第18話 椿の着物
若い子向けの彩り豊かな着物の束の前で、お嬢ちゃんは唇を尖らせて唸っていた。
真剣に悩んでいるその横で、俺は二人に霜月優香を預かることになった経緯を説明しておく。
「はー」とか「へー」とか、ねえさまの騒がしさはいつものことだ。それより、にこにこと笑顔を崩さない梅ちゃんに目を向ける。
「あのユウナがねえ……どんな事情であれ、人と関わろうとしていることが、わたしはうれしいよ」
やめて。そういうの恥ずかしいって。
小さい頃の俺は、教室の隅で誰とも目を合わせず、ただやり過ごすことばかり考えていた。
過去の自分を思い出して、なんだかむずがゆくなった。
梅ちゃんも春日井先生と同じようなこと言うんだから。
頬を指でぽりぽり搔いて返事を濁す。
友だちも少ないから、学生時代は心配かけたろうな。
いじめられていたことはソラにしか言っていないけど、なんとなく察していただろうし。
「ほら、優香ちゃん困ってるよ。助け舟出してあげな」
「はい、はい」
彼女は目の前の着物を前に、眉をひそめていた。口元に指を当てたり、何度も違う反物に手を伸ばしては引っ込めたりしている。
「ずいぶん迷っているね。最初に心が動いたものが、一番いい選択だと思うよ」
「うーん……結構優柔不断なので、むずかしいですね……」
迷ってるなら、俺が選んでやるか。
……まあ、俺の趣味だけど。
お嬢ちゃんに合いそうな着物……黒地に、白のよろけ縞と赤い椿が描かれたものを選んだ。
派手すぎなくていいだろ。
帯代わりに結ぶ、革製の黒い締め紐、あと寝巻きを一枚買わせてもらうことにした。
二人に挨拶して、ついでにとうさまの経営する和菓子屋に顔出し。
お菓子と、なぜか赤飯をもらって帰宅。
理由はわからないけど、なにかしら報告するととうさまがたまに持たせてくれる。
帰宅すると、玄関には相変わらず、姿勢正しくお座りする愛おしい猫ちゃんがいた。
「おかえりー」
ただいまと返してソラを抱き上げる。
腕に引っかけていた、赤飯が入った風呂敷包を後ろ足で器用につついている。
「優香、いいのあった?」
「うん。明日着ていくの楽しみ」
満面の笑みを浮かべる彼女の手元にある着物を見て、はっとした。
――化粧道具が家にない!
まずいな……明日出かけるのに。




