過去の因縁が迫る少年のお話
「今からおよそ二百年前、ロンドンに現れた殺人鬼。技術が成長している現代でさえも、犯人、凶器などが分かっていない、殺しの天才…切り裂きジャック…またの名を…『ジャック・ザ・リッパー』。五人の女性を殺した殺人鬼…タイガ君のDNAはデータによれば切り裂くジャックの子孫の可能性が高い。」
「切り裂き…ジャック…」
「カルディアとは『心の具現化』でもあり『魂の本性』でもある。う〜ん、そうだね〜…例えば、カエデ君は、カゲト君を殺したいからケビルムが発現した。ユウヤ君は、カゲト君から奪われる命を迅速に救いたいからトレケインが発現した。二人とも、心からでもあり魂からでもある思いが重なってカルディアが生まれた。」
「…確かに…」
「ここから先は少し難しい話になるけど…聞く?」
「はい、聞きたいです。」
「分かった。心して聞いて。本来、カルディアとは『心からの意思』と『魂の叫び』が共鳴して発現すると思っているよ、俺の主観だけど。でも、あの子の場合は違う。あの子の魂には、切り裂きジャックの魂もある。遠いかもしれないが子孫だ、なんら不思議ではない。だから、あの子の魂の中には『殺害の意思』があり、他の人よりは強いはずだ。あっ、別に殺人鬼の子孫が殺人鬼になるって言ってる訳じゃない。これはあくまでカルディアだからの話…」
「一瞬ムッてなりそうでしたよ…」
「少しなってたけどね?まぁいいや。話を戻す。聞く感じ、あの子は非殺人主義だよね?なら…あのカルディアは『人を殺したくない心の声』と『人を殺せる魂の叫び』の間で生まれた、不安定な存在…本来の半分の力しか出せないよ。」
「半分…」
「カルディアにも個体差があるからね。半分の力であれなら、あの子がカルディアの本当の力を出せるとしたら…俺が知ってる中で、それを止めれる人間は一人しか居ない。」
「一人は居るんですね!」
「あぁ。そして、呼んだ三人の内の一人がその人…私立探偵だよ。」
その後、午後二時。病室にとある男性が現れた。
黒い布帛ハットに、黒いスーツ。紫色のネクタイに、灰色のシャツ。
「お前らが、今回の依頼人が言ってた奴らか?」
「貴方が私立探偵さんですか?」
「あぁ。風舞町の私立探偵だよ。」
探偵さんは布帛ハットを一度取り、フッとそれに息を吹きかけ、被り直す。
「探偵、か…胡散臭いな。」
「おっとお嬢ちゃん…胡散臭いとは酷いな。俺は名探偵なんだぜ?」
「名探偵って自分で言う奴ほど迷探偵なんだよね〜」
「おいそこのお兄さん、そういうのは思ってても言わねえもんだぞ。」
「おいキザ探偵。」
「キっ?!キザ探偵っ?!」
初対面での印象はハードボイルドだったが、それは一瞬にして崩れ去った。リーダーさんとユウヤさんの言葉で、探偵さんはどんどん声を荒げていった。どうやら自分の職業に誇りのある人らしい。
「さっさと表に出ろ。」
「お姉さん、人に頼む態度じゃないだろそれは…!」
「まぁまぁいいじゃん名探偵(笑)」
「(笑)ってなんだよ!(笑)って!」
「いいじゃんいいじゃん!」
私達は近くの広場に行く。
「さぁ、戦闘訓練って事だが…個人的には、三人同時一緒に来てほしいんだが…大丈夫か?」
「こっちは大丈夫だけど…そっちは大丈夫なの?」
「あぁ、問題無い。俺のカルディアは…お前らが今まで戦ってきたカルディアとは、一口も二口も違うぜ?」
「キザ探偵、随分と調子に乗ってるじゃないか。」
私達は横並びになり、それぞれのカルディアを出した。
その時、探偵さんもカルディアを出した。腕には先端が鋭くなったギザギザの楕円形の盾があり、その盾には二つの穴があった。体には鱗にも鎧にも見える装甲がある。その体は黒をベースとし、一つ一つの鱗のような物や盾の縁には紫色のライン、そして体全体にアシンメトリーとなるように浮かんでいる銀と青のライン。
それを見た瞬間、私は感じた。このカルディアには、一切の悪を感じない。
「そういえば、名乗っていなかったな。俺の名前は桐生翔。俺のカルディアの名前は『切り札』。」
「『切り札』?カルディアに和風の名前って初めてなんだけど…」
「名前に意味を求めるなよ、お兄さん。生きる理由の一つが、自分の名前に意味を持たせる為なんだから。」
「あいつ…物語の主人公みたいな事を言うな。」
「そうですね…なんか、タイガ君とはまた違う感じの、正義のヒーローって感じがしますっ!」
「正義のヒーローになるつもりはねえよ。俺は私立探偵、それ以上でも以下でもない存在だ。それじゃあ…行くぞ…!」
切り札が迫ってきた。そのスピードは速く、ケビルムやハスマを明らかに越している。トレケインよりは遅い。が…ドロフォノスよりも、速いカルディアだった。
トレケインが突進した。すると、切り札は簡単に身を横にし、避ける。
「動きが単調過ぎる。それじゃあ簡単に動きが読まれるぞ。」
ケビルムが接近し、剣を振り下ろす。すると、切り札は盾で剣を受け止める。そして、ケビルムの腹部に手を当て、押し飛ばす。
「お前もだぜ、お姉さん。動きがシンプル過ぎる。一手を読まれる。裏をかこうとしたつもりなんだろうが、裏の裏をかけ。」
ハスマが動く。ハスマの拳が迫る。その時、切り札が盾をこちらに向ける。盾の穴から銃弾のような何かが出て、ハスマの横を通り過ぎる。私は動揺して、ハスマの動きが止まる。
「動きを止めるな。戦場で動きを止めたら、それは死に繋がるぞ。」
切り札の拳がハスマの肩に当たり、ハスマが下がる。トレケインが背後から走る。すると、トレケインの突進を切り札は一瞬で振り返り盾で受け止める。
その時、ケビルムが剣を差し込むように突っ込んできた。切り札は盾の内側にある手で剣を掴み止める。
「シンプル過ぎる。もう少し工夫を入れて動け。」
その状態でハスマが切り札に近づく。
「俺の相棒を舐めるなよ?」
切り札は足を伸ばし、ぐるりと空中で後転した。そして、ハスマを蹴り飛ばし、トレケインとケビルムの頭を地面の方向に向けさせ、背中から落とさせた。
ケビルムは剣を投げた。すると、切り札は銃弾を当て、剣を落とした。その時にはケビルムは既に切り札の懐に入っていた。だが、切り札はそれを知っていたかのように、すぐに膝蹴りをし、ケビルムはダメージを受ける。
「強いね、探偵さん。場数が違うって言うのかな…?」
「今まで何人もアンファンスと戦ってきたからな。」
ハスマとケビルムは同時に近づき、拳の連打を繰り出した。が、切り札はその拳を全て受け取るか避けるかをし、無力化をしていた。
その後も約一時間、私達は戦った。が、私達は体力切れを起こし、私に至ってはもう立つ事すらままならなかった。だが、切り札は余裕の仁王立ちをしていた。
「これが…実力の…差…?」
「場数の差だって言ってるだろ、お嬢ちゃん。」
俺はタイガ君の病室に来ていた。体の調子が知りたかったからだ。その時だった。タイガ君の腕が、ピクリと動いた。
俺はあの子達の元へと急いで駆け付けた。
「君達…!タイガ君が起きそうだぞ!」
「え?!」
「俺の役目はここまで、かな…俺のアドバイスを忘れるなよ。おい医者、後で依頼料はきっちり貰うからな?」
探偵さんはそう言い残し、去って行った。
私は何とか立とうとするが、それも無意味に終わる。その時、トレケインの頭が私の背中に触れ、トレケインは首を上げ、私は空中で一回転し、トレケインの背の上に乗る。
「それじゃあ行こっか!」
「はいっ!」
「やっとだな…」
私達は急いで病室に戻った。
タイガ君の元に着いた私達。タイガ君はまだ目覚めていない。私はトレケインから降り、近くの椅子に座った。そして、タイガ君の手を掴んだ。
それから数分後、タイガ君の手が私の手を少し握った。私達は目を見開いた。そして、次の瞬間…タイガ君の目が開き、ルビー色の瞳がこちらを見た。
僕は目が覚める。最初に感じたのは、泣きそうな顔の三人だった。何で泣きそうなのだろう。僕には分からなかった。
「…僕…何…して…」
声が掠れる。声が籠る。酸素マスクが口につけられていた。喋りにくいのに声が籠る為、三人に聞こえているかが分からない。
次に感じたのは、体に流れる激痛だった。右腕と体が痛い。何で痛いのだろう。上手く思い出せなかった。頭も回らない。
「馬鹿…!馬鹿っ!」
ミスズさんは僕に馬鹿と言うが、その顔は笑っており、その目からは涙を流していた。そして、ミスズさんは僕を抱きしめた。
僕は状況を理解した。ようやく頭が回り出したのだ。僕はオプタルモスに圧倒的な実力の差でボコボコにされたのだ。ドロフォノス越しに右腕を壊され、ドロフォノス越しで体中に攻撃を喰らったのだ。
僕は辺りを見回す。白い床、白い天井、天井から吊るされているカーテン、白い壁、点滴、生体情報モニター…病院だ、ここ。
僕はミスズさんの背中を痛みが比較的軽い左手で撫でる。
「馬鹿…で…ごめ…ん…なさい…」
相変わらず声が出しづらい。でも、出さなければいけなかった。そして、感じる。何かが足りない…ドロフォノスの気配を、感じない…
試しにドロフォノスを出してみようとするが、やはり出ない…あの夢と関係があるのだろう。
「いつまで寝てる気だったんだ?」
「そうだよ〜?高校生なんだからお寝坊さんは卒業しなきゃでしょ〜?」
リーダーさんとユウヤさんはいつもと変わらないように接しようとしていたが、その目は潤んでいた。泣かないと言わんばかりに堪えているが、泣かないように耐えているのが分かりやすい。
その時、医者らしき人が病室に入ってきた。
「若いって…いいね…俺も…後…十歳…若かったら…こんなに…疲れて…ないのに…」
膝に手をつき、ゼーハーと荒い呼吸を絶え間なくする医者。おおかた、何があったか想像できる。ご愁傷様ですとしか、僕は言えないだろう。
「君が…タイガ君…だね…」
「あの…息…整…えて…からで…いい…ですよ…?」
「歳の差が二倍近くある子に心配されるとか…ジムに行くか本気で悩もうかな。」
「センセーは元々運動できないタイプでしょ。」
「ユウヤ君…君…本当に遠慮が無いね?」
「事実だからな。」
「カエデ君まで…はぁ…」
その後、息を整えた真心先生は自己紹介をし、諸々の事情を話してくれた。僕はもう少しの間、ここに居るらしい。
僕が目覚めて、数時間が経つ。夕焼けが窓から見える。
「真心先生…何か何までありがとうございます。」
「いいって。カエデ君に頭下げられたら、断れないもん。でさ、話があるんだけど…」
「…カルディアの件、ですよね。」
「…知ってたの?」
「いえ、勘です。でも、多分、僕のカルディアは他の人達よりは少し特殊に感じているし…変な夢も見るんです。」
「…それは…君の祖先が『ジャック・ザ・リッパー』である、その殺人鬼の血が君にも流れており、君の魂はそいつの魂の一部を持っているからだ。」
「…どういう事ですか?」
真心先生から詳しい事情を聞く。
「なるほど…そういう事でしたか…」
「…恐らく、今の君は『心の声』と『魂の叫び』が完全にバラバラになってしまっているから、カルディアが出せないんだと思う。」
「…僕は人を傷つけたくない人間です。ですが、その言葉が正しいとすれば、ジャック・ザ・リッパーの魂がある僕の魂は、殺人を望んでいる、と…」
「そう。それに、ドロフォノスの目が四つなのも俺からしたら納得だ。君の二つの目を合わせると、目は六つある。切り裂きジャックの被害者は五人の女性。そこに君も殺される被害者にすると…」
「六人…」
「そっ。まぁ、俺が勝手にそう考えてるだけだから、それが真実っていう保証は無いけどね。俺は探偵じゃなくて医者だから。」
「…真心先生、僕は、人を殺したいと心の底から願わない限り、またドロフォノスを使えないのでしょうか…」
「それはあくまで、一つの手だ。もう一つは…共通点を探す。」
「…共通点…?」
「恐らく、今までの君は『人を守りたい心』と『人を傷つけたい魂』が奇跡的に噛み合って『相手を傷つける事により人を守る』となり、君のカルディアが発現していた。だが、カゲト君との戦闘に置いて、君は『自分を傷つけ他人を守る』事をした。それが、君のカルディアを発現できなくなった理由だよ。」
「なるほど…では今の僕では…」
「間違いなく、フェテュスに逆戻りした人間だよ。」
その言葉は真実だったが、僕の心を傷つけるのには変わりなかった。




