それぞれの目覚めのお話
俺はタイガ君の血液から取れたDNAを調べていた。そしたら、とんでもない結果が出てきた。
「おいおいおいおいおい…これはマジか…?もう一回、調べてみよう…」
俺は何回もタイガ君の血液から取れたDNAを調べる。そして、色々な人間のDNAと照らし合わせる。すると、やはり…「この人間」に繋がる…これは、あの子達に言うべきか?いや、やめておこう…
だとしたら…そうか。だから右手がハサミになっていたのか…だから目が四個…あの子自身の命を含めて五個…
「あの子のカルディア…タイガ君の事、殺しかねないぞ…こんなの初めてだ…カエデ君よりも、ユウヤ君よりも、ミスズ君よりも、もっと残酷な仕打ちじゃないか…一番の皮肉だろ、これが…それに…カゲト君の殺しが甘く見えるね…あの子は…化け物だ…」
タイガ君がここに来た夜の日、自分の診断室で色々とデータを照らし合わせていた俺は、冷や汗が止まらなかった。新しく用意したタイガ君の病室がある方向を見る。
「…これは、誰にも言わないでおこう…タイガ君が…世界的有名な『あの人』の子孫である事は…」
俺はタイガ君のDNAに関するデータを全て消去し、タイガ君の病室に行く。電気が付いていた。
「あれ?まだ残ってたんだ?ミスズ君。」
「はい…」
私がタイガ君の病室でタイガ君の顔を見ていると、真心先生が来た。
「そう言えば、カンヤ君に会いましたよ。」
「あの子は比較的近い場所に住んでるからね。すぐに来ると思ってたよ。残りの二人は、次の昼にでも来るよ。てか、こんな深夜に一人でずっと好きな人の顔見てて…楽しい?」
「す、好きな人っ?!」
「あれ?違った?」
「否定しませんけど…」
「あはは〜だよね〜」
「真心先生、体調でも悪いんですか?少し、体調が悪いですよ?」
「あ〜…少し寝不足なだけだよ。俺はこれから家に帰って寝るけど…君はどうすんの?」
「私はここにいます。」
「良かったね〜、ここが面会無制限の病院で。」
そう言い、真心先生は帰っていく。私は、包帯を巻かれ肌が見えないタイガ君の右腕を見る。
「…なんで、いっつも一人で無茶しちゃうのかな…?私が頼りないから…?そしたら、ちょっと悲しいかも…」
私の目から、涙が溢れる。私はベッドに顔を埋め、声を押し殺して泣く。
数十分後…リーダーさんとユウヤさんが戻ってきた。リーダーさんの手には、コンビニ袋がぶら下げられていた。
「ミスズ、何飲む?色々と買ってきた。」
「…オレンジジュース、ありますか?」
「あぁ。」
「オレンジジュース?お子ちゃまだね〜」
「ブラックコーヒー飲めない奴は黙ってろ。」
「ブラックコーヒーは飲み物じゃないでしょ。」
「美味いだろ…子供だな、ユウヤ。」
「てかさ…ター君、いつ起きるの?」
「さぁな。あの馬鹿担当医は?」
「帰るって…」
「大切な場所を黙ったまま帰りやがったな…」
「…ここ、静かな場所ですね。好きになっちゃいました。」
「でしょ〜?僕とリーちゃんの育った場所なんだよ、ここ。結構な田舎だけど、空気は美味しいし、どこ行っても楽しいし…」
「どんな所があるんですか?」
「そうだな…公園、小さな商店、駄菓子屋、居酒屋、風呂屋、学校、とかだな。」
「風呂屋…」
「行きたいの?」
「…まぁ、さっぱりしたい気分です…でも…」
私の目がタイガ君に向けられる。
「大丈夫だ。目を離したからって死にやしない。てか、生きてもらわないと困る。あいつに殴られても、私達はおかしくない事をした。子供のこいつが大人である私達の盾になった。こいつが居なかったら私達はとっくに殺されている。どちらが大人か分からないな…」
「そんな重い話はやめにしてさ、風呂屋行こ。僕も久しぶりにあそこの風呂に入りたいし。」
「それもそうだな…ミスズ、着いてこい。」
リーダーさんとユウヤさんはいつもの歩幅と歩行速度で病室を出ていく。私は急いで二人の後を追う。そして、一緒に歩く事、約三十分。風呂屋に着いた。
「ここが…」
「あぁ。今は基本的に無人でやってる。」
「えっ?!無人っ?!」
「うん、田舎の信頼って奴だよ。まぁ、掃除とかしに人が来る事はまぁまぁあるけどね。」
「なるほど…」
私達はその中に入り、カウンターらしき場所にそれぞれの代金を置く。そして、それぞれの温泉の方に行く。
「混浴じゃなくて良かったです。」
「安心しろ。混浴だったらそもそもあの馬鹿は病室の椅子に縄でグルグル巻きにしている。」
私達は服を脱ぎ、お風呂場に向かう。かけ湯をし、湯船に浸かる。
「はぁ〜…」
「ミスズのそんな声、初めて聞いた。いつも風呂に入る時は大きな声で歌ってるのにな。」
「流石に温泉で歌ったりはしませんよ。そういえば、リーダーさん、一つ良いですか?」
「ん?なんだ?」
「あの…失礼かもなんですけど…私の方が大きくありませんか?」
「………今度余計な事を言ったらお前の脳天をケビルムの剣で貫くからな?」
「ご、ごめんなさいっ!」
私は急いで謝罪をした。リーダーさんは「やれやれ」と言わんばかりの顔でため息を吐く。
「リーダーさん…そろそろ、詳しく教えてくれませんか?リーダーさんとユウヤさんは、どうやってカルディアが芽生えたか…」
「…私もあいつも二十歳の頃、カゲトによって姉である皐月凛を昏睡状態にさせられ、両親は殺された。多分だが、目が欲しかったんだろうな…その時だった。怒りで、自分を忘れていた。その時、心の底から願ったんだ。『あいつを殺させろ』って…そしたら、この通りだ。」
「…私は良く思い出せません、カルディアが発現した瞬間を…ただ『もうこんな思いをしたくない』って思って、そしたらハスマが現れて…」
その後は、他愛無い会話を繰り広げ、私達は体を洗って、再び湯船に浸かり、お風呂場から出た。お風呂場から出ると、既にユウヤさんが出入りの方で待っていた。
「女子ってお風呂長いよね〜こっちは暇で暇でめちゃくちゃじっくり自分のペースで体を癒したから良いけど。」
「別に良いだろ。」
「うん、別に良いよ。特に気にしてないから。それじゃあ、帰ろっか。病院に。」
私達は病院に行く道を進む。その時、私は視線を感じた。私は辺りをキョロキョロと見回す。
「ミーちゃん、どうかしたの?」
「いえ…視線を感じたので…」
「カルディアで見てみれば良いだろ…視覚共有をすれば人間よりも簡単に視線の状態を探れるだろ。」
「確かに!」
私はハスマを出し、視線が感じる方を見る。それは…病院だった。タイガ君の病室から感じていた。タイガ君は体を起こし、体は正面を、首を回し、顔だけをこちらに向けていた。その目はギョロリと私達を見ていた。今にも死ぬ人を見下すような冷たい目だった。タイガ君の目じゃない。もっと怖く、もっと恐ろしい目だった。「ひっ」と声が出そうになるが、なんとか口を押さえて耐える。
一度目線を逸らし、もう一度確認してみる。だが、タイガ君はベッドの上で眠っていた。私達が病室から出る前と同じ姿で、ベッドの上で目を瞑っていた。
「ミスズ、どうした?」
「…いえ、気のせいでした…!ごめんなさい!」
「ミーちゃん顔可愛いから、もしかしたら本当にストーカーとかいそうだけどね〜」
私達は病室に戻った。
それから数時間経つ。午前十一時。
「ごめんごめんっ!ちょっと遅れちゃった!例の子達は…居るね!」
少し赤が混ざったようなスーツを着た、三十代ぐらいの女性が来た。
「えっと…貴方もアンファンス…?」
「そうそう。真心先生に呼び出された内の一人だよ。名前は馳夢縁!」
「エニシさん!こんにちは!」
私はエニシさんに自己紹介とリーダーさんとユウヤさんの紹介をした。
「なるほどなるほど……それで、こっちで寝ている子が電話で聞いたタイガ君、と…」
「はい…」
「よっし…お姉さんに任せなさい!君達を強くしてあげよう!って言いたい所なんだけど、私、人に何かを教えるのって苦手なの…だから、自分で何とかできる?」
「…私が行こう。」
「リーダーさん?」
「ユウヤにばかり先を行かれたら不服なんでな。」
「ちょっ?!それどういう意味?!」
「そのままの意味だ。」
「リーちゃんはもっと僕を大切にしていいと思うよ…」
「知るか。」
リーダーさんとエニシさんは病院の近くの少し開けた場所に行く。私達は着いていくが、あくまでそれは観察であり、手助けをする為じゃない。
「それじゃあリーダーちゃん、始めるよ?」
「来い。ぶちのめしてやる。」
リーダーさんがケビルムを召喚した。と、同時にエニシさんもカルディアを召喚した。エニシさんのカルディアは植物タイプだった。
大きく長い茎の先についた、五枚の花びら、そして黄色い花柱。そして、根元から伸びている複数の蔦のような何か。そして、それの大きさは…軽く十メートルは超えているだろう。花のように見えるそれは、生物学的観点から見れば、花に似た別種なのだろう。
「驚いた?動植物タイプのカルディアでも珍しい植物タイプ…動植物タイプのカルディアの九割五分は動物だから、植物タイプは初めてなんじゃない?」
「あぁ、初めてだ。自分磨きに丁度いい。」
「リーダーちゃん、中々に肉食系と見た!いいねいいね!そういう子、張り合いがあって模擬戦が楽しくなるんだよ!よろしくね!あっ…私のカルディアの名前を言ってなかったね。私のカルディアの名前は…『ベルムクゲ』!」
「こっちのカルディアの名前は『ケビルム』だ。」
「『ケビルム』…!かっこいい名前だね〜!それじゃあ…スタートスタート!!」
ベルムクゲの蔦がケビルムを狙う。が、ケビルムの剣が蔦が次々と切り落としていく。そのうちの一つが、ケビルムの背中を叩く。ケビルムは背後へと振り向き、その一本を切り落とす。その瞬間に、またケビルムの背後を蔦が叩く。また振り返り、切り落とす。連鎖が始まった。
こちらは攻撃を受け、そこから攻撃を仕掛けている。対してベルムクゲの本体にはダメージは入っていない。
「埒が明かないな…」
「まぁ、私のカルディア、一歩も動けないから。近寄らせない為の攻撃手段、だよ。」
明らかにリーダーさんの方が不利だ。なのに、ケビルムは攻撃パターンを変えない。このままでは、ケビルムが負ける可能性が高い。
リーダーさんは目を鋭くさせ、黙ってベルムクゲの様子を見ていた。何を狙っているのか…私には分からなかった。
その時、ケビルムは剣を投げた。全員の目線が剣の方に向いていた。ベルムクゲの蔦が剣を叩き落とす。
「刺そうと思ったの?ごめんね。分かりやすぎる攻撃は、私相手だと無意味だよ。」
「あぁ、だろうな。そうなってくれるのを頼んでいたんだよ、こっちは。」
ケビルムは走り出していた。そして、ベルムクゲの茎にケビルムは触れていた。
「このままこの茎を折ったら、お前はどうなるかな?」
「なるほどね…剣に気を引かせて、本体が攻める…私が警戒していたのは剣と分かっていて、そんな事したんでしょ?降参降参、リーダーちゃんの勝ちだよ。」
ベルムクゲとケビルムが同時に消える。
「リーダーちゃんは策略家かな?」
「相手の裏をかいて攻撃したいんだよ。安全に、致命傷を。それがモットーだ。」
「なるほどね…私の一撃たりとも受けたくないスタンスが利用されたって事ね…」
「良い試合だった。ありがとうな。」
私は今の二人を見ていた。正確には…今の二人の目、を。夜、タイガ君がこちらを見ていた、あの目…今の二人とは全く違う目をしていた。
「ミーちゃん、どうかした?」
「えっ?!あっ…なんでもないですよ!」
「ふ〜ん…思い悩んでるように見えるけど…本当に大丈夫?」
「大丈夫ですって!」
それから数分後、私は真心先生の所に行った。
「真心先生…」
「お?どうしたのミスズ君。」
「あの…昨日、私達、近くのお風呂屋に行ってたんです。その帰りに、視線を感じて、カルディアの視覚共有で見てみたら…タイガ君が体を起こしてて、怖い目でこっちを見てたんです。もう一回見てみたら、元通りになってて…」
「…これは俺の予想だが、それは、あの子の中にいるカルディアが生み出した『本来のなるべきタイガ君』だ。」
「それって…どういう意味ですか…?」
「本来、タイガ君はあんな性格じゃなかった可能性があるんだよ。それが、過去の気まぐれか何かで、あの子の『本来』が壊され、新たなあの子が作られた。言うなれば…二人目のタイガ君、それがあの子だ。」
「…なんでそんな事が言えるんですか?」
「…言わないと思っていたが…君には伝えておこう…あの子のDNAを調べてみたら、とんでもない事が分かったの。」
「とんでもない事?」
「うん…それは…」




