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白猫を連れた魔導士が、港町で拾ったのは秘密を抱える美少女でした  作者: 汐田 伊織
2章 家出少女

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第5話 争いの終幕


左腕を横に振ると、先ほど出したものより短い数百本のうなぎ掻きが、矢のように飛び出した。まるで、海に鉄の森が生えたように、次々と水面に突き立っていく。



「――行け」



命じた刹那、鉄は逃げるうなぎの体を正確に貫いた。体が、命が、静かに蝕まれていく。



最後のうなぎ掻きが海中に沈んだ瞬間、海面は静かに波打ち始めた。


……動きがない。やったか?


海面に意識を集中させたまま、俺は動かなかった。


数分間、風も、声も、波も、すべてが遠く感じる静寂の中で、俺は海を睨み続けた。しかし、完全に気配がなくなっている。


ああ……終わったな。


肺の中の空気をすべて吐き出すように、長く息を吐いた。

右腕が、もう使い物にならないほど重たい。痛みと疲労で震える指を無理やり立て、魔法の指示を送る。



海面に、黒くにじむような濁りが浮かんできた。その中から、尻尾に鉤を刺された巨大うなぎが、ぐったりと水を引きずるように浮かび上がる。


……重い。


腕に伝う痛みに顔を歪めつつ、なんとかそれを引き上げ、船置場に横たえた。


そして――黙って見下ろした。



「……消えない、のか」



魔法獣なら、今の攻撃でもうとっくに消えている。けど、こいつは違う。現実にここにいて、血を流して、まだ温かい。



魔法じゃない。生き物だ。



人間が無理やり作り出したのか?

だとしたら、俺は。


胸の奥がひどく重たくなった。


……仕方なかった。

そう、自分に言い聞かせていた。


それでも。



「……お前だって、ただ生きたかっただけかもしれないのに」



声に出してしまった自分に気づいて、苦く笑う。

だけど、胸の奥は冷たいままだった。


仲間を探していた……あるいは、産卵のためにここに来ただけかもしれない。でも、誰かが止めないと、もっと犠牲が出ていた。

そういう理屈は、もうわかってるんだ。


ああ、くそ。気分が悪い。


そんなふうに、うなぎのぬめった体をじっと見つめていると、あの青年が、背の低い女性を連れてやって来た。長い黒髪に、切れ長の目。張りつめた空気を纏った、隙のない人だ。


……美人だから、余計に緊張する。


そんな彼女の細腕には、ワタツミ支部の腕章が着いていた。


雰囲気から察するに、たぶん、責任者だろう。


女性は俺の前で足を止め、静かに頭を下げた。



「魔導士協同組合ワタツミ支部、責任者の樺谷かばたにです。ご協力いただきありがとうございます」


「利他と申します。……お役に立てて、よかったです」



声が、少しだけかすれていた。疲れのせいだけじゃない。

胸の中に、泥のようなものが重く沈んでいた。


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