第4話 放火の犯人
例として……実行犯が魔導士で、指示役が一般人の場合。卒業生名簿に載っていない指示役を見つけることはできないということ。
火事の関係者一人の顔を見せて過去を遡ったところで、真犯人までたどり着かない。さすがにそこまでうまくはいかないか。
とりあえず卒業生名簿を机に並べておく。
「……魔法獣が人間と会話できるなんて、思いもしなかったよ」
「え? 魔法獣は言葉を発する個体もいるって、授業で習いましたし……とくにめずらしくないじゃないですか」
春日井先生は、瞬時に眉をひそめた。
「いや、せいぜい簡単な相槌か、名前を言えるくらいだよ?」
「……えぇ? いや、そんなわけないでしょう?」
今まで庭でせっせと働いていた妖精たちとか、俺が今まで出した魔法獣も、実はもっとすごいやつらだったのか?
……いや、そもそも俺、何を召喚したんだ?
もしかして、魔法獣じゃなくて、別の生き物?
先生が冗談を言っているような表情ではないことだけはわかるが。
……まあ、それはひとまず置いといて。
名簿も並べ終えたことだし、早速取りかかろう。
「早速で悪いんだけど、この名簿に載っている全員、記憶してくれない?」
「あい」
やる気なさそうに返事をしたあと、手のひらの上で数回羽ばたいた。
次の瞬間――。
名簿のページが、突風にあおられたみたいに次々とめくれていく。俺と先生は思わず小さく悲鳴を上げた。
まるで、図書館の本棚が一斉に暴れ出したような騒がしさ。カラスはじっと前を向き、その様子を観察している。
それだけで情報を吸い取っていくように、名簿は音を立てながら進み続けた。
すべてのページがめくり終わり、部屋がしんとなる。
「記憶した」
思わず唾を飲み込む。
この子は――俺と先生の姿を目にした時点で、霜月研究所が火災に遭ったということがわかるはずだ。だから、事件の詳細を説明する必要もない。
「二年前……金色の炎を発動し、研究所に放火した人物はこの中にいるのか……教えてほしい」
もし、この中にいなければ、在校生あるいは入学していない魔力持ちの人間。
または、研究所で働いていた、魔力を持っていない研究員の実験によって生まれた不思議な炎。
もしくは一般人による放火……ということになる。
カラスはまたあくびをし、自分の羽をついばんだ。
「名簿にはいないね」
その声は、まるで淡々と事実を伝えるだけの機械のようで――かえって心臓がひやりと冷えた。
お嬢ちゃんの顔が、一瞬、脳裏に浮かぶ。
……いや、違う。違うはずだ。
でも……もしも、あの子自身じゃなくて、“お嬢ちゃんの身近な人物”だったら?
そんな考えを口に出すのが怖かった。けれど、それを無視するには、心臓の鼓動があまりにも強すぎた。
「犯人は卒業生にいないけど、関係者はこの中にいることがわかった」
羽をなめらかに動かし、三冊の名簿を同時に開かせる。
男性が三人、女性が一人。
全員知らない顔だが、この女性には見覚えがある気がする……五十七期生、代崎香代。
……その顔を見た瞬間、心臓が一度だけ強く脈打った。
髪の色は黒いが、お嬢ちゃんの目元に、どことなく似ている気がする。




