第118話【間に合わなかったのは、元Fランクの闇使い】
翔星とサイカはUFO級のコアを破壊し、
巨大なUFO級は自壊し始めた。
「脱出フェーズに移行、貴官を護送する」
「そりゃどうも。それにしても、先生からのデータであんな技を作ってたとはな」
僅かに浮上したサイカに抱き着かれた翔星は、自壊していくUFO級内部の床や天井を感慨深そうに眺める。
「リミッター解除は消耗が大きい、輝士械儕同士の連携が前提」
「今のところは、これで最後だからな」
エネルギーの残量を手のひらに浮かべたサイカが他2人の輝士械儕の画像に切り替え、翔星は手のひらに一瞬だけ闇を浮かべてから力の抜けた笑みを返す。
「貴官と同じ認識、合流まで消耗を抑える」
「分かった、判断は任せる」
頬を緩めながら抱き着く力を強めたサイカの腕に触れた翔星が軽く撫でて返し、2人は淡く光るUFO級の壁から覗く宇宙の闇へと飛び出した。
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『『グォォォーンッ!』』
「先端の側壁が破られた! バリケードもそろそろ限界だ!」
歪みの限界を迎えた衝角ブロックの側面に空いた大穴からマグナム級硼岩棄晶が大量になだれ込み、羽士は悲痛な叫びを上げる。
「まだまだですぞ。マーダ殿、頼みます」
「は~い、ポールスタンプ~」
「助かった、あと少しだけ頑張るんだ!」
斧型の炎を灯したスコップを振った蔵に頷いたマーダが左足を数回踏み鳴らし、側壁を塞ぐように並んだ炎の柱に照らされた聡羅は振り絞るように檄を飛ばした。
『ブリッジより衝角ブロック、直ちに操舵ブロックへ退避してください』
「このタイミングで退避? まさか!?」
唐突にスピーカーから夏櫛の声が流れ、一瞬訝しんだ聡羅は思い当たる可能性に希望を見出す。
『UFO級が自壊を開始しました。衝角ブロックはパージした後に自爆します』
「みんな聞いたな? 総員退避だ!」
「オッケー、マスター! 殿軍はカーサにまかせなさいよ!」
拾った声に答えるように夏櫛が再度指示を出し、後方の扉に親指を向けた聡羅に頷いたカーサは魔導書からありったけのページを剥がして前方に浮かべた。
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「みんなそっちに行ったわよ、あたしで最後ね」
「おつかれ、カーサ」
「ふみゃあ~」
しばらくしてブリッジのある操舵ブロックに入って来たカーサは、心底安堵した聡羅に頭を撫でられて恍惚とした表情を浮かべる。
「全員の退避を確認したぜ、祐路艦長」
「分かった、パージを開始してくれ」
衝角ブロックにつながる全ての扉の閉鎖をテツラが確認し、続けて自ら確認した祐路はブリッジの下段に指示を出す。
「了解しました。衝角ブロック、パージ。120秒後に自爆します」
「ご苦労。のんびり花火見学と行きたいけどよ、すぐに突入部隊の回収だ」
手元のパネルを操作した夏櫛が正面のモニターにカウントダウンを追加表示し、全身に伝わった僅かな揺れに安堵した祐路は新たな指示を出した。
「艦長! 残存部隊が予想外の数だ、このままだと取りつかれるぞ!」
「この数では翔星達を迎撃レーザーに巻き込みかねないな」
ブリッジ中段のツイナが各種センサーの映像を正面モニターへと映し、隣で立体映像の引き金を握る政之も苦い表情を浮かべる。
「迂闊に動けないか、早く次の手を考えないと」
「某に任せるでござる!」
「無茶だよ、壬奈! 3人がどこにいるのかも分からないんだぞ!」
船長帽を目深にかぶって考え込んだ祐路に壬奈が大声を上げて手を振り、羽士は慌てて止めに入る。
「分かればいいのでござるな?」
「そ、それは……」
含み笑いを返した壬奈がブリッジに目配せし、羽士は言葉を詰まらせ俯いた。
「決まりね。ツイナ、レーダーを借りるわよ」
「熱源探知の拡張もしますね~」
「両手に花とは嬉しい限りだね、ボクも探知に全力を尽くすよ」
ブリッジの中段まで移動したカーサとマーダがレーダー操作パネルに手を当て、2人に挟まれたツイナは緩んだ口元を引き締め直してパネルを操作する。
「政之、迎撃レーザーのコントロールを僕に!」
「お安い御用だ、小官はバックアップに回る」
小さく息を整えた羽士が大声を上げ、手を振った政之はパネルを操作して羽士の手元に立体映像の引き金とモニターを浮かべた。
「羽士殿!?」
「僕がサポートする! 行ってくれ!」
異能者の思わぬ行動に壬奈が驚きの声を上げ、羽士は引き金を握ったまま力強く親指を立てる。
「かたじけない、ウィングパージ!」
「転送ゲート起動、本艦のすぐ外に出られます」
「無窮筒、リミッター解除でござる!」
満面の笑みを浮かべて翼状の機器を取り外した壬奈は夏櫛に誘導されたゲートを抜け、背負った筒から氷の粒を噴き出しながら宇宙の闇へと消えて行った。
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「驚いた、本当に息が出来るのな」
「ああ、今ここが宇宙空間だなんて自分も信じられないよ」
翔星を追う途中で自壊するUFO級から抜け出したピンゾロが目をパチクリさせながら喉に手を当て、脱出後に合流した斑辺恵も眼前に広がる暗闇に手を伸ばす。
「コネクトカバーの範囲内でしたら、何も問題ありません。斑辺恵様、絶対に離れないでくださいね」
「あ、ああ……お手柔らかに頼むよ」
伸ばした手の先に指を絡めて来た焔巳に抱き寄せられた斑辺恵は、背中に当たる2つの柔らかな弾力に意識を取られながら頷きを返した。
「お主もじゃぞ、ピンゾロ」
「へいへい。一生着いて行きますよ、コチョウ先生」
絡み付くようにコチョウの両脚に腰を挟まれたピンゾロは、観念した様子で頭を掻く。
「うむ、宇宙船は向こうのようじゃの」
「では、まいりましょうか」
「ちょっと待ったー! でござるよ」
満足そうに頷いて暗闇の中の一点を指差すコチョウに頷いた焔巳が翼状の機器を広げ、直後に闇の中から現れた壬奈が手のひらを向けて止めに入った。
「どうしたのじゃ、壬奈殿?」
「宇宙船は硼岩棄晶に取り囲まれているでござる」
マフラーから翅を広げようとしていたコチョウが神妙な面持ちで聞き返し、息を整える仕草をした壬奈は宇宙船周囲の状況を手のひらに浮かべる。
「親玉を消したからって、他も消える訳じゃないのね」
「トレント級と同じと考えれば、納得出来るかな」
硼岩棄晶に囲まれた宇宙船の映像をしばらく見詰めたピンゾロが呆れ気味に首を振り、斑辺恵も釈然としない表情で頷いた。
「じゃが、ちと厄介じゃの」
「確かに、今の状態で包囲網を突破するのは難しいですね」
「某なら問題ござらぬ、2人が合流していたから回数にも余裕があるでござる」
ハリネズミの如く迎撃レーザーを伸ばす宇宙船の様子にコチョウと焔巳が難しい表情を浮かべ、壬奈は手のひらの映像を円形画像に切り替えて胸を張る。
「回数? もしかして!?」
「いかにも、某の六連装の切り札でござる」
六分割した円形の画像に気付いた斑辺恵の頭に思い当たる節が浮かび、否定する事無く頷いた壬奈は背中の筒に親指を向ける。
「そう言えば以前、超高速飛行だって羽士が言ってたな」
「左様でござる。では各々方、しっかりと掴まるでござるよ」
視線を斜めに上げたピンゾロが得心の行った様子で頷き、無邪気な笑みを返した壬奈は両手を広げた。
「かしこまりました。さあ、斑辺恵様はこちらへ」
「ちょっと、焔巳さん!?……少し顔を出していいかな?」
壬奈の右腕を肩に乗せた焔巳に抱き寄せられた斑辺恵は、避ける間もなく眼前に迫って来た胸の谷間に挟まれて遠慮がちに頭を動かす。
「あんっ……ダメですよ、斑辺恵様。続きは帰ってからです」
「いや、そうじゃなくて……今は緊急事態だから、これ以上は動かないよ」
「ありがとうございます、必ず斑辺恵様をお守りしますね」
艶やかな声色と共に体を微かによじった焔巳は、しばし考えてから固まるように動きを止めて俯いた斑辺恵の頭を慈しむように撫でた。
「わしらはどうするかの?」
「無事に帰れりゃ時間はたっぷりあんでしょ、これでいいんじゃないかな?」
「おっと……初めて逢った時も姫扱いじゃったの」
顔を近付け耳元で囁いたコチョウは、ピンゾロに背と足を掬うように抱きかかえられて思い出し笑いを浮かべる。
「俺ちゃんはヒーローにあこがれてたからな。壬奈ちゃん、頼んだぜ」
「心得た! 無窮筒、リミッター解除!」
負けじとコチョウに微笑んでから上を向いたピンゾロの肩を抱え込んだ壬奈は、背中の筒から細かな氷の粒を噴射しながら宇宙船へと向かった。
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「ただいま帰還したでござる」
「お帰り、壬奈。ピンゾロ達も無事で何よりだ」
宇宙船の壁からブリッジへと転移した壬奈が得意そうな表情を浮かべて敬礼し、安堵の表情を返して出迎えた羽士は共に連れ帰った生還者にも目を向ける。
「こっちこそ助かったぜ、あれだけの弾幕をすり抜けるなんて見事なもんだ」
「お役に立てて何よりでござるよ」
緊張が解けて床に座り込んだピンゾロが手を振り、胸を張った壬奈は屈託の無い笑みを返した。
「ねえ、サイカは? まだ外にいるの?」
「サイカちゃんと翔星くんは、ちょっと遠いわね~」
何度も帰還した一同の確認をしたカーサが声を震わせ、マーダはレーダーの観測結果を正面モニターに映す。
「もうひとっ飛び、行って来るでござる」
「いや、ダメだ。衝角ブロックの自爆が始まる」
正面モニターを見詰めて位置を覚えた壬奈が転送装置に向かおうとし、艦長席に座ったままの祐路が呼び止める。
「そんな!? じゃあ2人は……」
「自爆に巻き込まれるヘマはしないだろうが、どこに飛ばされるかは……」
「ここまで来てそんなのありかよ!?」
愕然とするカーサに重々しく首を横に振って返した祐路が複雑な表情を浮かべて正面のモニターを見詰め、ピンゾロは座り込んだままの床に拳を叩き付けた。




