姉思いな姉弟のお話
あれからまたしばらく経ち、僕たちがこっちに来てから半月が過ぎた。
「ミスズ、タイガ。悪いが私達は今日は遠出をしてくる。」
「留守番よろしくね〜」
「あ〜…そういえば、今日はその日でしたね。」
「留守番は任せてください。」
リーダーさんとユウヤさんが出かける。
「…ミスズさん、今日って何の日なんですか?」
「あっ…タイガ君は知らなかったね。今日はね、二人の大切な人が入院した日なんだって。だから、毎月、この日になると、二人は遠くに居たとしてもその病院に帰るんだよ。」
「なるほど…!」
私とユウヤは、電車で近くの空港に行き、そこから飛行機に乗る。目的は…姉さんの病院だ。
あの家を出て、約六時間後…私達は、目的地のある町に着く。電車、飛行機、また電車、そしてタクシーと…移動だけでもかなりの時間と金額を使ったが、私達にとって、それは痛くも何とも無かった。本当に痛いのは…
私達は、病室に着いた。点滴が繋がれた腕、口と鼻を覆うように付けられた酸素マスク、酷く痩せ細くなってしまった身体、未だ開けない目…そこには、私とユウヤの義理の姉『皐月凛』が居た。
「…姉ちゃん、今日も来たよ。」
ユウヤは姉さんの眠るベッドの横にある椅子に腰掛け、姉さんの手を握る。
「良いニュースと悪いニュースがあるよ。良いニュースはね、新メンバーの話。タイガって名前の、馬鹿みたいにお人好しの優しい男の子が、新しく僕らの仲間になったんだよ。悪いニュース、姉ちゃんをこんな目にして、父さんと母さんを殺したあのクソ野郎…カゲトはまだ、見つかってない。でも、安心して。絶対に、姉ちゃんみたいな人を一人でも減らすために、ピリオドを打つから…」
私は来る途中で買ったフルーツの盛り合わせを、近くの机に置く。
「私は医者に姉さんの調子がどうか聞いてくる。ユウヤはそのまま姉さんの手を握ってろ。」
「言われなくてもそうするよ、リーちゃん。」
私は姉さんの担当医の居る場所に向かう。そこは…まさかの屋上。
「相変わらず、昼休みはここに居るんだな。」
「…カエデ君か…今月も来たか…毎月、よくも飽きずに来るよ。」
「…貶してるのか?愚弄する気か?いくら貴方でも、今の言葉は見過ごせないぞ。」
「すまないすまない、そういう意図は無い。この真心の名の下に誓うよ。俺はただ、君たちが健気だねって言いたかっただけだ。」
「…発言には気をつけてくれ。私とユウヤは、ここに来る時は少しピリピリしてるんだから。」
「ごめんって。」
「はぁ…お前が協力者じゃなかったら、今頃殴っていたからな?」
「おぉ…怖い怖い…毎月、カゲト君の居場所を知らせる恩がここに来て役に立つとはね…感謝してよね?俺のカルディア『スナイパー』のお陰で、君たちはカゲト君を追えるんだから。」
「…もっと詳しく居場所を知らせてくれていいんだぞ?」
「やだね。俺にヘイトが向かう可能性があるから。俺のカルディアは戦闘には向いていないんだから…」
「お前に戦える実力があれば、どれほど良かった事か…」
「おいおい…医者が人を殺すカルディアを持ってたら危ないだろ。それに、三十路に戦闘をさせようとするなよ。」
「悪かったな。で、姉さんの様子はどうだ?」
「良いニュース、悪くなってないよ。悪いニュース、良くもなってないよ。植物状態のまま。」
「…いつも悪いな。姉さんの世話をしてもらって。」
「俺は大した事してないよ。信頼できる女性の看護師に世話をやらせてるから。僕は体の調子をデータで見て記録してるだけだ。」
「…邪魔したな。」
「うん、邪魔した。また来月も邪魔しにおいで。」
私は病室に戻る。だが、そこには…ユウヤも姉さんも居なかった。私は少し焦った。だが、落ち着け。
まず、姉さんが寝てたベッドと、座っていた椅子に触れる。まだほんのりと暖かい。さっきまでここに居た証拠だ。
次にスマホを確認する。ユウヤの馬鹿が車椅子に乗せて、外に連れて行った可能性もある。その時には必ずスマホで連絡する。が、連絡は来ない。
私はユウヤに電話をかける。ユウヤは電話に出る。
「おいユウヤ、どこで何をしている?」
「リーちゃん、ちょいと緊急事態。アンファンスが攻めてきた。狙いは姉ちゃん。今は逃げてる。相手のアンファンス、ちょいと厄介かも…クロスボウの手がある、蝶のカルディア。トレケインで体当たりしたくても、小さくしすばしっこいしで当たらないんだよ。」
「…病院の屋上に来い。お前のトレケインなら朝飯前だろ。」
「もうすぐお昼ご飯の時間だけどね。急いで行く。」
私は病院の屋上に急いで行く。だが、ここは病院。走りはしない。気持ち早めに歩く。
屋上に着く。
「カエデ君…ユウヤ君がカルディアに乗ってお姉さんと一緒にこっちに来てるよ。これは悪い夢かい?」
「まさか…現実だよ。現実を見な。」
「戦闘をするなら君たちが好きにやってくれ。俺は戦えないんだから。」
「安心しろ。最初から戦力として見てない。」
「それはそれで少し心に来る物があるが…事実だから気にしないでおこう。それでは、頑張りたまえ。」
真心先生は屋上から病院内へと戻る。と、同時に、トレケインが屋上に着地する。
「リーちゃん、行けそう?」
「舐めるな。姉さんを狙う不届者には…私の怒りを…!『ケビルム』の本気を…!味わってもらう…!『ケビルム』!!!」
その時、白銀の甲冑を纏い、日光を反射させギラリと光る剣を右手に持つ、私のカルディア…『ケビルム』を召喚した。
私はトレケインの上に行く。
「蝶のカルディアが居た方に行け。斬り落とす。」
「ひゅ〜っ!かっこいい〜!」
トレケインは走り出す。宙を。この不安定さが、私の不安を駆り立てる。
「もう少し安全に行けないのか?」
「仕方ないでしょ…馬だよ?飛行機でもヘリでもないんだから…」
その時、その蝶が見えた。その蝶は、手の代わりと思われる位置にある、四本のクロスボウから、矢を放ってくる。ケビルムは動きこそ遅いが…
ケビルムの剣を振り、トレケインは剣が矢に当たるように動く。
これだ。ケビルムは攻撃力が高いが遅い。それをカバーしてくれるのが、トレケイン。少し思う所はあるが、私とカルディアとユウヤのカルディアは相性が良いのだ。
そして、蝶の下ら辺に…ガタイの良い男が居た。
「お前がこのカルディアの使い手か?」
「あぁ、そうだよ。俺様のカルディアの名前は『メタヴリトティタ』!!!攻撃、回避共に最強なんだよ!」
「最強、か…私とこの陽気な馬鹿が協力したらすぐに倒せそうだがな。それに、私の仲間に、未成年の女の子と男の子が一人ずついるが、そいつらが協力しても、すぐに終わりそうだがな。」
「んだとゴラァ!!!依頼があったからその女から殺そうとしたが…決めた!テメェからぶち殺してやる!」
「おじさん、やめときな?うちのリーちゃん、怒ると鬼より怖いんだよ〜?」
「ユウヤ、お前は後で説教だ。」
「いいよ。姉ちゃんを狙った、あのクソ野郎を成敗してくれるならね。」
「当たり前だ。だが、聞きたい事があるからな…動けなくだけで済ませてやるよ。」
「調子に乗るんじゃねえ!クソガキどもがぁ!」
メタヴリトティタはクロスボウに新しく現れた矢を装填し、放ってきた。私はしっかりとトレケインに掴まる。
「あれやる?おっけ〜!矢VSスピンね?」
トレケインが身構える。ケビルムは剣を投げる。すると、トレケインが剣を咥える。そして、回転し始める。右側に回転し、ドリルのようになる。そして、矢は回転しているトレケインにそのまま接近し、無惨にも弾き飛ばされる。
トレケインの回転が止まる。
「なんだよ…それ…!」
「「『私/僕』達の合わせ技、良い味だろ?」」
「二対一で、卑怯だとか思わねえのかよ?!」
「寝たきりの姉ちゃんを狙うあんたの方が、よっぽど卑怯だよ。身の程を知れ、クズ野郎。」
ユウヤの声が冷たかった。まぁ、そりゃそうだろう。私とユウヤは、姉さんのおかげで今がある。私も、こいつに言い表せないマグマのような怒りと殺意を感じている。
そして、トレケインはメタヴリトティタに近づく。ケビルムは剣を振り上げる。
「…落ちろ、クソ虫。」
トレケインはメタヴリトティタの横を通る。と、同時にケビルムは剣を振り下ろし、メタヴリトティタの片方の羽を斬り落とす。男の片方の肩に大きく深い切り傷ができ、血を出す。
「ぎいやぁぁぁ!!!」
メタヴリトティタはヒラヒラと、まるで紙のように落ちていく。トレケインは地面に着地する。私は男に近づく。ケビルムの剣先が、文字通り男の目の前で止まる。
「正直に答えろ。何故姉さんを狙った?」
「…俺は、闇組織で殺し屋として生きてる人間だ。とある日、依頼が来たんだよ。その女を殺してくれ、ってな。たんまりと金が貰える予定だった。『カゲト』って名前の奴からな…それが…お前らのせいで、全て台無しだぜ…」
「…根っからの悪め…」
「…リーちゃん、どうする?殺す?」
「…殺しはしないが…二度と殺し屋ができないようにしてやる。」
ケビルムは、男の目を切った。
「ぎいやぁぁぁ!!!」
「悪いな。だが、まだ良い方だろ。お前が殺してきた人間に比べれば、生きてるだけで幸せだろ。」
「お〜…リーちゃん怖いね〜w」
「…病室に戻るぞ。」
「はいは〜い。」
「ユウヤ。」
「な〜にぃ?」
「…良く、姉さんを守ってくれた。」
「リーちゃんが素直にお礼を言うなんて珍しいね〜?いつもはツンデレからデレ要素を抜いたような…」
私の肘打ちが、ユウヤの脇腹に突き刺さる。
「痛い!酷い!」
「…余計な事を言うからだ。」
私達は病室に戻った。そして、姉さんをベッドに寝かせる。
「…姉さん、また来月も来る。今度こそ、必ず…必ず、良い報告を知らせに来る。」
私も、姉さんの手を掴んだ。そして、姉さんの手の甲を、自分の額に付ける。
「いや〜見事な戦いだったね?カエデ君、ユウヤ君。」
「センセー見てたんだ?」
「あぁ、勿論。万が一にも無いと思うが、君達が負けたら、君達と君達のお姉さんが逃げる時間を稼がなきゃ…俺、こういう性格だけど、医者だから。」
担当医の体から、大量の目が付いた球体が現れる。
「出た…デフォルメの目を大量に付けた球。」
「ユウヤ君、そんな事思ってたのかい?俺の『スナイパー』の対象の居場所をどこに居ようとも知れる能力のおかげで、君達はカゲト君を追いかける事ができるんだからな?少しは敬意を持ってくれ。」
「戦闘もしてくれたら敬意を持つよ。」
「おいおい…俺の『スナイパー』は肉壁にしかならないって。」
「ならなれ。」
「カエデ君、君は鬼かい?俺が死んでもいいのか?」
「…まぁ、少しは。」
「君達のおかげで午後の診察のやる気が下がったよ。まっ、医者だから頑張るけど?気をつけて帰るんだな、カエデ君、ユウヤ君。」
「センセー、僕らもう二十六と二十七だよ?」
「そうだったか?まぁいいや。それじゃあな。」
担当医は病室を後にする。
「ユウヤ、帰るぞ。」
「…そうだね、リーちゃん。」
私たちは少し間を置く。そして…
「「また来るよ。」」
そう言い残し、私達も病室を後にする。またタクシーにのり、電車に乗り、飛行機に乗り、電車に乗る。栄航町に戻ってきて、電車に乗ってる時、ユウヤが口を開く。
「…カエデ…ここで、ピリオドを打とう。」
「…あぁ。あちらがあんな手を使うのなら、こちらも容赦はしない。必ず、ここであいつを殺す。」
私達が帰ってきたのは、その日の午後七時半だった。ソファではミスズが寝ており、タイガは椅子に座り小説を読んでいた。
「おかえりなさい。」
「ただいま〜今日、ター君がご飯作ってよ〜」
「そう言うと思って、三分前に作り終えました。今日の晩ご飯はフィッシュアンドチップスです。」
「それはなんだ?」
「イギリスの料理です。ミスズさん起こしてあげてください。僕は盛り付けて来ますから。」
「はいは〜い、お兄さんに任せて〜」
…私は思った。こんな平和ボケしてしまいそうな瞬間が、永遠に続けばいいのに、と。だが、私はこの雰囲気が少し怖かった。カゲトのせいで、私とユウヤの幸せな暮らしは一度完全に壊された。父さんがいて、母さんがいて、姉さんがいて、私達がいた。あの暮らしは、たった一人の殺人鬼のせいで壊された。だからこそ、今、この暮らしが、どれほど幸せか、理解している。そして、またあいつに壊されるのが怖い。だからこそ…あいつを、必ず殺す。




