第13話 じいさまの船
船置場には数十人ほど集まっていた。
樺谷さんの呼びかけと『立入禁止』と大きく書かれた紙、さらに紐が周囲に張り巡らせてあるおかげで倒壊した建物からは離れていた。
けどやはり自分たちの家が心配らしく、背伸びして家の方を覗き込む人や、不安げに遠くを見つめる人の姿が目に入る。
その群衆に揉まれないよう愛猫を抱えていると、壊れた釣具屋の近くに、見覚えのある年配の女性が一人で立っているのを発見。
「三枝ばあさま」と声をかけると、謙虚に手を振って応えてくれた。
いつもにこにこしていて、春の日差しみたいな人。
子どもの頃は、遊びに行くたび銀三じいさまから惚気話を聞かされてたっけ。
かなりがんばって口説き落としたらしい。
「ユウナちゃん! うなぎ退治したんだってねえ!」
「うん、まあね」
「本当にすごいわあ」と愛嬌のある笑顔で褒めてくれるものだから、むずかゆくなる。
「無事でよかったわ。銀ちゃんと心配していたのよ」
「怪我ないし、大丈夫。ところで、じいさまは?」
ちらとある方角を見たので目で追うと、地面に横たわった船を遠目で見ている銀三じいさまがいた。
その船は破損し、船底に穴が開き、壊れたプロペラがゆらめいていた。
じいさまが漁を行うときに使っていた、ずっと愛用している船だった。
幼い頃、漁から戻ってくるじいさまを、船着き場で待っていたことがある。その船がこんなふうになるなんて――胸の奥に、じわっと痛みが広がった。
所有者はとくにつらいだろう。
「怪我、なかった?」
そっと隣に立つ。
「ああ……二人とも、なんともないよ」
銀三じいさまの顔は、まるで光を失い、石のように固く強ばっていた。船を前にしても、ただ立ち尽くすしかない背中が、ひどく小さく見えた。
この貼り紙がなければ、真っ先に駆け寄って、手で触れていたんだろう。そんな想いがひしひしと伝わってくる。
この有様だと修理せざるを得ないが、完全に元の状態に戻すのは、不可能だ。
――普通の修理ならば。
「ちょっと見てみるね」
じいさまにそう告げると、立入禁止の紐をくぐり、船の中へ向かった。
じいさまの船は、昔から変わらない。
場所も大体、覚えている。
船の床板が濡れていて、危うく足を滑らせそうになった。
えっと……たしか、設計図があったはず。
船の中を漁り、見覚えのある紙束を引っ張り出した。
抱えていたソラにはちょっと降りてもらい、設計図を見ながら、空いている手のひらを船体に押しつける。
――大丈夫。
じいさまの大事な船、きっと元どおりにしてみせる。




