男と男の真剣勝負のお話
真心さんは「もっと詳しく観たいから、三時間ぐらいこの子借りるよ〜」と言い、私達を置いて違う部屋に行ってしまった。
「…あいつ、ここに置き去りか…」
「まぁ良くない?ここ、田舎の病院だから患者さんが少ないでしょ。居たとしても、他のお医者さんが担当すると思うし。」
「………」
「…ミスズ、心配か?」
「…はい…」
「安心しなよ。センセー、性格こそはあれだけど、目は確かだから。」
「…なら…安心です…」
「心配するな。ユウヤの言っている事は全て正しい。私もあいつの事を信用しているぐらいだからな。まぁ、尊敬はしていないが…」
「それ分かるっ!あの人、信頼とか信用とかはできるけど、憧れるべき人間ではないよね〜」
約二時間後、真心先生が戻ってきた。そして、ベッドにタイガ君を寝かせる。
「本当に生きてるのが不思議な体だったよ?右腕が復活したら奇跡、カルディアでの戦闘ができる可能性は壊滅的、私生活でも支障が出るほどのダメージを負っている…カゲト君は相当やばい奴なんだろうね?この子、学生君でしょ?」
「私の一つ下です。十七。」
「この子十七?高校二年生か三年生か…何があったかはまだ聞いてないから分からないけど、一人の大人として言える事はね…カゲト君、最低だよ。大人は子供を守る立場…なのに、ここまでボコボコにするとか…同じ大人として恥ずかしいよ…代わりに俺が謝っておくか?」
「いやお前に謝られても何にもならないから黙ってくれ。」
「辛辣すぎでしょカエデ君。」
「分かるよセンセー。リーちゃん、年々ツンデレのツンが強くなってるもん。もうちょっとデレても…」
リーダーさんの膝蹴りがユウヤさんの肋に入る。
「ぐはっ…」
「本当にお前は口が減らないな。」
「病院でイチャイチャ暴力しないでくれ。」
「私とこのアホがイチャイチャ?馬鹿を言わないでくれ。」
「イチャイチャ暴力って何ですか?!」
「イチャイチャ暴力はイチャイチャ暴力だよ、ミスズ君。」
「センセー…ヘルプミー…」
「え?やだ。下手に手を出したら噛まれそう。カエデちゃんに。」
「私は理性が無い動物だって言ってんのか?」
リーダーさんが拳を掲げ、真心先生に近づく。
「ストップストップストップ、カエデ君。俺は君に宣戦布告をしてる訳じゃないんだよ。」
「リーダーさん、一旦落ち着きましょ?ね?」
「そうだよ?君達のために良いニュースも用意したんだから。」
「…良いニュースだと?」
リーダーさんが椅子に座り、足を組み、腕も組む。
「言ってみろ。内容次第で許してやる。」
「それが人に物を頼む態度かい?」
リーダーさんは無言でケビルムを出した。
「おっけー、良い態度だ。」
リーダーさんはケビルムを消した。
「君達は今、高思ってるんじゃないか?『強くなりたい』と。」
「…あぁ、なりたいよ。今のままでは、カゲトには勝てない。それに、仲間も守れない…そりゃあ、強くなりたいよ。」
「…それに、復讐する理由が一つ増えたからね。ター君はこんな風になったんだ。許せないよね。全てあいつが悪いのに…」
「だと思ったよ。君達、昔っから負けず嫌いだからね〜だから、ちょーっと、手伝ってあげたよ。急遽、戦闘レッスンをしてくれるアンファンスを呼んでおいたよ。医者だから顔は広いんだよね〜」
「…マジか…」
「何人くらい来てくれるんですか?」
「う〜ん…今すぐ来てくれるって人は…三人だね。」
「三人も僕達の為に来てくれるの?ありがたいね〜」
「三人の詳細は伏せておくよ。シークレットで戦った方が、君達の為になるだろう?」
「ありがとうございますっ!本当にありがとうございます!」
「ミスズ君、僕は医者として、患者の友達の手助けをしただけだよ。」
そして、待つ事約一時間。
「はぁ…あんの医者も人使いが本当に荒いぜ…お前らが戦闘したい奴らか?」
診断室に入ってきたのは、不良みたいな人だった。年齢的には、私とタイガ君と同じくらいだろうか?
「そうです…私は魅鈴って言います!この怖い顔をした女性がリーダーさん、ニヤニヤしている男性が夕焼さんです!宜しくお願いします!」
「宜しく頼む。」
「宜しくね〜…えっと…名前、何?」
「俺ん名前はカンヤだ。テメェら、面貸せ。」
「…喧嘩か?」
「当たり前だろ…そん為に来たんだぞこちとら。早よ行くぞ。」
「…なんで喧嘩腰なんですか?」
「んあっ?!何でもいいだろっ!」
カンヤ君はポケットに手を入れ、猫背で病院を出ていく。だが、何故だろう…チワワのように見える。
私達は病院の外に行き、近くの公園に行く。そして、カンヤさんはカルディアを召喚した。カンヤさんのカルディアは…バイクのような見た目だった。タイヤには針が生えていた。
「おっと…バイク?」
「なんだよ?!文句かっ!?」
「違う違う。僕のカルディアさ、馬なの。」
ユウヤさんがトレケインを出す。まだ傷が癒えていないのか、トレケインの骨の一部には小さいがヒビが入っていた。
「ねぇ、カー君。競争、しない?」
「…馬とバイクで、か?」
「そうそう。馬VSバイクだよ。僕の馬の名前は『トレケイン』。君のカルディアの名前は?」
「俺のカルディアの名前は『ズロメアス』。」
ユウヤさんはトレケインの上に乗り、カンヤ君はズロメアスの上に乗る。
「…私達はどうするつもりだ?」
「そうですよ!私達の事、忘れてませんか?」
「僕の後ろに乗りな。」
「いや、そういうのを言ってる訳じゃ…」
「リーちゃん…ミーちゃん…よ〜く聞いてくれ。男ってのはね…!」
「ぜってぇに勝たなきゃあいけねぇ…!」
「「男と男の『戦争』があるんだよぉ!」」
「…男って馬鹿ばかりだな…」
「あはは…そうなんですね…」
私とリーダーさんは、ユウヤさんの後ろに乗る。
「リーちゃん、ケビルム出して。」
「何でだ?」
「いいからいいから!」
リーダーさんはケビルムを出す。
「ルールは簡単。こっから真っ直ぐにある神社の階段まで、軽く片道十キロメートルある。神社の階段下まで行って、ここまで戻ってくる。どう?」
「乗った。スタートの合図は?言葉じゃ不平等だろ?」
「うちのリーダーのカルディアの剣を上に投げる。それが地面に落ちた瞬間、スタートだよ。」
「乗った。」
「おい!私のケビルムの剣を投げると言ったのか?!」
「リーちゃん、早くしてっ!」
「お、おう…分かった…」
ケビルムが剣を投げた。そして、剣が地面に落ち「カラン」と音が鳴る。瞬間、トレケインとズロメアスが同時に走り出した。
差が少しずつ生まれていく。トレケインの前をズロメアスが走る。トレケインが少し遅れている。
「おいっ!あっちの方が速いぞ!どうするんだ?私達にもあいつにも堂々と出て、負けていいのか?」
「ちょっと静かにしてて…男と男の戦争には、首を突っ込まないのが筋ってもんだよ…!」
「ユウヤさん…なんか、キャラ違いません?」
バイクの走行音と、馬のヒヅメが地面を蹴る音が同時に聞こえる。そして、その時だった。トレケインのスピードが、少しずつ上がり始めた。
ユウヤさんはトレケインを信じている。だからこそ、トレケインにはまだまだ高みを目指す事ができると思っている…その思いが、思い込みとなり、トレケインの力を底上げしていた。
トレケインが神社の階段下に着いた。その時には、ズロメアスはほんの数センチメートル先を行っているだけだった。
カルディアは思い込みで強くなる。それは、相手も同じ…ユウヤさんも、カンヤ君も…「負けたくない」は「勝ちたい」であり、それが「もっと速く!」になる。だから…ズロメアスの速度も上がった。
私もリーダーさんも言葉を失っていた。私達だって、勝負事は全て勝ちたい。人間なら、それが一般的なのかもしれない。だが、今、この二人の間にあるのは、そんなものじゃないのかもしれない…
ユウヤさんは、笑っていた。その額に煌めく汗を出しており、口元に大きな笑みを浮かべていた。一方、カンヤ君も笑っていた。中途半端に来ていたジャージが風で靡く。
トレケインが鳴いた。ズロメアスが唸った。ラストスパートに差し込む。一挙手一投足が敗北に繋がるこの瞬間を、ユウヤさんとカンヤ君は、純粋に楽しんでいた。少し、羨ましいと思った。
「ユウヤの奴…周りが見えてないな…」
リーダーさんが私の服の襟を掴み、トレケインが飛び降りる。
「私達が居ると、あいつは本気で走れない。走らせてやろう。あそこまで本気で楽しんでいるあいつを見るのは、私も数年ぶりだ。」
「…なんか、羨ましいです…私には、あんな風に、共に高みあえる存在が居ないので…」
「馬鹿か…あいつらはお互いを高め合ってるんじゃない。純粋に、勝ちたいって気持ちだけで、突っ走ってるだけだ。それに、ミスズには私達が居るどろ?」
「はいっ!」
そして、その時だった。トレケインとズロメアスが同時にバランスを崩し、同時に転倒する。私達は急いで二人に近づく。
私達が怪我の確認などをしようとしたその時…二人は、笑った。大きな声を出して、楽しそうに。
「そういう事か…」
「え?」
「見ろ。」
リーダーさんがとある場所を指差した。そこは公園の入り口で、誰かが公園の入り口に触れていた。その手の辿ってみると…ユウヤさんだった。
「あぁ〜!負けたぁ!スピードだけが自慢だったのによぉ!」
「僕に勝とうなんて早いんだよ。二十歳を過ぎたらまた勝負してあげる。その時まで、鍛えておく事だね。」
ユウヤさんは立ち上がる。そして、カンヤ君に手を差し伸べる。カンヤ君はその手を掴んで、ユウヤさんは手を引っ張りカンヤ君は立ち上がる。そして、二人はグータッチをし、笑った。
「…タイガが起きた時の土産話が一つできたな…ユウヤに新たな友ができたという、ビッグニュースができたな…」
「そうですね…」
僕はロンドンの路地裏を走っていた。無我夢中に…これは、いつも僕が見る夢だ。だが、今回は違う…ドロフォノスが居ない。
そして、誰かが追ってきていたのだ。男か女かすら分からない。薄汚れたローブを身に纏い、僕を追ってきている誰かがいる。
カゲトさんじゃない。もっと怖い、何か。もっと、懐かしい何か…路地裏の曲がり道を曲がる。その人は追いかけてくる。
刃物を持っている。どんな形か、どれくらいの大きさか、それら全てを見る余裕が無い。ただ、逃げたかった。追いつかれたら…殺される。自然とそう感じていた。
どこまで行っても、どこまで逃げても、まだ追ってくる。隠れたと思っても、次の瞬間にはどこからともなく現れる。脚が痛くないのは、夢の中だからだろう。
路地裏から出る。大通りを走る。女性の横を通り過ぎる。その時、僕を追ってきていたそれは、女性の首元に刃物を突き刺した。
僕の脚が止まった。
「…やめろ…!」
それは、女性の腹部を裂き、臓器を摘出した。手術をする医師のように鮮やかに綺麗に動くそれは、殺人鬼だった。反吐が出るぐらいの、殺人鬼だった。
「やめろって…言ってるんですよ…!」
僕はそれの方に走っていった。僕の悪い癖だ。逃げればいいのに、逃げれない。いや、逃げたくない。まだ、救えるかもしれないから。
僕の拳がそれを捉える。が、それは、僕の拳を難なく避け、僕の首元に刃物を刺す。そして、腹部まで下げ、血が宙を舞う。そして、それは僕の体の中に手を入れ、僕の臓器を摘出した。その時の感想は…不思議と「懐かしい」だった。
場面が切り替わる。いつも、ドロフォノスと会っていた、あの場所に僕は居た。ロンドンのどこか…
「『魂の本性』に刻まれた『古の記憶』は消す事はできない。今もお前の中で循環している。お前はXXXXXXXXXXXの末裔だ。お前にはXXの才能がある。何故、その才能を呼び覚まさない?お前には、人を支配できる力がある。カルディアイも、カゲトも『目覚めた人鬼泰我』の前では、塵と同じだ。さぁ、目を覚ませ。今のお前では、その塵未満だ。」
喉を刺されているせいで、声が出ない。こんな傷なのに、死ねない。死なない。痛いし、暑いし、寒いし、苦しいし、辛いし…そんな事を思った。その時、僕は、首を両手で押さえて、立ち上がる。
「僕…の…仲…間…を…愚…弄…す…る…な…!…君…で…も…許…さ…な…い…ぞ…!」
「ここまでしても、まだ目覚めないか…覚えておけ。お前の中にはXXXXXXXXXXXの血が流れている事を…お前は、カゲトをも超える、才能を持っている事を…それを呼び覚ます鍵は…『消せない過去』だ。」




