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白猫を連れた魔導士が、港町で拾ったのは秘密を抱える美少女でした  作者: 汐田 伊織
2章 家出少女

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第4話 海獣の張り合い


人差し指で空気をなぞるように合図すると、巨大なうなぎ掻きが怪物の元へ一直線に飛んでいく。

黒い影が、それに気づいたように海面を裂いて潜り込んだ。



「うわあっ!」



水しぶきがこちらを直撃し、さっきの青年と一緒に、盛大に頭から海水をかぶった。


ああ、着物が……!


いや、気にしてる場合じゃない。



「うえ、しょっぱ……!」



口に入った塩水を吐き出しつつ、空中を並走させていた二本のうなぎ掻きに命令を飛ばす。


鉤が、深々と巨大な尾に突き刺さった。


次の瞬間、暴れ出したうなぎが、海水ごと空気をもかき乱す。

魔法の反動が直に右腕に返ってきて、信じられないほどの重さがのしかかる。



「っ……おっ、重っ……!」



肩が、腕が、引きちぎられそうな感覚。


冗談じゃない。これ、無理じゃないか?


身体の芯が圧迫されるような苦しさに、胸が固まったように動かない。呼吸が浅くなっていく中、左腕だけをなんとか動かし、振り下ろす。

海が、真っ黒な体躯と赤く滲む水で満たされていく。


――これが、怪獣の血か。

濃くて、重くて、やけに生々しい。



「り、利他さん! 腕とれますよ!」


「大丈夫……たぶん……ね」



いつの間にか近くにいたさっきの青年が、血走った目をして叫んだ。

息を詰まらせながら、俺はかすれ声で応じる。


でも実際は、全然大丈夫じゃない。肩が今にもブチッと落ちてしまいそうだ。

それでも、離すわけにはいかない。


逃げてもいい。でも、逃げたら、あの人たちは?

銀三じいさま。三枝ばあさま。

――そして、ソラ。



絶対に、この化け物はここで止めないと。



歯を食いしばって、全身の力を込める。


早く、終わらせる……!


巨大うなぎの動きが鈍り始めたのを見計らい、近くの魔導士たちが一斉に魔法を放つ。風弾が皮膚の上で滑って消える。まるで水の膜にでも覆われているようだった。


なんで……なんで効かない?

俺の鉤は突き刺さってるのに、ほかの魔法は通らない?

わからない。


……けど、そんなこと考えてる余裕はない。

今は、押し切るしか――。




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