、瓶の蓋に紙を挟む。
続いて、ガラス瓶が乗るくらいの木製のおもちゃの汽車を魔法で作った。
車体には派手な塗装に、無駄に繊細なハンドルと車輪。
……つい勢いで作り込みすぎた。
傘を飛ばせたのだから、これも間違いなく空中走行してくれるはず。そもそも、傘が飛んだのも、今、おもちゃの汽車が浮かんだのも……理屈はわからない。
俺は風属性の魔導士じゃないのに。
でもまあ、便利だからいいか。
魔力を使いすぎたせいか、体がずしりと重い。目の奥がじんわりと熱く、視界の端がぼんやりと滲んでいた。
――無駄に精巧にしすぎたせいだ。
自分の限界を考えずに魔法を使うところは、学生の頃から変わっていない。
帰りは飛んでいけそうにないな……。
疲れと呆れでため息をついていると、愛猫は俺の足の甲を、ぽんぽんと小さな手で叩いてきた。
「早く行こうよー」
「りょーかいです」
車両の前部にある行き先標に『ミカヅチ本部行き』と記入して魔法を発動すると、汽車はがたんと跳ねるように動き出した。
金属のきしみが空気を震わせ、色鮮やかな塗装をまとった木の車両は、ゆっくりと宙へと持ち上がっていく。
車輪から軋む音が響き、汽車はふらふらと空を漂いながら、少しずつ速度を上げていき、そのまま空中を進んでいった。




