時には拳を送る少年のお話
その日、僕は帰ってから、コスモスの話を二人と一匹にした。勿論驚いていた。リーダーさんはその場にいたから知っており、他の人達から「なんで言わなかったの?!」と言われた際には「本人が言うべきだろ。私が言うのはお門違いだ。」と言っていた。
翌日、僕らはいつものように食事をした。そして、各々のやるべき事をした。リーダーさんは食器洗い、ユウヤさんは男子の衣類の洗濯を、ミスズさんは女子の衣類の洗濯をしていた。僕は部屋の掃除だ。ミウちゃんは窓際にちょこんと寝転がり、ゴロゴロ喉を鳴らしていた。
平和だった。だが、この平和は長くは続かない。僕のカルディアは目覚めた。真の意味での「目覚め」を果たした。カゲトさんとの決戦まで、そう遠くはないだろう。
その日の正午、僕はうたた寝をしてしまった。
僕はあのお花畑の中にいた。僕はコスモスを選んだ。なのにも関わらず、また来た。そして今度は、僕の目の前には、プロテアがあった。
「時には拳を、時には花を。」
ユウヤさんがどこかのタイミングで僕に言った言葉だ。もしかして…コスモスが『花』、『慈愛の力』のカルディア。なら、プロテアは…『拳』、『強靭な力』…そう言っているのなら…
僕はプロテアに手を伸ばす。が、僕がプロテアに触れようとすると、誰かが僕の手首を掴み、プロテアに触れる事を拒んだ。
僕はプロテアから顔を逸らし、その手を出してきた人を見た。そこには…僕がいた。もう一人の僕が拳を振ってきた。僕はそれを受け流し、距離を取る。
もう一人の僕の姿が、黒い靄となる。そして、黒い靄は蹴りを繰り出してきた。僕はそれを両腕で防ぐ。そして後退し、距離を再び取る。
黒い靄が僕の方を指差す。
「お前は何を望む?」
「僕は平和を望む。それだけだよ。」
「なら何故私を手に取った?私は破壊の力、お前が嫌ったカルディアだ。」
「…」
「黙ると言う事は、お前にはまだ私を手にする権利も意味も無い。立ち去れ!」
その時、僕は夢から覚める。いきなり飛び起きた事により、近くで飲み物を飲んでいたミスズさんはビクッとした。
「ど、どうしたの?大丈夫?」
「…少し、変な夢を見ました。」
「変な夢?どんな夢だったの?」
「いえ、人に教える程変でもないので、あまり気にしないでください。」
「え?うん、分かったよ!」
僕は気分転換にお散歩をしに行く。何故か、ミスズさんと一緒に。
「ミスズさん…?何で着いてくるんですか?」
「タイガ君は一人だと危なっかしいから付き添い!それに、もし、今、カゲトに会ったら大変でしょ?」
「まぁ、そうですけど…」
正直、僕は一人で落ち着きたかった。が、こういうのも悪くはないだろう。たまには誰かと一緒に歩くのも悪くはない。
そうして歩いていると…
「お前、人鬼泰我?」
「えっ?」
急に名前を呼ばれ、振り返る。そこには…黒いパーカーを着た、二十代ぐらいの男性がいた。
「そうですけど…何で僕の名前を知っているんですか?」
「お前に少し用事があってな…用事って言うのも…死んでくれねえか?」
その時、その男性はカルディアを出してきた。望遠鏡の先端のような目が三つくっついた頭部、肩と腕にある大きめのライフル…
カルディアが僕に迫る。その時だった。
「『ハスマ』!!!」
ミスズさんがハスマを出し、そのカルディアに蹴りを喰らわせる。カルディアは一瞬だけ怯み、後退する。僕もコスモスを出した。
その時、そのカルディアはその四丁のライフルから同時に弾丸を放ってきた。ハスマはそれに手刀を当て、真っ二つに裂けさせ、ライフル弾を左右それぞれに流すように飛ばされる。
「へぇ?やるじゃん?だが、俺の『ティフェーキオ』には素手では勝てねえよ!」
その時、ティフェーキオは乱射してきた。コスモスとハスマはそれぞれに迫ってきた弾丸を殴ったり蹴ったりして落としたり弾いたりして防ぐ。
「このままじゃ…近づけない…!」
「どうします…?」
「…トレケインの速度か、ケビルムの剣を投げたりするなら、まだ勝ち目があったんだけど…コスモスは明らかにパワーは無いし、ハスマも小石を投げて当てる程のパワーがあるかも怪しい…連絡する暇があれば蜂の巣にされるし…一か八かで突っ込みましょう…!」
「タイガ君がそう言うって事は…何か策があるんですね?!わかりました!行きましょう!」
僕達は同時に男性の方へと走り出す。ライフル弾が僕達に飛んでくる。コスモスは手のひらを押し出し、太鼓の振動のような衝撃波を発生させ、弾丸を当て落とした。
その時、ハスマの蹴りがティフェーキオの腹部に入る。が、ティフェーキオは一瞬でハスマの脚を掴み、その脚に肘打ちをする。ミスズさんの脚にも同じだけのダメージが伝わる。
瞬間、コスモスはティフェーキオの胸に手を当て、笛の音色のような優しい衝撃波を放つ。が、ティフェーキオには全くと言えるほど変化がなく、コスモスを殴り飛ばした。
「なるほど…やっぱりそうか…!」
「どういう事?」
「僕のコスモスの衝撃波の片方、慈愛の衝撃波の効果は、相手を落ち着かせたり、凶暴性を失わせる力があるんだよ。でも、あいつは…そもそも、僕を殺そうとしている。そんな相手に、僕のコスモスの慈愛は届かない…」
「と言う事は…大ピンチって事?!」
「…うん…」
コスモスが拳を握る。そして、拳を当てる。が、攻撃力はドロフォノス時代と比べると明らかに減少しており、目に見える程のダメージを与えられなかった。
その時だった。ティフェーキオはハスマの脚を離し、コスモスの体に無数の銃弾を当てる。僕の体にも撃たれたような痛みが走り、僕は膝を地面につける。そして、僕は地面に倒れ、気を失う。
次に目を開けると、またあのお花畑。そして…黒い靄。黒い靄は拳を握る。そして、僕の方に走って迫ってくる。
僕は黒い靄が繰り出してきた拳を避ける。そして、黒い靄を押し飛ばす。
「何故、私を必要とする?」
再び、その問いが僕に投げかけられる。僕は考えた。何で、この花が僕の目の前に再び現れたのか。
コスモスさえあればいい、そんな事を思っていた。僕は甘かった。優しさだけでは、綺麗事だけでは、包み込むだけでは、全ては解決しない。この世には、そんな物がいくらあっても無意味にする人間だって居る。
なら…
「花を贈り止められる相手にはコスモスを…でも、花を贈ってもその花なんて無価値と考える人には、そんなんじゃダメなんだ…なら…拳で語るしかない…そうやって、體と體でぶつかるからこそ、止められる事だってある。そのために…君が必要だ!」
「…なら、私の名前を呼べ。私の名は…『アンドレイオス』!」
僕は目を覚ます。目の前には、ミスズさんの首を掴み今にも彼女を殺そうとしているあの男性が居た。
ミスズさんは男性の腕を掴み、脚をバタバタさせている。ハスマは出ていない。恐らく、あの後、ハスマは攻撃を喰らいすぎた結果、消滅してしまったのだろう。
「…ミスズさんを…離してください…」
「…生きてたのかよ…でも、残念でした。今のお前に、俺を殺せる程の力は残ってねえよ。あんな非力なカルディアには、俺を止められない。」
僕は立ち上がる。向かい風が僕を煽る。だが、その向かい風は、まるで自転車に乗っている時の追い風のように、僕の背中を押しているように感じた。
「いいえ、止めます…!止めてみせます!その貴方の悪しき心、浄化できない程、悪に染まっているようなので…へし折ってあげますよ…!『裁きの時間』です!僕達が貴方に罪を償えさせます!」
「どうやって?」
ティフェーキオが再び発砲しようとした。その時、俺は自分の胸を掴む。そして、目をカッと見開き、叫んだ。
「『アンドレイオス』!!!」
その時だった。コスモスが現れた。だが、色が違った。青色は赤色になり、白銀色は黄金色になっていた。コスモスと対をなす姿、それが…アンドレイオス…二つで一つ…『闇を照らす慈愛のコスモス』と『闇を撃ち砕く強靭のアンドレイオス』、この二人で一人のカルディアが、僕のカルディアだったのだ。
「姿を変えた程度で勝てると思うんじゃねぇ!」
ティフェーキオが発砲してきた。すると、アンドレイオスはそれを素手で全て掴み止めた。
「は?」
「貴方の罪…それは、殺人未遂ですよ…!裁きを受け、罪を償ってください!」
「黙れ…!テメェなんかのクソ雑魚カルディアに、俺のティフェーキオは負けたりしねえんだよ!」
ティフェーキオが殴ろうとしてきた。その時、アンドレイオスの拳がティフェーキオの腹部にクリーンヒットした。それ機に、アンドレイオスの猛攻撃がティフェーキオの体をボコボコにする。
「貴方は故意に人を傷つけた。恐らく、カルディアを使い慣れている所から、他にも沢山の人を傷つけてきたのでしょう…」
「だったら何だよ…!だったら何だって言うんだよ!」
「償ってください…この拳は、貴方が今まで傷つけた人の怨みの籠った拳です。」
その時だった。アンドレイオスの拳の連打がティフェーキオの全身に襲いかかる。ティフェーキオは回避する暇も防御する暇も与えられぬまま、フルボッコに殴られる。そして、最後のアッパーカットにより、ティフェーキオと男性は大きく吹っ飛ぶ。
「貴方のカルディア、銃さえ使えなければただの少し硬いだけのカルディアでしたね。」
僕はミスズさんに駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫…だよ…ありがとう…タイガ君…それより…タイガ君の…カルディア…だよね…?」
ミスズさんは掠れた声で、途切れ途切れの声で、そう言った。その目は、アンドレイオスの方をジーッと見ていた。
「はい、こっちは『アンドレイオス』です…コスモスの慈愛が通じず、拳で語るしかない相手と会話をするための、拳のカルディアです。」
「やっぱり…タイガ君…凄いね…」
「…『コスモス』。」
アンドレイオスの体の色がコスモスの体の色になる。タイプチェンジ、形態変化、といった所だろう。そして、慈愛の力は相手の心を落ち着かせるだけではないと僕は思っている。
コスモスの右手が淡く優しく光る。そして、その手がミスズさんの肩を掴む。すると、その光は少しずつミスズさんの体に響き渡っていく。
「あれ…?痛みが引いていく…?」
「悪い人ならともかく、良い人が傷つくなんて…僕は許せない。」
僕は立ち上がり、男性の方に歩いていく。
「何で僕を殺そうとしたんですか?」
「俺は殺し屋だ。頼まれたんだよ…真合打影人って奴にな。」
「依頼人の名前まで、あっさり言うんですね。」
「当たり前だろ。そいつが怨まれたとしても、俺には関係ねえ話だ。で、俺をどうする気なんだ?殺すのか?」
「いえ、警察に突き出します。」
「警察にね…」
「人を殺す権利は僕には無い。人を殺すかどうかを判断するのは、裁判官ごっこの裁判官役をしている僕じゃありません。本当の裁判官さんだけです。」
「…お前…変わってるよ、本当に…気持ち悪いぐらい変だよ、お前。」
「はい、知ってます。良く言われますから。でも、これが僕なんです。」
僕は警察に通報し、ミスズさんと共に急いで帰った。
急いで帰った僕達は、リーダーさんとユウヤさんにすぐに事情を話した。ミウちゃんは窓際から動いていなかったが、こちらの方に顔を向け、鋭い目で僕達をジーッと見て、聞き耳を立てていた。
「…ついにタイガを殺しに来たか、それも他人の手を使って。」
「安全圏が好きなクソ殺人鬼であるあいつらしいやり方だね。本当に反吐が出る。その癖、自分は安全圏でどうせティータイムでもしてんだろ?」
「ユウヤさん、落ち着いてください…私達、無事でしたし?」
「ミスズ、無事なのは確かに嬉しいし喜ばしいが、だからってチャラって訳でもないんだよ。とうとう、あちら側から本気で仕掛けてきたんだ。こちらも、そろそろ動こう。」
リーダーさんとユウヤさんの目が怖かった。人を殺す人の目をしていた。だが、僕はそれを指摘する事ができなかった。何故かは分からない。前までは、これを指摘できたはずだ。なのに、今の僕は、それをする事ができなかった。
「…明日、奴を本気で探す。」
「おっけ〜」
「分かりました!」
「…」
僕だけ返事ができなかった。怖かった。怖かったのだ。今の皆の目が…またカゲトのせいで死にかけるのではないか…今度はカゲトから皆を守れるのか…僕はやっぱり弱かった。ここまで来たっていうのに、僕は…




