第36話 ベールの中
「陽菜の氷魔法って、範囲指定か物体指定で凍らせた場合……どうなる?」
完璧に――寸分の狂いもなく魔法を発動すれば、金色の炎のように攻撃対象を絞ることができるんじゃないか?
属性魔法ならば。
そうじゃないと、“研究所だけ狙って焼く”なんて奇妙なこと……説明できない。
「言いたいことはわかるけど、たぶん無理」
静かにそう言った彼女は、自分の脇に置いてあった四本目の梅酒を開けた。
「指定した通りに凍らせたいんだけど……どうしても、氷が届きすぎたり、逆に届かない場所とかができちゃうのよ。でこぼこした壁面とかとくに」
なので、研究所の壁のすぐ下に生えていた雑草が、燃えていなかったのは通常ではありえない、ということだろう。
「ユウナが火の魔法使えるんなら、この件も納得できるけどねー」
なんでだよ。
「おい。俺を犯人にするんじゃない」
「まあともかく。こっちでわかったことはこんくらいかな」
買ってきた酒をぐいっと仰ぎ、那智はおいしそうにため息をついた。
――幻覚に似ているが、燃える効果がある。
俺が、お嬢ちゃんに見せるために作った“火もどき”は、金色にすることはできるだろうけど、物を燃やす力はない。
つまり、見た目だけ真似るならともかく、本物の炎としての効果は出せないということだ。
攻撃性はないくせに、建物だけを焼失させるってどういうことなんだ。
――とりあえず、火属性を扱う人間を洗い出すのが先決か。
……いや、でももし幻覚を見せられた可能性があるなら……光属性の魔導士も視野に入れるべきだな。
……そういえば学校に、卒業した全魔導士の名簿があったな。何か手がかりがあるかもしれない。
また春日井先生に連絡してみるか。
「本部って、この件から手を引いた感じ?」
「引いたっていうか……引かされたっていうのが正しいかも」
「調査結果の資料も、霜月さんに関しての資料も全部処分されちまった」
あわよくば、と思ったがやはりか。
……これ以上情報が出てこないとなると、どうにもならない。
頭の芯がじんじんと重くなるような、行き止まりの感覚。
思考の行き詰まりを感じて、丸まって聞き耳を立てているソラのひげをつついた。案の定、不愉快そうに顔をしかめて膝から出ていき、距離を置かれる。
かわいい猫ちゃんのおかげで少し気が紛れた。
――神屋大臣がこの事件の真相を遠ざけたい理由なんて知らないが、真相は俺が暴く。
依頼は依頼だ。報酬分はきっちり働いてやる。
……春日井先生、相場よりちょっと上乗せしてくれないかな。
決意は胸に留め、カグツチ村にやって来る最終列車の時間まで、三人で飲み明かした。
酒の勢いに任せて、くだらない話で笑い合い、つかの間の休息を楽しんだ。
さて、明日から忙しくなりそうだ。




