第7話 逃亡劇の失敗
ソラは肩に飛び乗ろうとして、急に鼻をひくひくさせた。
「ユウナ潮くさいよー」と、不満そうに文句を垂れる。
そりゃそうだ。
あのうなぎに海水かけられたせいで、外套、着物、髪まですっかり磯の香りだ。
見下ろせば、乾いた潮が白く浮き出ていて、真っ黒な涅色の着物に斬新な模様を描いている。
芸術品みたいだけど……このままだと着物がだめになる。
着物の襟の部分に触れ、魔法を発動。
しゅわっと、炭酸が発生したような音が鳴り、海水が全身から蒸発していった。
これで、服も髪も肌も濡れる前の状態だ。
ソラは、やっと乗れると言わんばかりに、満足げに肩に飛び乗ってきた。
さて。次は、じいさまとばあさまの無事の確認だな。
といっても、俺に電話をかけてこられたんだから、元気なはずだ。たぶん。
これ以上ここにいたら、組合の人たちの邪魔になるし――何より、報告書とか、そのへんの面倒事に巻き込まれそうでだるい。
怪物は退治した。俺の仕事は終わった。
市長が来る前に、さくっと撤収といこう。
「怪物も片付いたし、あとは任せよう。さっさと帰ろうか」
「うん。おなかぺこぺこ」
あとは、組合の人に任せれば大丈夫だろう。
心の中で樺谷さんと、ついでに山口さんに軽く拝んでおく。
傘に腰掛け、空中にふわりと浮かんだ――そのときだった。
「ちょっと、利他さん?」
「……あ」
「ありゃ」
「おお!! 傘に乗って飛ぶのかね! おもしろいことをするなあ!」
真下に、すごくにこやか……だけどなんとなく怒ってそうな樺谷さんと、少年のような目をした、ふくよかな中年男性がいた。
おそらく市長だろう。
黒髪に白髪が混じっていて、額が少し湿っている。
もしかして、走ってきたのか?
その目には、興味と期待の感情が込められている。
ゆっくりと地面に降り立つ。ばつが悪くて、思わず後頭部を掻いた。
笑って誤魔化したいけど、無理がある。
……ああ。逃げ切り失敗、だな。これは。




