第1話 終了のお知らせ
「……はい?」
電話から聞こえてきたのは、俺が入学する前から、八意魔術高等学校の校長を務めている――春日井誠司先生の、懐かしい声だった。
小、中学時代にいじめを受けていたことを伝えたとき、すぐに対応してくれた優しい人だ。
高校生活が嫌な思い出にならなかったのは、春日井先生がなんとかしてくれたおかげと言える。
「先生、どうしてそうなったんですか……?」
心臓が早鐘を打つ。わずかに震える指先で受話器を握りしめ、落ち着こうと息を吸った。
俺は今、非常に動揺している。真面目で熱心で、尊敬している先生から、とんでもないことを告げられたから。
『鳳さんと井波さんと話し合ったよ、ちゃんとね。優香さんのことを考えると、これが一番いいだろうって』
高校の理事長である鳳さんとは関わったことはない。
なので……この件について、なぜ鳳さんが納得したのかまったくわからない。
「だからと言って、なんで霜月優香さんが俺と同居することになるんですか……」
畠山家であの子がされてきた出来事が脳裏にちらつく。
食事は抜かれ、私物は捨てられ……何度か風呂に乱入されたって言っていたから余計に。
彼女と親しい関係ならまだしも、数時間ともに過ごしただけの、俺の家になんて。
いやもう……かわいそうとかそういう話じゃないだろう。
心を落ち着かせようと、掃き出し窓に目をやり、庭に生えている桜の木の蕾を見てみたが、あまり効果はなかった。
『もちろん、ユウナくんが断るなら別の案を考えるよ』
――頭の中で経緯を組み合わせるように、記憶を辿りながら話の筋を整理する。
ワタツミ街の井波市長は、うなぎ事件のその日の内に、理事長の鳳さんに連絡をしてくれた。
霜月優香の父親は学者であり、母親は魔導士ということで、将来有望な彼女を軽んじることはできない。
そのため、彼女を大切に扱うために、すぐに関係者を集めて話し合いを行ったそうだ。
高校が管理している寮は現在満室であり、入居できるのは翌年になるということで、一年間お嬢ちゃんの生活拠点が必要になった。
その候補先が、なんと俺の家。
「……はぁ、なんでうちなんだよ」
小さく呻き声を漏らし、頭を抱える。
『今度会ったらお茶しましょうね』どころか、『今度から一緒に住みましょう』って。
彼女からしたら難易度上がりすぎだろう。
あんなに怯えた顔をしていたのに、次は赤の他人の家で暮らすなんて、どんな気持ちになるんだろう。
それもあるが……俺の平穏な生活は、どうやらもう終わったらしい。




