慈愛の力が目覚める少年のお話
朝を迎える。僕は結局、あの後、ソファで眠っていた。コスモスを出そうとするが、出ない。あの夜だけのカルディアな訳はない。恐らく、出す意味が無いから。だからカルディアは出ない。優しくてもカルディアはカルディア、無闇に出すような物じゃない。
その日のお昼。
「…え?」
「ですから、僕、カルディアが復活しました。」
「リーちゃん、今の聞いた?」
「あぁ…バッチリと…」
「ドロフォノス復活したんですか?!」
「ううん、ドロフォノスじゃない。本当の僕のカルディアが復活したの。」
「タイガの…本当のカルディア?」
「はい。その名前は…コスモス。」
「コスモス…花の名前だよね?ター君、お花好きなの?」
「好きですよ。綺麗ですから。綺麗な物を好きになるのは人間の性ですし。」
「話が脱線してるぞ。」
「そうでした。それで、僕の『コスモス』、腕しか現れなかったんですよね。」
「なるほど…」
「ドロフォノスの時は全身あったよね?じゃあ、まだ不完全って事?」
「恐らく…」
「なるほど…しばらくはまだ私達が戦う事になりそうだね。」
「ごめんなさい…でも!もう少しで!僕も復帰しますから!」
「頼もしいです!」
その日の夕方、僕は一人で浜辺を歩いていた。ここに来て、本当に色々な事があった。良い事ばかりではないが、悪い事ばかりでもなかった。
その時、僕は靴を脱ぎ、靴下を靴の中に入れ、海の中に足を入れる。心地良い冷たさだった。その時、海の中の砂に埋まった空き缶を見つけ、それを拾う。それを機に、僕は海の中のゴミを拾い始める。
そんな事をしていたら、リーダーさんが来た。
「ここに居たか。」
「もうご飯の時間ですか?」
「いや、後もう少しかかる。」
「分かりました。」
「…ゴミ袋、居るか?」
「お願いします!」
リーダーさんは家の中に行き、ゴミ袋を持って戻って来た。そして、僕は腕の中にあるそれらをゴミ袋の中に入れた。
「なぁ、一つ聞いていいか?」
「何ですか?」
「…タイガは、この戦いが終わったら、何をするんだ?」
「そうですね〜…カルディアを悪用する人を止めたいと思っています。世界中を歩き回って。」
「世界中って…そんな金あんのか?」
「勿論、何かの職に就きたいとは思ってますよ?その休日とかに行くんですよ。」
「高校中退で空白期間がある奴を簡単に就職させる職場なんてそうそう無いと思うがな。」
「うっ…それは…」
「…少しだけ、手を回しておく。」
「…え?良いんですか?!」
「私は今は休業中だが教師だからな。子供の未来を壊す訳にはいかないからな。」
「ありがとうございます!」
「礼はいい。その代わり、大人になったら一緒に酒を飲んで、今日みたいな話をしよう。私としては、それがいちばんの礼となる。」
「分かりました!」
その時だった。海の沖の方で、何かが跳ねた気がした。僕は海の方に目を凝らす。
「タイガ、どうかしたか?」
「…何かが、沖の方で跳ねた気がして…」
「魚か何かじゃないのか?ここら辺の海には、浅瀬だとしても魚が来るほど、魚が大量に生息しているからな。」
その時だった。背鰭が見えた。カサゴのように鋭く、カジキように太く長い背鰭が見えた。
「…私が間違えたな。あれは、魚なんてレベルの大きさじゃないぞ。突然変異か、新種か…」
「「カルディア。」」
その時だった。それが姿を現した。
脚がある。大きな後ろ足。前足は無く、後ろ足だけで立ち上がった。濃い紫色の体に、緑色のラインがある。腹部は銀色に光っており、その体には鱗がびっしりと付いている。
「カルディアだな、あれは。あれが新種の生き物だとしたら、妖怪としか思えない。」
「僕も同意見です。でも、アンファンスはどこに…?」
「…魚、かもな。」
「…なら、潜ったら見つけれますかね?」
「タイガ…?っ?!お前まさか…!?」
「そのまさかですよ!あのカルディアは宜しくお願いします!」
僕は沖の方に走り、足が水の下の地面に付かなくなるギリギリで飛び込む。そして、潜水する。泳ぎは得意とまではいかないが、ある程度なら泳ぐ事はできる。
僕は泳ぐ。だが、ここら辺に魚は見えない。全く居ないのだ。そして僕は、気付いたらカルディアの近くまで泳いでいた。
カルディアの目は海中の僕を見ており、僕の目はカルディアの足を見ていた。大きさこそ違うが、トカゲのような足をしていた。また、鱗は魚と言うよりもワニの鱗のように見えていた。
タチウオのような口が僕に噛みつこうと迫ってきた。その刹那、ケビルムの剣が投げられ、それがカルディアの体に刺さり、カルディアは少し怯む。その瞬間に、僕は泳ぎ、陸に戻る。
「びちゃびちゃだな。で、成果は?」
「無いです。魚が一匹も居ません。」
「なるほど…なら、どこかにアンファンスが隠れているのかもな。」
カルディアは僕達の方に走って来た。と思うと、急に海の中へと体を潜らせ、背鰭だけを出して迫ってきた。
浅瀬に来ると、そいつは立ち上がり、僕達を見下ろす。約五メートル程の大きさのそれは、僕達に何かを訴えているのか、攻撃はせず、ジーッと僕達を見ていた。
その時、ケビルムの剣が海の中に居たのにケビルムの手の中へと飛んで戻ってきた。まるで、糸を巻きつけ引かれたように。これがケビルムの能力なのだろう。
ケビルムは剣を構える。
「タイガ、カルディアは出さないのか?」
「…出せないんですよね。」
「は?」
「僕にもまだ良く分かって無いんですけど…今の所、僕の意思では出す事ができないんですよね。恐らく、まだ不完全だから、僕が扱えてないんですよ。」
「なるほど…なら、家の中に行って二人を…」
その時、カルディアの口から水がホースから出ているかのように一直線に放出され、僕達の足元を狙ってきた。リーダーさんは僕の服の襟を掴み、後ろに下がった。そのお陰で僕も後ろに下がり、その水の攻撃を喰らわずに済んだ。
そして、その水に当たった空き缶の一つが…溶けるように、腐敗していった。
「…毒っ?!」
「シンプルに強くないですか?!」
その時、カルディアは再び毒水を放ってきた。僕達はそれぞれ別の方向に避ける。だがその時、僕の服の袖が当たってしまい、服が腐敗し始める。ケビルムは腐敗した場所を切り落とした。
その時、カルディアが僕の方に突進した。ケビルムが剣で切ろうとするが、カルディアの鱗が剣先を弾く。固かった。その時、リーダーさんは僕の手首を掴み、リーダーさんの方に引き寄せ、カルディアの突進を避けさせてくれた。
「ありがとうございます!」
「礼はいい。それよりも…シンプルイズベストという言葉を、ここまで見にしめて味わう事になるとは思わなかったよ…!」
「攻撃手段としては、口の噛みつき、シンプルな突進からの体当たり、そして口から出される毒水の三つだと思います。近づいたら体当たり、更に近距離は噛みつき、中距離から遠距離は毒水、こういう戦術だと思います!」
「近距離、中距離、遠距離…全てに適応できるカルディア…相当厄介だな。それに、アンファンスも居ないし、それ故に目的も分からない。」
その時、カルディアが身震いを始めた。そして、突進してきた。
「何か…様子がおかしい…!」
ケビルムの剣が再びカルディアの鱗に触れる。瞬間、ケビルムの手が剣を弾いた。
「タイガ…!こいつ、帯電している!」
「電気?!下手に攻撃できないじゃないですか!」
カルディアが再び僕の方に接近してきた。僕は横に転がり跳び、カルディアの突進を避けた。ミスズさんとユウヤさんとミウちゃんを呼びに走っていたら、毒か電気で攻撃されるかもしれなかった。危なかった。それに、スマホで連絡して隙を晒そうものなら、間違いなく攻撃を喰らう。
「リーダーさん!近くの貝殻をあのカルディアの目に!」
「分かった!」
ケビルムは近くの貝殻を拾い、それをカルディアの目に目掛けて投げる。だが、なかなか目には当たらない。
その時、カルディアは再び身震いをした。その時、ケビルムは剣を手元に寄越し、それでカルディアの鱗に触れる。が、今度は剣を離さなかった。帯電時間には制限時間が設けられているらしい。
「電気ウナギの帯電時間でさえもほんの一瞬しか帯電できないから何十回何百回と連続で帯電しているのに、こいつはそれを一定時間保てる。連続して使えないらしいが…厄介には変わりない!」
ケビルムの剣がカルディアの左目に突き刺さり、視界を奪う。カルディアは後退し、苦しみ始める。
それを見て、僕は胸が痛くなった。このままでいいのか?いや、違う。倒すだけが全てじゃない。僕はあのカルディアも救いたい。何がしたいのか理解したい。なら、これは違う…!
「力を貸して…『コスモス』っ!!!」
その時だった。青色の体の、細身のカルディアが僕の目の前にいた。胸、肩に三日月状の白銀の模様。膝から胴体へ、胴体から肩へ、肩から肘へと続く、白銀の繋がったライン。
「タイガ、私は、君の意思と共に歩もう。」
コスモスが僕に語りかけた。ドロフォノスの時と同じ声。だが、声色は全く違った。優しく、温かく、穏やかな声だった。
「あれは海の化身だ。人間の環境破壊によって生み出された、海の抵抗だ。放っておけば、いずれ、更に大きくなり、街に行き、人間に復讐するだろう。」
「なんで分かるの?」
「私は慈愛を司る、君自身のカルディア。目を閉じ、心の目で見れば、分からない物は無い。」
「うん、分かった…なら、一緒に行こう…!『浄化の時間』を始めよう!」
コスモスが海の化身の方を振り返る。
「それが…新しい、タイガのカルディアか?」
「はい…慈愛の勇者…『コスモス』です!」
僕もコスモスが海の化身の方に迫る。海の化身が噛みつこうとした。僕はそのまま、この攻撃を受け入れる。海の化身がコスモスの肩に噛み付く。コスモスは海の化身の胸に手を当てる。
「触れるべきは…!撃ち砕くべきは…!体ではなく。心の中に巣食う…」
「「『悪しき心』!」」
その時、コスモスの手から衝撃波のような物が出て、それが海の化身の体に響き渡った。優しい笛の音色のようなその衝撃波は、海の化身の体を貫通し、海にも届く。
海の化身の刃がコスモスの肩から離れる。コスモスが距離を取る。海の化身は一瞬だけど大人しくなっていた。が、すぐに凶暴な性格に戻ってしまった。
海の化身が突進してきた。体を震わせ、帯電し始めた。が、コスモスはそれを両手で押さえる。コスモスと僕の体に電撃が流れる。
「タイガ!死ぬぞっ!」
その時、コスモスの手から衝撃波が生じた。今度は、強い太鼓の振動のような衝撃波であり、それは軽く海の化身を吹き飛ばす。
そして、コスモスは再び海の化身の背中に触れる。そして、優しい笛の音色のような衝撃波を体に響き渡らせる。すると、時間が少し経つにつれ、海の化身は大人しくなっていった。
そして、海の化身は海へと帰って行った。
「終わったのか…?」
「いえ、まだです。根本的な解決にはなっていませんから…少し、出掛けてきます!ご飯は後で食べます!」
僕はそう言い、とある場所に走り出す。僕は海鮮丼屋『クラボウズ』に着く。そして、店内に入る。
「おっ!久しぶりだな!こんな時間にどうした?」
看板娘さんと一緒に店の中を掃除していた龍彦さんに、僕は頭を下げた。
「こんな時間にごめんなさい!お願いがあるんです!」
「お前さんが改まってこの俺にお願い?頭上げろ。どうした。とりあえず座れ。」
僕は言われた通りに頭をゆっくりと上げ、椅子に座る。そして、今起きた事を話し、僕がしたい事を伝えた。
「よし!分かった!」
僕と龍彦さんは海に行く。そして、龍彦さんのカルディア『リヴァイアサン』が海の中に入り、リヴァイアサンの能力で小さな渦を発生させ、ゴミを集合させ、僕らはそれを回収した。
「ありがとうございます!」
「いいって事よ!てか、今度、この町の会長さんに、海のゴミ拾いでも提案してみるわ!」
「いいんですか?!」
「いいってことよ!海は生命の命!それを汚してんのは俺ら人間だ。まぁ、お前みたいな人間は海を汚すような事はしないだろうが…責任は俺ら大人が取る。子供が綺麗な海を楽しめるように、な。
「ありがとうございます!」
僕は龍彦さんに、海の中のゴミを拾いたいと言ったのだ。そしてその後、龍彦さんの「他の近くの海岸にも行くよな?」という提案に「良いんですか?!」と僕は反応し、その日は月が真上に昇るまで二人で海の中のゴミを回収した。




