第8話 英雄の困惑
樺谷さんからの視線が刺さる。
うわ、この目……思い出すな。
以前の組合で、いたずらがバレたときの上司の目だ。
じわじわ、じりじりと。背中が勝手に縮こまる感覚があった。
そんな空気をふっと断ち切るように、市長が手を差し伸べてきた。天然なのか計算なのか……判別がつかないけど、今はそれがありがたい。
「わたしはこの街の市長を務めている井波だ。利他くん、きみの噂は聞いているよ」
市長の声に呼応するように、瓦礫の隙間から潮の香りがふわりと立ち上る。
「よろしくお願いします。いい話だとよいのですが……」
引きつった笑みでその手をとり、浅くお辞儀する。
肩に乗ったソラが、突然体勢を変えたことに驚いて、尻尾で背中をばしばしと叩いてくる。
「さて」と声を落とすと同時に、市長の表情がきゅっと引き締まった。
「改めて、この街を救ってくれてありがとう。樺谷さんと相談したんだが……君への依頼をわたしがしたということにして、報酬を受け取ってくれないか?」
……え?
まじ?
市から直接報酬が出るなんて、普通に考えてありがたい話だ。けど――
「それはありがたい限りですが、受け取ってよいものか、迷ってしまいますね……」
顔を見合わせる二人を前に、自分の考えを言葉にする。
「到着したとき、山口さんが奮闘されていました。ほかの方も、きっと同じように。それなのに、正当な報酬が受け取れないのは、どうにも納得がいかなくて」
「……ですが、あれを仕留めたのは利他さんです。あなたの力があってこそ、完遂できた依頼ですので。受け取っていただけると幸いです」
――うーん、説き伏せられそう。
けど、ちゃんと恩に報いる形にはしておきたい。
どうしたもんかな。




