新しい世界に踏み込む少年のお話
「タイガ、どうかしたか?」
「三人目って、誰だったのかなって…」
「あぁ、リーちゃんが三つとか言うから〜」
「私のせいなのか…?」
「リーダーさんは悪くないですよ?てか、ユウヤさんの言い方が悪いですね。」
「えっ?僕?」
「はい。ユウヤさんってそういう所あるので。」
「あはは〜辛辣〜」
そんな会話をしていると、それぞれが頼んだ物が来た。僕達は手を合わせて「いただきます」と言った。そして食べ始めた。
「ねぇ、リーちゃん。」
「なんだ?」
「アンファンス、気にならない?」
「やめとけ。戦わなくて済むなら、それで終わらせるべきだ。」
「それもそうだけどさ、なんでカルディアがあるのに店の奥になんか居るの?僕達みたいに、もっと欲望を解き放っても良いと思うのに…」
「飯を作る事が欲望なんだろうよ。気にしないで食え。」
「もしかしたら、そいつがカゲトの可能性があるんだよ?」
「………」
「ちょっと気になり始めたでしょ?」
「始めてない。」
「嘘だ。」
「嘘じゃない。」
「正直になりなよ〜?意地が強い女の子は男の子にモテないよ〜?」
「黙れ。」
「ぎっ?!だから痛いって!」
「さっきから二人でコソコソ何話しているんですか?」
「ね〜!私達だけ除け者だのね?」
「いやさ…もし、この店の奥に居る人がカゲトだったらどうする?って会話。」
「まぁ…確かにそうですね…」
看板娘さんが近くを偶然通りかかる。その時にユウヤさんが看板娘さんに声をかけた。
「ねぇねぇ、お姉さん。」
「はい、なんですか?ご注文ですか?」
「ううん、違う違う。この店の奥にはさ、何人居るの?」
「え?」
「厨房とかに立ってる人は居るでしょ?その人数を聞きたいの。」
「それは…何でですか?」
「いやさ〜。職業柄、それを聞きたいって感じなの。」
「そうなんですか…この店には、私と、厨房に立つ私の父の、二人だけですよ。」
「お父さんのお名前は?」
「なんでそこまで教えなきゃいけないんですか?」
「ごめんなさい!この人、少し無礼者なんで!礼儀知らずな人なんです!ごめんなさい!」
看板娘さんは訝しげな表情を浮かべながら、ユウヤさんを見ていた。そして、そそくさと店の奥の方に行く。
「ユウヤ、お前、人との距離感を本当に掴めない奴だな。」
「初対面でもフレンドリーに。じゃないと上手くできないもんなんで。」
「タイガとの初対面もそうだったが…お前は少し人との接し方を学べ。相手からしたら、鬱陶しいだけだぞ。」
その時だった。筋肉隆々の、四十代ぐらいの男性が近づいてきた。
「お客さん…俺に何か用かな?」
「ん?あ〜、貴方があのお姉さんのお父さん?」
「あぁ、そうだが。」
「お名前を聞いても?」
「だから!距離感を考えろと言っているだろ!」
パチーン、とリーダーさんがユウヤさんの頭を叩く。そして、リーダーさんがユウヤさんに軽い説教を始める。
「俺の名前か…」
「え?答えてくれるんですか?」
「変なお客は多い。名前を教えるぐらいだったら何ともないさ。娘には変もしくは怪しいと思った客は全員俺に知らせるようにしてるんだよ。」
「しっかりとした娘さんですね。」
「あぁ、自慢の娘だよ。所で、お客さん方は家族か何かで?」
「ん〜…仕事仲間のようなものです!」
「なるほどね…おっと、名乗るのを忘れていたな。俺の名前は浜辺龍彦だ。」
「…カゲトでは無かったか…」
「カゲト?誰だそいつは?」
僕とミスズさんが、龍彦さんに事情を話した。
「なるほどな…つまり、お前さんらはその殺人鬼を追っている、と…」
「はい、そんな感じです。」
「それにしても、俺以外にもカルディアを使う奴ってのは居るんだな。」
「はい。僕たち四人、全員がカルディアを持っていますよ。」
「そうか…ちょいと見せてくれねえか?四十六年生きてて、俺と同種は一度も会った事がねえんだ。」
「分かりました!任せてください!」
僕はドロフォノスを、ミスズさんはハスマを出した。
「ほぉ…これがな…」
「貴方のカルディアはどんな感じなんですか?」
「俺の?」
龍彦さんはカルディアを召喚する。水色の大きな魚に、網目の模様、鋭く反った鱗…
「めちゃくちゃ攻撃的なカルディアに見えますね…僕のカルディアもそうなので、僕がそんな事を言う資格は無いですけど…」
「兄ちゃん、いいんだよ、言っても。発言自体は、憲法で自由って言われてんだから。それに、俺は元は漁師でな。素潜りをしてる最中にこいつを使って、何百何千という魚介を獲ったってもんだよ。」
「なるほど…」
「何か、特殊な力みたいなのはあるんですか?私のハスマは、触ったモノを裂けさせる力を持っているんですよ!」
「俺の『リヴァイアサン』は、海の中に入れば小さめだが渦を作る事ができるんだぜ?凄いだろ?」
「凄いです!」
「おっ!兄ちゃん!分かってんね〜?兄ちゃんのカルディアの能力は?」
「…あれ…ドロフォノスって、何の力があるんだろう…?」
「確かに、今まで能力らしい能力は見た事無い…まだ発現してないのか?」
「なら、俺が付き合ってやろうか?お前さんらの連れの二人の痴話喧嘩はまだ続いてるらしいし…」
「お店は大丈夫なんですか?」
「数分程度なら、娘に任せても問題ねえよ。」
僕とミスズさんと龍彦さんは店の裏に出る。そして、ドロフォノスと龍彦さんの『リヴァイアサン』が睨み合う。
次の瞬間、リヴァイアサンが突進してきた。ドロフォノスは横に流れるように動き、突進を避ける。そして、その鱗にハサミを当てる。が、ハサミは弾かれた。
「硬い…!」
リヴァイアサンが体をブルっと震わせる。すると、鱗が逆立ち、更に攻撃的な姿になる。ドロフォノスは距離を取る。
「そっちのお嬢ちゃんも、戦いたいならしてもいいんだぜ?」
「タイガ君、大丈夫?」
「ちょっと手伝って欲しいかもです…!」
「分かった!」
ミスズさんが再びハスマを出す。ドロフォノスはリヴァイアサンの後ろに移動して、ドロフォノスとハスマで挟み込む形となる。そして、ハスマとドロフォノスが同時にリヴァイアサンに迫る。ハスマが鱗に触れる。すると、鱗が裂け、身が狙いやすくなる。龍彦さんの左腕の一部が、本当に数ミリメートルぐらい裂けた。そして、ドロフォノスのハサミの先を裂けた鱗の奥へと忍び込ませた。
その時、リヴァイアサンの尻尾がドロフォノスの背中を打ち、ドロフォノスは軽く吹っ飛ぶ。僕の背にあの尻尾で叩かれた衝撃が走る。ドロフォノスの四つの目がギョロリとリヴァイアサンの体を見回す。
「タイガ君、どうする?かなり強力なカルディアだよ?」
「…」
ナイトレイドの時、使い手はナイトレイドの見ている景色を自分で見ることができていた。つまり、カルディアとアンファンスは視覚共有が可能。なら、僕にもできるはず…!僕は目を閉じ、集中する。ドロフォノスの視覚を、僕の視覚に…すると、ドロフォノスが見ているであろう景色が僕に映る。ドロフォノスの目は、それぞれ別の方向を見ていた。一つは、裂かれた鱗。一つは、リヴァイアサンの赤いギロリとした目。一つは、リヴァイアサンのトゲトゲした薄い背びれ。一つは、リヴァイアサンの口の中。
「良い作戦を思いつきました。ミスズさん、僕が合図をしたら、リヴァイアサンの口を裂けさせてください。」
「でも、そんな事したら…」
「恐らく、大きめのカルディアは、攻撃を当てやすい分、アンファンスへのダメージは軽いはずです。鱗が良い例です。あの鱗の裂け目の大きさ、僕達のカルディアにできたら本体にも同じくらいの大きさの裂け目が生まれるはずです。ですが、あの人は軽くで済んでいる。なら、多少は大丈夫のはずです!」
「…分かった!」
「『捌きの時間』です…三枚おろしにはしませんので鱗は要りませんが、勝利は貰いますよ?」
ドロフォノスはリヴァイアサンの目の前で、そいつを睨みつける。次の瞬間、ドロフォノスはリヴァイアサンに急接近し、その口の中に入る。そして、人の腕である左腕で、口内を殴る。口の中にまでは鱗は無い。ドロフォノスの目は、口の中に鱗が無い事を確認していた。
「タイガ君?!何してるの?!」
「作戦ですよ、作戦。」
ドロフォノスの拳のラッシュが、リヴァイアサンの口内を襲う。龍彦さんが口を抑える。
「ミスズさん!今です!」
「分かった!」
ハスマがリヴァイアサンの口に触れる。すると、口が軽く裂ける。龍彦さんの唇が軽く裂け、ほんの少しの血が流れる。ドロフォノスはその隙に出てくる。そして、あの鱗の裂け目にハサミの先を入れ、その身に軽く刺す。龍彦さんの腕から、一筋の血が流れる。
「僕達の勝ちです。軽い痛みに気を引かせて、カルディアから意識が少しでも離れた瞬間を狙いました。」
「兄ちゃん、能力無しでその実力は、大したもんだ。悪いな。俺のカルディアがお前さんのカルディアの能力を引き出せなくて。」
「大丈夫ですよ。お昼ご飯終わりの、丁度良い頭と体の運動になったので。」
僕達は店内に戻る。リーダーさんは、まだユウヤさんにお説教をしていた。
「リーダーさん、そろそろ店を出ますよ?ご飯ももう食べましたよね?」
「そうだよリーちゃん、ター君の言う通りだよ。」
「はぁ…今日はタイガに免じて許してやる。次からは気を付けろ。」
「ター君に感謝だね〜。」
僕達は代金を看板娘さんに渡し、店を後にした。店を出ると、龍彦さんも店から出て「また来るのも待ってるよ。次はサービスしてやる。」と言ってくれた。ミスズさんは「はい!また来ます!」と大きな声で言った。僕は振り返り、手を振る。
僕達はその後、これから一週間お世話になる家に着く。それは、海が近い別荘のような場所だった。
「ここ、何円かかってるんですか?」
「ター君、そういうのはリーちゃんに任せておくべきだよ?ああ見えて、教師やってたから。」
「えっ?!リーダーさん、教師やってたんですか?!」
「ミスズにも言った事無かったか…?」
「何の教科を教えてたんですか?」
「科学全般をしていた。まぁ、もう昔の話だがな。てか、ユウヤもユウヤで金あるだろ。ユウヤだって昔は…」
「リーちゃん、過去の話なんてやめにしてさ?ね?早く入ろ?」
「ユウヤさんは何をしてたんですか?!」
「花屋、スーパーマーケット、その他諸々でバイトを掛け持ちしたたんだよ、こいつ。」
「なんか…意外というか、何と言うか…」
「まぁ、色々あったんだよ?僕とリーちゃんなんて、義理の姉弟だし?」
「えっ?!そうなのっ!?」
「その話はまた今度にしよう。とりあえず入ろう。」
僕達はその家の中に入った。映画やドラマに出る別荘って感じの内装だった。真夏だというのに、その暑さを忘れさせるほど涼しい。これでエアコンなどは使っていないらしい。
「作戦会議をしよう。」
「「「作戦会議?」」」
「そうだ。私とユウヤは、三年もの間、カゲトを追っているが、あいつは尻尾を掴ませない。掴ませたとしても、すぐに逃げる。脱兎みたいな奴だ。大の大人二人が協力しても、たった一人の男を三年間も捕まえられてない。そして、半年前にミスズ、少し前にタイガも仲間となった。四人も居れば、多少無茶をしても捕まえれる。」
そして、作戦会議を始める。だが、その日は結局良策は浮かばず、夜になった。リーダーさんが料理を作ってくれるらしい。それまで、各々が自由時間だ。
僕は外に出て、海に向かう。白い浜辺に僕の足跡がくっきりと残る。涼しい夜風に煽られ、海を眺める。宝石のように輝くそれは、すぐに僕の心を掴んだ。
その時だった。
「タイガ君、黄昏れてるの?」
「はい…こんなに綺麗な海は初めて見たので…」
「私もこんなに綺麗な海を見るのは初めて…仲間だね。」
「…僕、高校生になってから友達を作れてなかったんです。なんか、皆よそよそしい感じで…だから、こうして居ると、皆さんが友達みたいで、楽しいです。ありがとうございます。」
「友達じゃないよ。」
「え?」
「私達は仲間。友達より上の存在なの!」
「…ミスズさん、友達多そうですね。」
「そうでもないよ?」
「え?」
「私、珍しい生まれつきのフェテュスなの。だから、小さい頃から、『見えない物が見える子』って言われて、嫌われてたの。そんな時に、親殺されちゃって…もう全てがどうでも良かった時に、リーダーさんに拾われたの。だから、最初は復讐のためって言ったけど、私は『恩返し』するためにチームに入ってるとも言えるの。」
「感動的ですね。」




