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尻尾を掴まれた黒幕のお話

 あの日から三日後。僕は夜にコンビニに向かっていた。理由は簡単。カルディアイの皆で罰ゲームを設けてゲームをし、僕が最下位だったからだ。罰ゲームの内容は「自腹でコンビニのアイスを買ってくる」である。まぁ、暑い日が続いているから、こういう感じの罰ゲームになるとは思っていた。だから、抵抗は無い。

 僕はアイスを買い、コンビニから出る。すると…ミウちゃんを見つけた。


「あれ?ミウちゃん、こんな所で奇遇だね?」


 僕がミウちゃんに声をかけた瞬間、ミウちゃんは人の姿になり、僕に抱きついて来た。僕より頭一つ小さな人間の姿の彼女に、抱きつかれた。僕は驚いて、変な声を出しかけた。だが、出なかった。ミウちゃんが震えていたからだ。


「…ミウちゃん、どうしたの?」

「…やばい…あの人間…やばい…カゲト…見つけた…でも…関わっちゃダメ…殺される…皆…殺される…」


 カゲトを見つけた。その単語を聞いた瞬間、僕の周りを確認した。夜だから人数は少ない。だが、人が居ない訳では無い。この中に、カゲトさんが居るかもしれない。今のミウちゃんは恐怖による混乱状態の可能性がある。


「…ミウちゃん、カルディア解除して。」


 ミウは一瞬固まり戸惑ったが、ポリモルフォスの能力を解除して、猫の姿を現す。その時、僕はミウちゃんを抱っこして、家に走った。ミウちゃんは必死に僕の服を掴んでいた。爪が立っており、服に穴が少し開いてしまったが、そんなのは今はどうでも良かった。


「ター君、おかえり〜…って、あれ?ミウ猫も一緒じゃん?どうかしたの?」

「へぇ〜…この子がその…可愛い猫ちゃんですね!」

「なんで連れて来た…?そいつは私達とは協力する気は無いんだろ?」

「…カゲトを、見たって…」


 僕の一言で、空気が凍る。皆の顔から、一切の感情が無くなる。


「それって…」

「…でも、ミウちゃん混乱してて…まずは落ち着かせた方が…」

「構わない。情報を吐かせろ…」

「…リーダーさん?」

「聞こえなかったか?タイガ…情報を吐かせろって言ったんだ。」

「何言ってるんですか?ミウちゃんがこんなに怯えるなんて…先に落ち着かせた方が…」

「早く吐かせろと言っているんだ!!!」


 リーダーさんが怒鳴るように言う。その時、僕の心に、何かが現れる。カルディアを悪用していたアンファンス達に抱いていた怒りとは違う、失望に近い怒り…


「…リーダーさん、黙ってください…」

「…なんだと?」

「リーダーさんの気持ちは分かります。分かった上で、僕は落ち着かせようって言っているんです。」

「タイガ…私の言う事が…」

「リーちゃん、落ち着こう。ター君の言葉は正しいよ。混乱した状態で話させても、誤情報を招く。」

「…ミスズさん、ホットミルクを入れてください。飲ませます。」

「…うん…分かった…」


 ミスズさんはキッチンに向かう。ユウヤさんは、リーダーさんの二の腕を掴みながら、リーダーさんの背中を優しく撫でていた。だが、ユウヤさんの顔には、いつもあった余裕や明るさが消え失せていた。いや、それはリーダーさんにも、ミスズさんにも言える事だ。

 ミスズさんがコップにホットミルクを淹れて持って来てくれた。僕はミスズさんからコップを受け取る。


「ミスズさん、ありがとうございます。ミウちゃん、飲んで。」


 ミウちゃんは、ゆっくりとホットミルクを飲み始める。会話はできないが、こちらの言葉を理解する事はできているようだ。

 数分後、ミウちゃんは僕から離れて、ポリモルフォスの能力で、再び女の子の体になる。


「…ありがとう。それじゃあ、話す。あいつの話…」


 全員が息を飲み込んだ。そして、ミウちゃんは、ミウちゃんが見たありのままを、ゆっくりと静かに僕たちに言った。

 ミウちゃんはとある男女の会話を、カゲト探索中に偶然聞いたらしい。片方は、二十代ぐらいの女性。片方は、スーツ姿の、三十七歳の男。その会話とは…


「あんた…名前は?」

「ふむ…私は君に名前を教える義理は無いんだが…」

「あんた、アンファンスでしょ?私、アンファンスに彼氏を殺されたの。とある奴から聞いた話だけど、私の彼氏を殺したのは『カゲト』って奴らしいの。だから、名前を聞いてるの。カルディア持ちにね…偽名使われたら困るから、身分証か保険証も見せてもらえる?」

「…そうか…私の事を嗅ぎ回る犬っころが居るようだな…」

「あんた…まさか…?!」

「いかにも。私の名前は真合打(まあだ)影人(カゲト)。」

「あんたが…あんたが私の恋人を…!この!広原天子の!『エラストス』が!あんたをぶち殺す!」

「…私はただ、幸せに生きたいだけなんだ。」

「…は?」

「自己紹介がまだだったね。私の名前は真合打影人。年齢三十七歳。身長は百七十二センチメートル、体重は六十六キログラム。好きな食べ物は人の目とクリームシチュー、嫌いな食べ物は蟹。好きなタイプは目が綺麗な子、男女は問わない。また、男性の目は舐めて楽しみ、女性の目は家に飾り見て楽しむ。私はただ、そのようにして、好きな事をして生きて幸せになりたい、それだけなんだよ。そして、私は…アンファンスではない。ジュネッスだ。」

「ジュネッス…?!カルディアの実力を最大限まで引き出せる、あの…?嘘をつくんじゃないわよ!」

「嘘ではないんだな、これが。私のカルディアの名前は『オプタルモス』。だが、私は長い名前は好きではなくてね…いつも、自分のカルディアの事を『Q』と呼んでるよ。」

「そんなの知るかよ…!ぶっ殺してやる!」


 テンシさんはエラストスを召喚する。と、同時に、テンシさんは吹き飛ばされる。カゲトさんが召喚した『オプタルモス』の蹴りが、テンシさんの腹部に入ったからだ。

 オプタルモス。単眼。手足の指は三本で、その三本から命を刈り取る形の鉤爪が生えている。紫色と白色を混ぜたような色。口は人間でいうと耳元まで裂けており、その口の中には何層にも鋭い牙が生えている。

 カゲトさんはテンシさんに近づく。


「アンファンスの…カルディアを…簡単に…凌駕する…力…マジもんの…化け物じゃん…」

「やはりアンファンスはしぶといな。『Q』、その女の顔を殴り潰せ。」

「やめっ!」


 その瞬間、オプタルモスの拳の連打が、テンシさんの顔を襲う。テンシさんの顔は、原型を留めない程に潰された。


「君の彼氏がどんな奴かは知らないし思い出す気もないが、これは分かるよ。君の彼氏は、綺麗な瞳をしていた。だから、死んだのだ。君は私の幸せを壊そうとした。だから、死んだのだ。」


 オプタルモスは近くの自販機を持ち上げ、それをテンシさんの体を目掛けて振り落とし、テンシさんをスクラップのように潰したらしい。そして、カゲトさんはポケットからマッチを取り出し、その遺体を灰にしたらしい。

 その後、カゲトさんは、カバンの中から、目玉を取り出し、それを舐め始めたらしい。


「んん〜…君の味は最高だ。君の名前も顔も性別も、何もかもを思い出せないが…まぁ、いいだろう。どうせ死人だ。」


 それを聞き終えた。ミスズさんはトイレに行き、胃の中にあった物を全て吐き出していた。リーダーさんは拳を強く握り、その目には明確な殺意が浮かんでいた。ユウヤさんも同様だった。が、リーダーさんが無謀に突っ込まないように、二の腕は握っているままだった。二の腕を掴むその手は、優しくも強く握っていた。


「…ごめん…あたし…守れなかった…助けれなかった…怖くて…逃げ出した…」


 ミウちゃんが謝った。


「…ミウちゃんは…悪くないよ…」

「…ター君?」


 ユウヤさんが僕を呼んだ。けど、それに反応できなかった。いや、反応する余裕が無かった。テンシさんの話は、ミスズさんから聞いていた。だからこそ…悲しいし、辛いし…悔しかった。また一人、今度は知っている人が、殺された…


「…おい猫…そいつ、どこに居たんだ?」

「…商店街の近くの…コンビニの裏の路地裏から…真っ直ぐ、右、右、左って進んだら出る事のできる、少し広い場所…」

「行ってくる…」

「うん、行こう、リーちゃん…」

「ダメですっ!」


 僕は叫んでいた。僕が叫ぶと思っていなかったのか、この場にいた全員が、驚いた顔をして固まっていた。


「…タイガ…悪いが、私達は行く。」

「………」

「いくらター君の命令だからって、それは聞く事はできないよ。僕達の目的は、カゲトへの復讐だ。君が復讐を止めたいのは分かるけど…」

「違います…」

「…なんだと?何が違うんだ?」

「…皆さんを…失いたくない…相手は、能力すらも分かっていないカルディアですよ?!何人も人を殺してる殺人鬼ですよ?!きっと…今行っても殺されます!」

「じゃあなんだ?!このまま黙って指咥えて大人しくしてろって言いてえのかよお前はっ!!!」

「リーちゃん!落ち着いて!ター君、そこまで言うなら、僕達を感情じゃなくて理屈で止めてみなよ。」

「…ごめんなさい...動揺して、少し、僕、おかしくなってました…僕も行きます。僕も行かせてくれるなら、止めません。」

「…どうする、リーちゃん。」

「…好きにしろ。ただし、死んだら許さない。」

「分かりました…ミウちゃん、ミスズさんの事、お願い。」


 僕とリーダーさんとユウヤさんは外に出る。そして、ユウヤさんのカルディアのトレケインに乗る。そして、ミウちゃんが言っていた場所に行く。

 そこに着くと、もう誰も居なかった。そして…壁となっている塀の近くに、赤黒いシミがある…恐らく…テンシさんだったモノだ…


「…辺りを探そう。まだ近くに居るかもしれない。」


 トレケインは空中を蹴り、空を飛ぶ。そして、探す。二人は見つけていないが、僕は見つけた。それらしき人を…藍色の髪の、黒いスーツを着た、サラリーマンのような人…ナイトレイドに襲われる寸前に会った、ただの一般人だと思っていたあの人…


「…あの人…かもしれません…」

「どこ?」

「…コンビニの前…」

「あそこか…私も見えた。ユウヤ、接近しろ。」

「言われなくても分かってるよ…!」


 トレケインはその人に近づき、その人の行方を遮るようにその人の前方に着地する。


「知らない顔が二人…知っている顔が一人…」

「お久しぶりですね…僕の目が綺麗って、僕の目も狙っていたんですね、カゲトさん。」

「私の事情を知っていたとはね…コンビニの近くでぶつかった少年。」

「タイガ、知り合いだったのか?」

「…知り合いと言える程じゃないです。ナイトレイドに襲われる直前に、ぶつかってしまった人です。あの時、ナイトレイドの気配を感じ取って逃げたんですね。」

「複数対一をするのは嫌いでね、私は。それで、君達も、私の幸せの幸せを邪魔をするのか?」

「勿論だよ、殺人鬼。僕達はこの日のために、今まで、お前を追っていたんだから。」


 僕達はトレケインから降りる。そして、僕はドロフォノスを出す。リーダーさんもカルディアを出す。西洋風の鎧を見に纏い、剣を持っているカルディア…これが『ケビルム』なのだろう…


「複数対一…私が嫌いな事だよ。おっと、自己紹介がまだだったね。私の名前は…」

「知ってるから聞かねえよ。てか、聞きたくねえよ。お前の声なんて、一秒たりとも…!」


 トレケインが走り出した。カゲトさんはオプタルモスを召喚する。そして…オプタルモスは、片手でトレケインの頭を掴み、突進を止めた。


「マジで…?」

「ユウヤの馬が止められるなんて…今まで見た事ないぞ?」

「…これが、ジュネッスの力…!」

「アンファンスのカルディアと同じ括りにされるのは些か侵害だな…レベルが違うんだよ、レベル。例えるのなら…手足も武器もないトカゲが君達、それを狙う鷹が私だ。」


 その時、オプタルモスがトレケインを殴ろうとした。僕は走り出し、射程距離範囲内に入る。そして、ドロフォノスのハサミで、オプタルモスの拳を受け止める。


「君、綺麗な目をしているのに、面白い事をしてくれるんだな。最高だよ。一つ、良い事を教えてあげよう。チョキではグーには勝てない。」


 その時、ハサミにヒビが入り、砕ける。僕の右腕に内部から爆発したようなダメージが入り、血が体外へと飛び出した。


「タイガ!」

「ター君!」

「大丈夫です!それよりも、早く下がって!」


 トレケインはドロフォノスを乗せ、すぐに僕達の方に戻る。ハサミはもう使え物になれないぐらいボロボロになっていた。


「どうした?君達の実力はこんなもんか?どうやら私は、少し心配性だったようだな…」

「黙れ…!姉さんを狙った不届者が…!」

「姉さん…?あぁ、凛という邪魔な女の妹と弟は君達か…」

「…邪魔な女…?姉ちゃんに向けて言ったのか?それ…」

「あぁ、あの女は邪魔な女だ。私の正体を知っている女…君達の両親を殺した時に、顔を見られて、それなのに逃してしまったね…昏睡状態と聞いて、心底安心したよ。けど、念のために殺そうとしたんだ。どうやら失敗したようだがね…」

「「…ぶっ殺してやる!!!」」

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