救う側から救われる側になる少年のお話
ミウちゃんは歩き出し、僕は彼女に着いて行った。
すると、少し小さなフランス料理店に辿り着く。
「一旦、ここで話をしてください。」
「え?誰と…?」
「見れば分かります。」
フランス料理店に入る。すると…「らっしゃいっ!」という元気な声が聞こえてきた。どこかで聞いた事がある声だった。店長さんらしきが近づいてきた。そして、僕はこの人を知っている…
「ルイさん…?」
「タイガじゃねえかっ!久しぶりだなっ!何してんだよ?」
ルイさんはここで働いていた。そして、僕の背中をバンッと叩いた。力が強い…流石は元軍人と言ったところだ。
「あはは…お久しぶりです…」
「綺麗な嬢ちゃん連れてきて…彼女か?」
「違いますよ。私はこいつに命を救われた、アンファンスです。」
「そうだったのか!まぁ、タイガなら誰にでも手を差し伸べるしそうなるわな!」
以前会った時よりも、随分と明るい。これが本来のこの人なのだろう。
「てか、タイガ。お前、何か、元気無さそうだな?大丈夫か?」
「…少し…色々…ありまして…」
「どっちだよ?!少しなのか色々なのかハッキリさせろ!まぁいい。ほら、テーブル席行け。話聞いてやるから。」
僕はルイさんに促されたまま、ミウちゃんと一緒にテーブル席に行く。そして、ルイさんが「サービスだよ!」と言い、ピザを丸々一枚無料で持ってきた。流石に申し訳なかったから代金を払った。
「ったく…人の善意を無碍にしやがって…人が甘やかしてくれる時は、素直に甘えとけよ。お前、まだ未成年だろ?」
「はい…でも、サービスはサービスでも、サービスしてくれたお礼としてお金を払いたくて…」
「真面目か?まぁいいがな。」
「本題に入りましょう。」
「おっと、そうだったな。で、何があったんだ?お前がそうなるって事は、余程の事があったんだろ?」
僕は全ての事情を話した。
「…未成年のガキが体験していい話じゃねえだろ。」
「そう…なんですかね…」
「俺がお前ぐらいの歳の時なんか、故郷の家の庭で走り回ってたぞ。」
「いや勉強してくださいよ。」
「日本じゃないからいいんだよ。」
「外国でも勉強はしてください。馬鹿ですか?」
「クゥ〜…辛辣だね〜!で、タイガ。お前、多分だけど、後悔するぞ。」
「え?」
「これは俺の勘っていうか、俺そのものがそうだったから分かる。お前はただ、怖いだけだ。大切な人を失うのが怖いだけだ。残酷な仕打ちをしてくる未来が怖いだけだ。」
「…そうなんですかね…」
「俺のカルディアはよ、人を殺す為にあるんだと思ってた。でも、違った。魂の叫び?それがどうした?こちとらピザ食ってパスタ食ってたらそんなのも忘れるわ!いいか?魂の叫び?先祖?血の繋がり?んなもん気にしてる奴は負けなんだよ。」
「負け…」
「そうだ。大切なのは、自分が何をしたいかだ。何をするかじゃねえし、何ができるかもでねえ。人を助けたい?立派で結構。カルディアが使えない?不遇で結構。それでいいじゃねえか。お前は、自分の仲間が好きだったんだろ?なら、ちゃんと正面からぶつかれ。」
平日という事で、お客さんは僕達しか居ない。恐らく、知る人ぞ知る名店なのだろう。だが、今はその静けさが、心地良くない。心に何か、針を刺しているような感覚になる。
「俺は家族が居なくなっちまったからな…もう正面でぶつかってくれる奴は居ねえと思ってた。世界の全てが俺をぶちのめしたくて、世界の全てが俺を嗤ってると思ってた。でも、お前は違った。お前は、正面から俺とぶつかってくれた。あん時のお前は輝いていたよ。夜空に煌めく一等星よりも、太陽よりも、お前は輝いていたんだよ。あんなに輝いていたお前だ。」
その時、ルイさんは僕の胸に拳を当てる。
「お前の中には、まだ残ってんじゃねえのか?今のお前をあの煌めいていた時のお前に戻す、お前しかないお前の燃料が。」
「僕の…燃料…」
「私もそうですよ。あの時、私を助けてくれた時、正直、馬鹿かこいつはって思ってました。なんでって、おかしいだろって。でも、それがあんたなんだって理解した時、こんな真っ直ぐな奴は初めてだって思ったよ。こんな人間が居るなら、人間も信じてみようって思えた。だからあんたに私は協力したんだよ。あんたは原石なんだから。」
「原石…?」
「そう。優しさの原石。今は、残酷な現実というスプレーでその原石の煌めきが見えなくなるくらい塗り潰されているだけ。その現実を洗い落としたら、あんたはまた煌めく。だって…私も、この筋肉野郎も、あんたの元仲間達も、あんたのその原石のおかけで救われたんだから。」
「…やめて…」
「まぁ、本人からしたら、聞きたくねえかもだよな。せっかく諦めたのに、また希望を持ちそうになってんだから。分かるぞ、スゲェー分かる。俺もそうだったからな。」
「でも、私達はやめない。これは、あんたの為。あんたの本性を出す為。あんたはあんたに嘘を吐きすぎなの。」
僕は黙った。何も言い返せなかった。
僕は目を瞑る。
ロンドンの街は燃えていた。夜の空を火が灯す。建物は崩壊していた。不思議と人は一人も居ない。それもそうだ。これは僕の夢だ。いや、もう夢と言うのもやめよう。本当は気付いていた。ここが…
「僕の心の中だ、って…」
近くの瓦礫を拾う。焦げて真っ黒になったレンガ。今の僕みたいだ。燃え尽きちゃって、真っ黒になって、何の役にも立とうとしない。でも、このレンガだって、まだ死んでいない。
「…見てるんでしょ、ドロフォノス。決めたよ。僕に君は要らない。前から不思議だったんだ。僕は人を傷つけたくないのに、何で君はそんなに攻撃的なカルディアなのかなって。今なら分かる。君は、僕の魂の記憶が作り出したカルディア。カルディアが心の具現化なら、僕の心の具現化であるはずの君が人殺しをさせる訳無い。」
ドロフォノスが目の前に現れる。右手のハサミが開き、僕の首を切ろうと僕の首に近づける。
マントが風に煽られ、フワリと浮かぶ。そして、落ちる。
四つの目が僕の顔をギロっと見ていた。
「怖くないよ。君は殻だ。僕も殻。僕が嫌がったから君は殻に篭り、僕は僕自身を守らないから殻で守るしかなかった。でも、違うみたい。夢で見ていたのは、君じゃないんだと思う。」
ハサミが閉じかける。だが、僕の首に刃が当たる少し前で止まる。
「カルディアが発現するまで、夢に現れていた君を僕は見れなかった。そして、発現して君がこの姿になって現れた。でも、君の本当の姿はこれじゃない。初めて君を使った時、僕は君を正直怖がった。人を殺せてしまう、って…でも、違う。」
ロンドンの街が戻り始める。逆再生されているかのように…月が東に沈み、陽が西から顔を出す。街の一部だった瓦礫が宙に浮き、元あった位置に戻る。
「僕は最初から君を『人を傷つける道具』と思っていた。でも、違った。僕は君を誤解していた。ごめん。君も僕だ。なら、君が人を殺す訳無い。故意に傷つける訳無い。」
世界が白くなる。ドロフォノスの体に傷が入る。ヒビが入る。ドロフォノスは割れる寸前の花瓶のようになる。
「僕はもう君を恐れない。魂の記憶なんて、どうでもいい…僕は、僕の心に正直になる。だから、僕は君にも正直になる。今までごめんね。もう一度…僕と手を組んでほしい。」
ドロフォノスの体のヒビから光が漏れ出し、ドロフォノスの体が破裂する。まるで「内側に居る新しいカルディア」が「今まで使っていた外側だけのカルディア」を抜き捨てるように…
僕は目を開ける。フランス料理店。
「…僕…許されるかな…」
「許されなかったとしても良いんだよ。まずは正面からぶつかるんだ。話はそれからだ。」
「私のポリモルフォスなら、空を飛んで行けます。行きますか?」
「…うん…」
「次来た時に成果を教えてくれ。」
「はいっ!ありがとうございました!」
僕とミウちゃんはフランス料理店の外に出る。
ミウちゃんのポリモルフォスが、あの猫のような体に、下向きのプロペラの足、ゴーグルのような物をつけた目、翼となった前足を持つ存在が現れた。僕とミウちゃんはその上に乗る。
ポリモルフォスは飛ぶ。一直線に栄航町に向かう。道中、カラスに襲われた。ポリモルフォスはギリギリでカラスの突進を避けた。すると、カラスの体から、歯車が剥き出しの機械仕掛けのカラスが現れた。
「あのカラスもアンファンス…!」
「どうする?逃げる?戦う?僕、まだドロフォノス出せないけど…」
「役立たずですね…!」
「ハッキリ言わないで…結構心にダメージ来る…」
「仕方ないですね…逃げながら攻撃します。」
「どうやって?」
その時、ミウちゃんはポリモルフォスの体の一部を削り、それで銃を作る。何でも作れるな…
「これで何とか撃ち落としてください!」
「えっ?!無理無理!銃とか使った事無いし!」
「無理でもやる!男なら意地見せてください!」
「あぁ!もう!分かった!失敗しても怒らないでね!」
僕は狙いを定める。狙うのは…
機械仕掛けのカラスが突進してきた。ポリモルフォスは体を傾け、避けようとする。が、機械仕掛けのカラスの羽がポリモルフォスの翼を擦り、僕はバランスを崩し、落ちそうになる。ミウちゃんが僕の腕を掴む。
機械仕掛けのカラスは僕の方を見てくる。そして、僕の方に接近してきた。僕が狙うのは…カラスの顔の真横。
僕は発砲した。瞬間、反動で銃が手から吹っ飛んでいき、落ちていく。そして、ポリモルフォスの力で作られた銃は、ポリモルフォスから五十メートル離れると消滅した。
銃弾はカラスの真横を通り過ぎ、それにビックリしたカラスはどこか遠く、見えなくなるまで急いで飛んで行った。
ポリモルフォスは空中でバク転をして僕を背中に乗せる。
「片手で撃つとか…下手したら腕が壊れますよ?」
「大丈夫大丈夫。皆に謝るまで、僕は壊れていられる暇は無いからね。」
「相変わらず狂ってる…そこが魅力ですが…今度は落ちないようにしてください。」
ポリモルフォスは全速力で進み始める。
そして、飛ぶ事約一時間。皆を見つけた。
路地裏で、銃を持った人と向かい合っている。カルディアが見えた。銃を持った人の後ろには、何本ものの腕が絡まり、その中が見えそうな隙間からは眼球が除いていた。
「どうします?」
「ミウちゃん、急降下。」
「…はい?」
「急降下。あの人間さんに突進しよう。」
「正気ですか?!銃持ってるんですよ?!」
「大丈夫。撃たれそうになったら、きっとミウちゃんか皆の誰かが守ってくれる。僕はそう信じてる。それに…急に人が降ってきたら、衝撃のあまり撃つのが遅れるはず。だったら、こっちが突っ込む方が早い!」
「やっぱり貴方、どこかおかしいですよ…!精神病院に行く事をお勧めしますよ…!狂った人間、タイガさん!」
「褒め言葉として受け取っておくよ、可愛い猫、ミウちゃん!」
ポリモルフォスはその銃を持った男の人の方に一直線に向かう。獲物を見つけて急降下する鷹のように…
銃を持っている人が僕達に気付いた。
「ミウちゃん!盾、作って!」
「いきなりですね?!できますけど…!!」
ポリモルフォスの脚のプロペラが消え、盾になる。僕はそれを持つ。そして、翼だけのポリモルフォスが一直線に突っ込む。
男の人が僕に銃を向けた。だから三人も、僕の方を見る。ミスズさんの驚きの声、ユウヤさんの笑い声、リーダーの呆れ声、男の人らしき人の脅しの声が聞こえた。
男の人が発砲した。瞬間、盾で弾丸を防ぐ。そして、後少しで衝突する所で、僕は、飛び出した。そして、盾を男の人に向けたまま、突進した。男の人に盾が当たり、後ろへと倒れ込む。
僕は片方の盾をそのまま捨て、男の人に被せる。男の人の物と思われるカルディアが腕を伸ばしてきた。
僕は伸ばされた手を盾で叩き遠ざける。そして、男の人に被せた盾を足場として、踏み込み、飛び出す。僕の体はカルディアの真上に行く。
カルディアが僕の方を向いた。すると、トレケインが突っ込んできた。それでカルディアは怯む。瞬間、ハスマが腕の数本に触れ、腕が裂ける。
その時、ケビルムが腕の数本に剣を振り切り傷を付ける。僕は盾を捨て、足場代わりにして飛び跳ね、カルディアから遠くに行ける。瞬間、カルディアの真上からポリモルフォスが突進し、それは綺麗に衝突する。すると、カルディアが消滅する。
僕は三人の方を見た。そして、笑顔で言った。
「ごめんなさい。最後に一つ、我儘を聞いてください。」




