最終話【抱き締めたのは、Exランクの光使い】
UFO級駆除作戦に参加した一行は、
翔星とサイカを除いて脱出に成功した。
「電子天女より帰還命令、針路をゼロ番街に設定します」
「そんな!? まだ2人は帰って来てないのよ!」
「某のロケットなら、すぐにでも!」
しばらく天井を見上げた夏櫛が操舵パネルの操作を始め、カーサと壬奈は同時に抗議の声を上げる。
「ダメなんだよ、衝角ブロックの自爆を最後に2人の信号をロストしたんだ」
「まさか2人は……!?」
重々しく首を振ったテツラに愕然としたカーサが息を呑み、ブリッジはしばらく時間が止まったような沈黙に包まれた。
「たぶん大丈夫だ、そのうちひょっこり戻って来るぜ」
「翔星はいつもそうだったからね」
永遠に続くかとも思われた沈黙を咳払いで破ったピンゾロが頭を掻き、斑辺恵も慣れた様子で頷く。
「でも、今回は宇宙空間だ。いつもと同じじゃないだろ?」
「確かにな、今の俺ちゃん達に出来るのは2人の無事を祈るくらいだ」
重いため息と共にテツラが言葉を絞り出し、おどけるように両手を合わせたピンゾロは片目を瞑って返す。
「ピンゾロの言う通りだ、カーサ。帰ったら必ず捜索隊を編成してもらう」
「わかったわ、マスター……でも、輝士械儕は何に祈ればいいのよ……」
肩が並ぶ高さまでしゃがんだ聡羅に頭を撫でられたカーサが小さく頷き、一同を乗せた宇宙船は自壊をほぼ終えて闇に消えゆくUFO級を後にした。
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「爆風に乗った勢いで地球に降りるとか、まるで古典の再現だ」
「宇宙船への帰還は困難と判断、緊急措置を選択」
視界に広がる地球を前にした翔星が複雑な表情を返し、サイカは手のひらに軌道計算の結果を浮かべながら淡々と説明する。
「そいつはありがたいけど、これ大丈夫なのか?」
「進入角度は調整済み、フリーズフラッシュの残り回数も問題無い」
瞬く間に大気圏へと突入して周囲がほのかに赤く光り、周囲に浮かんでは消える閃光の壁を指差す翔星にサイカは笑みを浮かべて手のひらの映像を切り替えた。
「何か物すごい勢いで減ってるぞ?」
「貴官だけは必ず帰還出来る」
「ちょっと待て!? 『だけ』ってどういう事だよ!?」
残り枚数の減少速度を指摘した翔星は、冷静なサイカの返答の違和感に気付いて大声で聞き返す。
「足りない分はこの体で保護する」
「サイカはどうなるんだよ?」
慈しむように目を細めたサイカに頬を撫でられた翔星は、苛立ちと恐怖を混ぜたような表情を浮かべて頬に触れて来た手を掴み返す。
「貴官に新たな輝士械儕を支給するよう、電子天女に手配した」
「なっ!?」
「貴官はどんな異性を望む?」
手を掴まれたまま人型の立体映像を浮かべたサイカは、言葉を失う翔星に覚悟を決めた表情を浮かべた。
「そこはせめて『どこに落ちたい?』とか聞いて来いよ」
「転移座標は決定済み、消滅直前に台刻転を起動するようセットした」
「ふざけんな! 俺はサイカ以外の相棒は認めないぞ!」
何とか我に返って言葉を絞り出した翔星は、胸部装甲を押し当てて来たサイカの背中を抱き締める。
「今の発言は個別領域に保存、この体に思い残す事は無い」
「だから認めないって言っただろ、光よ!」
表情を見せぬよう胸に顔をうずめて来たサイカを更に強く抱きしめた翔星が手のひらに力を込め、2人は眩い光に包まれた。
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「再計算開始、この体も帰還可能と算出」
「これがExランクの光、本来の俺の力……我ながら驚きだ」
「あなたの素直な光を確認した、感謝する」
しばらく光を眺めてから手のひらに画像を浮かべたサイカは、驚きの表情と共に自分の手を見詰める翔星に満面の笑みを返す。
「水くさいな、相棒なら当然だろ? 必ず2人で帰るぞ」
「設定した座標への到着を確認。台刻転、連続起動」
口元を緩めた翔星に頭を撫でられたサイカが事務的な口調で転移機能を起動し、2人は光に包まれたまま空から忽然と姿を消した。
「目標地点、異能輝士隊本部に到着。転移成功を確認」
「何か締まらねえな、俺の覚悟を返せよ……」
地上へと降り立ったサイカが周囲を確認し、見慣れた風景に釈然としない翔星は小さくため息をつく。
「了解した、今夜のベッドで返す」
「やっぱり遠慮しとく……」
敬礼してから悪戯じみた笑みを浮かべたサイカに翔星が疲れた様子で首を振って返し、2人は本部の中へ入って行った。
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「せっかく落ち着いたと言うのに、急に呼び出してすまない」
UFO級の駆除から1か月後、充木は本部のブリーフィングルームに入って来た面々を迎え入れる。
「いえ、待機任務ばかりで退屈してましたから」
「ゼロ番街に誘い込んだ硼岩棄晶の駆除も終わったからね」
「結局、硼岩棄晶の目的は不明のまま終わりましたな」
敬礼をしてから席に着いた聡羅の後ろに座った羽士がLバングルを起動し、更に後ろの椅子に腰掛けた蔵は静かに首を横に振る。
「専門家に任せるしかないよ。それに、いつ増援が来るかも分からないからね」
「でも、硼岩棄晶を食い止めるトラップも出来たんだろ?」
「ゼロ番街に使ってる技術の応用だね、地球と誤認させて誘導してから閉じ込める仕組みだよ」
Lバングルに地球の立体映像を浮かべた羽士は、興味深々な表情を浮かべて覗き込んで来た聡羅に頷いてから地球の映像を縮小して周囲の宇宙空間を指差した。
「そろそろよろしいですか? さっそく本題に入りますね」
「構わないけど、まだ全員そろってないだろ?」
「そうよ、サイカのマスター達はどこに行ったのよ?」
盛り上がり出した雑談にヒサノが割って入り、不思議そうな顔で周囲を見回した聡羅の隣からカーサも聞き返す。
「今回の呼び出しは、その3人の件です」
「まさか!?」
手にしたタブレット端末を操作したヒサノが含みを持たせた笑みを返し、聡羅は空いた3つの席を見詰めながら息を呑んだ。
「うむ、ものの見事に逃げられてしもうたわ」
「ゼロ番街の駆除作戦中に脱走の算段をしていたのでしょうね」
開き直って腕組みをしたコチョウが何度となく頷き、焔巳も手のひらに時系列を纏めた画像を浮かべてため息をつく。
「それで終了と同時に決行か、ある意味で翔星達らしいね」
「しかもあいつら、古典よろしくRガンとLバングルまで置いて行きやがった」
「あれだけの死線を越えたのに、何やってんのよ?」
画像を眺めていた羽士が納得した様子で口元に手を当て、疲れ切った表情と共に自分の机を指差した充木にカーサは呆れた様子で大声を上げる。
「カーサさんの言う通りです、捕まえたら“これ”ですね」
「ふむ、わしも新たな手を考えておくかの」
「そこら辺は合流してから各自で話し合ってくれ」
水兵服の上からも分かるほどに豊満な胸の膨らみを両手で掴んで挟む仕草をした焔巳にコチョウが肩を震わせて笑い、充木は机に伏して投げ遣りに手を振った。
「合流? 確保では無いのですか?」
「時影、斑辺、鵜埜の3名は電子天女から後付けで地球に残存する硼岩棄晶の調査任務が与えられた」
聞こえて来た言葉に違和感を覚えた蔵が聞き返し、息を吹き返した充木は簡単に理由を説明する。
「確かに、UFO級で作られた硼岩棄晶が地球にいないとも限らないものね」
「サイカさん、焔巳さん、コチョウさんの3名には忘れ物を届けていただきます」
密かな安堵を隠すように羽士がLバングルに画像を浮かべ、ヒサノはタブレット端末を操作してから辞令を読み上げた。
「了解しました」
「それで期雨、今隅、祀波の3名は、時影達の抜けた穴を埋めてもらいたい」
「こっちも了解した」
立ち上がった3人の輝士械儕を代表して敬礼した焔巳に続いて充木も辞令を読み上げ、聡羅達も席から立って敬礼する。
「こっちは任せなさいよ。サイカ、絶対にマスターを離すんじゃないわよ」
「当然です、わたしは翔星の妻嫁ですから」
敬礼を解いて腰に手を当てたカーサが激励し、胸元に手を当てて頷いたサイカは含みを持たせながらも柔らかな笑みを浮かべた。
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「いいのか、ピンゾロ? 結界を抜け出して」
「斑辺恵こそ可愛い嫁さんが恋しくなったんじゃねえのか?」
くぐったばかりの大鳥居を見上げた斑辺恵に声を掛けられたピンゾロは、大きく伸びをしてから悪戯じみた笑みを浮かべて聞き返す。
「そりゃ、まあ……毎日が色々と刺激的だよ?」
「じゃあ、なんで来ちゃったんよ?」
「幸運の中にいたら、どうして不運があるのか分からなくなる気がしたんだ」
毎晩の出来事を思い出して言葉を濁した斑辺恵は、呆れた様子で聞き返したピンゾロに目を閉じて静かに首を横に振る。
「相変わらず真面目だね~。ところで翔星はどうなんよ?」
「最後に人間だけが住む町を見ておきたくて出て来た」
安堵のため息と共に頭を掻いたピンゾロに話題を振られた翔星は、本部から続く道路の遥か遠くに霞んで見える大鳥居を見据えた。
「まあ、すぐに追って来るよな~」
「それより油断するなよ、UFO級から落ちた硼岩棄晶がいないとも限らん」
「俺ちゃんにはこれがあるから、大丈夫だぜ」
頭の後ろで両手を組んで本部を見詰めたピンゾロは、期待する内心を隠す事無く青空を見上げた翔星に振り向いて力強く右手を握り締める。
「自分も、それより翔星は?」
「これがある」
続けて斑辺恵が懐から竹とんぼの羽を取り出してから軽く振り、翔星は新調した外套の下からRガンを取り出す。
「Rガンじゃないか!? 何で持って来たんだよ?」
「こいつはガワだけ似せたハリボテだ、熱線は撃てない」
慌てた様子でピンゾロが聞き返し、翔星は手にしたRガンを縦半分に割って空の中身を見せる。
「いつの間に作ってたんよ?」
「礼真に頼んで俺のRガンに重ねてもらった」
心底呆れた様子でピンゾロが聞き返し、翔星は半分に割っていたハリボテを元の形状に戻した。
「最初からチャンスを窺ってたのか」
「多分サイカは気付いてるだろうな」
「どこまでも底が知れない翔星も、輝士ちゃんには敵わないか」
複雑な表情と共に感心する斑辺恵に頷いた翔星が観念した様子で頭を掻き、ピンゾロは肩を震わせて笑う。
「まあな。天女サマも異能者を増やすチャンスだろうし、これからが楽しみだよ」
「ん? どゆこと?」
「いずれ分かるさ、道はどこまでも続いてるからな」
涼しい顔で肩をすくめた翔星は思わず聞き返したピンゾロに余裕の笑みを返し、3人は自らの足で新たな道を歩き出した。
<了>
ここまでお読みいただきありがとうございました、
本作はここで一旦終了となります。
ここでは語り尽くせなかった各キャラの結末などは、
機会があれば外伝という形で書きたいと思いますので、
今後とも応援していただけると嬉しく思います。




