出会いの連鎖の少年のお話①
朝、目を覚ましました。僕の夢の中の人は出てこなかった。毎日、夢の中で会っていたのに…そして、体を起こして、思い出す。
「…ここ…僕の家じゃないや…」
木の床、布団…あの小屋だ。ミスズさんの小屋だ。あれ?どうしてここにいるんだっけ?
僕は昨晩の記憶を思い出す。
「罪を…償え…だと…?ふざけるな…!ふざけるなよっ!ガキの分際でっ!俺は最強なんだっ!俺のスコルピオスは全ての生命を超越した最強の存在なんだっ!それなのに…お前らみたいなガキに…!!!」
「『カルディア』は、決して最強ではない。生命を超越した存在でも無ければ、人を殺すための道具じゃない。『カルディア』は、その人の心の本性。貴方が人を殺せたのは、貴方に人を殺したい欲望があったから。そして、貴方は実際に人に手を出した。償いなさい。」
「黙れ…!黙れ!このクソガキぃ!!!」
「動くなと言っているだろう!」
警察官が大柄の人を取り押さえた。大柄の人は抵抗しようとするが、流石警察。見事に抵抗できないように取り押さえてくれた。そして、女性の警察官が近づいてきた。その時だった。ドロフォノスが消えてしまった。
「通報してくれた方ですか?」
「はい。」
「署でお話を聞かせてもらっても宜しいでしょうか?」
「タイガ君、どうする?これ、任意だよ?」
「…行きます。あの人には、しっかりと自分の罪と向き合って反省してほしいから。」
「ご協力ありがとうございます。」
僕とミスズさんは警察署に行き、事情聴取を行う。僕とミスズさんはそれぞれ行った。まぁ、それもそうだろうけど。僕はありのままを話した。でも、カルディアの事は話さなかった。言っても信じてもらえないだろうし、恐らく、公にする物でも無い気がする。そして事情聴取を終えて警察署から出ると、ミスズさんが待っていた。
「今夜、空いてる?」
「まぁ、暇ではありますけど…どうかしたんですか?」
「『カルディア』について、教えようと思って!」
「そう言う事ですか。ありがとうございます。」
そして、ミスズさんの小屋に行った事までは覚えてる。けど、結局疲労で、床に倒れるように寝てしまったのは覚えている。
そして、今に至る。
「あっ、タイガ君おはよう!」
「おはようございます。」
「良い天気だね、今日。ご飯できてるから、歯を磨いて顔を洗ってきて!」
「…洗面台はどこですか?」
「えっと…ここから出て右に曲がって左に曲がった場所にあるよ!」
「ありがとうございます。」
僕は洗面台の方に行く。そして気付く。
「…僕の歯ブラシ、無いよね?」
その場には、コップと歯ブラシが一セットになったのが三つある。が、明らかに僕のために用意した物では無さそうだ。
僕は戻った。
「僕の分の歯ブラシ、無いですよね?」
「あっ!それもそうだね!ごめんね!」
昨日が緊迫した状況だったから、この人も自然と真面目になっていたのだろうけど…普段のこの人、結構、楽観的で明るい人だな…
「…一旦僕の家に戻ります。そして歯を磨いて顔を洗ってから戻ってきます。」
「大変じゃない?誰も使ってない新しい歯ブラシとコップが下の棚の中にあるから、それ使っていいよ!」
「早く言ってくださいよ…てか、なんであるんですか?」
「新入りさんが来ても、すぐにここで馴染めるようにって、リーダーが言ってたから。」
「…リーダー?」
「その話もしなくちゃだよね!でも、まずご飯食べてからにしよ!」
「分かりました。」
僕は再び洗面台に向かう。そして、棚からそれを取り出し、使う。そして、歯を磨き、顔を洗い、ミスズさんの元へ戻る。
「おかえり〜!じゃあ、一緒にご飯食べよ?」
僕は席に着く。目の前には、白米、お味噌汁、目玉焼き、サバの味噌煮、ポテトサラダ。和食だ。いつもトーストサンドイッチで終わらせていた僕からしたら、こんなちゃんとした和食は久しぶりだ。
「いただきます。」
「いっただっきま〜す!」
僕は丁寧に朝食を食べ始める。物静かだ。冥陽ラジオを聴きたい。でも、この人は食事の時は静かにしたい派かもしれないし…我慢しよう。
「静かだね。」
「…静かなご飯は嫌いなんですか?」
「う〜ん、嫌いって程じゃないけど、黙食は性に合わないんだよね〜。」
「なら、ラジオを聴いてもいいですか?いつもラジオ聴いてて、食事中はそうでもしないと気が乗らないって言うか、その…」
「ラジオ?全然OKだよ!こんな時代でラジオって、渋いね〜」
僕はミスズさんの言葉に特に反応はせず、スマホを取り出す。そして、スマホでラジオを流す。
「続いてのお便りです。」
いつものパーソナリティーがお便りを読んでいた。
「あっ、この声の人知ってる!テレビにも良く出てる人だよね?」
「ごめんなさい、テレビはあまり見ないから良く分かんないです。」
「そうなんだ。ごめんね?」
「謝らなくても大丈夫ですよ。」
僕達はラジオを聴きながら朝食を始めた。数十分後、僕らは朝食を終える。僕が片付けようとすると…
「あぁ、座ってていいよ!お皿洗いは私がするから!ね?」
「え?でも…」
「いいから!いいから!座ってないと、話してあげないよ?」
「…わかりました。」
ミスズさんは僕の使ったお皿も持っていき、洗い始める。良い人だ、きっと。
そして、お皿を洗い終わったミスズさんは、僕の向かい側に座る。
「それじゃあ、話してあげる。君が知りたい事。」
「お願いします。」
「『カルディア』って言うのは、その人の心の具現化なの。もう一人の自分でもあるの。そして、カルディアを持つ人は状態によって名称が変わるの。カルディアを発現する可能性がある人は『フェテュス』、発現した状態の人は『アンファンス』、そしてカルディアの実力を最大限まで引き出せる人は『ジュネッス』って呼ばれてるの。フェテュスの一部、アンファンス、ジュネッスだけがカルディアが見えるの。そして、君も私も、今は『アンファンス』の所。」
「…あの大柄の人も、アンファンス?」
「多分ね。話の続きをするね。カルディアにも種類があるの。私の『ハスマ』とか、君のカルディアとかみたいなタイプを『人型タイプ』、スコルピオスみたいな『動植物タイプ』。後は『無生物タイプ』の三つがあるの。」
「なるほど…」
「そして、私達は、ある人を追っているの。顔は分からない。分かるのは、カルディアを持っていると言う事と、そいつの名前。」
「…まず『私達』と言う事は、仲間が居るんですよね?その仲間について知りたいです。」
「いいよ。私含めて三人が、そいつを追ってるの。私、ミスズ。リーダーのカエデさん。副リーダーのユウヤさん。」
「その人達もアンファンス?」
「うん、アンファンス。ジュネッスは全く居ないから…」
「なるほど…次に、その追っている人の事を教えてください。」
「うん。分かった。私たちが追っているそれは、真合打影人…最低最悪の殺人鬼だよ。」
「殺人鬼…」
「そう、殺人鬼。私達はそれを追ってるの。」
「…なんで追っているか、聞いてもいいですか?」
「そいつが…私達の親を殺したから。」
「復讐、ですか?」
「うん。私達は復讐するよ。許せないもん。」
「…僕がこんな事を言うのは変なのかもしれませんが、復讐なんて、しない方が良いですよ。できた所で、虚しくなるだけです。」
「…君の意見も分かるよ。でも、この燃えたぎるような怒りと怨みは、抑え込めないんだよ。」
「カルディアの事も、他の事も、教えてくれてありがとうございました。何か困ったら言ってください。僕にできる事は協力します。」
「………一つ、聞かせて。君のカルディアは、何がトリガーで現れたの?私も、リーダーも、ユウヤさんも、あいつへの怒りがトリガーになった。でも、見た感じ、君は違うよね?」
僕は過去の記憶を思い出す。震える体、真っ白な世界、真っ赤な手、涙が溢れる眼、冷たくなる二人…どれくらい叫んだだろう。何を叫んだんだろう。怖くて、悲しくて、辛くて、切なくて、色々な感情がごちゃ混ぜになって、自分でも何が何だか分からなくなっていた。
「…僕はただ、目の前で人が死ぬのが嫌なだけです。偶然、それがトリガーになった。それだけです。」
「君は優しいね。あの男の人も殺さなかったし。」
「…人を殺すと言うのは、その人の人生を終わらせるのと同じ。当たり前みたいだけど、それを分かっていない人は多い。相手が罪人だとしても、殺す権利は僕達には無い。裁きを下すのは裁判官。裁判官が裁きを下すまでは、誰も殺しちゃいけない。たとえ、その相手が人を殺していたとしても。僕はそう思っているから。」
「…意外と考えてるんだね。」
「煽ってます?」
「煽ってないよ。正直な感想を言っただけ。」
僕は立ち上がり、扉に向かう。
「お世話になりました。また今度、お詫びにケーキでも買ってきます。」
「…もう一つ、聞いてもいい?」
「なんですか?」
「貴方は自分のカルディアを、どう扱うの?」
「…使いません。」
「…使わない…理由は?」
「ペンや包丁も人を殺せますが、それを前提とした物ではありません。でも、僕からしたら、カルディアは、人を殺す前提の物に思えます。たとえ、それが僕の心の具現化だとしても。そんな危ない物、僕は使いたくありません。」
僕はそう言い、小屋を出ていく。山を下っていく。都市部ではあまり見られない、植物や虫を見れたのは良い経験だ。
僕は家に帰ってきた。学校に休む連絡を入れた。今日は学校に行く気にはなれなかったからだ。そういえば、カバンもどっかに行ってしまった。大柄の人から逃げる時に無くしたのか、それともあの小屋に置いてきたのか、それは分からない。けど、いいや。命を助ける事ができたんだし。
僕はシャワーを浴びる。そして、ベッドに倒れ込む。カルディア…フェテュス…アンファンス…ジュネッス…教科書に載っていない事ばかりだ。それもそうか…僕はそのまま眠りにつく。
次に目が覚めた時は、丑三つ時だった。普段よりも長く寝てしまった。あの夢は見れなかった。お腹空いた。でも、何かを作る気にもならない。だから僕はコンビニに向かった。
コンビニの中に入ると、夏の鬱陶しい暑さを忘れられるエアコンの冷気に煽られた。心地良い。僕は何を買うか見て選んでいた。
結局僕はイタリア料理の弁当を買った。僕の舌にイタリア料理は何故か合うからだ。
コンビニを出て夜道を歩く。カルディアの事を考えながら歩いているせいか、人にぶつかってしまう。
「あっ…ごめんなさい。」
「いえ、こちらこそ済まない。少し考え事をしていた。」
サラリーマンだろうか、スーツを着た藍色の髪を持つ男性は、僕の目を真っ直ぐと見てきた。
「えっと…なんですか?」
「いやね…君、良い目をしているね。真っ直ぐ澄んだ綺麗な目だ。」
「ありがとうございます?」
「君が女の子だったら惚れている所だったよ。」
サラリーマンさんは後ろを確認すると、誰か見えたのか、そそくさと行ってしまった。なんだったんだろう、あの人。なんか、怖いな。まぁ、変人って事で気にしないでおこう。
僕は帰り道を歩く。今度はしっかりと前を見ながら。夜だから少し見づらいが、電灯はあるし、目の前に居る人には気付ける。その時だった。何かが顔の隣を横切った。ハチぐらいの大きさの何かだ。僕はそれが進んだ方向を見る。そして、地面に小さなヒビと凹みがあった。それに近づいて見てみる。すると、それは…針だった。蜂の針のような何かだった。
「なんだろう、これ。」
何か、僕は恐怖を感じた。その時だった。僕の足元に、同じような針が来た。
「何か…やばい…!」
僕は走り出した。すると、羽音と針が放たれ地面に突き刺さる音が聞こえてきた。僕はある程度走った後…
「『ドロフォノス』!!!」
ドロフォノスを呼び覚ます。そして、僕の方に飛んできた針を、ドロフォノスのハサミで叩き落とす。ドロフォノスが針を全て叩き落とす。僕は針が飛んできていた方向…空の方向を向く。そこには…蜂の羽のような物がある、ドローンのような何かが居た。そして、それにはレンズと射出口が付いており、そのどちらもが僕らを見ていた。
「…カルディア、だよね?」
僕は無意識に一歩後ろへ下がっていた。また冷や汗が出てくる。恐らく、これが『無生物タイプ』のカルディア…
「穏便に済ませる事…は、できなさそうだね。暴力は嫌いなのに…」




