第27話 魔導士の卵
「優香さんが通うことになっている高校には寮があってね。最初は家から通学するということで、寮を断っていたんだ。今からでも空き部屋がないか、連絡してみるよ」
「ありがとうございます」
それまでの間は、井波市長が樺谷さんに頼んで、ワタツミ支部で預かってもらえることになった。話のわかる人でよかったと胸を撫で下ろす。
これで、あのお嬢ちゃんも入学するまで安心して過ごせるだろう。
というか、よくよく思い返してみれば、高等女学校って十七歳までだな。
なんでさっきは自然に、俺の母校の入学年齢に思い至ったんだろう。
彼女が童顔だからか?
それに、寮のある高校なんて一ヶ所しか知らないけど、ほかにもあったっけ?
まさかな……いや、そんな偶然あるか?
疑いを打ち消そうとしながらも、胸の奥の冷えは消えなかった。
「……その学校って、八意魔術高等学校ですか?」
魔力を持った者は必ず通わなければならない高校であり、それが俺の出身校でもある。
もし、そこに行くのなら、霜月優香は魔法の力を宿した人間になるけど……。
「よくわかったねえ! やっぱり魔法を使う者同士、通じるものがあるのかい?」
いや、ないけども。
肺の中の息をすべて吐き出すくらいに長く深いため息をついた。
怪物の駆除をしたときよりも感じた疲労に、頭が痛くなった。呆れの感情が胸に広がり、思わず苦悶の表情を浮かべる。
魔力を持っていても、魔法を繰り出す方法を学ばなければ、魔法を使うことはできない。
だから、一般人に混じって普通の学校に通っても、なんの問題もない……が、霜月家の当主は魔法学者だ。
その娘が高校入学前までに、魔法の使い方を知っていてもおかしくはない。
もし彼女が激昂して、魔法で叔父家族を攻撃してしまったら……?
最悪、命に関わる事態になっていたかもしれない。
井波さんは魔法について詳しくなさそうだからいいとして……理事長、あんた、どうなっているんだ。
「魔導士に……そんな都合のいい探知能力はないです」
「そうなのかあ」
とりあえず、彼女の問題についてはなんとかなりそうなのでよしとしよう。
ついでに今回の仕事の報酬についてやり取りをしようと、懐に忍ばせていた帳簿紙に、即席の請求額を書き込んで手渡す。
「これじゃあだめだよ!」
そう言うなり、井波市長は請求書をひったくり、二倍の額を書き込んでしまった。それはありがたく頂戴することにして、市長とは別れた。
たまにはこういう“期待以上”な出来事もあっていいよな。




