第25話 幸福の時間
心と身体が傷ついたことで、他人に頼ることに対して不安や不信感を抱いていたのだろう。
だから初めの質問で、「叔父家族は快く迎えてくれた」なんて嘘をついてしまったのか。
学生が二年もの間、苦しみを抱え続けていたのだと考えると腹が立った。やりきれない感覚とともに、怒りがふつふつと煮え立ってくる。
過去にいじめられていた頃の自分を思い出し、胸がざわついた。
あのときの痛みや孤独は、今でも忘れられない。だからこそ、いじめや虐待は絶対に許せない。
それが例え、他人に向けられたものだとしても。
お嬢ちゃんは今まで溜め込んでいたものを吐き出せて、少しすっきりした表情になっている。
畠山家に連絡したとして、このまま彼女を帰らせたらただでは済まない。
まずは井波市長に報告して……。
たしか組合って、状況に応じて一般市民を泊まらせることができた覚えがあるから、それの確認もしてもらおう。
「うん、事情はわかった。その家に帰らなくていいように、こちらできみの住まいを手配しよう」
一瞬、息を呑んだように目を見開いて――そして、ふわりと綻ぶ。その笑顔は、これまで見たどんな笑顔よりも美しかった。
彼女の表情は、心の中に温かいものがじんわりと流れてくるような安心感があった。
それを見て、ソラも目を細めて喉を鳴らし、うれしそうに尻尾を揺らしている。
「よかったね。今日はお腹いっぱい食べようね」
「うん、うん。ありがとうございます……」
――彼女の涙が引っ込んだ頃、じいさまとばあさまがごはんと出汁を運んできてくれた。白飯の上にうなぎの蒲焼き、刻み海苔とねぎが乗せられたひつまぶし。
ソラには、皮と骨が丁寧に取り除かれた、味のない茹でたうなぎが皿に並べられていた。
「いっぱいあるから、たくさん食べてね」
「おいしそう。いただきます」
うなぎは肉厚なのにやわらかく、甘辛いタレが絡まって深い味わいを引き立てている。
刻んだ海苔とねぎが彩りを添え、一口食べると口の中に広がる蒲焼きの香りと旨味が、心地よい幸福感を与えてくれる。
箸を進めるたびに、贅沢な味わいが口いっぱいに広がった。思わずため息が漏れてしまう。
こんなにおいしいものがあるなんて。
温かい笑顔、温かい食事、温かい空気。
ソラがうなぎに夢中になっている。
お嬢ちゃんも、ようやく笑ってくれた。
……今だけでも、こんな時間が続けばいいな。




