第17話 セーラー服の少女
街はひとまず落ち着いた。
たぶん、そのせいだろう。
張り詰めていた糸が、ふっと緩んだ。そのせいで放っておいた疲労感が肩にのしかかる。
ほぼ休憩なしで魔法連発してたしなぁ……。
帰ったら二度寝確定だな。
じいさまたちがいる辺りを首を伸ばして覗いてみたが、朝食の準備がまだ終わっていないらしい。
空腹でお腹がぎゅうっと縮んだ気がしながら、静かな場所に向かって歩く。
***
――やはり着いたのは倉庫街だった。
ソラは肩から跳び降り、後ろ脚を片方ずつ伸ばして、ついでに大きなあくびもしていた。その様子に思わず釣られ、自分もあくびする。
朝日がゆっくりと街を照らし、瓦礫の隙間から覗く光が、空気に黄金の膜をかけたようだった。
まだ街は完全に落ち着いてはいないけど、これくらい静かな時間なら……少しくらい、休んでもいいよな。
「ここで三十分くらい寝ようかな」
「ぼくはユウナのお腹を見張るね」
腹の上で寝る算段だな?
にまにまと笑っているソラの、髭の根元を指でいじくり回してやった。
無造作に置かれていた木箱を並べて寝台の代わりにしよう。
あとは敷布団、掛け布団、それから枕を召喚して……日除けに朱色の傘を使おうか。これで簡易寝台の完成。
朝食までおやすみなさい。
突然「あっ!」と、ソラが耳を立てた。
え?
どうした?
走り出す小さな背中を追いかけて、薄汚れた倉庫の脇を曲がった先。
――セーラー服の少女が、うつ伏せになっていた。
うわっ……なに、これ。怖っ。
鞄はあるし、服は乱れていない。怪我もなさそうだから、うなぎ騒動の被害者ではない?
ただの家出少女?
……まさか、遺棄?
「寝てるわけじゃないよね……?」
三月の寒空の下に、地べたで?
それはないだろうなあ。
いや、でも。まさか、本当に死んで……。
鼻の下と首に手を当てた。
冷たくない。生きている――よかった。
「……息はある。体温も問題なし」
なんなんだ、この子は?
まあ、それは起きてからにするか。
「とりあえず病院行くか……この時間やってるかな」
「襲撃があったから、避難所から医者を探すしかないかもね」
ああ、避難しているかもしれないからか。そうなると、ちょっとめんどくさいな。
背負っていた傘を魔法で軽やかに浮かせ、着てきた外套を彼女の身にかける。
少女の体を左腕で支え、鞄を脇に挟み、均衡を保ちながら腰掛けた。
ソラは忠実に前に乗り、なんだか心強い存在として寄り添っている。
魔法の力でふわりと傘を動かす。
不安定な体勢でも、絶対に落とさないように、そっと力を込めた。
追い風が背中を押し、倉庫街を一気に飛び越えた。




