第10話 用事の山
『あったよ! ありました! それで、その子の身長はどれくらい?』
「んー……ねえさまより五センチ低い」
『それなら、丈も大丈夫そう。それで、事情はお伺いしても?』
ねえさまが電話越しに、にやにやしているのが目に浮かぶ。たしかに、この人の声にはそんな含みが込められている。
でも、話が長くなりそうだから説明するのだるいなあ。
「今日の昼過ぎに行くから、そのときにでも。一応その子連れていくし」
「了解です」と軽い調子で言われたあと「ところで……」と、話を振られる。
「その子って、かわいい系? それとも……」
また……なんて答えにくいことを。
「……小動物っぽい」
何か言われる前に電話を切った。
足元にいたはずのソラは、気づけば姿が見えなくなっていた。
そしてもう一人、会話の途中で切ってしまった校長先生に電話をしなければならない。
朝電話したときみたいに、また笑われそうで少し億劫だが。
「こんにちは、利他です。霜月優香さんを無事に引き取りました」
『おお、そうか。つい数十分前に、ユウナくんの家に電話をかけ直したんだけど……まさか、畠山さんの家に行っていたのかな?』
「ええ、まあ」
先生はすぐに返事をしなかった。その無音が、妙に長く感じる。
笑いすぎて声が出ないとかじゃないよね?
……あれ?
まさかの怒ってたりとか?
『あのめんどくさがりのユウナくんが、人のためにそこまでするようになるなんて……孫の成長を見ているようでうれしいよ』
それは褒められているのか、けなされているのか。なんとなくむずむずする。
「……それで、何かあったんですか? さっき電話かけてきたって言ってましたけど」
『いやあ……用事はあるんだけど……今日は出張に行かないといけなくてね。明日の朝、学校に来れるかい?』
「はい、大丈夫ですよ。では、また明日伺います」
受話器を置いて、肩が上下するほど大きなため息を吐く。
……なんか、どんどんやることが増えていってる気がする……俺の休日どこいった。
一歩踏み出そうとすると、足元に白猫がいた。いなくなったと思ったら、いつの間にかまた戻ってきて、ふて寝している。
ソラを抱え、そっと立ち上がる。
眠っているふりだ、これは。
台所へ向かう途中、ソラがぶらんと腕にぶら下がってくる。移動を楽にしようという作戦らしい。
まんまと引っかかる自分のまぬけさを感じながら足を進めた。




