再び仲間と歩き出す少年のお話
「…なんだ?言ってみろ。」
「…もう一度…皆さんと、戦わせてください。」
「戦う力の無いお前が、か?」
「戦えます。カルディアは無いですが…フェテュスはフェテュスなりにさっきのように戦えるんです!なので、お願いします…!もう一度、皆さんと戦わせてください…!」
僕は頭を下げた。
「顔を上げろ。」
リーダーさんがそう言った。僕は頭を上げた。瞬間、僕の頬に拳が当たる。だが、あの病室で味わった痛みとは、全く違う痛さを感じた。
「…これでチャラだ。二度目は無い。」
ミスズさんが僕の方に走ってきて、跳んで僕の胸に突っ込んできた。僕は何とか倒れず踏みとどまった。
「良かった…良かったよぉ…」
ユウヤさんは頭の後ろで手を組みながら、ゆっくりと近づいてくる。その顔には、いつも通りの余裕の笑みが浮かんでいた。
「おかえり、ター君。待ってたよ。」
「待たせてしまいごめんなさい。」
やっぱり、ここが良い。僕の居場所は、ここなんだ。あの家も好きだが、それ以上の好きが、ここにはある。
翌日、僕達はあの家にて作戦会議をしていた。
「で、結局の所…カルディア無しじゃあ、やっぱりサポートに回ってもらう?」
「どうにかしてカルディアをもう一度目覚めさせれたら良いんだが…」
「う〜ん…どうしましょうかね?」
会議の話題は「これからの僕は何をどうするべきか」だった。
「まっ、ぶっちゃけ現状問題、カゲトのオプタルモスの攻撃、正面から受けて一番耐えてたのドロフォノスだから、次からドロフォノス無しは少しキツくない?」
「こいつが気を失っている間、私達は強くなった。なら、今なら耐えれる可能性がある。」
「でも、人手は多い方がいいですし…」
「あの猫は…」
全員の視線が、窓際に座り毛繕いをしているミウちゃんに向く。
「ミウ猫は…うん…ター君ラブだからター君は守るしター君の言う事は聞くけど…カゲトに殺されそうになったら間違いなく僕ら三人を置いてター君と一緒に逃げるよ、あの子。」
「私もそう思います。ミウちゃん、タイガ君以外には懐いていないし…」
「懐いていないと言うより、懐こうとしていないんじゃないか?」
「多分そうかもです…」
「まっ、仕方ないんじゃない?猫は気まぐれだし。てかさ、気分転換しようよ、気分転換。」
「気分転換?ユウヤ、何を考えている?」
「どっかパーッと遊びに行こうよ。たまにはいいんじゃない?」
「ユウヤ、分かっているのか?カゲトをどうにかしないと、どうにもならないだろ!」
「リーちゃん、そんなに怒ってばっかだと持病の血圧上がっちゃうよ?」
リーダーさんのローキックがユウヤさんの首元にクリーンヒットする。
「私が高血圧だと思っているのか?残念だったな。安定してるんだよ、血圧。」
ユウヤさんが椅子から崩れ落ちる。
「あっ…」
「リーダーさん…蹴る力強いですね!」
「ミスズさん…今そこ?ユウヤさんの心配は…」
「まぁ、いつもの事ですし?こんなもんでしょ!ユウヤさんへの扱いなんて!」
「本当にここの女性との相性悪いですね、ユウヤさん。」
「君だけが味方だよ、ター君。とりあえず助けて。」
僕はユウヤさんに近づき、ユウヤさんの肩を優しく掴む。そして、ゆっくりとユウヤさんを起こす。思いっきり首が赤くなっていた。
「リーちゃんは相変わらずツンデレなんだから…」
「ユウヤ、おかわり行くか?何杯でも食らわせてやるぞ。出血大サービスで無料でな。」
「本当に出血しちゃいそうだから塩嶺しておくよ。」
ユウヤさんは立ち上がり、椅子に座り直す。
「で、こっから真面目な話。ター君さ、もう一回死にかけたら、カルディアがまた発現してくれるんじゃない?」
「ユウヤ、正気か。」
「素数を噛まずに言えるほど正気だよ、リーちゃん。」
「…仮にやるとして、どうするんですか?」
「ほら、前、夜の浜辺でター君とミーちゃんがキャッキャうふふしてた時あるじゃん?」
「変な語弊が生まれそうな事を言わないでください!」
「そうですよユウヤさん。僕達、イチャイチャしてた訳じゃ…」
「ごめんごめん。で、そん時さ、ター君、壊れかけたよね?」
「………」
「ユウヤさん!」
「ミーちゃん、静かに。」
「静かにできませんよ!タイガ君、あの時本当に苦しそうだったんですよ!なのに、なんで今こんなピンチな状況でそれを掘り起こすんですか?!」
「…カルディアは心の具現化。なら、心の底から恐怖したり嫌がったりしているモノを乗り越える必要があるでしょ。」
「うっ…確かに…」
「でさ、タイガ君が壊れかけた要因を克服さえすれば、今度こそタイガ君がタイガ君の心と正面から向き合えるでしょ?」
「…危険すぎる。」
「成功には失敗と危険が無きゃ成功なんて言わないよ。」
「だとしてもだ。第一、タイガが許可を出して訳でも…」
「やりましょう。」
「…は?」
「え?」
「やりましょう、それ。」
「本人からの許可も貰えた所で…ター君、話してよ。君の身に何があったかをさ。」
僕は覚悟を決め、自分の過去を語り始めた。
幼い頃の僕は、両親と共に遊園地に来ていた。理由は簡単、僕の誕生日だったからだ。だが、この誕生日は、十七回訪れた誕生日の中で、一番最悪な誕生日になった。
午後一時二十三分、観覧車のゴンドラの一つが爆発した。それを機に、コーヒーカップ、ジェットコースター、メリーゴーランド、お化け屋敷、様々な場所で爆発が起きた。
目の前に炎がある。あちこちから聞こえる激しい爆発音。どこまでも響き、無常にも誰にも届かず消える僕の悲鳴。膝から崩れ落ちると膝に温度が伝わる生暖かい血。僕の目の前に横たわる二度と目覚める事の無い両親。両親は、僕を爆発から庇って死んでしまった。
僕はそれを全て話した。
「…予想よりも重い話だね。」
「…その爆弾を設置した犯人は?」
「警察の話によると、その爆発で自殺を試みた可能性が高いってさ。」
「なるほどな…」
「タイガ君、大丈夫?」
「うん、大丈夫。」
「じゃあさ、遊園地行こうよ、遊園地。」
「…タイガが大丈夫なら行こう。」
「…行きたいです。」
僕達は少し遠くにある遊園地に向かった。
遊園地は広かった。くるくるゆっくり回る観覧車、乗ってる人が黄色い悲鳴をあげるジェットコースター、それに対して恐怖の悲鳴が聞こえ始めるお化け屋敷、カップルやら子連れの親やらが乗っているメリーゴーランド、老若男女問わず多種多様な人が居るフードコート。
平穏であり、幸せが満ち満ちているこの空間。だがこの空間は、僕は苦手だった。平和だと分かっている。もう一度、あんな事が起きないなんて分かっている。だが、それでも…あの光景がフラッシュバックする。
僕は胸を抑えた。すると、ミスズさんが僕の肩を掴み、近くのベンチにまで連れて行ってくれた。
「ありがとうございます…」
「タイガ君、無理しないでいいよ。」
「あぁ。お前が倒れたら元も子もないからな。」
「そうそう。ター君のペースに僕らは合わせるからさ。ゆっくり行こ?」
「ありがとうございます…!」
あたたかい。やっぱり、この人達はあたたかい。
十数分後、僕はやっとの思いで呼吸をゆっくりにさせ、皆と遊園地を楽しんだ。ジェットコースターに乗ろうとする時、お化け屋敷に入ろうとする時、ミスズさんは目を輝かせて、ユウヤさんの口元には笑みが浮かんでおり、リーダーさんの顔は引きつっていた。僕はそれを後方で見守っていた。すると、ミスズさんが僕の手首を掴み、僕を先頭まで引っ張って行った。
その後も、僕らは遊園地を満喫していた。コーヒーカップでは、リーダーさんが中央のハンドルを思いっきり回し、ユウヤさんがその外へと飛んで行ってしまった。バイキングでは、リーダーさんが常に悲鳴を上げていた。ユウヤさんはゴーカートに乗り、まるでトレケインに乗っている時のように一直線に豪快に走った。回転ブランコに乗ったミスズさんは飛びながら「新感覚!」と叫んでおり、リーダーさんが少し引いていた。
そして、夕焼け。僕はミスズさんと二人っきりで、観覧車に乗っていた。下の方では、ベンチの上で横になり伸びているリーダーさん、そしてそれを見ながらアイスクリームを舐めている。
その時、ミスズさんが口を開いた。
「タイガ君、今日、楽しい?」
「はい!皆さんのおかげで、遊園地が楽しい場所になりました!」
「そっか!なら良かったよ!」
観覧車がどんどん上に登っていく。そして、夕焼けが正面に見える。赤く染まった太陽、橙色の空、明るく輝く太陽に照らされている数々の白い雲。その一つ一つは、僕の心を射止めるのにさほど時間はかからなかった。
「ねぇ、タイガ君。」
ミスズさんが僕を呼んだ。さっきまでの明るさは残るものの、真剣な声色で呼ばれたため、僕は振り返らざるを得なかった。まぁ、振り返るつもりではあったが。
「なんですか?」
僕はミスズさんの方向へと振り返った。ミスズさんは僕の目を真っ直ぐ綺麗な瞳で見ていた。頬が少し赤くなっているように見えるが、それは恐らく夕焼けに照らされているのが原因だろう。ミスズさんは口を開き、言葉を出そうとするが、なかなか出なかった。
僕達が乗っているゴンドラが頂上に到着した。
「私ね…!タイガ君の事…!」
その時、僕はミスズさんに手を伸ばし、抱きしめる。そして、横に倒れる。その刹那、窓からカラスが突っ込んできた。僕はこのカラスを知っていた。
カラスは機械仕掛けのカラスを出してきた。
「やっぱりあの時の…!」
僕はミスズさんにハスマを出してもらおうとした。そして、ミスズさんの方を見る。すると…ミスズさんは何故か気を失っていた。
「えっ?!なんでっ?!なんで気絶してるの?!」
機械仕掛けのカラスがクチバシで僕を攻撃してきた。僕はそれを紙一重で避ける。どうすれば良いのか…
僕はカラスが入ってきた窓から外に出て、スポークに乗り移る。そして、ユウヤさんに電話をかける。
「ター君どーしたの?」
「カルディアが襲ってきたんですよ!今、観覧車のスポークの上にいます!今すぐ助けてください!」
「分かったよ〜。」
その時、機械仕掛けのカラスが突進してきた。僕は横に走り、突進を回避し続ける。その時、機械仕掛けのカラスがスポークの方に突進し、そのクチバシがスポークを叩く。
振動が僕の脚にまで渡り、僕は足を滑らせてしまった。僕は地面へと真っ逆さまに落ちていく。
その時だった。トレケインの背中に僕は乗れた。
「毎度毎度ギリギリでごめんね〜?」
「いえ、ギリギリでも助けて貰ってるので、感謝はしても怨みはしませんよ。」
「君って本当に聖人君子。で、ミーちゃんは何で意識無いの?」
「分かりません。」
「おけおけおっけー。で、どうする?」
「前に戦った時はカラスを逃走させたんです。でも、多分今回は僕を殺さない限り帰らないと思います。」
「スピードってよりは、テクニックタイプかな、あの感じ。トレケインとの相性は悪いかな…よし!リーちゃんに頼もう!」
そう言うと、トレケインはリーダーさんの方に走る。
「リーちゃん!あのカラスが、リーちゃんの大事で大事で仕方ないミーちゃんとター君を殺そうとしたよ〜」
めちゃくちゃ軽く言うユウヤさん。その時だった。リーダーさんが体を起こし、カラスの方を見て、その目はギラリとカラスを睨んでいた。
トレケインは地面に着地すると、僕らを下ろす。そして、リーダーさんはトレケインの上に乗り、ケビルムを出す。
トレケインは全速力で駆け出す。僕が入院する前まで知っていたトレケインよりも速い。そして、ケビルムの剣はより鋭くなっていた。
機械仕掛けのカラスが二人に迫る。再び突進しようとしているのだ。その時、トレケインがガクンと真下に走る。ケビルムが剣を逆手に持つ。
「私の剣を味わえ、クソカラス。」
トレケインが真上に走り、ケビルムの剣の刃が機械仕掛けのカラスの胸部に大きな切り傷を付ける。すると、カラスの胸部にも大きな切り傷が付いた。
「乗馬騎士VS単体カラス…その差は歴然だったね?ね、リーちゃん。」
「そうだな。」
トレケインがこっちに戻ってくる。
「せっかくの遊園地が台無しになっちゃったね〜」
「…悪いな、タイガ。私達が気を緩くしていたばかりに…」
「いえ、お二人のせいではありませんよ。元はと言えば、僕が巻いた種です。それに…」
僕は腕の中のミスズさんを見た。
「…今度は守れるって、分かったので。もう怖くありませんよ。」




