第4話 対話の危険
「俺も挨拶しておこうと思ってね」
「そうなんですね」
緊張が解けたかのように、彼女は微笑みながらこちらに軽く目を向け、呼び鈴を鳴らす。
少しして出てきたのは、とても痩せた女性だった。
お嬢ちゃんの姿に驚いた様子を見せたあと、急いで家の中に戻り、当主と息子、娘を連れてやってきた。
にやりと口元を歪ませた顔は、まるで獲物を見つけた肉食獣のようだ。その笑みからは、嫌味や挑発の意図が感じられ、怒りが込み上げてくる。
ずいぶんと、がたいのいい男だ。こんな体格の違う相手に手を出されていたなんて……。
連中を目の前にした彼女の手が、わずかに震えている。
怖いんだろうな。
嫌がらせしてくるような連中に対し、それでも会話しようとしているのか。
いたたまれない状況に置かれた彼女を見ると、かわいそうに思えてくる。
「叔父さん、あの……急にいなくなってごめんなさい……」
「この恩知らずが」
暴言を投げつけられたお嬢ちゃんの体は強ばる。
畠山秋彦の顔は、頭から湯気が出てくるのではないかと思えるほどに怒りで真っ赤に染まった。
「誰のおかげで今まで生きていけたと思っているんだ!」
まずい!
男は彼女の栗色の髪を乱暴に掴みかかった。
彼女は目を見開き、ひときわ大きく肩が震えた。
とっさに二人の間に身体を強引に挟み込む。
腹の底から不快感が込み上げ、心臓が痛いほどに脈打った。指先がじわりと熱を帯び、額に嫌な汗がにじむ。
これほど他者に対して憎悪を抱くのは初めてだが、驚くべきことに頭は鮮明に冴えていた。
「――はじめまして。優香さんをお預かりさせていただくことになりました。利他ユウナと申します」
腹の底で煮えたぎる怒りを押し殺し、口角を上げる。
ここで騒ぎを起こせば、お嬢ちゃんが余計に目をつけられる。
騒ぎを聞きつけた近所の人が様子を見に来たらしく、背後で足音がする。
人によく見られたいような性格みたいだから、噂になる前に大人しく髪の毛を離してほしい。
「あ……あぁ!? なんだてめえ!」
唾を飛ばして怒鳴る男に、お嬢ちゃんを引き離す隙はなかった。
くそ。
このままでは、彼女の髪が引きちぎられる。
……力づくでも、止めるしかないかもしれない。




