第24話 気絶の理由
「……火事のことは、もう大丈夫」
少し気が引けるけど、ここは大人として言わないと。
「それで、制服姿でこんな時間に、何してたんだ? 危ないだろ、こんな所に一人で。自分のこともっと大事にしなよ」
怪物の襲撃があってほとんどの人が避難していたとはいえ、変なやつに連れ去られてもおかしくない状況だった。
もし、なんらかのストレスで海に飛び込み……とかだったらあれだけど。
しばらく待ったけど、口を引き結んだまま黙り込んでしまった。
もしかして高圧的だったか?
『人付き合い心得帖』上下巻隅々まで読んで、普段は丁寧な印象になるようにしているんだけどな……。
「優香? どうしたの?」
栗色の瞳が揺れている。はらはらと涙が零れ落ち、膝に座っていたソラの頭に涙が落ちている。
やばいやばいやばい、怖がらせた!?
慌てて立ち上がり、たまたま持ってきていた手巾を渡す。一瞬驚いた表情を浮かべるが、戸惑った様子でそれを受け取り、膝にいる白い獣を抱きしめた。
「ごめん。言いすぎた……」
「い、いえ。急にごめんなさい……」
まだ感情に揺れる様子が見受けられるが、それを押し殺して話を始めようとする。
「……叔父さんは社交的なので、こんな話をしても……誰も信じてくれなくて」
「大丈夫。信じるよ」
逆にその、人付き合いが上手な叔父に会ったことがないから、そちらを信じる理由がないわけだ。
「お父さんと叔父さんは仲悪いというか、叔父さんが一方的に嫌ってるみたいで。娘であるわたしのことも……疎ましいみたいです」
小さな声で絞り出すように言う、彼女の手は震えていた。
「それで、その、嫌がらせと言いますか……持っていた服を全部捨てられてしまったんです。女学校はこの前卒業したんですけど……これしか着るものなくて」
俺の言葉に涙があふれてきた時点で、彼女の中ではもう限界だったんだろう。押し込めていたものが、決壊するみたいに一気にあふれ出した。
「それだけじゃなくて……食事を抜かれたり、私物がなくなったり……お風呂に入ってるときに乱入されることもありました。一家で、わたしをからかうみたいに……」
大人に相談しても、叔父一家のことを知っている人間からは「娘がもう一人できたみたいで放っておけないのだろう」とか「家族で触れ合うのは当たり前。気にしすぎだ」とか散々な言われようで、相当参っていたようだ。
そんなことが毎日続き、嫌気がさして夜中に家出したと。
「それで……倉庫街で力尽きちゃって……」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が締めつけられた。どれだけつらかったかなんて、想像もつかないけど……。
「……話してくれて、ありがとうね」
寄り添ってあげるくらいなら、俺にもできる。




