第29話 少女の嘘
肩から降りたソラが膝の上でおとなしくまるくなっている。ふわふわの背を撫でながら、今後の活動について頭の中で考えを巡らせた。
「ああ、そうだ」と言って、前のめりになる先生に釣られて自分も前のめりになる。
「調査を禁止される前に、優香さんから事件当日のことを聞いたんだけどね」
「ああ。友人の家に泊まりに行っていて、わからないって言っていましたね」
巨大うなぎを討伐したあと、朝食を待っている間に彼女から聞いた話だ。
お嬢ちゃんの行方を証明できる人間もいることから、れっきとした現場不在証明になる。
「そのあと、優香さんが泊まったと言う友人の家を訪ねてみたんだ」
先生は緊張の面持ちで、口を開いた。
「――そうしたら、霜月優香という友人はいないし、その人物を知らないと言われたよ」
……え?
頭がぼうっとして、めまいが酷くなった。
――気づけば、校舎の外に足を運んでいた。
どこを歩いていたのか、最後に先生とどんな会話をしたのか、意識がはっきりしない。
あまりの衝撃で、思考が追いつかなかった。
「一体……どうなってるんだ」
足元で愛猫が心配そうに見つめてくる。
「優香は嘘つくような人間じゃないよ」
「じゃあ、どうして友人宅に泊まったなんて説明をしたんだ? そんな捏造をしたところで、調べられたらわかってしまうのに」
ソラに文句を言ったところで、どうしようもない。だが、それでも言わずにはいられなかった。
それだけ、お嬢ちゃんのことを信用していたんだ。
それに、彼女の目の動きや態度から嘘をついているように見えなかった。
もしその友人が嘘をついていたのだとしたら、なんのためにそんなことをしたのだろう?
いや……利益なんてないだろうし、友人とやらが嘘をつく必要なんてない。
じゃあ、あのとき火事を起こしたのは、お嬢ちゃんなのか?
……でも、自宅で見せてもらった炎は、金色じゃなかった。
……わからない。
まったく、意味がわからない。
春日井先生……やっぱり、彼女が火属性魔法の使い手だと知っていて動いてたんだな。
彼女の住まいをうちに勧めたのも……先生か。俺と一緒にいさせたら、何かわかるんじゃないかと思ってのことだ。
深いため息をついたせいか、通り過ぎる人たちがちらりとこちらを見ていった。
どうするんだよ。こんなめんどうな案件。
「……この件解決したら、報酬は弾んでもらおう」
いや、本気で。割に合わなすぎる。
「魔導士業界を揺るがすような依頼になりそうだねえ」
大臣からの圧力があるってことは、そういうことなのだろう。
おそろしい。上層部で一体なにをしているのか。




