第15話 救いのひと言
「火を起こすための物なら作れるんだけど、肝心の火はだめなんだよね……」
火の魔導士は、何もない空間に火を起こせる。
もし火が蝋燭や薪みたいに形が決まったものなら、俺でも作れるのかもしれないけど、あれはもっと不安定で掴みどころがないからな。
状況によって形が変わるような、定まっていないものを作るのはずっと難しい。
あんなことをさらっとやってのける属性魔導士には、本当に敵わない。
「本当に、変わった能力だよね」
自身の炎を消したお嬢ちゃんは「あれ?」とでも言いそうな表情だった。
「傘で飛ぶのって、風の魔法じゃないんですか?」
「西洋の本に、箒に乗って空を飛んでいた挿絵があって。それを参考に、傘も飛ぶものだって思い込んだら浮いた」
風属性魔法だったら、箒なんて使わずに、自分の体を浮かせるだけの風を起こして、空を自由に飛び回れるんだろう。
挿絵がなかったらたぶん、宙に浮くことすらできなかった。
「物体を召喚する以外のこともできるから、自分でも本当によくわからない力なんだよ」
魔法がこの使い方で正しいのかもわからない。
何かが足りない気がして、でも何が間違っているのかはわからなかった。ずっと、もやがかかったままだ。
もしかしたら、変な手順を踏んでいるのかもと何度悩んだことか。
昔から……周りから浮いていた自覚はある。
小学校のときには、目の色のことでいじめられて、中学のときは魔法が変だって言われて。
だから、ずっと自分の魔法の使い方が間違っているのだと思っていた。
高校は春日井先生の配慮でいじめっ子とは離れられたけど。
この経験のおかげで自己肯定感低いし、他人の視線が怖くて仕方がない。
まあ……この子は、俺の見た目のこととか、魔法が変だとか突っ込んでこないから、まだ平穏に暮らせそうだ。
「国外の血が混じってるから、こうなのかもな」
こうやって、よくわからない言い訳で自分を納得させてきた。今までは、それしか思いつかなかったんだ。
誰か一人でも同じ能力だったら、こちらの国でもこんなに苦労しなかったろうに。
鬱々している俺の正面にいた彼女は、両手を合わせ「だったら」とにこやかに微笑んだ。
「ご両親どちらかの出身国に、利他さんと同じ魔法を使う人がいるかもしれませんね」
「えっ……」
目の前の景色が、音もなくひっくり返ったような感覚だった。
――そうか。
あまりにも当たり前すぎて、今まで考えもしなかった。
思わず笑いが込み上げた。それと同時に、自身の視野の狭さにがっかりした。
同級生が扱う属性魔法に、憧れがあったからかもしれない。
自分と同じ能力の人間がいる。
その可能性が高くなったことが、こんなにうれしい、なんて。
きょとんとしているお嬢ちゃんに顔を合わせる。
「ああ……ごめんね。俺の能力が変なのかなってずっと思ってたから。その発想は少しうれしかった」
彼女の一言が、今まで見えていなかった光景を広げてくれた。まるで新しい世界に足を踏み入れたような感覚が全身を包み、希望と驚きが胸に広がっていく。
この瞬間、自分がどれだけその言葉を待ち望んでいたかを痛感する。
単純な一言で、こんなに救われるなんてな。
……笑っちゃうくらい、簡単だったんだ。




