第11話 本気の料理
お嬢ちゃんに貸した部屋のすぐ隣は台所兼食事室であり、この家唯一の畳のない部屋である。
台所は、動線が一直線に整えられ、料理がしやすい作りになっている。
壁沿いには氷式冷蔵庫や食器棚が並び、自然光が差し込む明るい空間だ。
台所の向かい側には、床と同じブナ材で作られた机が置かれており、できあがった食事をすぐに運ぶことができ、無駄な移動の手間を削った。
見慣れた台所も、古い着物を身につけたお嬢ちゃんがいるせいか、なんとなくいつもと違った風景に見えた。
まるでお手伝いさんを雇った初日のような違和感だ。雇ったことないけど。
背中から手元を覗くと、慣れた手つきで魚の内臓を取り除き、水で洗い流していた。次に、魚の頭と尾を切り落とし、身だけが残るように丁寧に処理する。
やらされたんだろうなとか、もしかして料理が趣味なのか?とか、いろいろ脳裏をよぎった。
調理の様子を無言で見つめていたせいだろう。彼女は緊張しているのか、肩に力が入っている。
うん、見すぎだな。申し訳ない。
「何か手伝うよ」
「いえ。居候なのでこれくらいは……」
なんとか押し切って、台所に立たせてもらえた。
昨日のうなぎ事件の帰りに、近所の人に卵を分けてもらったし……久しぶりに卵焼きでも作ろうかな。
コンロに火をつけるため、つまみを回した。
二人の共同作業でできあがったのは、ふきのとう味噌、鰆の幽庵焼き、海苔入り卵焼き、ひじき煮、すまし汁。
なんとも豪華な昼食だ。
美しい盛りつけと鮮やかな色彩が目を引き、ちょっとした旅館の朝食かっていうくらいの品揃え。
「いい嫁さんになりそうだ」なんて言ったら、彼女に引かれそうな気がしたからやめておいた。
「すごいねえ。ユウナ一人だったら納豆卵かけご飯なのに」
「こら。チクるな」
これはもしや、今後の料理の期待値を上げてしまった感じか?
今みたいに、彩り豊かで品数の多い料理を毎食作らないといけないのか?
さすがにちょっとめんどくさい。
「……楽でいいですよね」
ふいに聞こえた声が、少しだけ沈んでいた。
「え?」
「食卓につくの禁止されたときは、庭でこっそりそれ食べてました」
……うん。やるしかないか。
よし。料理くらい本気で作ってやるわ。
ソラのごはんより手間かかるんだが……ま、悪くないだろ。




