第6話 決意の一歩
「仕事はどうとでもなるから、気にしないで。それよりも、髪の毛大丈夫?」
痛かったに決まっている。あんなに束で引っ張られて。
彼女は肯定の意を示したので、肩の力が抜けるのを感じた。心臓を締めつけていた不安がようやく解け、ほっと胸を撫で下ろす。
俺の魔法の技術が向上したら、今度はあいつの髪が抜け落ちるくらいの嫌がらせでもしてやろうか。
小さくため息をつき、なんとなく空を見上げる。
空に浮かぶ雲は、さっきまでの怒りを吸い取るように、ただ静かに流れていた。それは、風に吹かれて形を変えていく。
ふと視線を戻すと、彼女の瞳が陽に透けて、淡く潤んで見えた。
……綺麗な栗色の目だ。
だけど、迷惑をかけてしまったとでも考えているのか、表情は暗く見える。
「利他さん、あの、ありがとうございます。かばってくださって」
「いや、助けるの遅くなってごめんね」
何かされる予想はついていたんだ。
あのとき、二人が対面した瞬間に間に入るべきだった。せめて声をかけるだけでもよかった。
一瞬でも早く助けに入れば、彼女の痛みも恐怖も、もう少し和らげられたかもしれない。
彼女を守る立場にいながら、少しの油断がこの結果を招いたのだ。
罪悪感が心に重くのしかかり、苦しさに息が詰まりそうだった。彼女の顔に浮かぶかすかな笑顔が、逆にその痛みを深くする。
次こそは必ず、どんなことがあってもこの子を守り抜こう。
苛立ちを振り払うように、後頭部をぐしゃっと撫でた。
もう、くよくよしても仕方ない。次こそ、必ず守る。
その決意を胸に、傘を横向きに持った。
「……そろそろ、行こうか」




